2017年2月28日火曜日

CLARK 「The Last Panthers」


同名のイギリス犯罪TVドラマ(放映開始は2015年11月。日本未放送)の劇伴を、Warpの映画部門・Warp Films絡みであのクリストファー・ステファン・クラークが担当。2016年3月にサントラとして発表したブツ。
ちなみにオープニング曲はデイヴィッド・ボウイ(遺作……)。エンディング曲はLeaf Label所属のROLL THE DICE。(いづれも当作品には未収録)

いびつでカッコイイビートを組める才にも定評があるCLARKだが、そこはオールラウンダーの彼、サントラを意識して全編ノンビートのアンビエント作品に仕上げてきた。
そもそもアンビエント曲は彼にとって、いつもオリジナルアルバム末尾(や日本のみのボートラ)に添えてきた守備範囲内の手法。あとは他ミュージシャン曲のリミックスでいつも無茶苦茶演るような、持ち前の傍若無人さがこの大事な局面で鎌首を擡げないか心配ではあったが――

まるで問題なかった。(ニッコリ

彼の近作で見られた幽玄かつ奥行きの広い音像の中、シンセやエレピを主音に用いた静謐かつ荘厳な雰囲気で、なおかつ2・3分とコンパクトにまとめる、といった劇伴のセオリーに忠実な創りで非常に好感が持てる。残念ながらドラマは未見だが、これならどんなシリアスな映像にも合いそうだ。
彼も大人になったなあ……と感慨深くなった。
ただ、アンビエントは音数を切り詰める作風ゆえにビッグネーム以外は個性が発揮しにくいジャンルなのだが、それも問題なし。各曲のそこかしこに彼が如何にも用いそうな音色が散りばめられており、打ち込み系音楽ファンに目隠しテストしてもCLARK謹製の音楽と回答するはずだ。
逆に一聴で分かる個性を有した彼に、大きくなったなあ……と感慨深くなった。

総評すれば、らしくはないし番外編なれどCLARKはCLARKだった、と。

で、実際のドラマはFoxチャンネルとかAXNとかで日本放映しないの? トレイラーを見る限り、面白そうなんだけど。
放映されない限り、本作もBeat Recordsから日本盤発売されなそうなんだけど。

M-01 Back To Belgrade
M-02 Hiero-Bosch For Khalil
M-03 Diamonds Aren't Forever
M-04 Panthers Bass Plock
M-05 Chloroform Sauna
M-06 Serbian Daffodil
M-07 Naomi Pleen
M-08 Open Foe
M-09 Strangled To Death In A Public Toilet
M-10 Cryogenic
M-11 Brother Killer
M-12 Omni Vignette
M-13 Actual Jewels
M-14 Dead Eyes For Zvlatko / Heaven Theme
M-15 Diamonds Aren't Forever II
M-16 Upward Evaporation
M-17 Hide On The Treads 1
M-18 Hide On The Treads 2
M-19 Hide On The Treads 3


2017年2月26日日曜日

THE PSYCHIC PARAMOUNT 「II」


キャリア最初期、オーサカ人太鼓叩き・中谷達也腰掛け在籍していたこともある、NYC出身の猛獣インストマスロックトリオ、2011年作は二枚目。
フィラデルフィアで不気味に蠢くNo Quarterから。

のっけからバカデカいピークレヴェルで鼓膜をタコ殴り! 否が応にも聴き手の高揚感を高め、ハートを鷲掴みにしてくる。それは前作でも一緒だが、今回は若干音の分離が良くなっている。
そんな彼らの強みはギター、ギター、アンドギター! ぎゃりぎゃりしたトレモロピッキングを軸にひたっすら弾き倒して音の壁を築き上げる。ギターが二本聴こえる時も、表(主音)では印象的な単弾きフレーズでしゃしゃりつつ、裏(背景音)ではやっぱりトレモロフレーズを垂れ込めるくらいトレモロ好き。
また、彼は一つのフレーズに固執せず頻繁にエフェクターを踏み替えて目先を変えることで、自ら曲を展開させるリーダーシップをも担っている。
これら我の強さがバンドの芯の強さと直結していると言って良い。
彼は主役。

ならば残りのベースとドラムは随伴接待脇役演奏をしているのかといえば、否。
ごりごりするピック弾きで、執拗にフレーズを反復する曲と、運指を自由に動かす曲を決め打ちしてバンドの凶暴性をかさ増しするベース。たまに主人公のギターを押しのけ、渋いフレーズワークで我が物顔する個所もあって堪らない。
一方ドラムは、スネア、タム、キック、ハイハット、クラッシュのパターンを自由闊達に構築することで『俺たちゃ脳筋じゃないんだぜ!』アピールと、手数の多さで曲の加速感や推進力を生むことに成功している。
これらを前述の荒々しくも分離の良い良好なプロダクションで録ることにより、いちいち意識せずとも各パートの演奏が聴き手の耳へとフィーチャーされる。ギターの一人相撲にならない。バンドとしての整合性も高める、素晴らしい相乗効果を齎すのだ。

これぞトリオ編成の美しき姿也。

M-01 Intro / SP
M-02 DDB
M-03 RW
M-04 N5
M-05 N6
M-06 Isolated
M-07 N5.Coda

日本盤あるよ。(ボートラないよ)


2017年2月24日金曜日

THE INTERNAL TULIPS 「Mislead Into A Field By A Deformed Deer」


LEXAUNCULPTのアレックス・グレアムと、MEDICINEを仕切っているブラッド・レイナーが組んだカリフォルニア産ユニットの一枚目、2010年作。
〝コーンウォールのガリ勉野郎〟マイク・パラディナスのPlanet Muより。

クレジットを読む限り、打ち込み畑のグレアムが機械や鍵盤系担当。バンド畑のレイナーがギター・ドラム・ベースのような基本楽器と歌担当。非常に分かりやすいパートナーシップを築いている。
さてこんな二人から出て来た音は……Planet Mu産だからして、高速ブレイクビーツと電子音の上モノが荒れ狂う如何にもなアレ? それとも同レーベルが近年ひたすら青田刈りしている、最新鋭のクラブミュージックからの影響が強いスカスカペナペナダンサブルな感じ?
いやいや、アラ50のオッサンどもがそんなん演りたいと思う?

作中に通底するは、ふわふわゆったりとしたノンビート、もしくは3/4拍子の曲調。ピアノを要所で用いつつ、なよっとして感傷的なメインヴォーカルよりも脇で引き立つ甘い多重コーラスの方に焦点を当てるような、わざとらしいポップセンス。音割れやグリッチなど気にせず、様々な個所で生活音やブリープ音を織り込む作為的なテクスチャ――
これはもう、一昔の(今も!?)ミュージシャンが唸るほど金を得た時にするコトを黒い皿上で表現した、イギリス代表のコレとかアメリカ代表のアレ――そうそう、上っ面はイイ子ちゃんしているけど裏はー? みたいな、大衆音楽の湖底に堆積した汚泥からの影響が強い、現代のサイケミュージックだ。
そんな紙片ではなく角砂糖にイケナイ溶液を染み込ませた妖しい怪しい本作は淡々と進み、陽気だがそこはかとなく空しく聴こえるカントリー風のM-11から一転、病室を思わせるM-12で心電図がフラットラインして終劇した刹那、本編では殆ど扱われずじまいの生ドラムによるぱたぱたしたビートが敷かれたスタッフロールっぽいM-13で幕を下ろす。
『貴方のハートには、何が残りましたか?』と言わんばかりに。

シュールなのだろうか。メランコリックなのだろうか。シネマティックなのだろうか。だが思ったより投げっ放しではなく、じめじめもしておらず、思った以上に情景が脳内で浮かび上がる音楽をしている。
聴き手を選びそうなのに、ちゃんと万人に向けて大きく両手を広げている懐の深さが魅力の本作、コンセプトアルバムらしい。

M-01 1/2 Retarded Tuner Of Hurricanes
M-02 Bee Calmed
M-03 9 Tomorrows
M-04 Arlie
M-05 Dead Arm Blues #B510
M-06 Talking Hoshizaki Blues
M-07 Mr. Baby
M-08 Songbird
M-09 Parasol
M-10 Fixed Confidence
M-11 Long Thin Heart
M-12 Invalid Terrace
M-13 We Breathe