2013年5月30日木曜日

ADORAN 「(Untitled)」


NADJAだけでなく、ソロ活動に別プロジェクトとフットワークの軽さを見せるエイダン・ベイカーが何とドラムスティックを握り、ベーシストのドリアン・ウィリアムソンと組んだスラッジデュオの2013年初作品。ベイカー懇意のベルギー発:Consouling Soundsより。
AidanDorian=ADORAN、ね。

(自身を含め)総勢十七名のドラマーを迎えた2012年1月のソロ作から、〝オーガニック〟を謳った2012年10月のNADJA作品に至る流れからして、ベイカーの中で人力ビート熱が高まっているものと思われる。
それなら本来、彼はギタリストというよりはマルチプレイヤー(というよりも作曲家)なので、『俺が全編ドラムを叩いた作品を創りたい』と考えるのも当然の帰結。(というよりは元々、打ち込みビート構成の工夫のなさからして〝打ち込みは人力の代替〟としてしか見ていないっぽい)

さて、ベイカー作品で二曲となると当然、M-01が27:22、M-02が30:09と長尺。
リズム隊でのデュオ編成らしく、コード弾きのベースが地べたをごろごろ這いずり回る主旋律を担い、ドラムがそれを支えつつもがんがん鞭打ってメリハリを付けていく――そう、あのミッドテンポでひたすら引きずって引き伸ばして、次第にフレーズを移り変えていく暗黒音楽系の牛歩サウンドがココでも展開されている。
引き、満ち、引き、また満ちる――この終わりそうで終わらない弛まぬ緊張感なら、思ったより長さを感じないはず、当ブログの読者様なら。
そこで想起されるのが、同じカナダ出身のポストロック共同体:GY!BE周り。
双方まるで絡みはないが、こうしてコミュニティ内で音を完結させる如何にもポストロック人らしいGY!BEと、人脈を広げることで音楽的領土を拡大していくハードコア派生系音楽人のベイカー(ただし、彼のバックボーンはシューゲイザー)の点と点を結んでみるのも、強引だが面白い。

この音世界なら、ベイカーのドラムにもっと安定感やビート構成力やパワフルさを求めたくなるなあ、なんて思ったりもするが、そこは難癖なので黙殺。現在はドイツに住んでいるベイカーに、メイプルリーフを感じられただけで良しとする。
なお、本作は2012年の6月にベイカーの元地元・トロントで録られた。マスタリングは地下音楽御用達の兼業ミュージシャン:ジェイムズ・プロトキンによるもの。

M-01 Careful With That Death Machine
M-02 The Aviator




2013年5月22日水曜日

DALEK 「Abandoned Language」


ターンテーブリストのスティルが脱退。ラッパーのMCダイアレックとトラックメイカーのジ・オクトパスのデュオとなった四枚目、2007年作。
代わりのターンテーブリストは、大半のトラックでモーティヴが、M-03と10ではかのバトルDJチーム・THE X-ECUTIONERSの元メンバー:ロブ・スウィフトが手を貸している。準メンバーのジョシュア・ブースもちゃんと参加。
レーベルは引き続きパットン将軍のトコ

のっけのM-01から10分トラック。しかもその低音パートはキックでもベースラインでもなく、ブーーーーンと響き続ける重低ドローン――
相変わらずBの流儀をせせら笑う、DALEK独自のヒップホップ道が展開されている。
だがその一曲目から、聴き手はびっくりさせられること請け合い。
何と、今まで『俺たちの表現軸だ!』と言わんばかりに上モノとして垂れ込めてきた、エフェクターでぐしょぐしょに掻き乱すあのギターノイズを一切排してしまったのだ。お陰でジョシュア・ブースのパートが奪われ、本作では共同ソングライターのクレジットのみ。

無論それは彼らの今後を考えれば絶妙手だったと、声を大にして言いたい。

前作はちょっと意固地になってたんだろうと思う。
ヒップホップ界きっての異端児の名を以って肩を怒らせ、他のクルーが真似すらしないことをあえて演り、自己を確立したは良いが、足元を見ていなかった。
ギターを歪ませてフィードバックさせればノイズの一丁上がり! なんてそんな安易なモンじゃないのだよ、音の魑魅魍魎蠢くあの界隈は。

不穏な音色をシンセで選り、長音でひり出す演り方は明らかにドローンを意識している。M-05のような擦弦楽器で創る混沌とした音世界のインストも、スキット以上の効果を生んでいる。M-07のヴァースで調子っ外れでフリーキーなクラリネット(?)を挿す、突飛な音色使いも今まで見られなかった傾向だ。これまでとは乗せ方を変えた、ギターでひり出すハーシュノイズも、アルバム末尾(M-11)に置かれたとなると曰くありげだ。
一方、もう一つの懸念材料だった、MC一人によるフロウのマンネリ化は、マイメンを呼んで合いの手を付けさせたり、自身の声に過度の変格を加えたりと、試行錯誤している様子。それが成功しているかは聴き手各自の判断に委ねるとして(リリックが判明出来ないくらい、もこもことフィルターを被せて何の意味があるのだろうか?)、己と向き合うべく1MCを貫いているらしいので、その方向性を維持しつつもいろいろ手管を模索するのは良い傾向かと思う。

ジャンル問わず、こういう音に真摯な連中は作品毎にきっちり成長した姿を聴かせてくれるのでスルー出来ない。
もっとこんな努力が金銭で報われれば良いんだけどねえ。

M-01 Abandoned Language
M-02 Bricks Crumble
M-03 Paragraphs Relentless
M-04 Content To Play Villain
M-05 Lynch
M-06 Stagnant Waters
M-07 Starved For The Truth
M-08 Isolated State
M-09 Corrupt (Knuckle Up)
M-10 Tarnished
M-11 (Subversive Script)

日本盤は:
M-12 What I Knew Then
:を追加収録。DALEKらしさとはやや違う方向性の変態トラックだが、なかなか面白い出来なので、あえてこっちを買うのもありかと。


2013年5月20日月曜日

マジかYo! L.O.T.W.式音楽用語解説・其の2


意外と好評っPoi、月イチこのコーナー、けふはラベルになっちょるジャンルのコトゥー。
たぶん長くなるさけ、とっととイクぜ。
でも四行くらい書いておっきたいのよねい。起承転結希みてーな、な? な!
……で、こーして詰まっちんぐな訳ダワ。ざまーねーな。はいクリッククリックゥー!


2013年5月16日木曜日

CHICAGO UNDERGROUND ORCHESTRA 「Playground」


全てはココから始まった。
シカゴのジャズ大将:ロブ・マズレクの加減算プロジェクト、1998年作品。地元の老舗ジャズレーベル・Delmark Recordsより。

この作品は本来、大将のソロアルバム扱いから始まっているのはジャケを見ての通り。
メンバーは大将(主にコルネット)、テイラー(ドラム)、パーカー(主にギター)の常連に、クリス・ロペス(ベース)、サラ・P・スミス(主にトロンボーン)のクインテット。
M-01ではTORTOISEのジョン・ハーンドンとダン・ビットニーがそれぞれコンゴとボンゴで参加。録音技師はそのTORTOISEを辞めたばかりのバンディ・K・ブラウン。
M-01はハービー・ハンコックの、M-04はデューク・エリントンのカヴァー。

――と、今回はやけに作品の背景説明が多いのにも訳がある。
はっきり申し上げて、書くコトがない! から。
本作は後の大将系列作品のように、打ち込みを織り交ぜたり、エキセントリックな曲調に足を踏み入れたり、音符を感性で置いていったりする逸脱行為のない、直球ど真ん中のジャズアルバムだ。
その一方で、自身の特徴的なコルネットのフレーズを立てつつ、他のパートの連中にもきちんとスポットライトを当てることで音世界の広がりを醸し出す、彼らしい立憲君主制のジャズアルバムだ。
まずコレを足掛かりにCHICAGO UNDERGROUND系だけでなく、マズレク大将作品を聴き進めていくのが無難かとは思うが、あまりに衒いのない創りのため、聴き手が近作の一筋縄ではいかない作風まで掘り続けてくれるかどうか疑問だ。

裏を返せば、ココで留まっても十分楽しい。
筆者は、アップテンポでスリリングなプレイの中、スミスかパーカーがリコーダー(縦笛)を闇雲に吹き散らすM-06が楽しくて仕方がない。蛇でも呼ぶつもりかよ、と。
要は、あんま頭使わず片意地張らず、ジャズ聴いてまったりしてーなー、なんて気分にうってつけのアルバム。

M-01 Blow Up
M-02 Flamingos Dancing On Luminescent Moonbeams
M-03 Boiled Over
M-04 Le Sucrier Velours
M-05 Components Changes
M-06 Playground
M-07 Jeff's New Idea
M-08 The Inner Soul Of H
M-09 Whitney
M-10 Ostinato



2013年5月14日火曜日

HANGEDUP 「Kicker In Tow」


カナダはモントリオール発、ヴィオラのジェネヴィーヴ・ヘイステックと、ドラムのエリック・クレイヴェンによる男女デュオ、2002年作の二枚目。

モントリオールでポストロックなら、GODSPEED YOU! BLACK EMPEROR人脈だろ! と察した方は鋭い。本体参加はないものの、そのサイドプロジェクトでしばしば名を連ねているこの二人、他に二つのプロジェクトで顔を合わせている間柄ゆえ、息の合った緊張感のある演奏が期待出来る。
録音はテープで行われ、技師はやはりGY!BEのエフリム・メナック。

さてこうなると、出て来る音はやはりモントリオールの御柱同様、満ち引き激しいあの路線。ギターもヴァイオリンもベースもチェロも同じ弦楽器だろ! と口角泡を飛ばし、じわじわテンションを上げていくアレ。
ならばたった二人で、あの人海戦術音楽は無理だろ! と思われるかも知れないが、これが何ときっちり二人で演れている。ゲストは、M-06でハリス・ニューマン(本作のマスタリングも担当)がベースを弾いているだけ。
となれば当然、オーヴァーダブ。ヘイステックのヴィオラの音が二つ以上聴こえる時もあるが、全部私が弾いてるんだから問題ないよね、と言わんばかりにテンションの高い曲ではがつがつ音を盛り込み、上の隙間を埋めていく。
一方のクレイヴェンも然る者。オフロードな前のめりビートで緊張感のあるボトムを演出する。しかも、ドラムヘッドを叩き割らん勢いで。
そんな上と下を癒着させる低音は要らない、デュオなのだから。あえて外すことで、上下の音を際立たせる意味があるから。
無論、テンションが高いばかりでなく、感性に基づいて音符をひっそり置いていく曲や、ドローンノイズっぽい展開もある。それらがあるからこそ、爆発的な曲への増幅効果も見込めるし、デュオ編成らしい音の隙間の有効活用も出来る。
そこらは海千山千。抜かりはない。

GY!BE関連としては短い、五・六分程度で終わる曲を並べているので、どうも閉鎖的でとっつきづらいモントリオールシーンを感じるのにもってこいの入門盤では。

M-01 Kinetic Work
M-02 Sink
M-03 Losing Your Charm
M-04 View From The Ground
M-05 Moment For The Motion Machine
M-06 No More Bad Future
M-07 Motorcycle Muffler
M-08 Automatic Spark Control
M-09 Broken Reel


2013年5月12日日曜日

AROVANE 「Tides」


ドイツはハーメルン出身のウヴェ・ザーン、2000年六月発表の二作目。

同年一月にリリースされた一枚目はAUTECHREフォロワーのデジデジしいニカだったが、本作はM-02、05、07、09でアコギにクリスチャン・クレインを迎えた通り、メロディの立った生音折衷ニカを標榜している。
M-02は、そのアコギの爪弾きを一音ずつ割って左右交互に奏でたり、鼓膜を弾いたり、左から右に流したりとなかなか凝った、本作のリーダートラック。
また主音にチェンバロ(英名:ハープシコード)を用いた曲で始まって(M-01)、締める(M-09)、几帳面な法則性も重視したアルバム構成だ。
一方のボトムラインだが、抜けの良い空間処理が特徴的なブレイクビーツを敷いている。これが非常に小気味良く、機能的ですっきりした上モノ構成も相俟ってダビーに聴こえる。その刻み方も、シンプルさを求めている時はオーソドックスに、遊べる雰囲気なら崩し気味に組める、余裕を持った創り。

鼻に付く部分は、たまーに先人からの借り物っぽい音世界を感じることくらいか。そんな点が難癖に聞こえるほど、本作はトータルバランスの良い作品だと思う。
さすがマイスター魂のドイツ人。

そんなザーン氏、スプリット編集盤を挿んだ2004年・三枚目で〝Good Bye Forever〟なるアルバム最後の曲を遺し、音楽活動を終了させている。
――いや、確定じゃないんだ! こうした彼を称える文を残せば、いづれ戻って来てくれるかも知れないんだ。
それに音源は記録(Record)なんだから、彼の遺した音楽(Record)は永久の時を刻めるんだ――と思ったら、音源は出してないだけなのな 何だよもうっ

M-01 Theme
M-02 Tides
M-03 Eleventh!
M-04 Tomorrow Morning
M-05 Seaside
M-06 A Secret
M-07 The Storm
M-08 Deauville
M-09 Epilogue



2013年5月10日金曜日

RAINSTICK ORCHESTRA 「Floating Glass Key In The Sky」


本職がデザイナーの角田縛とSEの田中直通からなるデュオ、2004年作は何とあのNinja Tuneから。
当然、ジャケデザインは角田が手掛けている。

ビートの刻みはこまめだが、BPMは速くない。装飾音は多用するが、すっきり構成されているのでうるさく聴こえない。各音色配置がきちっと整頓されて把握しやすいが、ダブのような局所的な音色の偏愛はなく、全てほぼ等価で鳴らされている。
たまにジャジーだったり、Ninjaらしくブレイクビーツをボトムに這わせたり、まったり牧歌的だったりするが、基本的にはミニマル。また、似たような音色をトラック毎で使い回しているのが最大の特徴。
とまあ、音響へのこだわりよりも、自分たちが気持ち良い音を使ったトラックを組みたがっているのが良く分かる創り。そのため、割とメロディの立ったアルバムだ。

そこで『同じような音色を曲毎に使い回して単調にならないのか?』という疑問。
コレが意外とそうならない。
元々音色使いの志向が、奇を衒いたがる〝破調〟タイプではなく、アルバム全体の空気を乱さない〝調和〟タイプ。よって用いる音色自体が淡白となるので、脳裏にへばり付いて来るくどさがない。
あとはテクスチャの妙で聴きやすい環境を整え、巧く反復の魔力を用いて印象付け、各パーツを弄る匙加減を吟味してフックを与える――このような、地味ながらも小憎らしい工夫を施すだけで〝統一感〟の名の下に許容出来る雰囲気となる。
メンバー二人の背景も相俟って、アート臭くないのもその一端だと思う。

ただ、プリセット音色をそのまま用いたようなデフォルト臭は、商業作品として避けるべきではなかろうか。作品が途端に安っぽくなる。
そこで興醒めせず聴き通せるのも、本作の地味ーな旨味ゆえなのだな。

M-01 Trick
M-02 Waltz For A Little Bird
M-03 Kiteletu
M-04 Powderly
M-05 Overflow
M-06 Electric Counterpoint Fast
M-07 A Closed Circuit



2013年5月8日水曜日

MASSIVE ATTACK 「100th Window」


2003年作、四枚目。

マッシュルームことアンドリュー・ヴォウルス脱退後初のアルバム。ただし、ダディGことグラント・マーシャルは育児休暇により本作不参加。実質、3Dことロバート・デル・ナジャと、前作よりプロダクションに関わるニール・デイヴィッジのアルバムと言える。
その3D、本来ココにいるはずのダディGとは、トラックの創り方がまるで違う。
ダディGはざっくりとトラックの基礎を決めてから、感覚的に形作っていくタイプ。一方の3Dは、とにかく神経質に細部まで卓で弄って弄って弄り倒すタイプ。

もうお分かりであろう。
本作は3Dの偏執的な創り込みぶりが如何にも発揮された、静謐な音像なのになぜかうるさい、彼の執念の結晶である。

両耳の鼓膜を弾くキック。左右、鳴らす位置が安定しない装飾音。飛びかけの蛍光灯の如く、常に揺らぎ続ける副音――
デイヴィッジすらあきれて見守るしかないくらい、これでもか! と音が詰め込まれ、弄り倒され、入り乱れ、脳内で拡散し続ける。
各音色を把握しながら聴くと、ほんっっっとに疲れるアルバムである。
〝冷たい〟やら〝無機質〟やら言われ、『ダディGが(ストッパー役として)居ればこんなに(鬱陶しく)ならなかった』と罵るファンが居るのも、残念ながら当然とも言える。
ただ筆者は、この過剰な音響工作が徒労だったとは思わない。聴き方を変えれば、こんな痒いところに手の届くアルバムもないとすら思える。

さてここで逆転の発想。ぼけーっと垂れ流して聴いてみよう。
例えばベッドに横たわって、目を閉じ、各音色を肌で感じ、身体を溶かすつもりでリラックスすると、まるで音に愛撫されているかのような心地を味わえる。
しかもM-09の8:17の後、30秒空白を取ってからの、パルス波のような音が単体で揺らぎ続けるミニマルドローン曲に癒しを感ずるはず。

それもこれも、気持ち良い音を気持ち良い場所に配置する、匠の技術の賜物。
要はちゃんと実の伴った凝りっぷりだというコト。
Don't Think, Feeeeeeel!!

M-01 Future Proof
M-02 What Your Soul Sings
M-03 Everywhen
M-04 Special Cases
M-05 Butterfly Caught
M-06 Prayer For England
M-07 Small Time Shot Away
M-08 Name Taken
M-09 Antistar

お約束のゲストヴォーカル紹介コーナー。
今回は少数精鋭。M-02、04、06はコレで一世を風靡した反骨のスキンヘッド女性SSW:シネイド・オコーナー。〝Voice Of Massive〟ホレス・アンディはM-03と08で。
残りはすべて3Dがヴォーカルを執っている。
また、M-07ではバックコーラスにGORILLAZの2Dことデーモン・アルバーンが参加し、二次元・三次元タッグを結成しているが、2Dの方、殆ど聴き取れない……