2017年3月30日木曜日

JAMIE LIDELL 「Building A Beginning」


兄貴からパパへ。2016年作、六枚目。
Warpを離れ、Kobalt Label Servicesのケツ持ちで興した自己レーベル:Jajulinより。その由来はJamie、Julian(愛息)、Lindsey(愛妻)の短縮形。

聴き手の機先を制する上で大事な一曲目からいきなりしっとりバラード。伏し目がちに、悲哀を噛み締めるように歌い上げる様が目に浮かぶようだ。
以後、家族の写真を印刷した年賀状のような愛息賛歌(その愛息が声で〝参加〟もしている)のM-02のような明るい希望に満ちたファンクナンバーや、やけに呑気な異色のレゲエ風ナンバー:M-06よりも、リデルの更に磨き上げられた歌唱を湿っぽい形で表す曲が目立つ。
かと言って一本調子さはなく、如何にもリデル謹製なエレクトロファンク曲:M-07や08。ピアノ! ハモンドオルガン! 女声コーラス! でゴスペルさながらの荘厳な盛り上がりを見せるM-10。ハープや擦弦楽器を用いて幻想的に仕上げたM-13など、多角的な手は打っている。

『オレ俺アンド己』であえて創った前作や、『俺とベックと(GRIZZLY BEARのクリス)テイラーと』だった前々作よりも一歩先を行く、『俺と名うてのセッションパーソンたち(モッキーも居るよ)』になったことで、職業的なソロアーティストとしての色合いが益々強まった。
詰まるところ、守備範囲は広げつつも、極めてオーソドックスな創りのブルーアイドソウル作品だと思う。
最早街角でイキりながら青々とした髭を剃る、ぎらっぎらに尖がった十年前の彼の面影はない。齢四十を越えたのだから当たり前だ。
ココから聴こえるのは、乳児の息子の発する声をサンプラーへ取り込み『はっはー! これでお前も歌手デビューだ!』とはしゃいだり(想像)、デザイナー上がりの奥さんと膝を突き合わせてラヴラヴな歌詞を紡ぎ上げたりする、命を賭して守るべきものが出来たリダーデイル(本名)家の主としての素の姿だ。
そのキモを踏まえて聴けば、曲の良さも相俟って如何に本作が情感の籠ったリアルな逸品かと理解出来るはず。

ただ、それがこうメランコリックな路線なのだから……リデルがこの幸せへと辿り着くまでに味わったさまざまな苦悩は察するに余りある。

リデル作品のイチゲンさんが本作から入ると、ココで満足して掘り下げてくれなそうなので、まずは二枚目や前作で彼の強烈なキャラクターから来る強固な音世界を理解してからにして欲しいと切に願う。
裏を返せば、そのくらい耳にすっと入って来るリピート性を、本作は有する。

M-01 Building A Beginning
M-02 Julian
M-03 I Live To Make You Smile
M-04 Find It Hard To Say
M-05 Me And You
M-06 How Did I Live Before Your Love
M-07 Walk Right Back
M-08 Nothing's Gonna Change
M-09 In Love And Alone
M-10 Motionless
M-11 Believe In Me
M-12 I Stay Inside
M-13 Precious Years
M-14 Don't Let Me Let You
M-15 Love Me Please (Bonus Track For Japan)
M-16 You Rewind (Bonus Track For Japan)

ボーナストラックM-15、16はやや寸足らない感じはするものの、しっかり完成させて聴きたかったくらい良い出来なので、是非日本盤を。


2017年3月28日火曜日

FORD & LOPATIN 「Channel Pressure」


時代の寵児になれるか!? ONEOHTRIX POINT NEVERの名義で著名なダニエル・ロパーティンが、胡散臭い臭いのぷんぷんするジョエル・フォード(小学六年生以来の旧友らしい)と組んだ、2011年発表の初アルバム。
Mexican Summer傘下、ロパーティン所有のSoftwareより。ミキサーにはアトランタのイッチョカミ野郎:スコット・ヘレンを迎えている。

音楽性を一言で表したいのなら『シンセポップ』。もう一言加えたければ『ニューウェーヴの香りがする』とでも。
無論、そんな通り一遍なヒトコトで済ませられるほど平易な音楽性をしていない。全くもって困った奴らだ。

表面上は、総じて甘い声質なフォードを含めた三名のヴォーカル(と、二名のヴォイス)と、二機のシンセを軸に据えたポップミュージックの体裁を執っている。
それっぽさが出るよう、声に軽くエフェクターを掛けたり、シンセの音色を80年代風のディスコっぽさ重視で選択したり。曲によってはゲストヴォーカルの一人が弾くギターを有効活用したり。ビートはゲストドラマーを呼んだり、フォードがシンプルに打ち込んだり。
そうやって灰汁は丹念に掬い、表面をつやつやに磨き上げ、音に辻褄を合わせてはいるが、彼らの本質は見事に隠蔽されている。
後ろ暗い者は表を見栄えが良いように飾り立てるものだ。

そもそもポップミュージックなら、音像のど真ん中にヴォーカルをでーんと鎮座させ、聴き手の耳が周りの副音に感けないよう誘引するだろう。
だが彼らの用いるヴォーカルという大正義主音は、ハナからぶれている。例えば、やや右チャンネル中央から左チャンネル中央へと揺すったり。歌のワンフレーズどころか一単語単位で切り刻んで、一音毎に左右チャンネルへと刷り込んだり。フレーズをサンプル化してコーラスのようにぺたぺた貼り付けたり。エフェクトを掛けて模擬シンセ音として潰したり。
コレが主音か!? というくらい酷使する。
そうやって主音への集中力を奪ったところで、シンセで生成した派手な副音をこれまた左右チャンネルに瞬かせる。それはもう多種多様な物量を手練手管で。一方、背景に淡く塗った長音をエフェクトでねじ切る不快な工作も人知れず行う。
それなのにビートの刻みはタメずズラさず、一切奇を衒わない。シンセポップの型枠を堅持するためか、聴き手にこれ以上耳移りさせないようするためか。とはいえ、稀にビート系音色を左右に振り、副音のような扱いもするが。

もうこれは聴き手の音的快楽中枢を掌握する、洗脳行為ではなかろうか。
けど上辺の耳触りの良さのお蔭で心身への実害は一切ないし、聴き手は好きに溺れるが良かろう。
各曲をコンパクトにまとめ、ランタイムを三十七分程度に抑えたのは悪意なのか、それとも良心からだろうか……? (深い意味はなさげなんだけど)

M-01 Scumsoft
M-02 Channel Pressure
M-03 Emergency Room
M-04 Rock Center Paronoia
M-05 Too Much MIDI (Please Forgive Me)
M-06 New Planet
M-07 The Voices
M-08 Joey Rogers
M-09 Dead Jammer
M-10 Break Inside
M-11 Surrender
M-12 Green Fields
M-13 World Of Regret
M-14 G's Dream


2017年3月26日日曜日

DAY ONE 「Probably Art」


うそん! まだ演ってたん!?
呟きラッパーのフィレム、何でも屋のマシューからなるブリストルの非モテ系ヒップホップデュオ、2005年作の2枚目。

ついつい前作の印象から〝非モテ〟と書いてしまったが、あれから二人とも結婚して子供も生まれたそうな。よかったねおめでとう。ちなみに英盤(2007年リリース)のジャケに書かれた赤いタイトル文は、フィレムの息子によるモノだそうな。
だからという訳ではないが、本作から多少リア充ぽい雰囲気が漂っている。
彼らを見出したマリオ・カルダートJr.人脈からミックス・マスター・マイクベックのサポメン、かの著名ラッパー:ウィル・アイ・アムAZTEC CAMERAオリジナルドラマーなど、ゲスト陣が垢抜けたのもある。
それ以上にのっけのM-01から飛び出すコレとかアレのような、へらへらちゃらちゃらした西海岸のボーダーミュージック的爽やかさが異色になっていない点で気付くことだろう。

だが、そのような表層的な変化よりも、しっかり変わらず残っている部分に喜ぶべきかと思う。
英国人ならではの湿った、明るくなり切れない音楽性を。

模擬ストリングスを合いの手に用い、各種サンプル音や民族楽器を忙しなく散りばめたM-03。同様にサンプル音をばらまきつつ、パンチラインで金、金、金、金、と連呼して聴き手の耳にあざとく引っかけてくるM-07。こちらも連呼系パンチラインだが、各種副音の絡みが絶妙なウィル・アイ・アム参加のM-08。レコードでいうA面とB面を締めるM-06と12では、それぞれ生ヴァイオリニストと生チェリストを迎えて前作のままの寂寥感を醸し出し、なぜかほっとさせる。
お蔭でM-01、M-05、M-09、M-10のような、サビで爽やかに盛り上がる件の西海岸チックな曲が従来通りはにかんで聴こえるのだから、アルバムの流れに巧く溶け込んでいると言えるだろう。

きちんと練られた楽曲がこれ以上ない曲順で並べられることで地味に後引く、スルメ型の好盤。
音楽的成長に年輪を感じさせるのが良い。

M-01 Bad Before Good
M-02 Cosmopolita
M-03 Feet Firmly On The Ground
M-04 The Little Things
M-05 Saturday Siren
M-06 Now I'm A Little Older
M-07 Money
M-08 Give It To Me
M-09 Travelcard Traveller
M-10 Probably Art
M-11 Time To Go
M-12 Who Owns The Rain