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2017年5月6日土曜日

STARLICKER 「Double Demon」


流離のコルネット吹き:ロブ・マズレク大将が、TORTOISEでどっちかというと太鼓を叩いている人:ジョン・ハーンドンと、お髭の鉄琴叩き:ジェイソン・アダシェヴィッツ――つまりコレでゲストに呼んだ連中と組んだ2011年作品。
1953年設立! 大将懇意のシカゴ発老舗ジャズレーベル:Delmarkより。

結論から書けば、大将関連作品中で相当聴きやすい部類に入る。
まず音色はたった三つ。大将のコルネット、ハーンドンのドラム、アダシェヴィッツのヴィブラフォン。ベースなし、サンプラーによる装飾音なし、ゲストなし。徹頭徹尾スリーピースに拘った、スリーウェイジャズマッチだ。
よって音像がシンプルで各音色が把握しやすい上に、いづれも等価で存在をアピール出来る。おまけにフリージャズにありがちな、音感頼りのはちゃめちゃな崩しプレイ(俗に言うインプロ)がほぼない。
重ねて曲調が終始アップテンポ。ドラムもヴィブラフォンもがんがん打ち込む。
ハーンドンは演れる時は殺る人なので平常運転なのだが、アダシェヴィッツまで『俺も打楽器だ!』と言わんばかりに四本の撥を駆使して瀑布の如き鬼神プレイを見せる。この両名の向こう見ずなイケイケっぷりが、アルバムに一本筋の通った緊張感を齎している。
鉄琴は透明感のある落ち着いた音色が特色と思い込んでいたら、こういうアッパーな用い方もあるんだと筆者は目から鱗が落ちた次第。TORTOISEでどっちかというと鉄琴を叩いてるジョン・マッケンタイアさん、こんなん如何ですか?

で、主役。
普段はド派手な音で聴き手の注目を掻っ攫う金管楽器使いのマズレク大将。こんなアグレッシヴな二人に釣られて、ブロウかましまくりのエフェクターかけまくりの肩肘張ったコルネット裁きを聴かせているのかと言えば、そうでもない。
思ったより我関せず、素の音で当ブログでいうところの〝マズレク節〟を飄々かつ朗々と吹き鳴らしている。
そもそも大将はコンポーザー志向の勝ったジャズメン。我を抑えて仲間を立てるのはお手の物。加えて、一聴三名が好き勝手鳴らしているようで要所ではキメを揃えたりと、仕切っている大将のコンポーザー頭と各プレイヤーの高音楽IQの賜物により、楽器を鳴らしながら音楽を創る過程を垣間見せてくれる。

ココまで聴き手側に歩み寄っていただけるなんてほんと、感無量デス。
ねえ、ちょっと小難しいジャズ聴いてみたいなあ……なんてイケナイ好奇心を抱いてしまったそこのア・ナ・タ。マニアが推すよー分からん太古の名盤なんか後回しにして、まずはここらへんから足を踏み入れてみませんかィ……?

M-01 Double Demon
M-02 Vodou Cinque
M-03 Orange Blossom
M-04 Andromeda
M-05 Triple Hex
M-06 Skull Cave


2017年2月26日日曜日

THE PSYCHIC PARAMOUNT 「II」


キャリア最初期、オーサカ人太鼓叩き・中谷達也腰掛け在籍していたこともある、NYC出身の猛獣インストマスロックトリオ、2011年作は二枚目。
フィラデルフィアで不気味に蠢くNo Quarterから。

のっけからバカデカいピークレヴェルで鼓膜をタコ殴り! 否が応にも聴き手の高揚感を高め、ハートを鷲掴みにしてくる。それは前作でも一緒だが、今回は若干音の分離が良くなっている。
そんな彼らの強みはギター、ギター、アンドギター! ぎゃりぎゃりしたトレモロピッキングを軸にひたっすら弾き倒して音の壁を築き上げる。ギターが二本聴こえる時も、表(主音)では印象的な単弾きフレーズでしゃしゃりつつ、裏(背景音)ではやっぱりトレモロフレーズを垂れ込めるくらいトレモロ好き。
また、彼は一つのフレーズに固執せず頻繁にエフェクターを踏み替えて目先を変えることで、自ら曲を展開させるリーダーシップをも担っている。
これら我の強さがバンドの芯の強さと直結していると言って良い。
彼は主役。

ならば残りのベースとドラムは随伴接待脇役演奏をしているのかといえば、否。
ごりごりするピック弾きで、執拗にフレーズを反復する曲と、運指を自由に動かす曲を決め打ちしてバンドの凶暴性をかさ増しするベース。たまに主人公のギターを押しのけ、渋いフレーズワークで我が物顔する個所もあって堪らない。
一方ドラムは、スネア、タム、キック、ハイハット、クラッシュのパターンを自由闊達に構築することで『俺たちゃ脳筋じゃないんだぜ!』アピールと、手数の多さで曲の加速感や推進力を生むことに成功している。
これらを前述の荒々しくも分離の良い良好なプロダクションで録ることにより、いちいち意識せずとも各パートの演奏が聴き手の耳へとフィーチャーされる。ギターの一人相撲にならない。バンドとしての整合性も高める、素晴らしい相乗効果を齎すのだ。

これぞトリオ編成の美しき姿也。

M-01 Intro / SP
M-02 DDB
M-03 RW
M-04 N5
M-05 N6
M-06 Isolated
M-07 N5.Coda

日本盤あるよ。(ボートラないよ)


2015年8月2日日曜日

MOGWAI 「Rave Tapes」


スコットランドはグラスゴーの白き轟音獣、八枚目のオリジナルアルバムは2014年作。
EUは自分のトコ。USは説明不要! 引き続きシアトルのSub Pop Records

結論から書くが、拡散志向でファニーだった前作前々作と比べて焦点を絞り、シリアスに攻めている感がある。前作で茶化し気味だったヴォコーダー声も、本作のM-10では甘く優しく切なく用いられているくらいだ。
一方、エレクトロニカの要素を取り入れたという意見もあるが、それは全く正しくない。曲によってはキーボード音色を主音に立て、ループというよりもリフっぽく反復しているだけでニカ導入はないでしょうよ。
しかもアルバム後半でそこら辺を担っていたキーボード音は奥に追いやられるし。あと当たり前だがボトムも打ち込みでは一切なく、ドミニク・アイチソンとマーティン・ブロックの生々しくも破壊的なベース・ドラムコンビだし。
もっとニカの音色使いは執拗でいやらしいんデス。

つまりMOGWAIの持ち味の一つである、ゆったり厳粛に始まり、やがてぐわっと激情が鎌首を擡げる至高のダイナミズムは健在。
無論、終始寂寥感を漂わせたまま締める静謐な曲も忘れてはいない。
ごりっとしたスラッジコアリスペクトのドヘヴィな触感も残してある。

ただし、ほぼ代名詞である〝白き轟音〟と謳われたフィードバックノイズが影を潜めた。
でも取り払っていない。ちょぼちょぼ、背景音としてさり気なく存在を誇示しており、にやりとさせられること請け合い。
その点をどう感じるで本作の評価が分かれると思われる。
筆者は、拡散志向に移ってバンドとしての円熟味が増したと考えているので、今更曲のダイナミズム誘因を白き轟音というアイコンに頼るまでもない! と言い切ることにする。

最後にいつもの一言。
『良い音を授けて下さる方々を、我々が窮屈な型にはめてはいけない』

M-01 Heard About You Last Night
M-02 Simon Ferocious
M-03 Remurdered
M-04 Hexon Bogon
M-05 Repelish
M-06 Master Card
M-07 Deesh
M-08 Blues Hour
M-09 No Medicine For Regret
M-10 The Lord Is Out Of Control
M-11 Bad Magician 3 (Bonus Track For Japan)
M-12 Die 1 Dislike! (Bonus Track For Japan)

ちゃんとしたボートラをくれる日本思いの彼らなんで、Hostessからの国内盤がお薦め。


2015年7月18日土曜日

GRAILS 「Burning Off Impurities」


オレゴン州はポートランドのマルチプレイヤー四人衆、2007年作の三枚目。
ブルックリンの美味しいトコ取りレーベル、Temporary Residence Limitedより。

ドラム、ベース、ギター(エレ、アコ)、キーボード(ピアノ、オルガン)の基本楽器を軸に、ハーピシコード、メロディカ、ローズ、バンジョー、ペダルスティール、ウード(中東のリュートみたいなの)と、さまざまな楽器を曲によって使い分けるインスト音楽なのは今まで通り。ハーモニカ、金管楽器類、ヴァイオリンのゲストも迎えている。
だが、2004年発表の二作目まで養っていたNeurot Recordingsには悪いが、彼らはこの作品で本格化した。スタジオセッション盤、スプリット盤、単独EP、編集盤――と、三年もの間にじっくりマテリアルを積み重ねることで音楽性を熟成させた印象を受ける。
当ブログで何かと名前の挙がる優良インディーズのNeurotをクサすつもりは毛頭ないが、在籍時はTORTOISE影響下にあるポストロック有望株でしかなかった。
いやもう本当に、劇的に化けた。

その熟成に至るキーワードは二つ。ダイナミズムとトライバル風味だ。

まずはゆっくりと助走代わりに反復し、機を見計らって一気に駆け昇り、後は鬼気迫るテンションで乗り切ってしまう、振り幅の大きい構成力を会得したこと。
ザック・ライルズとリーダーのアレックス・ジョン・ホールの主にギター二人が絶妙なユニゾンぶりで主音の弦楽器を掻き鳴らしまくり、主にベースのウィリアム・スレーターが負けじとぶりぶりうねりまくり、もう片方のリーダーである主にドラムのエミール・エイモスが皮をびんびんに張った太鼓をばっこんばっこん叩きまくる。
それで聴き手のアドレナリンがぐんぐん上がる。件のテンションを高めてくる曲と、比較的穏やかな曲をほぼ交互に配すやり口もそれを助長してくれる。
また、本作から中近東の音階をさり気なく用い、民俗音楽っぽい雰囲気を醸し出してきた。それによりエイモスのドラムも、よりパーカッシヴなプレイにシフトしている。

つまり野性味が増した、と。
音世界をより激しい方向性にシフトして一皮剥けた、実は珍しいタイプのバンド。

M-01 Soft Temple
M-02 More Extinction
M-03 Silk Rd
M-04 Drawn Curtains
M-05 Outer Banks
M-06 Dead Vine Blues
M-07 Origin-ing
M-08 Burning Off Impurities

実は日本盤も出ている。


2015年7月2日木曜日

TUSSLE 「Kling Klang」


サンフランシスコの個性派四人組、2004年発表のデビュー作。
レーベルは、USがGROWINGBLACK DICEから、ISISEARTHHARVEY MILKまで居た、ニュージャージーのTroubleman Unlimited。
EUが地元の英雄:JAGA JAZZIST周りから、ネナ・チェリービョルン・トシュケにせんねんもんだいまでひしめく、ノルウェイはオスロのSmalltown Supersound
日本でのP-Vineが真っ当に見える不思議。(いやココも十分妖しいんだけど)

何が〝個性的〟なのかと言えば、そのバンド編成。
まずはベースありき。音像のど真ん中にふてぶてしく居座り、指弾きの太くてねちっこいベースラインでファンキーに存在感をアピールする。何とコレが主音。
次にドラムだが……何と二人居る。シンプルでノリやすい四つ打ちちっくなミニマルビートでボトムを固める一方、装飾音色をも担っている。しかも双方のキャラ付けも出来ており、片方はクラベスやカウベルのような〝楽器〟。もう片方はビン・バケツ・自転車のホイールのような〝楽器じゃない何か〟。しかもその両者がシンクロして叩くのではなく、キック・スネア・ハイハットというビート根幹パーツをあえて各々で割り振り、後は件の装飾音色をお互いの感覚任せで乗せていくユニークなスタイルを執っている。
最後の一人はギターやキーボードのような和音楽器でしょう! と思いきや、何とサンプラー。曲の飾りにしかなり得ない電子音っぽいワンショットやループ、ドラム二人が叩き出したビートや装飾音を、エフェクターでエコー処理して耳のあちこちへと忙しなく飛ばす、ダビーな音遊びを担当。よって、バンドの最終ラインを統括しているのはココ。
メロディ? ああ、もしかしてそれ、俺の担当かなあ……と、首を傾げながらベースが手を挙げるくらい普遍的な要素排除。
言うまでもなく、もう一つの普遍的な要素・ヴォーカルもなし。声はサンプラーに取り込んだワンショットくらい。純然たるインスト。

これだと何だか小難しそうな音出してそうだな、と思われるかも知れない。だが実際聴くと、そうでもない。むしろ取っ付きやすく思える。
ミニマルなビートと、運指が良く動くベースライン。そこへエフェクター掛かった各種装飾音がサイケちっくに音像全域で瞬く――ディスコちっくで、ドイツ産サイケ音楽〝クラウトロック〟ちっくで、ダビーである、がゆえにポストパンクちっくでもある――彼らの一種独特な折衷音楽を自然と楽しんでいる聴き手がそこに居るはずだ。
それもこれも、無駄を一切省いて各要素の重要部分だけを抽出し、彩り豊かな曲に仕立てられる卓越したセンスが織りなす業だろう。

なお、本作の録音技師はM-03、07、09がNeurot Recordings周りで暗躍するサンフランシスコのデズモンド・シェイ。M-01、02、04、05、08、11はかのへんてこハードロッキンテクノバンド・TRANS AMのギターとか弾いている人:フィル・マンリー。
なるほどねい!

M-01 Here It Comes
M-02 Nightfood
M-03 Eye Contact
M-04 Ghost Barber
M-05 Comma
M-06 Disco D'Oro
M-07 Decompression
M-08 Moon Tempo
M-09 Blue Beat
M-10 Fire Is Heat
M-11 Tight Jeans

日本盤は未発表音源の:
M-12 Sometimes Y
M-13 Untitled
:を追加収録。

EU盤はM08~10がなく、M-11が08になり、以下:
M-09 Eye Contact (Version)
M-10 Here It Comes (White Label Mix)
M-11 Windmill
M-12 Windmill (Soft Pink Truth Disco Hijack)
M-13 Don't Stop (Stuart Argabright Remix)
:と、EPのc/wを集めた仕様となっている。ジャケも差し替え。
ご購入はお好みに合わせて。


2015年5月4日月曜日

GRAILS 「Black Tar Prophecies Vol's 4,5&6」


アレックス・ジョン・ホール(本作は主にシンセ)と、かのカリフォルニアのスピリチュアルデュオ・OMの二代目ドラマー:エミール・エイモス(主にドラム)が二人で統べる、オレゴン州はポートランド出身の四人組インストバンド、2013年発表の編集盤。
レーベルは、美味しい音を目ざとく掻い摘むインディーの配給王:Temporary Residence Limited、レペゼンブルックリン。

編集盤なのでまずは資料的なことから。
タイトル通り、本作は「Black Tar Prophecies」シリーズを総浚いしたモノ。なお「1,2&3」は2006年にImportant Recordsより発表されている。
曲の内訳だが、件のImportantからのシリーズ4弾目で単独EP(2010年作)がM-01、02、05、08、09。Kemado Recordsからの5弾目でフィンランドのPHARAOH OVERLORDとのスプリットLP(2012年作)がM-04、06、07、11。6弾目に当たる残りのM-03、10、12は未発表曲だ。

のっけからもわ~っと煙が立ち込めるダビーなイントロ。何だか妖/怪しさ満点。
曲調をざっくり説明すると、70年代の空気漂うサイケデリックな音世界。ただし、サイケだからと安易にフィードバックギターへ逃げず、古めかしい音色を有機的なフレーズで多彩な切り口からあちらこちらで鳴らすことにより、独特のレトロでトリッピーな空気感を醸し出す、一筋縄ではいかない創りだ。それはホールとエイモスがプロデューサーとミキサーを兼ね、双方の担当楽器にサンプラーを記す点にも表れている。
――と書くと本作はせせこましくて作り物臭いのだろうな、と思われるかも知れないが、それは断じて否。
音色の多さで聴き手がうるさく感じないよう、バンドなのだからそこに器楽的なアンサンブルが感じられるよう、数々の生音から精製した副音をダブの要領で頻繁に抜き差しし、かつ生々しい音質でテクスチャすることにより、その難事を巧く解決している。もわ~っとしたダビーな空間処理によるフィルターの魔法がそれを可能としたのは今更論を俟たない。

ただ彼らの持ち味の一つである、じわじわとテンションを高め、大団円までトランスする曲単位でのドラマチックさが減退しているような気がしなくもない。
そこはほら、アルバムの方向性よ。アルバム一枚を通して音だけで映画のような情景を描き出す――前作で演ってる、その流れ。
比較的短めの曲を並べてゆったりと満ち引きを繰り返す中、あまりに切ないピアノのフレーズを柱に、アコギやエレギやハープシコードやメロトロンやフルートやハミングを上記の手法で継ぎ足し、空間を把握して折り重ね、聴き手の涙腺を崩壊させる、たった三分弱のM-09で本作は最大のクライマックスを迎える。
ほら、貴方の脳内で、愛し合う男と女の望まれぬ別離シーンに被さる、幸せだった頃のモノローグが走馬灯のように――
……あれ? 本作って編集盤じゃなかった?
いや、むしろこうして既出の音源のプレイ順番をバラしても、一枚のアルバムというドラマが再構築出来てしまう点が、バンドの強固なコンセプトの裏返しと言えまいか。

まずはコレ。彼らの音の深淵が十二分に垣間見られる一枚の重厚な物語。

M-01 I Want A New Drug
M-02 Self-Hypnosis
M-03 Invitation To Ruin
M-04 Wake Up Drill II
M-05 Up All Night
M-06 Pale Purple Blues
M-07 Chariots
M-08 New Drug II
M-09 A Mansion Has Many Rooms
M-10 Corridors Of Power III
M-11 Ice Station Zebra
M-12 Penalty Box


2014年9月30日火曜日

31 KNOTS 「Worried Well」


オレゴン州ポートランドの変わり種スリーピース、2008年作の七枚目。
レーベルは引き続きPolyvinyl Record

このバンドにはドラムを兼任する録音技師:ジェイ・ペリッチが居る。その兄弟のイアンが今回も手を貸している。ミックスに至ってはそのイアンの単独作業とクレジットされている。
なのにとうとう、バンドの司令塔:ジョー・ヘージがエンジニアとしても首を突っ込むようになってしまった。
ああ、これがコントロールフリークか……。

だが音世界はさほど変わりなし。相変わらず色とりどりのキモ可愛い顔が練り込まれた十二本(日本製は更に二本増量!)の金太郎飴。
他メンバーへの締め付けもなし。フィンガーピッキングの手練れベーシスト:ジェイ・ワインブレナーは今回も生き生きとフレットを上から下まで動かしまくる。心なしかペリッチのドラムにも勢いを感じる。
どうやらこのヘージ、自分以外のパートは誰が好きに演ろうと気にしないタイプのようだ。

それよりも前作から垣間見せていたのだが、核である彼に変化が表れ始めた。
ギターを演奏して曲を組み立てることに頓着しなくなった。
今回ギターを軸に用いた曲は、手拍子付きのアカペラ風イントロから雪崩れ込むM-02。調子外れな歌とワインブレナーの肩肘張ったベースフレーズへ執拗に絡むM-07。音割れも辞さず爆発的な加減速を繰り広げた果てに……のM-08。ハモンド風シンセを巧く用いてドラマチックに仕立てたM-10と、ギターの単音爪弾きからサビでの掻き鳴らしでエモさを演出するボートラのM-13くらいなもの。あとは味付け程度か、ピアノを立ててギターレスの曲も多い。サンプリング音やループの含有率もいつも以上だ。
あくまで憶測だが、ヘージがピアノを弾いている時、ベースが鳴っていない代わりにギター音が聴こえる曲もあるので、ギターも弾けるワインブレナーに委ねてるケースもありそう。ピンポイントでギターの音色を欲しがってる曲もあるので、あらかじめサンプラーにギターフレーズを突っ込んでおいて場面場面でワンショットやループする手法も取りそう。
彼の本質はギタリストでもシンガーでもなくコンポーザーなのだから(リズム隊には好きに演らせて、音世界のキモを握る)自分があれこれ演れる体勢を取るのも理に適っている。
そもそもこの程度の変化で、盤石のヘンテコ31 KNOTSサウンドは揺らぎもしないのだから、ますますもって正しい。

そんな彼のギター離れ、コンポーザー視点強化が、エンジニアとして直接音を弄りたくなった理由に繋がるのかも知れない。
己の脳内音を具現化したいのなら、自分である程度何でも出来るようになるべきなのか。

M-01 Baby Of Riots
M-02 Certificate
M-03 The Breaks
M-04 Something Up There This Way Comes
M-05 Take Away The Landscape
M-06 Strange Kicks
M-07 Opaque / All White
M-08 Worried But Not Well
M-09 Compass Commands
M-10 Statistics And The Heart Of Man
M-11 Upping The Mandate
M-12 Between 1 & 2
M-13 Turncoat (Bonus Track For Japan)
M-14 Who Goes There? (Bonus Track For Japan)


2014年8月8日金曜日

BEAK> 「Beak>」


PORTISHEADのジェフ・バーロウが満を持して発動させた3ピースのデビュー盤。コレから一年(半)後の2009年発表。
レーベルはもちろんバーロウのトコ。また、米盤はパットン将軍のトコでお世話になっている。嫌な繋がりだなあ(ニヤニヤ)。

他のメンバーはGONGAやCRIPPLED BLACK PHOENIXなどに顔を出していたキーボード奏者:マット・ウィリアムス、FUZZ AGAINST JUNKのベーシスト:ビリー・フラー。どちらもInvadaで厄介になっていた面々だ。
なお、バーロウはドラムを担当しているらしい。いずれもクレジットはないが、ともかく各々のメイン楽器はこんな感じらしい。
そんな彼らが鳴らす音は、ブリストルらしいダビーで薄暗いトリップ音楽。しかも上記の通り、バンドサウンド。
一口にトリップ音楽と言ってもいろいろあるが、軸は反復反復アンド反復のクラウトロック。単音でねちっこくまとわり付くベースラインが如何にも酢漬けキャベツ。そこへたまにパターンを崩すが(モタっているという説がある)一切難しいことをしないシンプルなドラムが這い、カビが生えたような音色のハモンドオルガンが乗る。コレが基本路線。
おおむねインストだが、M-02、03、10、11のようにぼそぼそっと歌う曲もある。誰によるものかさだかではないが。
ただ、この路線を貫徹する訳ではなく、M-03、M-11のようなOMばりにベースにファズをかけたギターレスなゴリゴリスラッジ曲を演ってみたりもする。M-05のようなギターサイケデリア舞い散るシューゲイザーっぽいこともする。M-07みたいに即興風味の効いたサイケ曲も演る。M-09のようにガピーガピーうるさいハーシュノイズ曲もある。最後を飾るM-12など人力ミニマル曲だ。ちなみに、たぶんフラーがウッドベースを弾く曲もある。
節操がない、と言うのは簡単だが、どれも聴き手や演り手が音を媒介して陶酔するためにプレイする類の音楽に終始しているので、語弊はあるが統一感がある。

と言うかこんなダビーな音像で、それほど演奏技術を追い求めず、不気味でエッジの立ったバンド、あったなあ……。
そうそう、THE POP GROUP!! ブリストル出身の!

M-01 Backwell
M-02 Pill
M-03 Ham Green
M-04 I Know
M-05 Battery Point
M-06 Iron Action
M-07 Ears Have Ears
M-08 Blagdon Lake
M-09 Barrow Gurney
M-10 The Cornubia
M-11 Dundry Hill
M-12 Flax Bourton


2014年7月14日月曜日

JOE VOLK 「Derwent Waters Saint」


ストーナーロックバンドのGONGAや、ジャスティン・グリーヴス率いるCRIPPLED BLACK PHOENIXなど幅広いバンド活動を展開していた(現在無所属)、英国はブリストルのシンガーソングライター(SSW)、2006年の初ソロ。
レーベルはPORTISHEADの首魁:ジェフ・バーロウ主宰のInvada Records。その相棒のエイドリアン・アトリーがプロデュースを手掛け、彼の自宅でレコーディングからミキシングまで執り行われた。

音世界は大方の予想通り、フォークソング。得意のアコギを抱えて、ぼそぼそっと歌う。どことなく儚げで、何となく物悲しくて、ちょっぴり優しい彼の歌唱だが、バッキング如何では無残に当たり負けしてしまうタイプなので曲調は選ぶものの、ハマればじわじわと聴き手の寂寥感を掻き立てる麻薬と化す。
もちろん彼のみの弾き語り曲もあるが、その他は軒並みアトリーが様々な楽器で彩を加えている。またゲストもちょぼちょぼ呼んでおり、お馴染みPORTISHEADのサポート鍵盤弾き:ジョン・バゴット(M-02)に、ブリストルの女性SSW:ラーシャ・シャヒーンがベースで(M-01、08)、GONGAのドラマー:トム・エルギーがハーモニカで(M-09)、脇を盛り立てる。

そんな当アルバムは基本、彼のこの煮え切らない声質を立てた哀歌なのだが、このブログ的なキモはそこではない。
皆さんは〝バイノーラル録音〟をご存知か。
要は臨場感と生々しさに特化した録音方法なのだが、本作はどうやらコレで録られている様子。ヘッドフォンをご用意いただきたい。
目を閉じればそれはもう、ヴォルクが貴方のすぐ傍で弾き語っているような気にさえさせられる。むしろヴォーカルに至っては、直接耳元で囁いているかのような近さだ。
無論、ピックがフレームに当たる音、左指がフレットを滑る音どころか、さーっと鳴り続けるヒスノイズまで余さず拾っている。
これはプロデューサーのアトリーによる妙策と、筆者は判断する。地味でか弱い部分がヴォルクの長所でもあるのだが、あえて聴き手の目の前にでんと置いて全面フィーチャーすることでその長所が脳裏に焼き付くぐらい鮮明になる(親近感すら湧くかも知れない)。その上、このしつこくない特性なら鬱陶しく感じようがない。

最後に重要なことを。
こんな地味ーィな彼が様々な有力クリエイターにフックアップされて、こうしてソロアルバムが切れるのも、この作品に集められたような良質な楽曲が書ける――裏付けのある能力を有すがゆえ。
僥倖なんてこの音楽界にはないのだよ。

M-01 You, Running
M-02 The Sun Also Rises
M-03 Dwarf Minus
M-04 Thaumaturgist
M-05 Lanfranchis
M-06 Toecutter (Our Lady)
M-07 Farne
M-08 Watching The Crest
M-09 Whole Pig, No Head
M-10 This Vehicle Is Moving
M-11 The Weir


2014年5月20日火曜日

31 KNOTS 「The Days And Nights Of Everything Anywhere」


オレゴン州はポートランドのヘンテコスリーピース、2007年作の六枚目。
引き続きレーベルはイリノイ州のPolyvinyl Records

今回は前作よりも多くのゲストを迎えている――と言っても仲間内だが。
バンドの支柱:ジョー・ヘージの別バンド:TU FAWNINGのトゥーサン・ペロー(M-01、03で金管楽器系)と、前作に引き続き参加のコリーナ・レップ(M-03、06、11でコーラス)。本作でもドラム兼任録音技師として兄弟のイアンと共に卓へ向かうジェイ・ペリッチが手掛けたDEERHOOFのドラム:グレッグ・ソーニア(M-06でギターと、本作の共同ミキサー)など。
それによる変化は……特になし。
まあ金管楽器導入は新機軸っぽいが既に演っているし、ヘージが忙しなく操るサンプリングを生演奏にしただけという見方もあるので、本当に特になし。平常運転。
ゲストを呼んだ程度で音楽性が移ろってもらっても困るが、少しは新風を吹き込んで伸びしろを見せていただかないと、なんて意見もありうる。
ここで考えてみて欲しい。存在自体が特異な音楽性をしているのに、毎回毎回あっと驚く新機軸を考える必要があるのだろうか。
いや、全く、一切、これっぽっちもない。

相変わらず曲展開やアルバム構成はごろごろ変わる。奇妙なサンプリングセンスを山車に不条理な夢を具現化したような、地に足が付けないM-02。フィンガーピッキングのベーシスト:ジェイ・ワインブレナーの妙技が存分に味わえる、ラウドなM-04。タメの使い方がクセになるM-05。一つの曲として聴いて欲しい、ギターの掻き鳴らしから明け、三者三様の火花散るバトルに発展するM-08~09。アルバムの終わりに向けて、ピアノを用いてしんみりさせにくるM-10。大聖堂で録音したかのようなラストのM-11――
この通り、剥離しそうな多岐に亘る音楽性を存在感だけで癒着しているバンドへ、他に何を試せと仰るのか。
逆に彼らにとって作品の統一感や方向性など、件の〝存在感〟とやらを全作曲の舵を取ることで背負っているヘージが有する奇天烈なセンス任せだと分かる。
ココでも書いたが、感性の勝った出来人と我々凡人では同じ景色でも映り方が違うのだ。

このある意味堂々たる風格は、もっと評価されるべきかと思う。
彼らは彼らなりに王道、金太郎飴なのだ。

M-01 Beauty
M-02 Sanctify
M-03 Savage Boutique
M-04 Man Become Me
M-05 The Salted Tongue
M-06 Hit List Shakes (The Inconvenience Of You)
M-07 Everything In Letters
M-08 The Days And Nights Of Lust And Presumption
M-09 Imitation Flesh
M-10 Pulse Of Decimal
M-11 Walk With Caution
M-12 Innocent Armour (Bonus Track For Japan)
M-13 Wrong And Why It's Not Right (Bonus Track For Japan)
M-14 The Beast (Bonus Track For Japan)

日本盤は本作でしか聴けないボートラを三曲追加し、アートワークも差し替え。
アウトテイクっぽい地味な曲だけど、捨て曲ではないのでお得。


2014年5月14日水曜日

SKERIK 「Left For Dead In Seattle」


泣く子もにやつくシアトルのサックス吹き、2006年発表のソロ作。

よく映画で〝構想十年!〟やら〝制作期間十年!〟やら大仰なタタキ文を目にするが、要はその企画が配給会社に売れなかっただけ。つまり、年数掛けた意味などない。
一方、音楽アルバムの本作は、1993年から2003年までに録り溜めていた音源を蔵出しした作品でしかない。日本盤以外は自主制作盤なのもやむを得ない。

さて、あえて上記のデータを踏まえずに聴いていただきたい。

ゲストは多彩。
相方のマイク・ディロンはちょろっと(M-02でパーカッション)だけ参加。他に筆者の知っている名前では、SUNN O)))やEARTHを手掛けたシアトルの録音技師:ランドール・ダン。同じくシアトル系録音技師のメル・デトマー。本作のアートワークも手掛けるマウリース・コールドウェルJr。別プロジェクト:CRACK SABBATHの仲間(伝説のスラッシュコアバンド:THE ACCUSEDの再結成メンバー含む)。同じく別プロジェクトのSYNCOPATED TAINT SEPTETの仲間。平然と、CRITTERS BUGGINのマット・チェンバレン。シアトルの裏スーパーバンド:MAD SEASONのジョン・ベイカー・ソーンダースあたり。
共通項は〝シアトル周り〟なだけで非常に節操のない面子だが、内容もかなりアレ。
M-02など真っ当なくらいスケリックっぽい多重録音のサックスが大活躍するジャズファンクなのだが、後はもう滅茶苦茶。
ヴォコーダーが大活躍する似非ソウルのM-03。ナメくさったヴォーカルが妙にイラつくヘンテコファンクのM-04。10分にも亘るポエトリーディング風ヒップホップ曲M-05。ヴァイオリンとスケリック自身が叩くヴィブラフォンを立てたポストロック風のM-06。声楽を茶化したM-07。前半でヒップホップの、後半でハードロックのだっさいところをわざと凝縮させたサンタクロース礼賛曲M-09と10――

……まあ、まとまりがなさ過ぎてしょーもない作品なのは確か。だがお茶目なスケリックのキャラも相俟って、その散漫さも許せてしまうはず。
そうなれば蔵出し編集盤っぽい臭いも感じられないはずだし、そもそもアウトテイクにしては趣深い曲ばかり揃えており、聴き手の覚えもよろしいはず。
なら如何にもスケさんのソロアルバムっぽいよな、と御納得いただけるはず。

あんまり深く考え込まない方が良い。それほど深いコト考えてなさそうだから。

M-01 Black Bong
M-02 BMF
M-03 Colon Pile
M-04 Touch Of Tenderness
M-05 Invisible Bowl
M-06 Et Tu Koko
M-07 Nightmare Before Circus
M-08 Psycho Circus
M-09~10 Must Be Santa
M-11 BMF Reprise
M-12 The Nappy Triangle


2014年4月12日土曜日

GARAGE A TROIS 「Outre Mer」


ドラムのスタントン・ムーアのソロから端を発した、よくよく考えればスーパーバンドの二枚目。2005年作。

引き続き、例の似非モノラル録音。
左耳から固定で、チャーリー・ハンターが爪弾くギター。主に右耳から、鉄琴好きパーカッション叩きのマイク・ディロンと、場合によっては定位置の真ん中から割り入って来るスケリックのサックス。で、ド真ん中にはムーアのドラム……と、ベース音っ!?
メンバーは四名。ゲストはゼロ。だが、同時に鳴っている音は五つ。オーヴァーダブはあるが、サックスを被せたのみ。打ち込みはなし。
どォゆうコト!?
実はハンターのパートは〝八弦ギター〟。ギター五弦とベース三弦が同フレットにまとまった特注ギターを、フィンガーピッキングで同時に弾いてしまう謎テクジャズギタリストなのでした。(頭こんがらがらないのかしら)
念のために要らんコト書くと、ベースラインはそこまで複雑ではない。

音世界は予想通り、Pre-GARAGE A TROISに鉄琴かパーカッションが加わった感じ。ジャズのような、ファンクのような、ロックのような、インストのアレ。
ただ、バンドなので、あの時のようにムーアのドラムありきではない。彼もある程度抑えて、あの特徴的なバカテクビートを叩き出している。
一方、スケさんとディロンのコンビは相変わらずのアクの強さ。金管楽器は鳴れば一瞬で主役を取れる、その傲慢さを十二分に生かして幅を利かす。ディロンはディロンでお得意の二楽器を横に並べて併用し、副音の分際でぐいぐい迫る。たまにハンターの領域である左耳まで音が出張する。
で、ハンターはギターさえ鳴らせればご機嫌な、典型的バイプレイヤータイプの奏者なのだが(ソロプレイヤーに向かってなんてコトを言うのか)、思ったより自己アピールが出来ている。つまり曲を左右するくらい印象的なフレーズが弾けている。M-05のトロピカルな雰囲気は彼のギターがなければ出せなかったはず。スケさんがミュートしている時、主音は彼が担っていると言って良い(ディロン、お前じゃないからな!)。

以上が生々しく、輪郭のはっきりした、非常に良好な音像で鳴っているので、聴き心地はとても爽やか。彼らにとって定番かつ安定の音創りなれど、きっちり四者四様の音がせめぎ合うスリリングさも持ち合わせている。
そんな本作、同タイトルのフランス製未発表映画のサントラだそうな。

M-01 Outre Mer
M-02 Bear No Hair
M-03 The Machine
M-04 Etienne
M-05 Merpati
M-06 The Dream
M-07 Antoine
M-08 Circus
M-09 Needles
M-10 The Dwarf
M-11 Amanjiwo


2014年4月8日火曜日

FOG 「Ditherer」


アンドリュー・ブロダー率いるバンドの2007年・四枚目は、Warp派生のLex Recordsより。

ジャケをご覧の通り、〝アメリカ〟はミシガン州ミネアポリスの〝ロックバンド〟だ。
――わざわざこう曰くありげに記したのも訳がある。
からっと明るくもなく、湿り気を帯びてはいるがエモくもない、時折ニューウェーヴっぽさを垣間見せる、この煮え切らない曲調からしてUK出身かと思っていた(稀にカントリー風のフレーズを織り交ぜるので、そこでアメちゃんっぽいな、と察することは出来る)なんて大よそどうでも良い。
問題はこのFOGなるユニット、元々はNinja Tuneでターンテーブルを軸に多彩な楽器を用いた生演奏とサンプリング素材を縒り合わせる〝バトルDJ系〟と言えなくもない、ブロダーのソロユニットだったはず。
今や二人のメンバーを加え、クラブよりもライヴハウスの方が似合う、立派なロックバンドとなりましたとさ。

どうしてこうなった。
いやいや、ユニット名を引き続いている以上、どっかのプロ野球チームの一部選手みたいに経験値をアルバム毎にリセットしなければ良い訳で。
そこら辺がきちっとDeN――いや、DNAとして残っている点に注目して欲しい。

例えばサンプリングやループを生演奏に絡ませる手法。生に拘る性病も恐れない輩でもない限り、みんなが演っている。〝曲にアクセントを付けよう〟やら、〝こうした方が感覚的にかっけーから〟やら。
だが彼らは、そんなロック畑では見られない音色使いを施す。
まずのっけ(M-01)からギターのフィードバックではなく、パルス音から鳴り始める。その後、メンバーでジャーン! と合わせるのに。
極め付けはM-06。一聴、ダルでメロウなフツーのロック曲。ただ、中盤で平然とグリッチっぽいノイズ音色を織り交ぜてくるのだ。しかもそれは右へ左へ散らばったり、音を変えて右から時間を掛けて左へとじわじわ移動したりする。
またM-09では、強い風でアンテナが軋んでいるような生々しい音をさり気なく挿んでいる。ムジーク・コンクレートという奴だ。
このように聴き手さえ気付けば上手く引っ掛かって楽しめる、地味で奇矯で不必要と言えば不必要な装飾音を遊び心で入れてくる余裕が、ロックバンドにはあまりない。せっかくだからと副音で機能させてしまいがちだ。
そこに音の快楽があるというのに。

クラブ系上がりのロックバンドが打ち込みの奥深さを教えてくれる、趣深いアルバム。
無論、ギターロックとしても高品質。切れ味鋭いカッティングからアコースティックな爪弾き、エフェクターで歪ませまくったへヴィリフまで、ロックの代名詞たる弦楽器の魅力がふんだんに詰まっている。
ただ、基本は生演奏なんだしさあ、どの曲で誰が何をプレイしているかくらいクレジットしてよ。頼むよ。ブロダーはマルチプレイヤーなんだから、残り二人のメンバーがお飾りに見えて不憫なんだよ。

M-01 We Will Have Vanished
M-02 Inflatable Ape
M-03 I Have Been Wronged
M-04 Hallelujah Daddy
M-05 What Gives?
M-06 You Did What You Thought
M-07 The Last I Knew Of You
M-08 Ditherer
M-09 Your Beef Is Mine
M-10 On The Gallows
M-11 What's Up Freaks?


2014年3月30日日曜日

THE KINGSBURY MANX 「Let You Down」


ノースカロライナ州出身の四人組、2001年作の二枚目。
シカゴインディーの雄:Thrill Jockey Recordsの分家であるOvercoat Recordingsから。

音世界はフォークやカントリーの触感を残す、落ち着いた歌モノロック。
とは言え、ヴォーカルは決して怒鳴らず、ゆったりと憂いのある声を五線に添えて行く。ギターもディストーションを掛けてストロークでギャーン!! と掻き毟るはずもなく、アルペジオ中心の優しい調べを奏でて行く。
この通り、ロックの躍動感や破壊衝動など見込めるはずもなく、アルバムは穏やかに、幾分か枯れた空気を伴いつつ、淡々と進行して行く。
ならば、落ち着いた大人の雰囲気漂う作風なのかと問われれば、どちらかと言うと大人よりも青年向けかな? と答えよう。すっかりリクルートスーツも板に付いた入社数年目の青年が、楽しかった幼少期や学生時代を思い出しているような音楽、と評して理解していただけるだろうか。

ここであえて誤解を恐れずに書くが、彼らやこの作品に、際立った特徴はない。
聴いて感動に打ち震える訳でも、粒揃いの名曲が絶妙な配置で収録されている訳でも、先進的な技術がふんだんに使われている訳でもない。
一回聴いただけではこのアルバムの真価は窺い知れないのかも知れない。
地味、地味、アンド地味。
だがその分、聴き手の邪魔は一切しない。そっと鼓膜をくすぐって、煙のように脳内へと消えて行く。
だからこそ、エゴは必要ないのだ。

さあ耳休めに、とりあえず聴いてみよう。
何回か聴いて『あ、このアルバム、好きかも』と、ふと気付いてくださる方をこのように伝聞でも増やしていかねば、ファン層の拡大が見込めない。
まずは『人付き合いはとかくしんどい。独りで居る方が気が楽』と日々痛感している、ぷちコミュ症のキミ。浸れる音、ありますよ。

M-01 Let You Down
M-02 Porchlight
M-03 Simplify
M-04 Et Tu, Kitte ?
M-05 Rustic Chairs
M-06 Sleeping On The Ground
M-07 Patterns Shape The Mile
M-08 Courtyard Waltz
M-09 Arun
M-10 The New Evil
M-11 Baby You're A Dead Man
M-12 Do What You're Told
M-13 Dirt And Grime (Bonus Track For Japan)
M-14 Shaky Hand (Bonus Track For Japan)
M-15 Down With Circumstance (Bonus Track For Japan)
M-16 Passed Over (Bonus Track For Japan)


2014年3月14日金曜日

31 KNOTS 「Talk Like Blood」


オレゴン州・ポートランドの名状し難きスリーピース、2005年作の五枚目。イリノイ州のヘンテコインディー、Polyvinyl Recordsより。

音楽的土壌はエモかオルタナか?
ただ、様々なジャンルの音楽を内包しているが、ミクスチャー臭が一切しない。とにかく先を読ませない異様な曲展開とアルバム構成なのに、違和感や破綻がまるでない。小難しいのかと言うと、奇妙なポップセンスを持ち合わせ、どこか憎めない。お茶目なバンドショットが多いので全編おちゃらけてるのかと思いきや、そのような照れはなく、M-09からM-11にかけての哀愁漂う泣きメロ展開も能くする。
独自性を見出しづらい昨今の音楽シーンで、相似系バンドが即座に思いつかない稀有なバンドだ。FUGAZI meets MODEST MOUSEとか評す声もあるが、あまり的を射てないような気がする。
そんな超個性のバンドを主導するのは、曲の根幹を司り、ギターを掻き鳴らし、たまにピアノを弾き、怒鳴ったりめそめそしたりしながら歌い、奇矯なセンスで組んだローファイループを付け加え、PVでは進んで道化を演じる、ジョー・ヘージだ。彼はいくつもサイドプロジェクトを持っていて、いづれもヘンテコ面白い。実は相当凄い人ではなかろうか。パッと見、存在自体がネタっぽい、アレと紙一重な感じなんだけどね。

で、残りの二人がヘージのバックバンドなのかと問われれば、『俺たちは機械じゃねぇ!!』と本人たちに怒られること請け合い。
長身いけめんのベーシスト:ジェイ・ワインブレナーは忙しなくフレットを上下させ、フィンガーピッキングでぐいぐい曲をうねらせていく。とにかくベースを襷掛けに下げている(たまにギターを弾く)時はひたすら幅を利かせる。『奴(ヘージ)の好きにはさせねえ』とグルーヴィーかつへヴィーに、時にはダンサブルに低音域を牛耳る。ベース弾きはこの人の音を追うだけで十分楽しめそうだ。
一方、前作から中途加入の小柄なドラマー:ジェイ・ペリッチ(愛猫家)は裏打ち/ブラスト自在の器用さと正確さを併せ持つ腕っこきだが、本職はOMDEERHOOFなどを手掛けた音楽エンジニア。無論本作でも(兄弟のイアンと共に)辣腕を揮っていて、彼特有のもこもこしているが各音を把握しやすい、謎の良好な録音状態は健在だ。

奇天烈なバンドなのは確かだが、聴き手を投げっ放しや置いてけぼりや追い払いはしない。曲調も闇雲に複雑化せず、きちんとガイド線を引く親切設計。
きっと良い人たちなんだろうなー、と思う。

M-01 City Of Dust
M-02 Hearsay
M-03 Thousand Wars
M-04 Intuition Imperfected
M-05 Chain Reaction
M-06 Towering Steps
M-07 A Void Employs A Kiss
M-08 Proxy And Dominion
M-09 Talk Like Blood
M-10 Busy Is Bold
M-11 Impromptu Disproving
M-12 White Hot (Bonus Track For Japan)
M-13 Endless Days (Bonus Track For Japan)

海外盤と日本盤は(ボートラ二曲、2004年来日ライヴ映像二曲の有無と)アートワークが異なる。上のジャケ写は日本盤のもの。
さめざめと本編を終えてから、M-12でやや上がり、M-13で再びしっとりと閉じる、ボートラを加えた締め方も乙なので、買うなら是非日本盤を。


2014年3月8日土曜日

BATTLES 「Gloss Drop」


2011年作の二枚目。
ジャケデザインは(主に)ベース担当のデイヴ・コノプカ。

周知の通り、キャッチーな声ネタやリアルタイムサンプリングなど、バンドの根幹に値するメソッドを齎してバンドを去ったタイヨンダイ・ブラクストン――この大きな穴を、残された三人がどう埋めるかが焦点になるはずだ、聴き手にとって。
結論から断言させてもらえば、彼らはその穴を埋めなかった。
リアルタイムサンプリングはもう、彼らの血肉と化している。声ネタに関しては外から呼んだ方が、人声という至高の音色の幅が広くなる。
こうして連れて来られたのが、チリ出身だがドイツで名を馳せたクラブDJマティアス・アグアーヨ(M-02。ラテン語で歌ってマス)。まだバリバリ現役! シンセポップ英国紳士:ゲイリー・ニューマン(M-06)。イタリアンの双子男子を統べる日本のロリ声お姉さん:カズ・マキノ(M-08。BLONDE REDHEAD)。行動力と企画力だけは一流のスピリチュアルおじさん:ヤマンタカ・アイ(M-12。BOREDOMS)。
実力のある彼らだからこそ誘えた超豪華メンバーだが、明らかに多種多様な音色を求めた結果であることが容易に見て取れる。
ゆえにブラクストンの急な脱退の余波は大してなかったものと思われる、創り手としては。

ただ、聴き手たる我々からすれば、大きな問題がまだ残っている。
前作からブラクストンのソロを削ったものが本作だとするのなら、何となくあの人懐っこい音色使いが欠けているような気にさせられる点だ。
だがそれがマイナスになったとはちっとも思わない。
おそらく今回、メインの上モノ音色はイアン・ウィリアムスの担当かと思われるが、前作でも裏で暗躍していた彼のねちっこい音色センスは後を引くので、表に立とうがまるで問題ない。今までとは別の切り口で解決済みでさえある。
本作を地味、と評価する輩はブラクストンの即効性が恋しいだけだろう、と筆者は一蹴。

看板を失ったからと言って、その店の質が落ちるとも限らない。
コノプカのドライヴ感溢れるベースループを激しくハイプレッシングするジョン・スタニアーのド迫力ビートに乗っかって、ニューマンが朗々と歌う(横でウィリアムスが小賢しい茶々を入れる)M-06のような、衒いはあるけどストレートな曲が平然と切れるようになったのも、彼らが更に好きに演れるようになった証かと。
ただし、次作はかなり難儀するのではなかろうか。何せ、革新性で売ってきたバンドは常に大逃げを打たねば、世論や評価に潰される傾向がある。

もしや『本作を地味』と評価した者は、彼らの中で思ったより本作が〝逃げを打っていない〟コトを危惧しているのやも知れない。

M-01 Africastle
M-02 Ice Cream (feat. Matias Aguayo)
M-03 Futura
M-04 Inchworm
M-05 Wall Street
M-06 My Machines (feat. Gary Numan)
M-07 Dominican Fade
M-08 Sweetie & Shag (feat. Kazu Makino)
M-09 Toddler
M-10 Rolls Bayce
M-11 White Electric
M-12 Sundome (feat. Yamantaka Eye)
M-13 Sundome (Instrumental) (Bonus Track for Japan)

日本盤のみボートラM-13は、ぶっちゃけアイの声ネタを抜いただけのカラオケなのだが、特に必要なかったのが良く分かる代物。
……え? 何が〝必要なかった〟って? 言わせないで下さいよー。(ニッコリ


2014年2月26日水曜日

BATTLES 「Mirrored」


スーパーマスロックバンド、満を持してのデビューフルアルバム。2007年作。

パワー、タイム感、グルーヴ感の三拍子揃った、クラッシュシンバルの異様な高さも魅力なシーン屈指の凄腕ドラマー:ジョン・スタニアー。
経歴からすると四番目のメンバー扱いになってしまうが、ここぞという場面でごりっとしたベース音を聴かせ、存在感を誇示するデイヴ・コノプカ。
遊びさながらに様々なへんてこ音色を無責任に五線へと置いていく、お茶目なギターのお兄さん:イアン・ウィリアムス。
最年少ながらクラシックの素養を持つマルチプレイヤーかつ、ヴォイスパーカッションも得意とする全方位音楽野郎:タイヨンダイ・ブラクストン。
――この通り、センスと技量と名声が伴った近年稀に見る存在の彼ら。まだまだ小難しいとか、スカしているとか、偏見を持たれている方も居るような気もする。
それらとはほぼ真逆の存在なのに、と筆者は思う。

確かに展開がごろごろ変わって掴みどころのないM-06は難解なのかも知れない。
だがそういう曲はこれくらいなもの。しかもその曲順は〝In〟で始まり〝Out〟で閉まるアルバムのど真ん中。おまけに曲タイトルが七色の色彩を持つ〝Rainbow〟。
あと他の曲は四人の感性に基づいて、それぞれの音を重ね合わせるモノばかり。
――え? それが難解なんだって? 聴き手のこっちもあまり深いコト考えず、心地良い音色の絶妙な絡みを漠然と楽しんでいれば良いだけなのに?

それを今回、上手に伝えやすく提供している妙薬が、全楽器界最強の音色である人声。主にブラクストンが担当する声ネタや歌である。
もヴォイパなどをさり気なく使ってきた訳だが、彼らはインストバンド、まさか大々的に歌など使う訳がない邪魔なだけだろ、と思わせておいて先行シングルM-02をズドン。人を食ったようなロボ声ヴォーカルをフィーチャーした激ポップなキラーチューン。
その後も、声楽をバカにしてるとしか思えない素っ頓狂な裏声を主音に据えた、続くM-03。ノリだけで発したへなちょこな歌紛いが、中盤以降のダイナミックなバンドサウンドと巧く対比されているM-04と、効果的に声/歌が使われている。
無論本人たちからすれば、難しく考えず、ただ面白いから、カッコイイから、気持ちイイから演ってみよう! の快楽原則に則っているだけのはずだ。

何せこの手のバンドにとって、声も歌も音色パーツに過ぎないのだから。

だが我々大衆は歌合戦やらのど自慢やらカラオケやら、歌を至高の音楽表現として身近に接している。誰もが音楽の授業では口を大きく開いて合唱する。
それを逆手に取ったのか、茶化しているのか、大衆受けを狙ったのかは分からないが、より一般的な表現を大々的に用いて音色の魅力を伝えた結果ポップとなった、他とは一味違う奇妙な図式のアルバム。
まるで数学(Math)の証明問題のようだ。

M-01 Race: In
M-02 Atlas
M-03 Ddiamondd
M-04 Tonto
M-05 Leyendecker
M-06 Rainbow
M-07 Bad Trails
M-08 Prismism
M-09 Snare Hangar
M-10 Tij
M-11 Race: Out
M-12 Katoman (Bonus Track For Japan)

日本盤のみボートラのM-12は二分弱のおまけ感ありありなドローンアンビエント曲なので、特に聴く必要性もないかと。


2013年7月30日火曜日

PONGA 「Psychological」


NY地下音楽シーンの猛者:ウェイン・ホロウィッツ(Key)とボビー・プリヴァイト(Ds)が、シアトルのイカレサックス吹き・スケリックを誘い、そのスケリックが連れて来たデイヴ・パーマー(Melodica、Key)を加えて結成した四人組の二枚目。2000年作品。
日本の大手インディー・P-Vine Recordsからの正式リリース――ということはコレ同様、元々は自主制作盤。

スケさん関連というコトで、例の如く〝ジャズっぽい何か〟。
CD帯記載の叩き文〝PONGA Is Improvised,No Overdubs〟通り、プレイヤー同士が演奏中に抜き差しならぬせめぎ合いを繰り広げるジャム。ゆえにスタジオ音源とライヴ音源が混在しても、何ら違和感もない。
また、各プレイヤーの担当楽器は上記で固定。普段はピアノ演ったり鉄琴演ったり移り気なスケさんも、当プロジェクトではひたすらサックスを吹き散らしている。
他、プリヴァイトはジャズ畑らしいオフロードなビートを叩き出し、ホロウィッツはかの鍵盤プログレトリオばりの粘っこい音をひねり出し、パーマーは同パートのホロウィッツと競りつつも得意のメロディカでセピア色の雰囲気を醸し出したりもする。

この通り、今回は真剣と書いてマジだ。各々の目が血走っているくらいマジだ。

だが即興一本槍とは言え彼らは、内容のないセッションを意味付けるべく真剣面を貼り付けて、前衛ぶった溶解フレーズで演奏を引き伸ばすようなセコい連中ではない。
メンバー曰く、当プロジェクトは各々がDJ視点で生演奏を自己統制しているそうだ。
つまり、各自が気持ち良いと思ったフレーズを持ち寄り、各自の判断に任せてぶっ込んでいくスタイル、と考えて間違いない。
その象徴がM-04の終盤。スケリックのサックスが即興の末、明確にキャッチーなフレーズを曲調から剥離上等で選択している点に垣間見える。シンバルから火花が散るくらい激しいプリヴァイトのドラミングと対比させた、チンドン屋のような可笑しなフレーズを。
ただだらーっと音を反復させて気持ち良がってるのではない、指癖を逆手に取った攻めの姿勢、と例えるべきか。
こんな風に各自、アルバムの随所で反復の魔力に溺れず、持続の堕落に呑まれず、フレーズを揺らがせ、擦り込んでいく。ループ感などどこ吹く風で。

〝即興演奏〟と言うと取っ付きづらくて小難しい印象もあろうが、聴き手にとって気持ち良いコトを重要視した即興は分かりやすく、こんなにも楽しいよ、と理解出来る一枚。
そんな意味でも〝DJ視点〟だと思う。

M-01 Riviera
M-02 Psychological
M-03 Dental Melodica
M-04 Hagro
M-05 Nubile
M-06 Sabado Gigante
M-07 Show Me The Ponga


2013年6月12日水曜日

STANTON MOORE 「All Kooked Out!」


かのバカテクジャズファンクバンドGALACTICから、ストーナーロックとハードコアの間を取り持つCORROSION OF CONFORMITYまで、予断を許さない活動履歴を誇るニューオーリンズのグルーヴ神が、〝スケさん〟ことシアトルのサックスプレイヤー:スケリックと八弦ギタリストのチャーリー・ハンターらを誘って創った、1998年の初ソロ。

音世界は語るべくもなく、ジャズっぽい何か。
締めのM-13で、ようやくド真面目にしっとりジャズを演っているものの、例の如くジャムから発展したような曲構成。それでいてひりひり弛まぬ緊張感よりも、アットホームな空気が強い。スケリックも奇声を発してご機嫌だ。
それより何より、左の耳からでしゃばりなスケリックのサックスが、右の耳からたまにオルガンと見紛うような音色(ねいろ)を出すハンターの八弦ギターが、全曲不動の配置で鳴る極端な音像に、まずは驚かされる。
無論、そのど真ん中にはムーアのスウィンギンでシンギンなビートが! 彼のソロだからなんて以上に、彼の特徴的なビート構成が弥が上にも耳を惹く。
スネアのヒット一音一音がくっきりしているどころか、ロールを小節のギリギリまでその粒を揃えて叩き切れる歯切れの良さ。しかもグルーヴィーな曲では、まるで歌うように表情豊かなビートパターンを、当たり前のようにビートの裏を取りつつ、メトロノームばりに正確なタイム感で刻んでくれる。
よくジャズに耽溺している音楽ファンに『ジャズドラマーは何でも出来る化け物揃い。メタルドラマーなんてまだまだ』などと放言をかます(巧いならジャンル問わず巧いで良いじゃねえかバカ!)性質の悪い輩が居るが、しれっとこの次元の演奏をリラックスムードで叩けてしまう奴が存在するのだから、そう自慢したくもなるわな、と。(でもオマエが凄え訳じゃなくて、ドラマー様が凄いんだからな。偉そうにすんなバカ!)

きっとライヴではにこにこしながら叩いてるんだろうなー。俺、スケさんファンだけど、たぶんずーっとこの人のプレイを口を半開きにしたまま眺めて悦に入ってるんだろうなー、なんて想像出来るくらい生々しくて気持ち良いビートだらけ。
カッコ良いビートは正義!

なお後日、この三人にスケさんの相棒でヴィブラフォン大好きパーカッション叩き:マイク・ディロンを加え、GARAGE A TROISが結成される。
そのお披露目盤扱いにするにはもったいないムーディーな逸品。

M-01 Tchfunkta
M-02 Common Ground
M-03 Green Chimneys
M-04 Blues For Ben
M-05 Kooks On Parade
M-06 Nalgas
M-07 Witch Doctor
M-08 Boogaloo Boogie
M-09 Nobodys Blues
M-10 Stanton Hits The Bottle
M-11 Farmstead Antiques
M-12 Angel Nemali
M-13 Honey Island

日本盤は:
M-14 Kirotedo
M-15 Obopa Bebop
:を追加収録。共にボートラ以上の出来なので、こちらの方がお得。



2013年6月8日土曜日

BOWS 「Cassidy」


友人のMOGWAIが羨む才の持ち主、ミュージシャン兼作家兼詩人のルーク・サザーランドが、デンマークの女性シンガー:シーネ・ホイップ・ヴィレ・ヨーゲンセンと組んだデュオ、2001年作の二枚目。
知る人ぞ知る名インディーレーベル、Too Pureより。

基本、儚げで一本調子なヨーゲンセンや、例の喘ぐようなサザーランドの歌を立てた創り。曲によっては片方だけだったり、デュエットだったり、ゲストシンガーを据えたり
一方のサウンドプロダクションは、これがまた曲者。
アタックの強いブレイクビーツを敷いたアブストラクトっぽいトラックもある。煌びやかな上モノ使いでエレクトロニカを意識しているトラックもある。サザーランドお得意のヴァイオリンに、ギター、ピアノ、ベース、ドラムで(ゲスト奏者を迎えるケースもあるが、サザーランドはマルチプレイヤーでもある)ポストロックっぽいフレーズを奏でる曲もある。
このボーダレスな感覚、如何にも作家でもあり詩人でもあり音楽家でもある多才な者が、しがらみなく創ったような印象を受ける。

専業ミュージシャンなら散漫にならぬよう、いずれかの彩をあえて強めるだろう。
だが本作はその三点を均等なバランスで保ち、かつ統一感もある、夢見心地な出来なのだ。秀才、あな恐るべし。
その要因としては、曲毎にジャンルを決め打ちしてとっ散らかすのではなく、この曲は煌びやかな上モノにブレイクビーツ、この曲は生演奏にブレイクビーツ、この曲は生演奏に煌びやかな卓加工、と互いの要素を複合させて堂々と並べた創りにある。
これ、サザーランド本人はおそらく意識して創っていないと思われる。十中八九、『好きだからこうなった』と答えるだろう。

どっぷり浸かっている者では考え付かない、俯瞰出来る立場から己の好き勝手に演ったセンスの塊のような作品。
しかも副業者にありがちな奇を衒った感や、素人臭さが一切ない。きちんと基本を踏まえている上に、この高次元なプロダクションが自力で出来ない(トラック制作はもちろん、プロデュースもエンジニアもミックスもサザーランドがほぼ担当)玄人は掃いて捨てるほど居る。
衝撃的な作風ではないが、地味に凄いよ。

M-01 Luftsang
M-02 Cuban Welterweight Rumbles
M-03 Man Fat
M-04 Ali 4 Onassis
M-05 Uniroyal
M-06 B Boy Blunt
M-07 Wonderland
M-08 DJ
M-09 Blue Steeples
M-10 Hey Vegas
M-11 Sun Electric / Ton Ten All The Way Home

日本盤のみ、同年発表のシングル「Pink Puppet」よりタイトル曲を除いたリミックス四種が追加収録されている。
その内容は何と、サザーランドが執筆した小説の一場面を自身で朗読した代物。それをリミックスさせる感性も凄いが、その面子がマイク・パラディナス(μ-ZIQ兼Planet Muレーベルオーナー)やロブ・スウィフト(米著名ターンテーブリスト)らと、豪華なのも凄い。