2015年7月20日月曜日
FOUR TET 「Morning / Evening」
〝音色の魔術師〟キエラン・ヘブデンの七枚目は2015年作。
アナログ、ファイル配信は自己レーベルText Records。US盤CDはFRIDGEの過去作でお世話になっているTemporary Residence Limited。
ご覧の通り、約二十分の長尺二トラックをA/B面に割り振った剛毅なアルバム。
当然、アナログの良音質を保つランタイム(片面二十分弱)でまとめられ、ヒスノイズやチリチリノイズも気にせず録られ、ボトムに速めの四つ打ちが敷かれ、紙ジャケ仕様(今回は口が外開きなのでディスクが取り出しやすいぜ!)を施した、現場志向の強い前作の流れを汲む仕上がりとなっている。
が、その精神性と当作品における本質はやや異なっているように思える。
出だし爽やか。まるで晴れの日の朝のよう。
ぽそぽそっと拍を刻むビートに、インドかタイ風の節回しが強烈なインパクトを与える女声歌ネタが、寝起きのぼやけた視界を飛蚊のように舞う。その裏で柔らかいシンセ音がまどろみのように鼓膜を喜ばせ、ベース音代わりのドローン音色がシーツのようにまとわりつく。
ここら辺で聴き手も首を傾げだすことだろう。
ひたすらループする主音の歌ネタは、前作のただサンプラーのキーパッドを押しましたと言わんばかりの稚拙な用い方ではなく、エコーをかけたり、被せてコーラスのように絡めたり、リバーブをかけて歪ませたり、左耳から右耳へ通したり、ピッチを上げ下げして声のトーンを高くしたり低くしたりと、それはもう(朝なのに)白昼夢のような甘い甘い音色に仕立て上げている。
その上、たゆたうような各種シンセ音も緻密に織り上げ、さり気なく装飾音をあちらこちらに散りばめ、浮遊感をかさ増ししている。
えっと、クラブノリじゃ……ないよね?
さて、M-01後半から跨いでM-02前半はほぼアンビエント状態。二度寝したのかな? と思わせるよなチルアウトパート。ほぼノンビートで、覚醒的なシンセ使いや女性のコーラスとハミングが優しく添い寝する様は文字通り夢見心地。
そこからじわじわとビートが復活。午後は夜型民族(と書いてパーリーピーポー)、目覚めの時。M-01でのような弱い打ち方ではなく、パワフルなスネアと歯切れの良過ぎるハイハットがミニマルに、しかもやや遠巻きに鳴り続ける。
――さあ今日もクラブが呼んでるぜ! と言わんばかりに。
アルバムはそんな推量を聴き手に抱かせつつ、幕を閉じる。
――後は俺が回すクラブに遊びに来てくれ、と言わんばかりに。
つまり、皿と箱は別物だと気付い(てくれ)た模様。
やったね。
M-01 Morning Side
M-02 Evening Side
Hostessから今回も日本盤出ているけど……ステッカー、要る?
2014年7月2日水曜日
FOUR TET 「Pause」
そういや書いてなかったね……。
FRIDGEの才人:キエラン・ヘブデンのソロ二作目。2001年作。
レーベルは本作より、本体と共に移籍したロンドンのDomino Records。
琴に似た音色(ねいろ)、アコギ、更に逆回転音色、それらにスネアをリムショットで取ったブレイクビーツ――生っぽくて、でも作為的な、摩訶不思議FOUR TETワールドの雛型のようなM-01から始まる。
それから、軽快なビートにアコギやウィンドウチャイムや小刻みな声ネタを被せつつ、さり気なく高らかに鳴らしたトランペットでアクセントを取るM-02あたりで、聴き手の予想と期待を裏切らない展開に小さくガッツポーズをするか、渋い顔をしてスカしたままか――その者の感性の品性が問われる。
つまりかなり有体な作品だと思う。
その割にはヘブデンらしく音遊びがそこかしこに仕込まれているのだが、特に着目する必要のないくらい普遍的な創りがなされている。各トラックで、まず何を聴かせたいかはっきり意識付け出来ているせいだ。
そのため、ニカ入門者にはうってつけのブツかと思われる。
だが前述の音遊び――逆回転音色の多用、執拗なディレイ、即興風味の卓加工、部分的に用いるダビーな音像、ひょうげた声ネタ、無意味な生活音のサンプリング、などなど――を効果的に当てはめたせいか、聴くたびにいろいろな発見がある奥深き作品でもある。
『なーんか当たり前ーなニカだよなー』と斜に構えてるアータ、ちゃんと聴いてごらん。結構ハチャメチャだよ。
この絶妙なバランス感覚こそが、彼をトップニカクリエイターに押し上げた要因であろう。
後にみんなが取り入れ、普遍的な手法となる〝生音折衷打ち込み音楽
でも、今となってはちょっと古臭いのかなあ。小気味良くて良いモノデスヨ、古き良きブレイクビーツを敷いた打ち込みは。
M-01 Glue Of The World
M-02 Twenty Three
M-03 Harmony One
M-04 Parks
M-05 Leila Came Round And We Wached A VIdeo
M-06 Untangle
M-07 Everything Is Alright
M-08 No More Mosquitoes
M-09 Tangle
M-10 You Could Ruin My Day
M-11 Hilarious Movie Of The 90s
2014年3月24日月曜日
FOUR TET 「Beautiful Rewind」
キエラン・ヘブデンの2013年作・六枚目は、非常に評価の難しい作品だと思う。
前作以降、速めのBPMでノリの良いボトムを敷くようになったのはもちろん、アナログを模した紙ジャケCDリリースにこだわったり(銀盤出しづれーからコレ、止めてくんねーかな!)。本作をレコードの最適録音時間=片面二十分ずつでまとめたり。自身のレーベル:Text Records(本作もココから発表)から12インチEPを頻繁に切ったり。
これらは全て、彼の現場志向が如実に表れた結果である。
それが〝偏重〟なのかも知れないなー、と考え始めたのはのっけのM-01を聴いてから。
何と、古いレコードでよく聴こえるぱちぱちしたノイズを、グリッチ代わりに堂々とトラックへ混ぜているのだ。CDなのに。新曲なのに。生々しさを出したいのか、クラブ感≒DJミックス感を出したいのか。
そんなのは枝葉で、上モノがよりチープに、よりシンプルになったのが根幹。
シンプルかつチープになったのは、最近のクラブ系の傾向である〝ボトムはファットに、上モノはファットさを強調するため簡素に〟を順守したに過ぎないが、アルバムほぼ全編で主音格を張っている声ネタの使い方は何とも。ただひねりなくループさせているだけ、と取られても仕方ないくらい安易な用い方をしていて、首を傾げざるを得ない。
以前の彼ならもっとやれただろう、と。
ここら辺の旨味のなさを論うコトも出来る。
ただ、M-04とM-10のような、声ネタを立てずに螺鈿細工のような雅で美しい上モノをフィーチャーしたトラックもある。M-02のような〝音色の魔術師〟の面目躍如たる、趣深い音色を巧みに折り重ねた本作のリーダートラックもある。
そもそも〝アルバム〟と言う〝面〟で見ず、〝トラック〟と言う〝点〟で見れば、安易な批判は憚られるレヴェルの内容ではある。
恐らくヘブデンの中で、『アルバムなど、クラブで回すトラックを集めただけ』なんて考えに至っているのかも知れない。
あえて上モノをシンプルに載せているのは、『クラブで弄り倒しやすいように』などと割り切っているのやも知れない。
それって、カラオケで歌うために音楽CDを買うのと何ら変わらんのでは?
目を覚ましてください、キエラン・ヘブデン!
現場とスタジオ作業は別物です! クラブでは
両立しましょう。貴方なら出来る! もうクラブ偏重はそのくらいになさい!
M-01 Gong
M-02 Parallel Jalebi
M-03 Our Navigation
M-04 Ba Teaches Yoga
M-05 Kool FM
M-06 Crush
M-07 Buchla
M-08 Aerial
M-09 Ever Never
M-10 Unicorn
M-11 Your Body Feels
えー済みませんHostessさん? ステッカー(と解説)を付けた程度でコレ、わざわざ日本盤発売する必要ないん違いますゥ?
2013年6月6日木曜日
FOUR TET 「Rounds」
FRIDGEの主にギター担当、インド系英国人のキエラン・ヘブデンによるソロプロジェクト、2003年作の三枚目。
主にアンプラグド楽器をサンプラーに録り込んで音色として使い、ブレイクビーツや電子音へ平然と織り込む、〝フォークトロニカ〟なるニカ派生ジャンルの金字塔。
本作はそんな音世界の中、如何にもフリージャズっぽいビートパターンやポリリズミックなトラック、ピアノやアコギを用いて哀愁のフレーズを奏でるエモい曲調など、いろいろ趣向を凝らしている。
また、ボトムにブレイクビーツを敷いているせいか、非常に歯切れが良い。各音色をすっきり配置する、整理の行き届いたテクスチャのお陰もあるだろう。
その一方で、音色のチョップやディレイを多用する傾向もある。
適材適所か、絶妙なバランス感覚か。
だが彼の真骨頂はそこにあらず、セオリー無視の大胆な音使いにこそある。
例えば、M-02。実はTHE ENTOURAGE MUSIC & THEATER ENSEMBLEというスピリチュアル系フォーク舞踊ユニット(つまりヒッピー音楽)の〝Neptune Rising〟なる曲のカヴァーを自称しているのだが、よーく聴かないと元ネタが判別出来ないくらい溶解しているのは置いといて――
軽快なブレイクビーツに被さるバンジョーとベルの音。やがて前触れもなく、それをぶち壊す破音。まるでステレオが壊れたかのような音を幾度もぶち込んで、平気でトラックを構成させてしまうのだ。
そのやり口に狡さはない。聴き手が突然破音を浴びて『えっ、何なにっ? 何これっ!』とびっくりしている中、『別に何でもないけど』と平然と答えた彼の口元は笑んでいた――みたいな茶目っ気がそこにある。
ヘブデンは神経質に音を創り込む職人気質が多いこのエレクトロニカ界において、このような〝破調の美〟を大胆に作風へと溶け込ませた稀有なアーティストである。
――と、音色を多角的に使い倒したこの作品。〝FOUR TETの〟なんてレヴェルを遥かに凌駕し、2003年度どころか00年代を代表する域の傑作だ。
そんな本作発表十周年の2013年に、二枚組としてめでたくリイシュー。
残念ながら本編にリマスターなどは施されていないが、ボーナスディスクとして翌2004年にDomino Recordsサイト上とライヴ会場のみで発売されたコペンハーゲンでのライヴ音源が同封されている。音色チョップしまくりデス。
ニカ初心者の方、未聴の方、オリジナル盤を売って/(筆者のように円周傷を入れて)オシャカにしてしまった方、この機会にぜひ。
ニカ初心者の方、未聴の方、オリジナル盤を売って/(筆者のように円周傷を入れて)オシャカにしてしまった方、この機会にぜひ。
(2011/4/25執筆文を大幅改筆)
Disc-1
M-01 Hands
M-02 She Moves She
M-03 First Thing
M-04 My Angel Rocks Back & Forth
M-05 Spirit Fingers
M-06 Unspoken
M-07 Chia
M-08 As Serious As Your Life
M-09 And They All Look Broken Hearted
M-10 Slow Jam
Disc-2 「Live In Copenhagen 30th March 2004」
M-01 She Moves She
M-02 Everything Is Alright
M-03 Spirit Fingers
M-04 Glue Of The World
M-05 My Angel Rocks Back And Forth
M-06 As Serious As Your Life
M-07 Hands / No More Mosquitoes / Hilarious Movie Of The 90s
2013年2月16日土曜日
FRIDGE 「The Sun」
前作から六年ぶりの2007年、FOUR TETとADEMの中の人と、このブランク中に何と本腰を入れて大学研究員をやっていた人による五枚目。
欧州はDomino、米国はTemporary Residence Limitedからのリリース。
ジャムセッションから本作の音世界を固めていっただけあって、ややロウな創りが魅力。
のっけからサム・ジェファーズ研究員のドラムがどっかんどっかん鳴り響く。そこへ主にギターのキエラン・ヘブデンと、主にベースのアーデム・イルハンが好き勝手な楽器を用いて不可思議な音色を乗せていくのが基本線だ。
いや、オーソドックスなギター+ベース+ドラムへ、他の音色を重ねていくパターンだって多い――なんて書いてしまっては、結局は何が何だか分からなくなる。
要は彼らにとって、ギターもベースも単なる一音色でしかない。音色が多い方が音世界が豊かになる。ビートを毎回ボトムに敷く決め事だって要らない。
ならせめて、メンバー各々の担当楽器くらいクレジットして欲しかった――が、結局はそれらも一音色でしかないので、彼らにとって大よそどうでも良いのかも知れないと思うと、後は聴き手側で判断するしかない。
だからと言って、いちいち鳴ってる音を把握しながら聴くよりも、ぽけーっと音に身を委ねていた方が気持ち良い音楽なのだから、堅っ苦しいコトは抜き!
逆回転で雨粒が軒へと上っていくような背景音の中、二本分のアコギが爪弾かれるM-04や、フリーキーなクラリネット(?)以上にフリーキーなドラムを、ミニマルなアコギの調べが整えるM-08など、誰が何を鳴らしているかなどどうでも良い。
叙情的なギターフレーズへベースとドラムが随伴し、徐々に昂ぶらせていくオーソドックスな曲調の中、ついにハミング三重唱という形で自らの歌声を音色化したM-09で
音楽は〝聴いて楽しむ〟より、〝聴いて感じる〟モノだ、少なくとも筆者は。
M-01 The Sun
M-02 Clocks
M-03 Our Place In This
M-04 Drums Of Life
M-05 Eyelids
M-06 Oram
M-07 Comets
M-08 Insects
M-09 Lost Time
M-10 Years And Years And Years...
2012年9月30日日曜日
FOUR TET 「Pink」
〝音色の魔術師〟キエラン・ヘブデンによるソロユニットの編集盤。2012年九月発表。たった八曲だが、ちゃんとランタイムは60分あるのでご安心を。
まず資料的な詳細。
ヘブデン自身設立のText Recordsで切られた12inchヴァイナル音源などを集めた一枚。欧州では.flacや.mp3形式で発表されたが、CD化は今のところ日本盤のみ。
内訳は、2011年三月にDAPHNIとのスプリット盤からM-08を皮切りに、同年九月のM-01と06、翌2012年五月のM-03と04、六月のM-05。残りM-02と07は後、十月発売。
その内、M-01と06はミックスCDの定番「Fabliclive」(2011年)でも披露されている。
気になる音世界は、「Ringer EP」から「There Is Love~」のシンプルビートに味わいのある上モノ路線。独特で抜群の音色センスは健在で、親指ピアノ(カリンバ)やへんてこな声ネタを、違和感なくトラックへ溶け込ませている。
作中に通低する、なにげない古臭さやダサっちさも味!
ただしその古臭さ、ダサさに直結する音色使いのセンスがブリープテクノからIDM(Intelligent Dance Musicの略)期のWarp連中をちらほら想起させる点は、苦笑すべきか眉根を寄せるべきか。
でもさすがはヘブデン先生、スカなど掴ませない充実のラインナップ。
四つ打ち主導のアルバムながら、クラブで流すにはやや地味。でもその分、聴き込んで旨味がジューシーなのは、気持ち良い音色を無理せず編み込むテクスチャーの妙か。そうなると、本作は「There Is Love~」の後へ来るに相応しいアルバムとなる。
さて今後、コレが総決算で次から新機軸を打ち出していくのか。単なる通過点で、この路線を更に深化させていくのか、非常に気になるところ。
M-01 Locked
2012年2月24日金曜日
FOUR TET 「There Is Love In You」
〝音色の魔術師〟キエラン・ヘブデン(FRIDGE)のソロエレクトロニカユニット、五枚目のオリジナルフルアルバム。2010年作品。
レーベルはいつも通り、ロンドンのDomino Recording。
以前から音で「演るよ、演るよ」と匂わせてきたダンサブルな四つ打ちを、大々的に解禁。ノリの良い作品になった。
だが、聴き進めていくうちに何か象徴的なモノが忘れられているような気が。
ずばり〝フォークトロニカ〟をその名たらしめている生音、この削減だ。
確かに完全排除ではない。ところどころ、木・鉄琴やらハープやらの音が装飾音として散りばめてある。ただ、以前はもっと分かりやすく使っていただろう、と。
こうなると、FOUR TETを〝フォークトロニカの総大将〟として聴くのか〝エレクトロニカ界の旗手〟として聴くのか――そんな踏み絵盤として、問題作やら実験作のような質面倒臭い扱いを本作は受けてしまうのだろうか。
そんな、もったいない!
本作は、何が悪いのか何が良いのか分からなかった前作「Everything Ecstatic」のもやもやを、本作中ジャケの青空写真のようにすかーっ! と晴らす痛快盤だと思う。
さあ〝フォークトロニカ〟なんて単語、きれいさっぱり忘れよう!
ダンサブル、と言ってもアッパーではない。ただ整然とキックとハイハットを四つ並べた安直な創りではなく、打ち方をちょこちょこ変えたりする工夫も欠かさない。
「Ringer EP」で垣間見せたシンプルなビートに味わい深い上モノを融合させるトラック像は、如何にも彼が進みそうな発展経路。同時にいつもの突飛な音色使いは影を潜めたが、音色の選択が独特なのは今まで通り。
つまり、本質的には何も変わっていない。
トラックの創りをソリッドにして浮かび上がってきた上澄みが本作。灰汁ではないよ。すっと耳に馴染んで気持ち良いこの音をすてるなんてとんでもない!
M-01 Angel Echoes
M-02 Love Cry
M-03 Circling
M-04 Pablo’s Heart
M-05 Sing
M-06 This Unfolds
M-07 Reversing
M-08 Plastic People
M-09 She Just Likes To Fight
M-02の女性シンガーの声ループが「Love Cry~」ではなく、「おっぱ~い♪」と聴こえる貴方は重症。筆者は言うに及ばず。

2011年12月30日金曜日
ADEM 「Love And Other Planets」
毎度お馴染みFRIDGEのベーシスト、アーデム・イルハンのソロプロジェクト、2006年発表の二枚目。
いつも通りミキサーには同僚のキエラン・ヘブデン(イルハンとの連名)。レーベルはロンドンの大手インディーズ、Domino Records。レコーディングは簡素にイルハン家の倉庫、と普段通りの環境でリラックスして創られた作品。
――かと思えばちょっとだけ違う。あくまでちょっとだけ。
その〝ちょっとだけ〟を端的に言えば、〝いつもより凝っている〟。
本作は〝宇宙〟に関して語られたコンセプトアルバムみたいなものだ。
筆者はあまり歌詞には興味がないのでその辺は端折るとして、歌詞を伝えるべく歌を中心に据えた創りなのに、日本盤にすら(対訳どころか)歌詞カードが封入されていないのは如何なものかと。二倍以上の金を払ってわざわざ日本盤を買う必要があるのかと。
幸い、ADEMのHPへ飛べば全曲、歌詞が掲載されているので、興味があれば必読。
さて、問題は筆者が興味のある〝いつもより凝っている〟部分。
M-03は歌詞をAからZまで、Xをあえて除いて縦に並べ、単語を当て込んで意味のある歌詞にする手間の掛かりよう。それどころかコーラス代わりにAからXを除いたZまで並んだ単語の初音をサンプラーで取り込んでディレイさせ、イルハンの発声に併せて添える凝りよう。
それだけで筆者には鳥肌モノなのに、ハイライトは違う場所に配置されている。
M-05は通話不良を起こしたかのようなヴァイオリンが奥で鳴る一方、素朴なリードオルガンの音に導かれ、イルハンが情感たっぷりに歌い上げる名曲。ヴァイオリンが通話不良から復帰し、歌メロに添い遂げるサビは甘美の一言。
その他、アコギだけに頼らない豊富な音使いで感傷的にアルバムを進めていく。儚さはあるが暗さはない、ゆったりとしたトーンで。
その中でも、M-02、M-06、M-10で輪郭のはっきりしたビートを提供してくれるアレックス・トーマスの存在が光る。彼のお陰で〝ゆったり〟だけでなく小気味良さも生まれ、アルバムがより芳醇なモノとなった。(蛇足ながら彼は何とデスメタル上がりのドラマーで、現在はスクプなトムくんと行動を共にしている
最後に重要なコトを書くが、イルハンの歌唱が朴訥な雰囲気を残しつつも表現力が向上している点を見逃してはならない。歌という至高の音色を十分生かし切れている。
歌モノはこうでなくちゃね。
M-01 Warning Call
M-02 Something's Going To Come
M-03 X Is For Kisses
M-04 Launch Yourself
M-05 Love And Other Planets
M-06 Crashlander
M-07 Sea Of Tranquillity
M-08 You And Moon
M-09 Last Transmission From The Lost Mission
M-10 These Lights Are Meaningful
M-11 Spirals
M-12 Human Beings Gather 'Round
2011年10月20日木曜日
FOUR TET 「Ringer」
キエラン・ヘブデン(FRIDGE)のソロプロジェクト、2008年作のEP。オール新曲(M-03はオンラインマガジンのコンピに収録)で、後のアルバム流用なし。三十分ちょい。
気合、入っています。
感じの悪い見方をすると、前作「Everything Ecstatic」は行き詰った作品だと思う。前々作「Rounds」よりもFRIDGEとの差異が見えなくなっていた。
もちろんスカを出さないヘブデン師匠。その質は文句を付けてはいけないレヴェルだったが、高い次元の作品を創れる人だからこそ、筆者は重箱の隅を穿りたくなっていた。
それがこう来るとは! と、筆者は聴きながらにやにやしてしまった。
前から兆候はあったが、本作で大胆に四つ打ちを導入。
で、完全にクラブ仕様のダンサブル方面へ移ってしまったのかと訊かれれば、曲者のヘブデンが捻らないはずがないでしょうよ、と答える。
M-01はミニマル化と思いきや、途中で荒々しいビートを大胆に絡ませる二枚刃仕様。M-02はクリックっぽい味わいもある。M-03はマニュエル・ゲッチングばりの音を奏でるギターが、耳障りな長音や虚空を周回するシンバルの残響音と静かなせめぎ合いを繰り広げる秀曲。M-04は可愛らしい主音に覆い被さるさまざまな楽器が、如何にも突飛な音色使いを好むヘブデンらしい。
――とまあ、音世界を明確にしつつもバラエティに富んだ長尺EP。
テクノテクノしくなったが、何だかんだ“生音とエレクトロニカを融合する”フォークトロニカらしき部分は残してあるし、この前年に出た本体六年ぶりのアルバム「The Sun」とはきちんと棲み分けが出来ているしで、もう筆者の口から屁理屈は出なくなりましたとさ。
やっぱ凄い、キエラン・ヘブデン。
M-01 Ringer
M-02 Ribbons
M-03 Swimmer
M-04 Wing Body Wing
筆者が持っているのはUK盤CDなのだが、その鏡面はなんと黒。つまりゲームのPS1のようなディスク仕様。びっくりした。
お陰で聴けないCDプレイヤーもあった。皆さんもその点、ご留意を。
2011年9月28日水曜日
ADEM 「Homesongs」
FRIDGEのベーシストがアコギに持ち替えて紡ぐ、ソロプロジェクトの初作。2004年発表。レーベルは英国・倫敦の大手インディーズ、Domino Records。
ミックスは同僚のキエラン・ヘブデン(G)の手で、彼の家にて行われた。同じく同僚のサム・ジェファーズ(Ds)はインナーの写真コラージュで参加している。
ココで語った通り、ADEMの朴訥とした歌声を中心に据えたフォークアルバム。
焦点はしっかり絞られているので、音楽性は揺るぎない。その一方でアコギだけでなく、さまざまな楽器が織り込んであり、音に多様性がある。当然アコギの弦が滑る音まで拾ってあり、生々しさもある。
その上、哀愁を漂わせた曲調に引っ張られるかのように、ADEMの声色まで憂いを秘めて聴こえてくる日本人仕様。
素朴×哀愁=エモエモしい。
エモい+歌モノ=日本人の大好物!
ほんとちょうど、今の時期の涼しい夜にぴったり。
サビ残に追われて夜遅く帰宅する、お疲れ様な会社員の貴方へ。
つい彼氏とケンカしちゃって引っ込みがつかなくなってしまった貴女へ。
夏に上手いこと彼女が出来なくて、独り寂しい夜長を過ごす貴男へ。
聴けば余計にエモくなる本作をどうぞ。どう効果が表れるかは貴方次第。
M-01 Statued
M-02 Ringing In My Ear
M-03 Gone Away
M-04 Cut
M-05 These Are Your Friends
M-06 Everything You Need
M-07 Long Drive Home
M-08 Pillow
M-09 One In A Million
M-10 There Will Always Be
2011年8月14日日曜日
FRIDGE 「Eph」
FOUR TETのキエラン・ヘブデンとADEMのアーデム・イルハンの母体である3ピースポストロックバンド、1999年作の三枚目。
オリジナル盤はDAVID HOLMESやPORTISHEADなどが所属した(当時)PolyGram系列のGo! Beatからのリリースだが、2002年に(現在のUS盤配給先でもある)Temporary Residenceより再発された。
ココ、重要。
彼ら――と言うかポストロック連中は、打ち込みやスタジオ編集を駆使しつつもあくまで人力に拘った音楽、なのがパブリックイメージだ。緻密で音至上主義の職人肌集団だ。
本作はそれに沿いつつも、サム・ジェファーズの叩き出すビートを中心に荒々しさも醸し出している。イルハンのベースも印象的なフレーズを響かせている。
だがやはりキーは曲者・ヘブデンの突飛な音色使いにある。誰もが使い古した音色を思いがけない鳴らし方で生成したかと思えば、誰も使わないような音色を巧くスパイスとして引き立たせたりもする。M-06のように、スネアをワンヒット毎で左右に振り分けるような小癪な卓使いなど彼の真骨頂である。
ただし、コレを前面に押し出せば「FOUR TETで演れよ……」てなコトになるし、小出しにすればアクがなくて物足りなくなる。
その匙加減が絶妙なのが次作「Happiness」ではなく本作だと、筆者は思う。
なぜなら筆者は「Happiness」よりこっちの方が好きだから――だけではなく、バンドサウンドとしてきちんと成り立っている上に緻密な編集作業の賜物も味わえる、良いトコ取りアルバムだから。
その上、再発盤は凄い。
気合も入るメジャー移籍第一弾EP(M-01とM-02)に、シングルカットされたDisk-1のM-04より四種のリミックス(M-03からM-06まで)に加え、多分コレが初出の、HERBERT(M-07)とPATRICK PULSINGER(M-08)によるリミックスまで収められたおまけディスクが付く超お得仕様。
この手のおまけディスク商法は、得てしてオリジナル盤の音世界から剥離した別物を添えて蛇足感を印象付ける改悪だったりする(日本盤のボートラも同様だ!)のだが、もうコレ、「Re-Eph」と題され別売りされてもおかしくないクォリティではないか。
気合も入るメジャー移籍第一弾EP(M-01とM-02)に、シングルカットされたDisk-1のM-04より四種のリミックス(M-03からM-06まで)に加え、多分コレが初出の、HERBERT(M-07)とPATRICK PULSINGER(M-08)によるリミックスまで収められたおまけディスクが付く超お得仕様。
この手のおまけディスク商法は、得てしてオリジナル盤の音世界から剥離した別物を添えて蛇足感を印象付ける改悪だったりする(日本盤のボートラも同様だ!)のだが、もうコレ、「Re-Eph」と題され別売りされてもおかしくないクォリティではないか。
ココまで充実したリイシュー盤が店頭に並ぶのも、レーベルの尽力とアーティストの協力あってこそ。ありがたやありがたや。
以上を踏まえて、個人的に本作はFRIDGEの傑作。
異論は認めるが、当方は絶対に譲らないからな!
Disk-1
M-01 Ark
M-02 Meum
M-03 Transience
M-04 Of
M-05 Tuum
M-06 Bad Ischl
M-07 Yttrium
M-08 Aphelion
Disk-2
M-01 Kinoshita
M-02 Terasaka
M-03 Version
M-04 Remix
M-05 Edit
M-06 Dub
M-07 Ark (Herbert's Fully Flooded Mix)
M-08 Bad Ischl (Springverb Remix)
2011年6月12日日曜日
FRIDGE 「Happiness」
満を持してと言うか、今更と言うか、遅れ馳せながらと言うか……FOUR TETとADEMの本体である3ピースポストロックバンド、2001年作品四枚目。
まずは曲タイトルを見て脱力感を覚えることだろう。
何なのこの味もシャリシャリもない文字列は! いやいやいや、コレまんまだろ! これだから音にしか興味のないアーティストは……とお嘆きの貴方に朗報。
実は曲名に記されている音よりも、裏で鳴っている音の方が曲中で重要な役割を果たしていたりする。
例えばM-02では、打ち込みビートよりもグロッケンシュピール(鉄琴みたいなの)よりも、フリーキーに鳴っているリコーダーの方が耳に入る。M-03はシロフォン(木琴みたいなの)がさざなみのように加工されたエレクトロニカ風の小曲。M-04では爪弾かれるアコギと微かに刻まれているドラムの上で堂々と、ピアニカとウィンドウチャイム(風鈴みたいなの)が幅を利かせている。
脇役に主役を食っちまえと仰るこのバンド、やはり只者ではない。
さて本作、間違いなく彼らの代表作なのに他アルバムとは毛色が微妙に違う。代表作ならFRIDGEというバンドのカラーを表して然るべきなのに。
一言で語れば、ロックのダイナミズムに欠ける。もう一歩踏み込めばキエランくんさあ、FOUR TETの活動に感けて、こっち疎かになってんじゃなーい? と勘ぐりたい、自身のソロプロジェクトへの擦り寄り具合なのだ。
M-07なんかもろにFOUR TETの音じゃないか。
しかもこの後、FRIDGEが五枚目のアルバムを出すのに六年も掛けているだろう。その間、FOUR TETはコンスタントにリリースしていたというのに。
だが、まあいいじゃない。
このアルバムは素晴らしい。素晴らしいモノが評価されているなんて健全じゃないか。
しかもFOUR TETも素晴らしい。ADEMも然り。何の問題もない。
素晴らしい音をくれる方々を、型にはめるのは良くない。
M-01 Melodica And Trombone
M-02 Drum Machines And Glockenspiels
M-03 Cut Up Piano And Xylophone
M-04 Tone Guitar And Drum Noise
M-05 Five Four Child Voice
M-06 Sample And Clicks
M-07 Drums Bass Sonics And Edit
M-08 Harmonics
M-09 Long Singing

2011年4月24日日曜日
ADEM 「Takes」
トルコ系英国人、アーデム・イルハンによる2008年作の三枚目はカヴァーアルバム。
こうなるとドラムのサム・ジェファーズも自分で何か演ってくれよ! とお願いしたくなるほど高水準の音楽を我々に授けてくれる才人の集合体だなあ、FRIDGEというバンドは。
ヘブデンのFOUR TETは生音に電子音をふんだんに咬ませた“フォークトロニカ”と呼ばれるエレクトロニカ系統の旗手だが、イルハンのADEMの音楽性は至ってシンプル。
ずばり、ベースをアコギに持ち替えたフォークソング。
FRIDGEがインストバンドということもあって、彼の朴訥な声色をど真ん中に据えたこの歌モノアプローチは意外性もある一方、ドが付くほど直球である。
お陰で、下手するとイルハンがこっちで多忙になってFRIDGEが疎かになってしまうほどのセールス的なポテンシャルを、ADEMは持っている。
お陰で、下手するとイルハンがこっちで多忙になってFRIDGEが疎かになってしまうほどのセールス的なポテンシャルを、ADEMは持っている。
そのくらい“歌”というものは普遍的で、人々の生活に入り込みやすい、ということ。
さて、本作はカヴァーアルバムなので、それほど感想らしい感想はない。選曲がなにげにマニアックで、若干フェミニン寄りかな? 程度。
下手すれば“スイーツ”と呼ばれるオシャレガールズの家に置いてあってもおかしくない?
いえいえ、この素朴で侘びた風情、物事の上っ面しか舐めずに生きている連中なんぞに分かってたまるか! と偏見に塗れた憎まれ口でも叩こうか。音楽なんてそんな小難しいモンじゃないのにさ。
インナーに本人が「カヴァーアルバムはミックステープを作るようなモン」と記しているので、もしかして「Takes II」もあるかな?
数年後、期待したいな。この内容なら。
数年後、期待したいな。この内容なら。
M-01 Bedside Table
M-02 Oh My Lover
M-03 Slide
M-04 Loro
M-05 Hotellounge
M-08 Starla (+ Additional Lyrics From“Window Paine”)
M-09 Gamera
M-10 Unravel
M-11 Invisible Man
M-12 Laser Beam
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