2015年7月30日木曜日

LAUREL HALO 「Quarantine」


ミシガン州アナーバー出身の女性クリエイター:ローレル・アン・チャートゥによるデビュー盤は、かのHyperdubから! 2012年作品。
ジャケは日本美術界の困ったチャン会田誠の「切腹女子高生」。

聴かせたいのは彼女自身の歌声。フォークシンガーとしての経歴もあるらしい。
だが決して歌モノではない。あくまで、好き勝手に出せる上にキャッチーな有用音色を有効利用しているだけ。喉から発せられる物憂げなトーンを音符に乗せ、多重録りしてそれぞれ音色化したブツをレイヤーの如く神経質に編み、左右チャンネルのあちこちに振りまくという色んな意味で面倒臭そうな作風が特徴。
そこへ、あまり高くない機材から捻り出した印象的なシンセ音を等価で絡め、たまに拍取りのぼそぼそしたビートを這わせるのが彼女のメソッド。

つまりフロアをロックする意図を感じない打ち込み音楽であると。(共演してるしね)
なお、彼女の最大影響土壌はデトロイトテクノの模様。

筆者的聴きどころはM-05と小曲M-06を挿んだM-07。
M-01の爽やかで朗らかな歌声に騙されてはいけない。
まずはM-05。感情を殺した声色を無機質にハモらせ、ぼそぼそとシンセを意味深にループさせ、サビで『ハリケーン(激発)はいつでも来るんだから……』と歌い上げる空恐ろしさよ。
続くM-07ではサスペンスドラマちっくで浮遊感のある不穏なシンセに導かれ、やがて……突如鳴る、逆回転仕立ての金切声は慟哭なのか断末魔なのか。
そのタイトルは『骸』。

メンヘラかよ!

――とまあ、女性ならではの妖しい魅力がところどころに詰まったいけない一枚。
ただし記譜の出来る温かみの感じられない音色を軸に構成しているため、想像よりは聴きづらくない代物かと思われる。
加えて、きちんとクラシック教育を受けた人なので、トラックが端正で理路整然としているのも好印象。メンヘラを演じてる訳ね。

M-01 Airsick
M-02 Years
M-03 Thaw
M-04 Joy
M-05 MK Ultra
M-06 Wow
M-07 Carcass
M-08 Holoday
M-09 Tumor
M-10 Morcom
M-11 Nerve
M-12 Light + Space


2015年7月20日月曜日

FOUR TET 「Morning / Evening」


〝音色の魔術師〟キエラン・ヘブデンの七枚目は2015年作。
アナログ、ファイル配信は自己レーベルText Records。US盤CDはFRIDGEの過去作でお世話になっているTemporary Residence Limited

ご覧の通り、約二十分の長尺二トラックをA/B面に割り振った剛毅なアルバム。
当然、アナログの良音質を保つランタイム(片面二十分弱)でまとめられ、ヒスノイズやチリチリノイズも気にせず録られ、ボトムに速めの四つ打ちが敷かれ、紙ジャケ仕様(今回は口が外開きなのでディスクが取り出しやすいぜ!)を施した、現場志向の強い前作の流れを汲む仕上がりとなっている。
が、その精神性と当作品における本質はやや異なっているように思える。

出だし爽やか。まるで晴れの日の朝のよう。
ぽそぽそっと拍を刻むビートに、インドかタイ風の節回しが強烈なインパクトを与える女声歌ネタが、寝起きのぼやけた視界を飛蚊のように舞う。その裏で柔らかいシンセ音がまどろみのように鼓膜を喜ばせ、ベース音代わりのドローン音色がシーツのようにまとわりつく。
ここら辺で聴き手も首を傾げだすことだろう。
ひたすらループする主音の歌ネタは、前作のただサンプラーのキーパッドを押しましたと言わんばかりの稚拙な用い方ではなく、エコーをかけたり、被せてコーラスのように絡めたり、リバーブをかけて歪ませたり、左耳から右耳へ通したり、ピッチを上げ下げして声のトーンを高くしたり低くしたりと、それはもう(朝なのに)白昼夢のような甘い甘い音色に仕立て上げている。
その上、たゆたうような各種シンセ音も緻密に織り上げ、さり気なく装飾音をあちらこちらに散りばめ、浮遊感をかさ増ししている。

えっと、クラブノリじゃ……ないよね?

さて、M-01後半から跨いでM-02前半はほぼアンビエント状態。二度寝したのかな? と思わせるよなチルアウトパート。ほぼノンビートで、覚醒的なシンセ使いや女性のコーラスとハミングが優しく添い寝する様は文字通り夢見心地。
そこからじわじわとビートが復活。午後は夜型民族(と書いてパーリーピーポー)、目覚めの時。M-01でのような弱い打ち方ではなく、パワフルなスネアと歯切れの良過ぎるハイハットがミニマルに、しかもやや遠巻きに鳴り続ける。
――さあ今日もクラブが呼んでるぜ! と言わんばかりに。
アルバムはそんな推量を聴き手に抱かせつつ、幕を閉じる。
――後は俺が回すクラブに遊びに来てくれ、と言わんばかりに。

つまり、皿と箱は別物だと気付い(てくれ)た模様。
やったね。

M-01 Morning Side
M-02 Evening Side

Hostessから今回も日本盤出ているけど……ステッカー、要る?


2015年7月18日土曜日

GRAILS 「Burning Off Impurities」


オレゴン州はポートランドのマルチプレイヤー四人衆、2007年作の三枚目。
ブルックリンの美味しいトコ取りレーベル、Temporary Residence Limitedより。

ドラム、ベース、ギター(エレ、アコ)、キーボード(ピアノ、オルガン)の基本楽器を軸に、ハーピシコード、メロディカ、ローズ、バンジョー、ペダルスティール、ウード(中東のリュートみたいなの)と、さまざまな楽器を曲によって使い分けるインスト音楽なのは今まで通り。ハーモニカ、金管楽器類、ヴァイオリンのゲストも迎えている。
だが、2004年発表の二作目まで養っていたNeurot Recordingsには悪いが、彼らはこの作品で本格化した。スタジオセッション盤、スプリット盤、単独EP、編集盤――と、三年もの間にじっくりマテリアルを積み重ねることで音楽性を熟成させた印象を受ける。
当ブログで何かと名前の挙がる優良インディーズのNeurotをクサすつもりは毛頭ないが、在籍時はTORTOISE影響下にあるポストロック有望株でしかなかった。
いやもう本当に、劇的に化けた。

その熟成に至るキーワードは二つ。ダイナミズムとトライバル風味だ。

まずはゆっくりと助走代わりに反復し、機を見計らって一気に駆け昇り、後は鬼気迫るテンションで乗り切ってしまう、振り幅の大きい構成力を会得したこと。
ザック・ライルズとリーダーのアレックス・ジョン・ホールの主にギター二人が絶妙なユニゾンぶりで主音の弦楽器を掻き鳴らしまくり、主にベースのウィリアム・スレーターが負けじとぶりぶりうねりまくり、もう片方のリーダーである主にドラムのエミール・エイモスが皮をびんびんに張った太鼓をばっこんばっこん叩きまくる。
それで聴き手のアドレナリンがぐんぐん上がる。件のテンションを高めてくる曲と、比較的穏やかな曲をほぼ交互に配すやり口もそれを助長してくれる。
また、本作から中近東の音階をさり気なく用い、民俗音楽っぽい雰囲気を醸し出してきた。それによりエイモスのドラムも、よりパーカッシヴなプレイにシフトしている。

つまり野性味が増した、と。
音世界をより激しい方向性にシフトして一皮剥けた、実は珍しいタイプのバンド。

M-01 Soft Temple
M-02 More Extinction
M-03 Silk Rd
M-04 Drawn Curtains
M-05 Outer Banks
M-06 Dead Vine Blues
M-07 Origin-ing
M-08 Burning Off Impurities

実は日本盤も出ている。


2015年7月16日木曜日

JAMIE LIDELL 「Jamie Lidell」


Warpのファンキーソウル兄貴、2013年作の五枚目。

前作ではゲストを多数迎えて拡散志向を打ち出した訳だが、今回は焦点を絞っている。
早くも断言してしまうが、彼の脳内で思い描く音世界は完成したのだから。
自身のクセのある超個性を前面に打ち出し、卓を駆使したにもかかわらず暑苦しさ熱量も情感も伝わる変態濃厚ファンクがアルバム全編で繰り広げられている。
そろそろ世界は、このエキセントリックでスタイリッシュでホットでカリスマティックなジーニアスの存在に気付いた方が良い。
そのくらい彼がネクストレヴェルに達した作品だろうと思う。

さて、本作最大の長所だが、彼自身の声が類稀なるキャラクター性を有していることを自覚して創っている点にある。
低音に渋みがあり、中音に張りがあり、高音に艶がある。全体的にアクがある。
本作はそんなオールラウンドシンガーな彼がオーヴァーダブを駆使して全ての歌を担当している。もうこれだけでおなかいっぱい彼のカリスマ性が存分に感じられようもの。
曲後半で〝俺Featuring俺With俺コーラス隊〟な熱い暑い掛け合いが左右チャンネルに分かれて繰り広げられる、大興奮のM-02。タメの利いた装飾過多なトラックへ向けて、多重俺コーラスが更に覆い被さるM-03。モジュレイターを玩具に、人を食ったようなやさぐれヴォイスで酔っ払い感丸出しのM-06。プリ様リスペクトなねちっこいトラックにも関わらず、第一声で兄貴が来たと思わざるを得なくなるM-08など――今までの彼の音楽性よりも、巧く彼のキャラクター〝声〟を利用したトラックが耳を惹く。
創造に大切な、第三の眼で己を見られている。

俺がトラックを組んで、俺が歌って、俺が編集しているのだから俺じゃない訳がない! と胸を張って言い切れるソロ音楽クリエイターが世界に何人居るのか。当たり前のコトじゃないかと反論されるかも知れないが、虚空を見上げ思い浮かべてみて欲しい。果たして何本指が折れるだろうか。
筆者は三本目くらいで彼の名をコールすることだろう。
『タイトルを付けるのは好きじゃないだけなんだけど、コレが俺の初作品と言って良いから』と語るくらいセルフタイトルがぴったりの作品。まだまだ上がるぞ。

M-01 I'm Selfish
M-02 Big Love
M-03 What A Shame
M-04 Do Yourself A Faver
M-05 You Naked
M-06 Why_Ya_Why
M-07 Blaming Something
M-08 You Know My Name
M-09 So Cold
M-10 Don't You Love Me
M-11 In Your Mind
M-12 I'll Come Running (Bonus Track For Japan)

ボートラM-12はちゃんとトラックになってるものの、あってもなくても。


2015年7月8日水曜日

SAO PAULO UNDERGROUND 「Tres Cabecas Loucuras」


今度は思ったより真っ当だぞ!
流離のコルネット吹き:ロブ・マズレク大将率いるブラジリアンジャズカルテット(ちゃんと裏ジャケにもう一人居るから大丈夫。仲間外れじゃない!)、2011年発表の三作目。

大将以外のメンバーは前作より固定。一枚目から組んでいるマウリーシオ・タカラ、ロック上がりらしいヒカルド・ヒベイロ、すっかりブラジル移転後の大将作品常連と化しているギリェルメ・グラナードの三太鼓叩き。
だが本作は、前作での三太鼓vsコルネットという妖しい図式に拘らず、より多角的なブラジリアンジャズを標榜している。ドラムをヒベイロで固定し、残りの二太鼓がカヴァキーニョ(ブラジルのウクレレみたいなの)やキーボードのような和音楽器も兼ね、ゲストにジョン・ハーンドンやジェイソン・アダシェヴィッツらを迎えることで、色鮮やかになった。

もう一度書くが、前作がアレ過ぎたお蔭で本作は一聴するに真っ当。音質もクリアだし、ビートを一本化することで曲が整頓されたのも大きい。
もちろん大将のコルネットも絶好調。M-02のブリープノイズまで織り交ぜてのサウンドチェックっぽいアレで聴き手に肩肘を張らせる出だしから、This Is 大将! な金管楽器の高らかな鳴りで各音色を統べるところなど秀逸。まるで大将が譜面台を叩いて総員に開始を促す指揮者のようだ。
また、M-04ではキコ・ディヌッチを迎えてのアンニュイなボサノヴァナンバーも披露。無論、初のヴォーカル入り。後半よりロマンチックに入る大将のコルネットがこれまた絶品。
おおゥ、真っ当……!

ただそれは薄皮一枚の見栄え良い外身。内側は相変わらずえげつない。
編集編集アンド編集の異端ジャズなのは相変わらずだが、主音すら情け容赦なく卓で歪ませる苛烈なエフェクトは少々控え気味。その一方で、どの曲も数多の音色が蠢いていて、妖しさは感じられる。だがそれだけではない。
実は始終音が揺れている。
一曲中のどれかの音色が左右連続パンされ、ふやけている。副音だけでなく、ヴォーカルや大将のコルネットといった主音級さえもその標的たりうる。
ヘッドフォン装着でその音を追っていると、ちょっとした妖しい思いが出来てしまい、困る。

大将はシカゴに残ろうがブラジルへ行こうが、あくまで気持ちイイ音楽を創ることに余念がない、妖しくも一本貫いたかっけーオッサンだ。

なお、後に大将は本作参加のタカラ、グラナードにアダシェヴィッツ、ハーンドンをピックして、その名もロブ・マズレク八重奏を立ち上げる。
そういう意味でもコレは重要作。麻薬にも良薬にもなる妖しい処方箋。

M-01 Jagoda's Dream
M-02 Pigeon
M-03 Carambola
M-04 Colibri
M-05 Just Lovin'
M-06 Lado Leste
M-07 Six Six Eight
M-08 Rio Negro


2015年7月2日木曜日

TUSSLE 「Kling Klang」


サンフランシスコの個性派四人組、2004年発表のデビュー作。
レーベルは、USがGROWINGBLACK DICEから、ISISEARTHHARVEY MILKまで居た、ニュージャージーのTroubleman Unlimited。
EUが地元の英雄:JAGA JAZZIST周りから、ネナ・チェリービョルン・トシュケにせんねんもんだいまでひしめく、ノルウェイはオスロのSmalltown Supersound
日本でのP-Vineが真っ当に見える不思議。(いやココも十分妖しいんだけど)

何が〝個性的〟なのかと言えば、そのバンド編成。
まずはベースありき。音像のど真ん中にふてぶてしく居座り、指弾きの太くてねちっこいベースラインでファンキーに存在感をアピールする。何とコレが主音。
次にドラムだが……何と二人居る。シンプルでノリやすい四つ打ちちっくなミニマルビートでボトムを固める一方、装飾音色をも担っている。しかも双方のキャラ付けも出来ており、片方はクラベスやカウベルのような〝楽器〟。もう片方はビン・バケツ・自転車のホイールのような〝楽器じゃない何か〟。しかもその両者がシンクロして叩くのではなく、キック・スネア・ハイハットというビート根幹パーツをあえて各々で割り振り、後は件の装飾音色をお互いの感覚任せで乗せていくユニークなスタイルを執っている。
最後の一人はギターやキーボードのような和音楽器でしょう! と思いきや、何とサンプラー。曲の飾りにしかなり得ない電子音っぽいワンショットやループ、ドラム二人が叩き出したビートや装飾音を、エフェクターでエコー処理して耳のあちこちへと忙しなく飛ばす、ダビーな音遊びを担当。よって、バンドの最終ラインを統括しているのはココ。
メロディ? ああ、もしかしてそれ、俺の担当かなあ……と、首を傾げながらベースが手を挙げるくらい普遍的な要素排除。
言うまでもなく、もう一つの普遍的な要素・ヴォーカルもなし。声はサンプラーに取り込んだワンショットくらい。純然たるインスト。

これだと何だか小難しそうな音出してそうだな、と思われるかも知れない。だが実際聴くと、そうでもない。むしろ取っ付きやすく思える。
ミニマルなビートと、運指が良く動くベースライン。そこへエフェクター掛かった各種装飾音がサイケちっくに音像全域で瞬く――ディスコちっくで、ドイツ産サイケ音楽〝クラウトロック〟ちっくで、ダビーである、がゆえにポストパンクちっくでもある――彼らの一種独特な折衷音楽を自然と楽しんでいる聴き手がそこに居るはずだ。
それもこれも、無駄を一切省いて各要素の重要部分だけを抽出し、彩り豊かな曲に仕立てられる卓越したセンスが織りなす業だろう。

なお、本作の録音技師はM-03、07、09がNeurot Recordings周りで暗躍するサンフランシスコのデズモンド・シェイ。M-01、02、04、05、08、11はかのへんてこハードロッキンテクノバンド・TRANS AMのギターとか弾いている人:フィル・マンリー。
なるほどねい!

M-01 Here It Comes
M-02 Nightfood
M-03 Eye Contact
M-04 Ghost Barber
M-05 Comma
M-06 Disco D'Oro
M-07 Decompression
M-08 Moon Tempo
M-09 Blue Beat
M-10 Fire Is Heat
M-11 Tight Jeans

日本盤は未発表音源の:
M-12 Sometimes Y
M-13 Untitled
:を追加収録。

EU盤はM08~10がなく、M-11が08になり、以下:
M-09 Eye Contact (Version)
M-10 Here It Comes (White Label Mix)
M-11 Windmill
M-12 Windmill (Soft Pink Truth Disco Hijack)
M-13 Don't Stop (Stuart Argabright Remix)
:と、EPのc/wを集めた仕様となっている。ジャケも差し替え。
ご購入はお好みに合わせて。