ラベル $あらいさん の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル $あらいさん の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2014年8月18日月曜日

RIOW ARAI 「Survival Seven」


タイトル通り七枚目、2006年作品。

三作目あたりから見えだした己の方向性の許容範囲内で試行錯誤しつつ、その一方でじわりじわりとその音楽的テリトリーを広げて来た彼だが、今回は本質的な進化があまり感じられないように思える。
巨人丸太で拍を刻むかのような、いびつでバカデカいビート。作為的な音色でぶっとく鳴らす細切れのベースライン。ワンショットを軸に(ループがないとは言っていない)構成した、メロディを欲しがらない上モノ。忙しなく左右にちらつかせる音響工作。イントロ(M-01)で開けて、メロウな曲調でアウトロ(M-11)のように閉めるアルバム構成。
M-06のようなインターリュードを初めて組み込んだからとて、新機軸と触れ回るほどではないでしょうに。

ただ本作はこれまでの〝アルバムをリリースするという研究〟の成果を総括した作品であると考えれば合点がいく。
三作目のような音割れ上等のビートで攻め、四枚目のように聴き込むとより楽しい工夫が仕込まれ、五枚目のようにその効果を分かりやすく向上させ、六枚目のようにヒップホップフォーマットに近付いてノリを良くしたアルバムがコレ。
正しくコレ、良いトコ取り。
うわコレ、もしかして最高傑作じゃね!?

――と、皆に思われていないらしく、地味な扱いを受けている(よう見受けられる)本作。各トラックの出来もいつもながらおしなべて良いのに。
おかしい、こんなことは許されない。
とは言いつつも、いろいろ産みの苦しみを味わいながら確実に何かを掴んでいく、彼の他の作品の方に魅力を覚えていたり。逆に比較的安定感のある彼は、本作のようにあるべきだと思ってみたり。

M-01 Intro
M-02 Slide Slender
M-03 Electro Smash
M-04 Plus Alpha
M-05 Death Breaks
M-06 Mid-Day
M-07 Fundamental
M-08 Criminal Groove
M-09 BeatCast Yourself
M-10 Survival seven
M-11 Over Circle
M-12 Dead Or Alive (Inst.Version)

M-12は前年に発表したNONGENETIC(SHADOW HUNTAZ)とのコラボ作品収録曲のインスト。一応、ボートラという枠組みだが、日本盤しかフォーマットがない


2014年5月18日日曜日

RIOW ARAI 「Graphic Graffiti」


2011年作、大台の十枚目。
本作から、自ら立ち上げたRARでのリリース。

今回も異色作の内に入るかと思われる。何せ切れ味鋭いワンショットのブッコミが特徴の上モノ使いを、ループを立てたミニマル路線にシフトしたのだから。
M-03のように、如何にも彼っぽいベースラインをあえて寸断して短尺ループを生成し、回しっぱなしにするメソッドで、いつもとは違う匂いを感じ取っていただきたい。
そこで固定観念とやらが邪魔になるので、同時に取り払っていただきたい。
加えて、ヘッドフォンもご用意いただきたい。

さて今回、短尺ループを主音に立て、副音もループで固め、そのループの抜き差しの妙で勝負を挑んでいるかのように思える。
あらら? 日本ビート学の権威の金看板は?
いやいや、ここでヘッドフォンを。聴いていた印象ががらりと変わるので。

とりあえずいつもの左右チャンネルで音色をちらつかせる手管は、以前より控えめだがちゃんと残してある。それよりもM-05やM-07のようなスネア音色に過度のエコーを掛けたり、カットしたり、カットした残響音で拍を取ったりするダビーな創りの方が特徴的だ。
だがそれを以て新しいビート解釈! と語るのは表層的かと思う。
本作は、やけにビートが刺すのだ。
今まではアタックの強いビート音色を用いていても、刺されるような触感はワンショットの上モノが担っていた。だが今回、鈍器で殴打一辺倒ではなく、時には大剣、らしさを求めて突剣、いやらしく待ち針、と要所用途に合わせたビート音色で鼓膜を貫いてくる多角的かつ逆転の発想を用いているのだ。
おそらくスネアよりもキックの入れ方に力を入れた結果かと思われる。それよりも、ループという刺せない上モノを立てた以上、彼の持ち味である歯切れの良さを保つための結論かと筆者は考えている。
鼓膜を突き刺す鋭利なビート――ビート特化の彼らしい新たな方向性かと。

最後に、今回は恒例のイントロはないものの、終いのM-10はアンビエントで優しく締める。いろいろ音楽性は冒険するのだが、アルバム内ではこのような法則性を堅持するのも、几帳面な人柄が伺えて面白い。

M-01 Adam
M-02 Centerposition
M-03 Middleage
M-04 Beatleaks
M-05 Desolation
M-06 Regret
M-07 Stopcoolconfine
M-08 Exposure
M-09 Newstream
M-10 Graphication

なおRARで、ただでさえダビーな本作のダブヴァージョンがオンライン配信販売されている。


2013年8月18日日曜日

R + NAAAA 「R + Naaaa」


日本ビート学の権威・RIOW ARAIが五名の女性シンガーを迎えた歌モノアルバム。2009年四月発表。(コチラ同年十一月発表)
ユニット名は〝あーるぷらすなー〟と読む。

参加シンガーはNONPAREILLE(ノンパレイユ)こと平松奈保子ANNA YAMADA(山田杏奈)、スペイン帰りのAKANE DEL MAR、日独シューゲイザー同盟・GUITAR(注:ユニット名)AYAKO AKASHIBA(赤柴亜矢子)KARENACHICO。しんみり型あり、クール型あり、ウィスパーあり、オーソドックスありと、人選に多様性があり〝音色としての歌〟を意識していることが窺われる。
だからと両極端に、静謐トラックとガッツンガッツンアゲていくアッパートラックが同居している訳もなく、おおむねアルバムはチルアウト方向でしっとり進行してゆく。

ではRIOW ARAIのほぼ代名詞であるボトムラインはと言えば……相当シンプルに組んである。上モノも、流れに〝刺す〟のではなく、流れに〝沿って〟いる。歌モノだからシンガーを立てる、という前提もあるが、ツジコノリコとのRATN同様、彼の中で〝コレはコレ、アレはアレ〟と意識的に分けているよう見受けられる。
それが良く出ているのは、意外にもM-07。メイン活動の「Mind Edit」のラストに置かれ、作中で浮いていた〝Daybreak (I Dine At)〟の歌入り/ボトム打ち替えリメイクなのだが、NONPAREILLEの優しい声色も相俟って、元ネタでは寸足りなかった部分が埋まった好トラックに仕上げ直されている。
メイン活動のトラックを流用して、どこが〝コレはコレ、アレはアレ〟なの? なんて疑問もあろうが、荒っぽいビートのアルバムを心地良く締める意図を持って組んだチルアウトトラックを、チルアウト的構成のアルバムで再構築して何か問題でも? と返答したい。

いつものブロークンなビートを期待しては肩透かしを食らう内容だが、一皮剥けた「Rough Machine」以後の活動からして、一作品中でアレやコレやと音楽性を掻い摘んでも自分の作品の聴き手は付いて来てくれない、と判断したかのような一作毎での作風の統一感は、彼なりのレッテルの剥がし方と考えれば、作品へ素直に入っていけるはず。
そうなれば、学究肌でありながら常に自分の可能性を探求し続け、かつ冷静に自己分析が出来る、彼らしい作品だと気付くだろう。
ただ、外国語詩の拙い発音や、現時点でアルバム一枚歌い切らせるに至らない実力のシンガーも居る点が引っかかったり、そこまで気にする必要もなかったり。

M-01 ルーム4307 (NONPAREILLE)
M-02 クチカケトマト (ANNA YAMADA)
M-03 家 (ANNA YAMADA)
M-04 Volar -羽ばたき- (AKANE DEL MAR)
M-05 CRY4U (AYAKO AKASHIBA)
M-06 UNI-CO (ACHICO)
M-07 トーキョー (NONPAREILLE)
M-08 Ilusion Eficaz -価値ある幻想- (AKANE DEL MAR)
M-09 Aerial Line (ANNA YAMADA)
M-10 Ride On (AYAKO AKASHIBA)
M-11 Noche Del Aire -空気の夜- (AKANE DEL MAR)


2013年1月18日金曜日

RIOW ARAI 「Electric Emerald」


2007年作、八枚目。Libyus Musicからは四枚目。

四つ打ちテクノ作品である。
今までとまるで作風が違うのに、別名義リリースをしなかったのは『メリットを感じなかった』かららしい。
ならば、日本ビート学の権威が特有の歪なブレイクビーツを封印してまで、上モノ勝負を賭けてきた! と考えて良いはず。
だが元々は彼、YMOを真っ先に影響土壌に挙げる人。デビューが日本テクノレーベルの老舗・Frogman Recordsな人。しかも常に水準以上の質を提供出来る、作品に安定感のある人。作風の大変化に戸惑うコトなどない――
なんて聴く前、思ってマシタ。

今回はテクノという音楽の構造上、上モノはループ中心。それでもシンバルを左右に散らしたり、装飾音を左から右に通したりと、いつもながら細かい仕掛けは流々。音圧の良いヘッドフォンで聴くとかなり楽しい思いが出来るはず。
ただ、今回は久々に目を瞑り切れない難点も存在する。
普段の作風では、イレギュラーなビートをかわすようなタイミングでワンショットの上モノを打ち、その妙を味わわせてくれた。だが、シンプルビートに長尺ループのミッドテンポだと、例えばM-03のように噛み合わせ次第で何とももっさりしてしまうのだ。
また、今回全てシンセで取ったという音色は、ダサカッコイイのもあれば、あまりに月並み過ぎて音色の選択を間違えてるっ! と指弾したいのもある。
おそらく四つ打ちを意識し過ぎて、形に捉われてしまったのかも知れない。普段の作風ではジャンルを俯瞰してトラックを組める人なのに。

ココまでネガティヴなコトを書いてしまうと『お、駄作ゥー!』と勘違いされそうだが、ちっともそんなコトはない。
今までこれほどわくわくするようなイントロがあったか、と言いたいM-01。「Front Mission Alternative O.S.T.」期をアップデートしたようなM-02も秀逸だ。コレを含めた、エレクトロっぽい安くてねばっこいグルーヴの(俗に言う〝TB-303っぽい〟)ベース音色を用いたトラックは得手のようで、おしなべてカッコイイ。
しかもアルバム終盤に地味な秀曲を揃えているのも嬉しい。アッパー祭りとばかりに勢いで攻め切らず(それはそれで潔くて好きなんだけど)、こうした引きの美学で締める老練さもこのアルバムで彼が学んだ手管の一つだろう。

また数年後、このような四つ打ちテクノ路線を期待したい。たぶん凄いの来るよ。

M-01 Intro
M-02 Chocolate Derringer
M-03 Eternity Ring
M-04 Acid Samba
M-05 New Tube
M-06 Interface
M-07 Gps
M-08 Windy Grassy
M-09 Toys Boys
M-10 Brightness
M-11 Over Ground


2012年9月18日火曜日

RIOW ARAI 「Number Nine」


タイトル通り、九作目。2009年作品。

思えばココまでよく洗練されたなあ、というのが第一印象。
構成はいつものアタックの強いボトムにワンショットの上モノメイン。ところどころビットレートの低い音色を用いているが、ただ単にその音が欲しいだけで、低スペックに喘ぎながら創っている節もない。ココら辺のぶれなさは流石だ。
ただ、以前よりも音を左右にパンしまくるような卓加工頻度が減った。初期、「訳が分からない」と揶揄された特有のブロークン過ぎるビートがややマイルドになった。

それらよりも、メロディの使い方がいつの間にか、平然と、達者になったのが大きい。

Jazzirafiなるエレガントな歌唱の女性シンガーを起用したM-05と、そのほぼ対になるM-10などその最たる例。上モノループのまばゆさに加え、それとビートの間に潜り込ませたさり気なく甘いベースラインなど、無骨なトラックを好んで組んでいた頃とは聴き違えんばかりだ。
恒例のメロディアストラックで締めるM-11も、お約束に堕せず、違和感も抱かせない。
その一方で、卓でDJバトルをするかのようなM-04など以前の彼らしいトラックなのだが、これが何と九分越えの長尺曲! となると話が違ってくる。しかも、それを頭か終いの背景色を揺らがせて時間稼ぎするようなせこい真似などせず、いつでも締められる雰囲気を醸し出しておいて、真っ向からぐいぐい乗り切ってしまうのだから恐れ入る。
また、ケーハクなフロウが持ち味(!?)のラッパー、ノーキャンドゥー参加のM-03とM-08にも、こちらから迎え撃てるほどの余裕を感じる。

要は音に自信に満ち溢れている。

一枚一枚、音源を出すことでデータを蓄積し、次へ次へと反映させてきた、超が付くほどの堅実派である彼も、そろそろメインストリームに殴り込みをかける時期なのかなあ、自覚し始めたのかなあ、なんて思ったりもした。
だがそれが良いのかどうかも分からない。このままデータを取り続けて向かう先に何があるのかも分からない。
サイコロを振れば振るほど、出目が均一化されていくような状況なのかなあ、なんて偉そうなコトを考えてみたりもした。

M-01 Intro.
M-02 Status
M-03 Meet Me In Ebisu (featuring Nocando)
M-04 World Wide Wave
M-05 Electricity (featuring Jazziraffi)
M-06 Sweet Tweet
M-07 Funkenstein
M-08 Open Eyed Dreams (featuring Nocando)
M-09 Social Pressure
M-10 Remember Me (featuring Jazziraffi)
M-11 Moonlight


2012年1月18日水曜日

RIOW ARAI + NONGENETIC 「Riow Arai + Nongenetic」


毎度お馴染み日本のビート・プロフェッサーとSHADOW HUNTAZのリーダー、奇跡の邂逅。2005年作品。

2005年はRIOW ARAIにとって攻勢の年だったように思える。
クリックハウスを能くするNAO TOKUIとのコラボを皮切りに、オーストリアの名門・Megoが輩出した日本の音響歌姫・ツジコノリコとのRATN名義、そして本作である。
彼が前作で自らの音楽的土台を完全に固めた、もう揺るぎないと確信してのタッグ戦線進出だと、筆者は勝手に推測している。
今まで機会のなかった、1+1を2ではなく10倍の200にする挑戦の始まりだ。

まずは、なぜかマズレク大将作品の日本盤ライナーで書かれていた、本作についてのおかしなエピソードを紹介。
この太平洋を隔てた競演は、何とNONGENETICが、RIOW ARAIのHPに載っていたサンプル音源に自らラップを重ねて勝手に送り付けてきたコトから端を発しているらしい。
しかもこの二人、本作発表時点で顔すら合わせていないらしい。コレもう〝邂逅〟ですらない! (現在はどうなんだろう)
なお、レコーディングは東京とハリウッドに分かれて録られた。

そんな二人から出て来た音はやはり、ガチのヒップホップ。
既存のヒップホップフォーマットから外れたトラックに乗りたがるNONGENETICと、自らの音を様式化するべくヒップホップフォーマットに近付いたRIOW ARAIの合体は、皮肉と言うか理に適っていると言うか。
とは言え、ヒップホップという音楽の構造上、タイマンではない。NONGENETICの同僚・DREAMとBREAFFなどを含む総勢六名のラッパーが脇から支える。
また、今でもRIOW ARAIと繋がりのあるワンターンテーブリスト・DJ DUCTの活躍が光る。そのアグレッシヴなスクラッチはトラックに間違いなく活力を与えている。それこそ〝RIOW ARAI + NONGENETIC + DJ DUCT〟名義でも差し支えないくらい扱いが良い。

前作のIntroがココまで発展したM-01。湿ったギターのカッティングループが心地良いM-05。声ネタの不穏さから聴いていてだんだん不安になってくるM-08。へヴィかつファンキーにガンガンアゲていくM-13から、ヒップホップらしく大団円なまったり空気で締めるM-14とまあ、隙皆無で完成度の高いアルバムだが、筆者はふと気付く。
「もっといつものアライさん流ビート学を貫いて、ノンジェネ含む参加メンバーを統べる形になるかと思った」
その実、本作は思ったよりRIOW ARAI色は濃くない。共演盤なのだから当たり前だ。
いつもよりループで構成されているトラックも多い。ラップという点で置いて行く音を立てている以上、同じように点を置いて行くいつものワンショットメインの創りではカブってしまうという配慮かも知れない。

配慮――唯一無二の個性を持ちながら共演者を丸呑みしない賢明さを持つ彼は、音源を出すという研究から得た成果をもれなく脳内へと蓄積している。
ただし、一生結論を見ないのが〝学問〟というものだ。

M-01 Travel The Night
M-02 Mrsmr
M-03 Neo Con
M-04 Betterdays
M-05 Oh Snap
M-06 Kiss
M-07 One Dolla
M-08 Scared
M-09 Parallel Lines
M-10 Stop Lying
M-11 Dolla
M-12 Incredible
M-13 Dead Or Alive
M-14 Change


2011年11月18日金曜日

RIOW ARAI 「Rough Machine」


2004年作、六枚目。今回はいつもとはちょいと違うぞ! 

彼は二枚目から三枚目へ移行する際に一度、音創りのメソッドにモデルチェンジを施している。なのに別人の如く変貌しないところが、常にぶれないこの人らしくもあるのだが。
さて今回は筆者が思うに二度目のメソッド変更盤である。
ならさぞかし……と思いきや、表面上はいつも通りだったりするのも、常にぶれないこの人らしくもあるのだが。
上モノはワンショットメイン。装飾音の鳴る位置を散らしまくる。ブロークンでアタックの強いビート。のっけがイントロで、締めがアンビエントなアウトロ。

ほんとに変わったの?
上記の列挙部分はあくまでトラックの枝葉。問題は根幹であり、本質。

具体的に言えば、以前は『どこのジャンルに押し込めて良いか分からないから、とりあえずクラブミュージックにしとけ』みたいな曖昧な位置取りに居た。それを生かして、比較的自由にトラックを組んでいたように思える。
そこへ、本作からヒップホップに自ら近付いた。
ただヒップホップと言っても、MCやトラックメーカーの観点ではなく、ターンテーブリストの視点でトラックを構築していると気付いた時点で、筆者のにやにやが止まらない。
本作を聴いて、筆者の脳内にはサンプラーのキーパッドを叩いている彼が浮かんでいない。それはもう、2ターンテーブル&DJミキサーだ。
まるで皿をこすっているかのような、つんのめる装飾音のぶち込み方からしてそう。装飾音を左右にパンした際、まるでミキサーの横フェーダーを振って出したような両耳の感触からしてそう。ビートや上モノと装飾音のグルーヴィーな絡みからしてそう。

装飾音の可能性を示唆した「Beat Bracelet」。効果向上を図った「Device People」。ヒップホップという様式を用いて具体化した本作――
これは焦点を絞った末ではなく、なるべくしてなった正当進化だと思う。

でもこの『RIOW ARAIの組んだトラックをDJ RIOW ARAIが回した』ようなメソッドは以前からちょぼちょぼ出しているのよね。本作のように完全に開花していないだけで。

M-01 Intro
M-02 Break Infection
M-03 Rough City
M-04 Forward Direct
M-05 Election
M-06 Magnet
M-07 Ground Heat
M-08 Glare Glance
M-09 Funky Jockey
M-10 Overtime


2011年10月18日火曜日

RIOW ARAI 「Device People」


2003年作、五枚目。

今回もM-01はイントロ。まるで70年代火サステーマ曲のような古臭い音で幕開け。
ならば幕引きのM-11はいつものメロディアストラック? ノンノン。
そうそうお約束に準じてくれないのがこの人。

前作で数曲あった、ぽこぽこしたスネアのファニーな音色はなくなった。いつも通り、音割れも気にせずアタックの強さ勝負。
相変わらずワンショット中心に構成する上モノも荒っぽい音が多く、音色使いがマイルドだった前作と言うよりも前々作の延長線? と一聴目の耳はそう答えるだろう。
前作の過密な音響工作は聴き手の理解を得られなかった? だから自分のトラックメイキングのメソッドを元の位置に戻したんだろうって? ノンノン。
そうそう守りに入らないのがこの人。

本作の音響工作は、前作での実験を踏まえて発生した反省点を生かして創られている、はず。もちろん彼は前作が失敗だとは更々思っていない、はず。
相変わらず上モノをぶんぶん左右にパンする。ピッチを下げてトーンを落とすコトで同じ音色に変化を持たせたりしている。前作ほど過度ではないが、副音を鳴らす位置を弄ったりも当然している。
更に本作では、この曲のこの一瞬だけしか使わない贅沢なワンショットもある。今まで以上にディレイが執拗だったりもする。M-04のように驚くほどシンプルなビートが万華鏡のようにどんどん様変わりしていく、今までとは違った凝り方も。
全ての音の意図が明確だ。

(筆者の考えた)前作の反省点とは、「罠を設置しても、はまってくれなくては効果がない」ということ、なはず。

前作の“罠”は細か過ぎた。頭を使って真剣に聴かないと気付かないくらい。(それに気付きさえすれば、以後は意識空っぽでも桃源郷なんだけどな……)
それでは工夫した甲斐がない。“罠”にはまらせるよう、あえて印象的な音を惜しげもなく捨て音に使ったり、鳴らす場所以上に鳴らし方に気を配ったり、音パーツ加工の練り具合が尋常ではなかったり。

これは聴き手に配慮した音創り、なのかも知れない。
いや、それ以上に彼の一音一音に賭ける情念やら何やらの方がびんびんに感じる。
つかもはや、筆者には本作に弄された数々の音響工作に、きちんと掴みや前振りやガイド板が仕込まれているように聴こえるのさ。コレ、どォゆうコト!?

M-01 Intro.
M-02 Break Literacy
M-03 Inner Blowing
M-04 Mode Down
M-05 Hip-Ruins
M-06 Star Trash
M-07 Funktions
M-08 Heavy Baby
M-09 Irregular Tips
M-10 Supperless
M-11 Non Fiction


2011年9月18日日曜日

RIOW ARAI 「Beat Bracelet」


2001年発表の四作目。

まず一聴、あれっ? となる。
アルバムの前半、ビートがリムショットだったり、ぽこぽこ鳴る音色を使っていたり。割れても良いからアタックの強い音ばかりを好んで使っているいつもとはどこか違う。
聴き進めていけばいつもの音色に落ち着くのだが、それよりもビート構成がいつもの彼に比べていやにシンプル(あくまで彼基準の“シンプル”なので、他のトラックメイカー基準だとやっぱりへんちくりん)。また違和感を覚える。

筆者は「RIOW ARAIに真っ当な音は期待してないんだけどなあ……」と首を傾げつつヘッドフォンで聴き直してみれば驚いた。
ビートがシンプルになった分、音響工作がこれでもか! と言わんばかりに密だった。

曲構成は以前と一緒。ボトムライン重視で、上モノはワンショットがメイン。メロディ度外視。音は加工せず、素のまま鳴らす。
で、トラックの軸となるメインの上モノと、スネアやキックといったビートの根幹をど真ん中で鳴らすのは当然として、背景トラックに当たるハイハットを含む装飾音を、とにかくまともに鳴らさない。隙を見ては左右に揺すりたがる。一音ごとに左右へ振り分けるなど当然。同じ音を両耳で同時に鳴らすのもアリ。全く同じ音を全く違う位置で鳴らしもする。
極め付けは、ある些細なワンショットを片方の耳だけ、イレギュラーなタイム感で、極端な位置で、トラックにわざと埋もれさせて鳴らすような細っかい仕掛けまで施した点。
ココまでするかと。

要は「聴き取りやすい部分は分かりやすく組んだけど、聴き取りづらい部分こそ凝って練り上げたよ」というコトなのかも知れない。
とりあえず一度、ヘッドフォンを装着して聴いて欲しい。
なるべく頭空っぽにして聴くと、どこから音が鳴るか読めなくてメチャメチャ楽しいよ! 頭を使って聴いちゃだめだよ! すっごく疲れるよ!

で、最後のM-11は例の如くメロディ主導のアンビエントトラック。あー、お疲れさまー、って声を掛けられたような感じかなー。

M-01 Intro
M-02 Side Swipe
M-03 Kerl
M-04 Kusakari
M-05 Provoke
M-06 Revelation
M-07 New Thread
M-08 Fleeting
M-09 Brick Bat
M-10 Compress
M-11 Bitter Sweet


2011年8月18日木曜日

RIOW ARAI 「Mind Edit Syndicate」


2003年発表の編集盤。
内訳は1999年発表の三枚目「Mind Edit」から全曲(M-01~M-11)と、同時期にLPのみで発売された「Mind Syndicate」全十六曲から二曲削った(M-12~M-24)もの。
ランタイムが78:53なので、一枚に収めるために泣く泣く削ったのだろう。

日本のブレイクビーツ職人はDJ KRUSHしたりO.N.O.したり、侘び寂びの風情が音から滲み出ているが、彼も例に違わない。
お世辞にも良い機材を使っているとは思えない安い音色を巧く工夫して、効果的に聴かせる才に長けている。
彼の場合はそれが顕著で、音色の安さを逆手に取った攻撃的なトラックを得意としている。本質的な意味でパンキッシュなトラックメイカーである。

アルバムはほぼ、ビートとベースラインのみで進行する。上モノは様々な音色をぎたぎたにぶつ斬ったワンショットが絡むくらい。
単調か、と思えばとんでもない!
高度で開いたパラシュート並みに、予測出来ない揺らぎ方でトラックは進行していく。着地点を定めぬまま――地に下りた時点で曲は終いだ、と言わんばかりに。しかもその終いの地点にはきちんと×の印がついているのである。
全てが緻密に計算されているのに、そうは思わせない匠の業。音色の安さも良いカムフラージュとなっているのだろう。

ただし! M-11を聴けば納得していただける方も居るかと思われるが、残念ながら(この時点で)彼はメロディを書くセンスに欠けている。
「Mind Edit」部分唯一のメロディ主導トラックだが、浮いているどころかありきたりすぎて“RIOW ARAIの組んだメロディアストラック”の意味さえ見出せない。
ただし! 彼の組むボトムラインは圧倒的に強力だ。
これでは長所特化のビートモンスターとして進むレールを敷かれたようなもの。今後、彼がどう成長するのかは彼次第、といったところか、この時点で。
(近作も後々書くよ)

M-01 Intro
M-02 Undulation
M-03 Inter
M-04 Disturbance (Re-edit)
M-05 Gyrate
M-06 Hyp
M-07 Gold
M-08 Flatter
M-09 Break_Roads (Re-edit)
M-10 Trillion
M-11 Daybreak (I Dine At)
M-12 X-Rated
M-13 55
M-14 Utopia
M-15 Tide
M-16 Groo
M-17 Hint
M-18 Forest
M-19 Ep4
M-20 Madd
M-21 Solitude
M-22 Ssk
M-23 Stoic
M-24 Bridge

「Mind Syndicate」についてほとんど触れずに文を締めちゃったけど、「Mind Edit」よりも硬軟使い分けた多彩な音色使いが楽しめる、元々アナログ限定発売だったとは思えない好内容だよー。
特に筆者は白土三平の世界観ずっぱまりのM-18が大好きだー。勝手に当アルバムのリーダートラックだと思ってるよー。