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2013年8月16日金曜日

ルーク・ヴァイバート 「Rhythm」


クラブミュージック界の高田純次、ルーク・フランシス・ヴァイバートの本名名義――かと思いきや、何とカタカナ名義。2008年作で、本名名義とするなら単独作品で四枚目。
日本の気まぐれクラブ系レーベル:Soundofspeedより。

本名名義ということで、ある意味プライヴェートな内容。
かと言って習曲を蔵出しした訳でも、聴き手が付いて行けないくらいぶっ飛んだ内容でもない。いつも通りの、温くていい加減なルークワールド。
M-05以外、2008年から2009年にかけて出したアナログEP三枚より全て引っ張ってきている、編集盤のような収録曲構成もそれに輪をかけているような。
では何を以ってプライヴェートな内容なのか。
この名義はスモーキーなブレイクビーツを演ったり、大大大好きなアシッドハウスを演ったり、スティールギター奏者とコラボったり、モーグシンセ奏者に急接近したりと、非常に節操がない。ファイル音源だが、ラッパーを連れて来たりもしている。
つまりその時、一番演りたいコトをこの名義で展開しているから。

で、今回はヒップホップらしい、オールインストの。
とは言え、近年のヒップホップ界主流のバウンスビートでノリノリのトラックを彼が組むはずもなく(いや、諧謔的にいづれ演りそうな気がするんだけどなあ)、オールドスクールからミドルスクールを意識した創りになっている――
かと思いきや、そこはルーク。出て来た音はWAGON CHRIST名義とさほど変わらんだろうと。どうしようもなくヒップホップな部分は、それ系で頻繁に使われている声ネタ多用や、シンプルにゆったり刻まれたセオリー通りのブレイクビーツくらい。むしろMo'Waxから出た一枚目のコッチの方がヒップホップ流儀に法っている。
いくらオールドスクールっぽくヴォコーダー声を使おうが、今に始まったコトではないし。
だがココまで自分の色が出ていると、難癖よりも逆に清々しさを覚える。野球で言えば、球の軌道は明らかにスライダーじゃないっぽいのに、投げている本人が『スライダーの握りで投げてるからコレはスライダー』と言い切っているような。
おまけに『空振り取れたんだから文句ねえだろ』と。

そんなルーク投手、本作も〝零封はしないまでも、きちんとQS(先発投手が六イニングを三点以内にまとめること)を成し遂げ、悠々中継ぎ・抑えと交代。勝ちゲームをベンチで眺める〟ような内容を保っている。
その一方で、テーマを決めたら流れに沿いつつも、作風は一切ブレずに一作品を編み込める高い企画力もそろそろ評価すべきかと。トム、見習えよ?

M-01 Wow! It's Now!
M-02 Registrarse
M-03 Sparky Is A Retard
M-04 A Fine Line
M-05 My Style
M-06 Keep Calm And Carry On
M-07 Eleventy One
M-08 Rhythm
M-09 Concertina Turner
M-10 James Bond In A Jimmy Hat
M-11 Harmonica Sellers


2013年4月12日金曜日

TOM MIDDLETON 「Lifetracks」


グロコミの片割れによる初の本名名義でのソロ作、2007年発表。

一言で表すと〝爽やか(リスニング)テクノ〟だろうか。
主はすこぶる音質の良い打ち込み。そこへたまに顔を見せる、生々しいビートとベースラインに荘厳なストリングスは、M-01、04、06、08で生演奏が用いられているから。ミドルトンはベースがクラシックの人らしい。
その他、オール打ち込みのトラックも、メロディを立てた情緒的な創りとなっている。
となれば、彼の本職であるクラブDJとしての見地では〝チルアウトミュージック〟に相応するのかも知れない。明らかにアゲ目的の創りをしていない。
ではクラブ音楽界の端っこで面々と根を張ってきた、我らがエレクトロニカ界隈なのかと問えば首を傾げざるを得ない。

広義で括ればフロアをロックしない≒家で聴く人向け≒エレクトロニカなのだろうが、神経質なまでの創り込みや、グリッチやブリープなどの人為的なあざとさが一切ない。音楽として直球ど真ん中の音像は、テクノ界の日陰者スタンスとは一線を画している――その立ち位置は、グロコミの頃から一切ブレていない。
無論、本作が手抜きと妥協の産物では断じてない。セオリーに忠実、かつシンプルに創ってあるだけで。
よって創り込み大正義の現在では、本作の音は多少古臭く感じられるかも知れない。

そこら辺を『今更、何世代も前の音を~』と断ずるのは些か偏狭な考えかと思う。
基本は〝普遍〟であり、〝特殊〟は普遍を踏まえて崩すところから始まるのだから。普遍的な作風はそれが高品質ならば正当な評価を受け、シーンの中心とはいかないまでも、堂々とその名を残して然るべきだと筆者は考えている。

それもこれも近頃、このように流麗な純テクノ派生のニカが減ってきてね……。ニカは厨二魂盛んな連中が多いからさあ……。
とっつきやすいし、打ち込み音楽の入り口としては最適だと思うのになあ。

Disc-1
M-01 Prana
M-02 Beginning Of The Middle
M-03 Shinkansen
M-04 Serendipity
M-05 Sea Of Glass
M-06 Yearning
M-07 Optimystic
M-08 St Ives Bay
M-09 Margherita
M-10 Moonbathing
M-11 Astral Projection
M-12 Enchanting
Disc-2 (Bonus Disc For Japan)
M-01 Lament



2013年3月14日木曜日

WAGON CHRIST 「Tally Ho!」


インナーでM字開脚して誘惑するふしだらなルーク・ヴァイバートの、たぶんブレイクビーツ用ソロユニット、この名義では三枚目。1998年作。
何と、メジャーのVirginよりリリース。

この頃、UKクラブシーンは華やかだった。
CHEMICALPRODIGYなどのビッグビート、MASSIVEPORTISTRICKYなどのトリップホップ、RONI SIZEGOLDIEなどのドラムンベースが各々、全世界を巻き込んで全盛期を迎えていた。
さて一方、メインストリームのカウンターパーツたるリチャDと愉快な仲間たち――俗に言う〝コーンウォール一派〟は『俺たちは流行に染まらねえ』なんて片意地を張らず、何と『面白そうだ、演ってみよう』やら『こんなの俺たちも出来る』やら言わんばかりに、迎合姿勢を見せていた。しかも一大ムーヴメント化する一歩手前で戦列に加わる慧眼さで。

この通り彼ら――特にヴァイバートは、音への嗅覚が並外れている上に、どんな音にも適応し、的確に音のツボを押さえてくる器用さを持ち合わせている。

本作はほぼブレイクビーツをボトムに敷き、お得意のアシッド風味を極力抑えた、明快な構成となっている。
時には上モノのフィルターを濃い目に掛け、スモーキーに。たまーにやっぱり止められない大好きなアシッドフレイヴァーを隠し味に。例の如く、可笑しな声ネタを頻発して楽しげに。
また、M-03のような、808ちっくなベースラインと煌びやかで幻想的な上モノを巧く織り合わせてドリーミーに。M-06のような、おげふぃんなジョークトラックもさらりと織り交ぜて煙に巻き。M-11のような、スクプなトムくんばりのイカしたベースラインを軸に、さまざまな音色を織り込んで重厚に。
その他、ところどころさり気ない細工を弄してフックを与え、各トラックにヴァラエティも与えつつ、全体像を散漫にさせないこの手腕、兄貴分のリチャD以上だ。

ただ、ガツガツしてなそうな人柄からか、シーンに風穴を開ける名曲や、後に語り継がれるであろう傑作アルバムを創り得ないのは……致し方ない。
それでも、誰ぞのように戻って来ず、誰ぞのようにレーベル運営に感けず、誰ぞのように枯れず、頻繁に〝良質な音源〟という名の便りを届けてくれるルーク・フランシス・ヴァイバートは、シーンきっての〝秀才〟だと思う。
本作はそんな彼が創り上げた数多の音源の中でも〝代表作〟に位置する、と筆者は考えている。

M-01 Fly Swat
M-02 Crazy Disco Party
M-03 Tally Ho!
M-04 Memory Towel
M-05 Shimmering Haze
M-06 Juicy Luke Vibert
M-07 Piano Playa Hata
M-08 Workout
M-09 Rendleshack
M-10 Lovely
M-11 My Organ In Your Face
M-12 Musical Box
M-13 The End



2012年2月16日木曜日

CAUSTIC WINDOW 「Compilation」


ご存知リチャDの、数ある変名の中でもぼちぼち知名度が高い方のコンピ盤。1998年発表は、自己レーベルRephlex Recordsより。

まずは収録曲の詳細から。
全てレコードのみでRephlexより発表された1992年作「Joyrex J4」から六曲中五曲(M-01~05)、同年「Joyrex J5」から四曲中三曲(M-06~08)、翌年1993年作「Joyrex J9」から四曲全て(M-09~12)を、すらっと並べた58分15秒。
言うなればリチャ活動初期の音源を、そろそろ音楽活動に飽き始めた頃に掘り起こした、怠惰な一枚である。
間余っているのに、何でたった三分台の曲を二つくらい収められないのさ?』という疑問は後述。

『飽き始めた』やら『怠惰』やら酷いコトを書いているが、元々の音源はリチャがバッリバリ演る気になっていた頃のモノ。クォリティは推して量るべし。
もちろんかのリチャDサマの御作品。『名義が違えば創りも違う』なんて小器用な考えなど毛頭ナシ。M-13なんて他名義の曲を平気でこっちに持って来れる鉄面皮ぶりを発揮。いや、M-07こそ向こうに入ってそうな曲調だし。

『俺を型にはめる型を型にはめてやる!』と言わんばかりの俺節貫徹。

強いて他名義との違いを挙げるとするならば、ビートが極端に前のめりだったり。上モノがメロディ度外視で、普段にも増して荒れ狂ってたり。ところどころ構成が幼稚だったり。
『安っぽい創りによる荒っぽい音世界』とでも表すべきか。
チープな素材を巧く輝かせるには、制限を壊すか生かすかするのが定石。
前者のように音割れやバランスを気にせず、勢いがままにトラックを聴き手に投げつけるか――当コンピはその方針で編んだものと思われる。
後者のようにチープな音色をチープなまま差し出して聴き手の苦笑や和みを引き出す、文明社会を逆手に取った方法か――当コンピから除外された二曲は、その方向性で創られた曲だったりする。

ああ見えてリチャはリチャなりに考えているらしい。嘘のような本当かも知れない話。

M-01 Joyrex J4
M-02 AFX 114
M-03 Cordialatron
M-04 Italic Eyeball
M-05 Pigeon Street
M-06 Astroblaster
M-07 On The Romance Tip
M-08 Joyrex J5
M-09 Fantasia
M-10 Humanoid Must Not Escape
M-11 Clayhill Dub
M-12 The Garden Of Linmiri
M-13 We Are The Music Makers (Hardcore Mix)


2012年1月28日土曜日

SQUAREPUSHER 「Music Is Rotted One Note」


みんなだいすき! いろいろ残念系エレクトロニカアーティスト、トム・ジェンキンソンによる1998年作の三枚目。
大問題作にして傑作。

親分筋に当たる(単なる友人なんだけど)リチャDよろしく『Everything By Squarepusher』とかインナーにクレジットしちゃう痛い子なトムが、本当にEverythingしちゃったアルバム。
トムがああ見えて凄腕なベーシストなのはご承知の通り。それに飽き足らず、卓加工はおろか、キーボードもドラムも演っちゃった。
つまり打ち込み捨てちゃった! おまけにエレクトロニカから離れちゃった。『ジャコパスが何だ、マイルスがどうした! 俺が曲を作り! 俺が演り! 俺が好きなように加工した、俺のジャズだ!』と、外部の意見シャットアウトして創っちゃった。
他人の手を借りたのはマスタリング(原盤製作係)と装丁くらい。
誰か止めろよ、このコントロールフリークを。

いや、誰も止めなくて良かった! この時のトムの創造力はキレにキレまくっていた。
『殻に籠もっている』と言われようが構わない。殻に籠もることで己を見つめ直し、真に自分が鳴らしたい音を導き出せたのだ。

お陰で本作はトム作品にあるまじき、焦点の絞れた作品になっている。後に『全ての音楽要素を極限まで使い切ってやる』と吼えた同一人物とは思えないくらい。
しかも、いつもクールを装っている(トコが可愛い)トムの目が血走って見えるくらい熱いアルバムだ。音像は比較的冷ややかなのに。
各音から発せられる空気の張り詰め方が尋常ではない。忙しなく荒れ狂うビートは、彼がクレイジーさを求めてドリルンベースを導入したコトを窺わせる。彼の得手であるベースも、いつも以上にぐいぐい曲を操縦している。このテンションこそが熱さの源だ。
その一方で、間曲感覚で挟むドローンアンビエントが上手くチルアウトの役目を果たしている。もちろん押しだけではない、引きにあたるマイルドな曲調もあり、打ち込みと見紛わんばかりの構成力で唸らせる。
きちんと第三の目で俯瞰されている。トムは至って平静だ。

ただし、この精神が苛まれるヒキコモリ的作風を続けられるほどトムのハートは強くない。『難解過ぎる!』とか『ねー、ドリルンはー?』とかいう外部(特にファン)の意見をあっさり取り入れ、再び打ち込みへと舞い戻って来るのであった。
打ち込みだろうが生音だろうが、好き勝手に演れば良いのにねーェ。あ、演ってるか! 演ってるからあんなんなんだね!

M-01 Chunk-S
M-02 Don't Go Plastic
M-03 Dust Switch
M-04 Curve 1
M-05 137 (Rinse)
M-06 Parallelogram Bin
M-07 Circular Flexing
M-08 Ill Descent
M-09 My Sound
M-10 Drunken Style
M-11 Theme From Vertical Hold
M-12 Ruin
M-13 Shin Triad
M-14 Step 1
M-15 Last Ap Roach


2011年12月14日水曜日

APHEX TWIN 「Selected Ambient Works Volume II」


遂に出ましたAPHEX TWINことリチャード・デイヴィッド・ジェイムズによる世紀の奇盤、1994年作品の二枚組。通称「SAW2」(スプラッタ映画じゃないよ)

まずDisk-2のM-01以外、本来は曲名がない。後付けでタイトルが付けられたのだが、付いてどうなる音楽でもない。全くもって蛇足だ。
曲名がトラック時間という前回のグロコミ同様、彼らにとって言葉などどうでも良いと言わんばかりだ。こんなトコがまさしくニカ人種。

だが音世界は百八十度違う。

「76:14」もAPHEXの前作「SAW 85-92」も一般的な音楽の体を成していた。成していたからこそ誰もが賞賛し、時代を代表する名盤と評された。
だが本作の逸脱ぶりはどうよ、と。
時にもわーんと、時にぼそぼそと鳴るシンセ。ほぼノンビート、ほぼ単音で、メロディを欲しがらずに、陽炎の如く揺らぎ続ける。
その音色使いは冷ややかだったり、たまに優しかったり、不気味だったり、意外にも神々しかったりと落ち着きを見せない。聴き手がリラックスを求めて再生するアンビエント音楽だというのに、聴き進めていくうちに駆られるのは、不安感。
この要因を不穏な音色使いに向けるのは短絡だ。本質はもっと広い。

漠然と見知らぬ場所へと放り出される感覚、と語るべきか。

本作を聴きながらぼけーっとする貴方は今、独りでぽつーんと立っている。
どこで? 月の裏側かも知れない。赤茶けた大地が広がる荒野かも知れない。誰も見えないのに気配だけする薄暗い大部屋かも知れない。メインストリートなのに生命反応のしない石造りの街並みなのかも知れない。それどころか時空の狭間かも知れない。
その場所がどこか付き止める前に、貴方は別のどこかへ飛ばされる。トラック毎に。
聴く人によってその孤独な地は変わる。人のイマジネイションは無限だから。トラックに必要以上の情報が籠められていないから。創り手が、聴き手それぞれが抱く解釈の正否を定めていないから。

聴いて感じて安らぎを得るのもアンビエント。それがパブリックイメージ。
そこへ、聴いて感じて意識をどこかへもって行かれるのもアンビエント、だと提唱するリチャD。本作の真意など語ってくれなそうな人だが、そう勝手に解釈して聴けば本作の凄さが少なからず理解出来るはずだ。

Disk-1
M-01 (Cliffs)
M-02 (Radiator)
M-03 (Rhubarb)
M-04 (Hankie) (UK Only)
M-05 (Grass)
M-06 (Mold)
M-07 (Ropes)
M-08 (Circles)
M-09 (Weathered Stone)
M-10 (Tree)
M-11 (Domino)
M-12 (Steel Plate)
Disk-2
M-01 Blue Calx
M-02 (Parralell Strips)
M-03 (Shiny Metal Rods)
M-04 (Grey Stripe)
M-05 (Z Twig)
M-06 (Window Sill)
M-07 (Hexagon)
M-08 (Lichen)
M-09 (Spots)
M-10 (Tassels)
M-11 (White Blur 2)
M-12 (Match Sticks)

本作にDisk-1・M-04があるのはWarp盤、つまりUK盤のみ。
加えて三枚組LP(とカセット!)にはDisk-2・M-06とM-07の間に〝Stone In Focus〟なる10分越えのトラックが追加収録されている。


2011年12月12日月曜日

GLOBAL COMMUNICATION 「76:14」


テクノクリエイター、マーク・プリチャードとトム・ミドルトンによる、1994年作。アンビエントテクノの名盤として名高い。

ミドルトンがあのリチャDとの共作経験もあるのは周知の事実。その点を踏まえると、本作のこの発表年はとても意味深長に感じる。
その片側は次回に譲るとして、さてグロコミ。本作は彼ら唯一のオリジナル作品である。
元々が現場――つまりDJ気質の人々で、自らクリエイトせずとも周囲に良質な音楽がごろごろ転がっているのなら、それに敬意を払って使わせていただきましょうよ、というのが彼らの活動本意だろう。
そういった人々はオリジナルアルバムを創ると大抵、如何にもし難い出来となって聴き手に深い嘆息をさせる。
聴く頭と創る頭は全く違うことを断言してくれる。

ですがコレですよ、グロコミは!

基本はノンビート。音色使いの古めかしさは仕方がない。そんな些細な部分など、時代性と思って許容してもらわないと先に進めない。アルバム/曲タイトルがラン/トラックタイムという抽象的部分もニカならではなのだから、気にしないで欲しい。
気にするべき音楽ではないのだから。
浮遊感のあるシンセの長音は、まごうことなく現世の音。この世に息吹きする生命の音。それを象徴しているのが印象深い主音と、それを盛り立てる背景音の美しさ。それを丁寧に編み込むテクスチャの妙。
ベタな法則ではあるが、これこそが音楽の基本。こういった作品をしれっと出せるのも、実力者たる所以である。
この普遍的な創りならば、『世界規模の伝達。音の媒体を通して伝えられた、感動的な表現』(M-06より)と言い切れる力を有している。(声の響きが宗教めいて聴こえる点は気にしない)

最後に、アンビエントとは〝聴いて感じる〟音楽だと思っている。
終わりそうで終わらず、続きそうかと思えば終わる兆しをみせ、でもやっぱり続いて、やがて消え行くように締めるM-10が最たるモノだ。
だから(全ての音楽に対しても言えるコトだが)クソ真面目に正座して聴けなどとは言わない。BGMとして聴き流しても一向に構わないと思う。
ただ、聴き続けて鬱陶しく感じるならアンビエント音楽として失格だし、眠くなるのならそれはリラックスしている証拠だから良しとすべき。
本作を聴いて前者は信じ難いし、後者なら……それはカラダが欲しがってる証拠だよ、うへへへ……。

M-01 4:02
M-02 14:31
M-03 9:25
M-04 9:39
M-05 7:39
M-06 0:54
M-07 8:07
M-08 5:23
M-09 4:14
M-10 12:18

M-07はTANGERINE DREAM〝Love On A Real Train〟のカヴァー。二倍に増幅されている分、リミックスに近い改変ぶり。


2011年12月10日土曜日

AMEN ANDREWS vs. SPAC HAND LUKE 「Amen Andrews Vs. Spac Hand Luke」


謎のソロユニット、AMEN ANDREWS(以下、AA)とSPAC HAND LUKE(以下、SHL)のスプリット盤。リチャD主宰のRephlex Recordsより、2006年に発表された。
どちらも(俗に言う)コーンウォール一派の番頭格、ルーク・ヴァイバートの変名なんだけど。

名義別音源の振り分けは以下の曲目通り。過去リリースしたEPとの被りもほぼなしの準新作。他人とスプリットを切っている訳ではないので、気にせずごちゃまぜ。
ただしAA名義は(PLUGという専門名義があるにも関わらず)ドラムンベースが基本。SHL名義では(こーゆーのあるらしいしー、俺も演ろっかなー? と、綿棒で耳掃除をしながら思い立ったかのような俺節)ダブステップが展開されている。
共通する点は音色のチープさ。あと、声ネタをいつも以上に多用しているトコ。しかも他で使ったネタを再利用する部分も散見されるいい加減さ。

正にルーク・ヴァイバートの、安っぽくて嘘臭くてテキトーで節操のない部分が浮き彫りにされたかのようなアルバム。
何だかボロカスに書いているみたいだが、「ただし良い意味で」の言葉が必ず語尾に必須状態となる点、それこそが彼の凄いところであって。
M-01の、バスケのタンクトップとダボパンを着て金メッキのブリンブリンを下げた奴がダブステップを始めたかのような珍奇なトラックを組めるのも、ルーク先生だけ!

まあ何だかんだでルークらしいアルバム。
書き遅れたが、結構はちゃめちゃな創り(〝結構〟が付くところに、ルークの計算高さが見て取れる)なので、レーベルオーナーによる変名のコンピ盤「Caustic Window Compilation」との比較もアリ。リチャとルークの彩の違いがはっきりと分かるはず。

M-01 London (SHL)
M-02 1 Shot Killer Pussy (AA)
M-03 Like A Machine (SHL)
M-04 Screwface (AA)
M-05 Grime II Dark (SHL)
M-06 Multiple Stab Wounds (AA)
M-07 Grave (SHL)
M-08 Intelligent (AA)
M-09 Barrave (AA)
M-10 Amen Andrews (AA)
M-11 Junglism (AA)
M-12 Play (SHL)
M-13 Murder (AA)


2011年10月16日日曜日

WAGON CHRIST 「Sorry I Make You Lush」


ルーク・ヴァイバートは食えない男だ。

本作はWarpからのリリースではない。友人であるリチャのRephlexでも、マイクのPlanet Muでもない。COLDCUTが所有するUKブレイクビーツ総本山、Ninja Tuneである。(本人にとっていい迷惑だろうが)〝コーンウォール一派と呼ばれ、アシッドサウンドを得意とする者にも関わらず、だ。
(両者とも多角化されつつあるが)片やエレクトロニカ、片やブレイクビーツを主とする英国クラブ系インディーズ二巨頭でアルバムをリリース出来る者など、この男(広義で括れば、あとDJ FOOD)くらいなモンだろう。
それが彼の評価でもあり、才能でもあると思う。

あえて断言させていただくが、彼は二十年近いキャリアの中で〝傑作〟に値する金字塔的作品を創ったことがない。(異論は認める)
その代わり、質は常にきっちり高い。失望させない手堅さがある。
どんなレーベルで出そうと、どんなクラブ系の音楽性にチャレンジしようと、どんな人と競演しようと、誰のリミックスを手掛けようと、己の色を出し切りつつ容易に軟着陸させる技巧を持つ。
だから嗜好が合えば、安心して作品に手を伸ばしても大丈夫。
芸術家と言うよりも職人に近い人だ。

でもその割には掴みどころがない。にこにこ微笑んでいるようで、心の中では何を考えているか分からないタイプの人だ。

本作はWAGON CHRIST名義の五枚目。2004年作品。
ところどころお得意のアシッド色を溶かしてはいるが、Ninjaという軒下に住まわせてもらっている以上、ややスモーキー仕立てなブレイクビーツが主である。
そんな中で、今ではほぼ絶滅した90年代後半のクラブ系ムーブメント〝ビッグビート〟っぽい曲調もあったりと、いつの間にかゾンビのように蘇るアシッドハウス好きのルークらしい時代遅れなダサカッコ良さに、にやりとする部分も。

でも、前はもっともわーっとした音像だったような気がするなあ。ちょうどTHE CHEMICAL BROTHERSTHE PRODIGYやらが猛威を振るってた頃の作品で特に。
……あ、もしやルーク、なにげにこの名義も自分の好きなアシッド色に塗り替えようとしてるとか? ほんとに食えない奴だなあ。

M-01 Saddic Gladdic
M-02 I'm Singing
M-03 The Funnies
M-04 Shadows
M-05 Quadra Y Discos
M-06 UBFormby
M-07 Sci Fi Staircase
M-08 Sorry I Make You Lush
M-09 Kwikwidetrax
M-10 Nighty Night
M-11 Deux Ans De Maia (Bonus Track For Japan)
M-12 Loose Loggins (Bonus Track For Japan)


2011年5月14日土曜日

SQUAREPUSHER 「Hard Normal Daddy」


1997年作の二枚目。

このトム・ジェンキンソンという男はすぐくよくよして、自らに向けられた批判の上に言い訳を塗り込めるような面倒臭い人間である。
その証拠はミニアルバム扱いの「Do You Know Squarepusher?」のインナーで自ら記したライナーノーツとやらにとうとうと述べられているので、興味があればぜひ。
このように非常に打たれ弱いトムくん、この頃は外野の野次などなかった。『テクノ界に超新星、現る!』といった具合に誰もが彼を賞賛した。
だから調子に乗ったのか、もともと作曲の調子が良かったのかは分からないが、怒涛の如く作品を連発。そのどれもが高品質だったので、誰もが彼を〝天才〟と礼賛した。

それが良かったのか悪かったのかは分からない。ただ、当時二十歳そこそこのぽっと出の青年にしては過剰な期待度ではあった。
ま、その後は……明言避けますわー。

本作はスクプのキモである、フュージョンっぽいウワモノに〝ドリルンベース〟と呼ばれるドラムンベースの亜種(と言うかパロディに近い)を重ねた、(当時は)トムでしか思いつかなかったアイディアが完全開花した彼の代表作であろう。
何とも語尾が歯切れ悪いが、ドアタマの名曲〝Squarepusher's Theme〟の衝撃から、一枚目「Feed Me Weird Things」を推す方も居るだろう。本作の次、たった三ヶ月のインターヴァルでリリースされた、アレでお馴染みのミニアルバム「Big Loada」という線も捨て難い。何を隠そう筆者はコレらではなく、次のフルアルバムを猛プッシュしたいヒネクレ者だったりする。
だが、作品の楽曲の質・音質などの安定度と、『スクプと言ったら?』という質問を明確に答えているのは本作以外に考えづらいのではないか。
それ以降の作品? ははは、ご冗談を。

とりあえず、まずはコレ。もしくは前の
いや、わざと先に近作ってのも手か? などと底意地の悪いコトを意味深に書いてみる。

M-01 Coopers World
M-02 Beep Street
M-03 Rustic Raver
M-04 Anirog Da
M-05 Chin Hippy
M-06 Papalon
M-07 Ez Boogie
M-08 Fat Controller
M-09 Vic Acid
M-10 Male Pill, Pt. 13
M-11 Fat F's and V's
M-12 Rebus