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2017年2月28日火曜日

CLARK 「The Last Panthers」


同名のイギリス犯罪TVドラマ(放映開始は2015年11月。日本未放送)の劇伴を、Warpの映画部門・Warp Films絡みであのクリストファー・ステファン・クラークが担当。2016年3月にサントラとして発表したブツ。
ちなみにオープニング曲はデイヴィッド・ボウイ(遺作……)。エンディング曲はLeaf Label所属のROLL THE DICE。(いづれも当作品には未収録)

いびつでカッコイイビートを組める才にも定評があるCLARKだが、そこはオールラウンダーの彼、サントラを意識して全編ノンビートのアンビエント作品に仕上げてきた。
そもそもアンビエント曲は彼にとって、いつもオリジナルアルバム末尾(や日本のみのボートラ)に添えてきた守備範囲内の手法。あとは他ミュージシャン曲のリミックスでいつも無茶苦茶演るような、持ち前の傍若無人さがこの大事な局面で鎌首を擡げないか心配ではあったが――

まるで問題なかった。(ニッコリ

彼の近作で見られた幽玄かつ奥行きの広い音像の中、シンセやエレピを主音に用いた静謐かつ荘厳な雰囲気で、なおかつ2・3分とコンパクトにまとめる、といった劇伴のセオリーに忠実な創りで非常に好感が持てる。残念ながらドラマは未見だが、これならどんなシリアスな映像にも合いそうだ。
彼も大人になったなあ……と感慨深くなった。
ただ、アンビエントは音数を切り詰める作風ゆえにビッグネーム以外は個性が発揮しにくいジャンルなのだが、それも問題なし。各曲のそこかしこに彼が如何にも用いそうな音色が散りばめられており、打ち込み系音楽ファンに目隠しテストしてもCLARK謹製の音楽と回答するはずだ。
逆に一聴で分かる個性を有した彼に、大きくなったなあ……と感慨深くなった。

総評すれば、らしくはないし番外編なれどCLARKはCLARKだった、と。

で、実際のドラマはFoxチャンネルとかAXNとかで日本放映しないの? トレイラーを見る限り、面白そうなんだけど。
放映されない限り、本作もBeat Recordsから日本盤発売されなそうなんだけど。

M-01 Back To Belgrade
M-02 Hiero-Bosch For Khalil
M-03 Diamonds Aren't Forever
M-04 Panthers Bass Plock
M-05 Chloroform Sauna
M-06 Serbian Daffodil
M-07 Naomi Pleen
M-08 Open Foe
M-09 Strangled To Death In A Public Toilet
M-10 Cryogenic
M-11 Brother Killer
M-12 Omni Vignette
M-13 Actual Jewels
M-14 Dead Eyes For Zvlatko / Heaven Theme
M-15 Diamonds Aren't Forever II
M-16 Upward Evaporation
M-17 Hide On The Treads 1
M-18 Hide On The Treads 2
M-19 Hide On The Treads 3


2015年5月6日水曜日

CLARK 「Clark」


Warpの二枚舌男、クリストファー・ステファン・クラークもとうとう七枚目。2014年作。
アートワークはリミックス盤に引き続き、アルマ・ヘイザー

ここにきて、ようやくセルフタイトルだ。
どうせコイツのことだからアルバムタイトルなんてどうでも良いみたいなダダイズムというか当ブログらしい表現でニカ人種っぽい思想で付けたんだろうと踏んだら、何と総決算的な内容だったので驚いた、初聴の感想から。
彼にしては着地点があまりに真っ当。何か悪いモノでも食べたのかと思った。

臓腑に響く音圧と、おそらくチューバであろう低音金管楽器が唸りを上げるイントロM-01で幕を開けたかと思えば、以降ボトムはおよそ四つ打ち。四枚目に回帰したかのようなシンプルさでキックを四つ並べる。
だが四枚目のようなぶんぶんすっ飛ばす破壊的な面は見られない。むしろシンプルなビートに繊細で浮遊感のある上モノを絡める方法論でアルバムをほぼまとめている――つまり上モノは前作っぽさを残して。前述の低音金管楽器やピアノ、鉄琴などの生音色をちょぼちょぼ用いる点も、その思いを助長させる。お蔭で、作中でアクセントを取るかの如くぽつぽつと割り込むイキの良さそうなトラックですら、どこか落ち着き払って聴こえる。締めのM-13も前作同様、穏やかでちょっぴり不穏なアンビエントトラックだ。
そこら辺で老練した彼の総決算っぽさが垣間見られなくもないが、音響的には根の深い構造が組み込まれているのを見過ごす訳にはいかない。

本作は近年のクラブ系の流行に即し、ダビーだ。
ダビーといっても、音色の加減算と拡大縮小で構築する古き良きダブメソッドを用いて組まれている訳ではない。幽玄な背景音色を垂れ込めたり、一部音色を籠らせたりノイズを塗したりして遠巻きに追いやりつつ、出来た広いスペースの真ん中で主音を奏でつつ、副音をあちらこちらで踊らせる、詐術のようなダブステップ以降の空間処理法だ。現にM-07はCLARK流ダブステップと称して憚らないトラックだ。
この現代的なダビーさが本作のキモだ。前作でもそれっぽさはあったが、世相と巧みに折り合いをつけて自分なりに深化させてみせたのはコレが初めてなのだから、結局は何をしでかすか分からない彼なりに奇を衒っていることとなる。
そうか、そう来たか。

コレを成長と見るか、迎合と見るか、老練と見るかは人それぞれ。
ただ前作でちょっとだけ窺わせた借り物臭さを、間に挟んだミニで修正し、本作できっちり払拭している点を指して、聴き手はどう感じるのだろうか。
筆者的聴きどころは、あちらこちらで瞬く電子音色を歪ませたピアノ音色が切り裂くM-03から、風の強い草原で遠巻きに鳴らされる流麗な長尺ピアノループを軸としたM-04へ進み、やがて曇天となり雷を呼び、力強い四つ打ちキックを取り巻くようにエコーがかった攻撃的な音色が雪崩れ込んでくるM-05の流れ。

M-01 Ship Is Flooding
M-02 Winter Linn
M-03 Unfurla
M-04 Strength Through Fragility
M-05 Sodium Trimmers
M-06 Banjo
M-07 Snowbird
M-08 The Grit In The Pearl
M-09 Beacon
M-10 Petroleum Tinged
M-11 Silvered Iris
M-12 There's A Distance In You
M-13 Everlane
M-14 Treat (Bonus Track For Japan)

M-14のボートラは、BOCみたいなうねうねした古臭いシンセ使いのノンビートトラック。ぶっちゃけ単調だわ、大した余韻もなくフェイドアウトするわで、特に必要は。


2014年9月24日水曜日

CLARK 「Feast / Beast」


Warpのオオカミ青年:クリストファー・ステファン・クラークの二枚組リミックス盤。2013年。
ジャケはアルマ・ヘイザー

〝ごちそう〟と題したDisc-1は座して聴くようなイメージで、〝けだもの〟と題したDisc-2はクラブで踊るようなイメージで選り分けたそうな。
彼的に韻を踏みたかったらしい。(そういや〝Beast Feast〟なんてラウド音楽イベント、あったよね)

で、まあ……あのCLARKだし、容易に予測出来た結果なのだが――
相変わらず原曲を踏まえる気が更々ない。
具体的には、BATTLES流爆走ナンバーのDisc-2:M-02が、タメの利いたデジデジしい触感のトラックに挿げ代わっていたり。Disc-2:M-06に至っては、歌モノなのにヴォーカル音色をハナから無視した上、代わりに自分で歌っていて、ただただ愕然とした。
リミックスをしてくだすっているBIBIOやネイザン・フェイクら友人は、ある程度テメーの原曲を踏まえて己の色を出してくれているのに、この勝手気ままさ。
リミックスをしてくれた友人のトラックは彼にとって〝ごちそう〟で、一切元ネタに配慮しないオマエは〝けだもの〟そのものとちゃうんかい。
いや〝けだもの〟なこの野郎にとって、各クリエイターの捧げてくれた元ネタこそがなによりの〝ごちそう〟なのかも知れない(生贄的な意味で)

ただ、CLARK謹製としか思えないトラックが三十曲・二時間超分詰まっている――それこそがCLARKファンにとって〝ごちそう〟だと考えれば如何であろうか。
しかも彼の音楽には定着化した〝CLARKテイスト〟なんてものが存在せず、APHEXチャイルドと騒がれてた一枚目二枚目期、生音に色気を見せ始めた三枚目期、衝撃のフロアユース化で度肝を抜いた四枚目期、騒がしい上モノを整わない拍で引っ掻き回す五枚目期、生音回帰で(悪)夢見心地な六枚目期――と、各々をくっきり分別出来るコトが本作で更に浮き彫りとなった。
――人の創ったトラックを踏み台にして。(その割には原曲より遥かに凝った創りをしているモノばかりだったりする)
ゆえに、リミックスアルバムを指してこう評すのは不適切かと思うのだが……『未発表曲で編んだコンピレーションアルバム』である、と。

なお、CLARK当人は『コレを機に、もうリミックスしない』とかまたテキトーなその場限りの発言をほざいている模様。
そら(原曲踏まえぬリミックス曲など)、そう(自作のトラックと変わらん)よ。

Disc-1 (Feast)
M-01 THE BEIGE LASERS - Smoulderville (Clark Remix)
M-02 DM STITH - Braid Of Voices (Clark Remix)
M-03 AMON TOBIN - Kitchen Sink (Clark Remix)
M-04 NATHAN FAKE - Fentiger (Clark Remix)
M-05 CLARK - Alice (Redux)
M-06 KUEDO - Glow (Clark Remix)
M-07 BARKER and BAUMECKER - Spur (Clark Remix)
M-08 SILVERMAN - Cantstandtherain (Clark Remix)
M-09 RONE - Let's Go (Clark Remix)
M-10 NILS FRAHM - Peter (Clark Remix)
M-11 GLEN VELEZ - Untitled (Clark Remix)
M-12 CLARK - Absence (Bibio Remix)
M-13 CLARK - Ted (Bibio Remix)
M-14 VAMPILLIA - Sea (Clark Remix)
M-15 PRINCE MYSHKIN - Cold Caby (Clark Remix)
M-16 CLARK - Absence (Switchen On Barker Revoice) (Bonus Track For Japan)
Disc-2 (Beast)
M-01 MASSIVE ATTACK - Red Light (Clark Remix)
M-02 BATTLES - My Machines (Clark Remix)
M-03 LETHERETTE - D&T (Clark Remix)
M-04 CLARK - Growls Garden (Nathan Fake Remix)
M-05 AUFGANG - Dulceria (Clark Remix)
M-06 MAXIMO PARK - Let's Get Clinical (Clark Remix)
M-07 THE TERRAFORMERS - Evil Beast (People In The Way) (Clark Remix)
M-08 CLARK - Suns Of Temper (Bear Paw Kicks Version)
M-09 HEALTH - Die Slow (Clark Remix)
M-10 DEPECHE MODE - Freestate (Clark Remix)
M-11 Mr. BOGGLE - Siberian Hooty / Fallen Boy (Clark Remix)
M-12 DRVG CVLTVRE - Hammersmashed (Clark Remix)
M-13 MILANESE - Mr Bad News (Clark Remix)
M-14 FEYNMAN'S RAINBOW -The Galactic Tusks (Clark Remix)


2014年6月8日日曜日

BIBIO 「The Green EP」


六枚目から、本人お気に入りのM-01をフィーチャーした、2014年作のEP。
EPなので、ボートラ含んでも三十分満たないランタイム。

嬉しい、M-01以外は全て未発表曲。
さて、Mush Records期を思い起こさせるM-01を立てた創りなら、後続の曲もその路線に準ずるのが〝流れ〟と言うモノだ。つまり、未発表曲を詰め込んだ安易な作品ではないと言うコトだ。
さあ、ゆったりと流れる調べに身を任せ、たゆたおう。

あのテレコ音像が強烈なレトロ感を醸し出すM-02(LETHERETTEの片割れとデビュー前に録った音源らしい)、本編の流れを汲む弾き語り曲のM-03と、本編収録曲〝Wulf〟の別ヴァージョンにあたるM-04まではあっさりとした小品。
M-05からようやく本編と言って良い、あの儚くも優しい歌声入りのトラック。終盤は歌が止み、甘いアコギの音色を愛でつつ、くぐもったトーンのビートを併せて締める。
M-06はM-02や04よりしっかりとした構成のインスト。乾いた音のエレクトリックギターや、表・裏の拍を単調に取るカウベルとタンバリン、それとは別個に存在する何となくジャジーなビート――の背後で揺らぐシンセがどんどん幅を利かせてゆく佳曲。
で、ボートラのM-07は各音色に強いフィルターを掛け、まどろんでEPを締める。
そんな流れ。

とりあえず本作が彼の今後の展開を示唆しているとは考えづらい。本人が、M-01を中心に据えるべく手持ちのアーカイブを漁り、相性重視で並べてみた、と語っている通りの内容だと思う。
だからこそ、おかわり盤としてはこのくらいあっさりしてた方が腹八分目で良いかと。
無論、コレをお試し盤にすれば、肝心の本編が気になること請け合いかと。

M-01 Dye The Water Green
M-02 Dinghy
M-03 Down To The Sound
M-04 Carbon Wulf
M-05 A Thousand Syllables
M-06 The Spinney View Of Hinkley Point
M-07 Vera (Bonus Track for Japan)

CDは日本盤のみ(ボートラ付)。輸入盤はアナログのみだが、タイトル通りのグリーンヴァイナル盤なので、得した気分になれればそちらでも。


2013年6月10日月曜日

BIBIO 「Silver Wilkinson」


ステファン・ウィルキンソン本人によるデザインの、色取り取りのビビオ(毛針の一種)が舞う秀麗ジャケが印象的な、2013年作の六枚目。

相変わらず〝Everything By Stephen James Wilkinson〟状態。
だが、M-01から聴き手の首を傾げさせる。三枚目まで所属していたMush Records時代の〝追憶的なフォークサウンド〟の音像が飛び出して来るからだ。
『いやいや、のっけだからイントロ扱いでしょ。良くある手法だよねー』と高を括っていたら、続くM-02も追憶フォーク。『今更、あの方法論で演り残したコトなどないでしょうに』なんて思っていると、インターリュードっぽい流れを挿み、やはりとろーんと始まるM-04の後半でようやく、Warp期に導入された古臭いデジタル音色が。
そこから一気に耳慣れたWarp路線へ。
続く、晴れの日に庭で創ったM-05など典型の曲。M-07はCOMMODORES〝Just To Be Close To You〟をサンプリングし、地味な出だしながらもヴォーカルチョップしまくり始めてからが本番のブレイクビーツチューン。M-10は彼を発掘したBOARDS OF CANADA最初期の影響が強い、シンセが幅を利かすインストナンバー。

序盤のMushMushした雰囲気は何だったのか。

Warp移籍以降、大手インディーらしい環境の良さから、もうレアでロウな音質で録る必要性がなくなったと思っていた、筆者は。
ややや、そこで今回。ウィルキンソンは自宅にあるレンガ造りの物置へ機材を持ち込み、風雨吹き荒ぶ中で数曲の録音を敢行したという。アルバムの随所で、雨音という自然の齎すグリッチが聴こえてくる仕掛けだ。
あえて制限のある環境で録られたこの音像、強烈に追憶を――いや、Mush期を呼び起こさせる。同時に良好な音質のWarp期っぽい曲と、上手く表裏一体になっている。
コレは〝原点回帰〟などではない。Mush期とWarp期の折衷策だ。

アルバムはMush路線なアコギの弾き語りで(日本盤はそれと連動させた、幽玄なアカペラの小品で)優しくそっと閉じる。
意図さえ分かれば、もう安定のBIBIO謹製レトロフォークニカ。ほっとするね。

M-01 The First Daffodils
M-02 Dye The Water Green
M-03 Wulf
M-04 Mirroring All
M-05 A Tout A L'heure
M-06 Sycamore Silhouetting
M-07 You
M-08 Raincoat
M-09 Look At Orion
M-10 Business Park
M-11 You Won't Remember
M-12 But I Wanted You (Bonus Track For Japan)



2013年2月14日木曜日

BIBIO 「Mind Bokeh」


お茶目な好漢、ステファン・ジェイムズ・ウィルキンソンの2011年、五枚目。

Warp二作目のオリジナルアルバムは、前作よりも更にデジデジしく、間曲扱いのM-09と恒例の締めインストM-12(とボートラM-13)以外は全て歌モノだ。
だが〝デジデジしさ〟はあくまで〝音色〟という名のパーツ。十七種もの楽器を自ら演奏した〝音色〟も等価で卓編集していく手法は、何らMush時代と変わっていない。しかもアートワークまで自身が手掛けているのだから、俗に言う〝Everything By Stephen James Wilkinson〟状態。
一方で曲調は、米男性R&Bシンガーに提供したいくらいお洒落な(のに、ところどころクセのある加工を忍ばせた)M-03から、小気味良いエレクトリックギターをフィーチャーしたデジタル風味ロック曲のM-06まで、冒険したいのにさせてくれなかった(としか思えない)Mush期の鬱憤を晴らすかのような音楽性の拡散ぶり。

やはりこの男も〝一所に納まりたがらない〟ニカ気質だ。

ただし、好きに演らせれば必ず面白いモノを創ってきてくれる人だけど、誰かさんと違って自分の本分を分かっている人なので、毎度毎度作風をがらりと変貌させるような暴挙は起こさないはず
こちらは何の心配もせず、雛鳥のように口を大きく開けて彼のリリースを待つだけで毎回美味しい思いが出来る安定株だ。
ならば優等生なのかと思いきや、ビートを作為的に大モタりさせたり、なぜかスクラッチを模した音をトライアングルで出そうとしたり、子供のように牛乳瓶やワイングラスや酒瓶をちんちん鳴らしたり、オーソドックスな洋風楽器ばかり用いている中でビリンバウ(弓に瓢箪つけてびんびん弦を弾くブラジルの楽器)だけぽつんと導入してたりと、落ち着きがない。
彼の人柄が偲ばれる。

本作はイングランド中部・ウルヴァーハンプトンのテラスハウスにて宅録された。
インナーに『(うるさくして)近隣住民のみなさん、すまんな』とクレジットする彼は本当に憎めない奴だ。
(常に良い作品を提供してくれれば)ええんやで。

M-01 Excuses
M-02 Pretentious
M-03 Anything New
M-04 Wake Up!
M-05 Light Seep
M-06 Take Off Your Shirt
M-07 Artists' Valley
M-08 K Is For Kelson
M-09 Mind Bokeh
M-10 More Excuses
M-11 Feminine Eye
M-12 Saint Christopher
M-13 Vertical Helical Stan (Bonus Track For Japan)


2012年12月30日日曜日

BIBIO 「The Apple And The Tooth」


ステファン・ウィルキンソン、2009年リリースラッシュの掉尾を飾る編集盤。
アートワークは彼自身によるもの。

M-01から04までは未発表曲――いや、新曲。このクォリティをアウトテイクにするなんてバチが当たる! くらいイカした四曲。
曲調の路線は当然、「Ambivalence Avenue」と同系統。生音とブレイクビーツの素朴な絡み。ただしM-04はかなりデジデジしい加工が施されており、以降の作風の方向性を示唆している――なんて後出しの深読みも可能。
筆者としてはM-03の、ひたすら安定しない拍を挟むワイヤーブラシが気になって仕方がない。

M-05からはリミックス。CLARKが原曲をほぼ無視して「Totems Flare」路線の落ち着きないキックでかっ飛ばし、前述のデジデジしい締め方を巧く引き継ぐ幕開け。自身のラップ風声ネタまで挿入しているくらいだから、大・大・大好きなビビ夫たんのため、彼なりに相当気合入っていると思われる。おおきもいきもい。
とは言え、こんなはちゃめちゃリミックスを渡す鉄面皮はコイツだけ。後はきちっと原曲の良さを自分なりに翻案する空気を読んだ仕様。人選は地味だが、後にNinja Tuneで花開く紆余曲折の男・ESKMOなど、今後のニカシーンを担う面子を揃えたと思う。
中でも個人的に注目したいのがM-09、フィンランド出身のクウッカ兄弟。「Ambivalence~」でも一・二を争う叙情的なトラックを、自身らの弾く楽器と絡めて感傷的に仕上げる長所特化の好リミックス。
それに負けじとウィルキンソン自身のM-12も、寂寥感溢るる弾き語り風の原曲よりも音色を増やして更に目頭を熱くさせるメロメロ改変。
コレでアルバムを締めるのはずるい!

この通り、企画盤だからと侮れない一枚。「Ambivalence~」だけしか聴いていないのならコレも是非。
リミックス盤って良いよね。視野が広がる気がするよ。

M-01 The Apple And The Tooth
M-02 Rotten Rudd
M-03 Bones & Skulls
M-04 Steal The Lamp
M-05 S'vive (Clark Remix)
M-06 Sugarette (Wax Stag Remix)
M-07 Dwrcan (Eskmo Remix)
M-08 Lovers' Carvings (Letherette Remix)
M-09 Haikuesque (The Gentleman Losers' Whispers In...mix)
M-10 All The Flowers (Lone Remix)
M-11 Fire Ant (Keaver & Brause Remix)
M-12 Palm Of Your Wave (Bibio Remix)


2012年10月12日金曜日

BIBIO 「Vignetting The Compost」


ステファン・ジェイムズ・ウィルキンソンによる三枚目はカリフォルニアのMush Recordsより。2009年作品。
なにげに彼の日本デビュー作になる。その配給は& Records

まずは彼にとっての2009年を、時系列に沿って追って行かねばなるまい。

二月、前作から三年ぶりに本作をリリース。
三月、Mushより六曲入り未発表ファイル音源「Ovals And Emeralds」リリース。
---------------------------------------アメリカとイギリスの壁-------------------------------------
六月、四枚目「Ambivalence Avenue」Warpデビュー。
(この間、二枚のシングル音源を挿む)
十一月、未発表+リミックスの編集盤「The Apple And The Tooth」をWarpでリリース。

何という登板過多であろうか。あかん、ビビ夫死んでまう!
いやいや、コレをそのまま時系列通りに進めたとは考えづらい。

何せMush時代とWarp時代のBIBIOは、作風に大きな進展がある。
サイケでロウな〝ぜんまい仕掛けのインストフォーク〟の前者と、それにブレイクビーツや自身の歌や電子音を効果的に絡めてメジャー感を出した後者――
コレをたった三ヶ月で劇的に移行させてしまえるなんてビビ夫、あんたほんと何て凄いアーティストなんざましょ! 神か悪魔か!
いやいや〝前作から三年もブランクを空けた〟ことから察するに、本作リリース時にはもうWarp期の音世界は彼の中で確立していたかも知れない。むしろ本作と「Ovals~」はこのブランク期に創られた敗戦処理未発表の蔵出し音源なのかも知れない。
あくまでコレは筆者の邪推だ。

では本作の内容。
にも書いたが、Mush期の彼の音世界はほぼ一貫している。二枚目で一曲だけ用いられた歌入りトラックが、M-01、02、05と三曲に増えた。もっと散りばめれば良いのに、前半に固めてあるのは何とも意味深長に感ずる。コレもあくまで筆者の邪推だ。
なお〝音世界が一貫している〟ということは、彼の類稀なる才能からして本作はBIBIO印の良品であることが保障されたようなものだ。契約履行ただの蔵出し音源とは言わせない!
だがその裏返しに、それが三枚目ともなると音世界が袋小路に陥りつつあることを暗に示唆している。

『何事にも挑戦するのが好き』と語るウィルキンソン。ならば、その変革期に遺したMush期総決算清算アルバムと本作は目する方が、より自然だ。
なお、こんな虫の良い邪推などない。

M-01 Flesh Rots, Pip Sown
M-02 Mr. & Mrs. Compost
M-03 Everglad Everglade
M-04 Dopplerton
M-05 Great Are The Piths
M-06 Odd Paws
M-07 Under The Pier
M-08 Weekend Wildfire
M-09 The Clothesline And The Silver Birch
M-10 Torn Under The Window Light
M-11 The Ephemeral Bluebell
M-12 Over The Far And Hills Away
M-13 Amongst The Bark And Fungus
M-14 Top Soil
M-15 Thatched
M-16 The Garden Shelter

日本盤はM-17にボートラ〝Chasing The Snowbird〟を収録。完全未発表曲の模様。


2012年9月22日土曜日

CLARK 「Fantasm Planes」


本チャンのアルバムと同年の2012年、たった五ヶ月のスパンで切られたミニアルバム。
ミニアルバムゆえに、ランタイムが日本盤のみのボートラを含めても20分弱しかないのであしからず。もともと大曲志向のない人なのに、「短い」とか文句言われてもねー。
ジャケは引き続きジュリアン・ハウス。

まずは小気味の良いフルートの音色から始まる、新曲のM-01がエグい。
上モノは前作通りの妖しさなのだが、ビートがそれ以上。
拍を三で打ったり、四でブレイクビーツを刻んでみたり。普通に四でキックを打ったかと思えば、するりと三に移行させたり。上モノの音色の組み合わせの変化に応じてその彩を巧みに〝破綻もなく破綻させていく〟躁鬱症仕立て。
M-02は前作冒頭のアコギの調べと、マルティナ・トプリー・バードの声を流用したトラック。コレもビート感覚がイカレてる。まるでけんけんぱをしているような……。
そのマルティナ姐さんの歌声をフィーチャーした、前作〝Secret〟の再構築曲M-05では、姐さんの歌声のピッチを下げ、低く、より妖しく生成する一方、安定しないビートと薄ら怖い音色使いでえげつないトラックに変貌している。

ココらで聴き手はそろそろ気付くはず。
前作唯一の難癖である〝BOARDS OF CANADA風味〟がもはや、ない。
前作、モロにBOC色が出てしまったアンビエントトラックでも、M-04に至っては不穏な音色を淡く、幾重にも重ね塗りして、CLARK色とまではいかないが全く出所が判明出来ない代物に仕上げてしまっている。
M-06も(ボートラのM-07も)アンビエントなのだが、こればかりはどうしようもないBOCテイストに、ちょっと一捻りを加えて着地点を異にしている。
特に、今回も日本盤ではアンビエントを連ねる、尻すぼみになりかねん暴挙をまたしでかしているが、「ローズマリーの赤ちゃん」を思わせる、無邪気なまでの強烈な妖しさから余韻は最悪。嫌な中毒性を抱かせて締める。

フルアルバムの後にリリースして内容を補完する音源は数あれど、ココまで力を入れて手を加えたケースもそうそうあるまい。
ぜひぜひ「Iradelphic」とセットに。単体では意味を成さないとは言わないが、どうせ次では全く違うアプローチを取りやがるはずだし、両方聴き込んでこそのモノだと思う。

M-01 Fantasm Planes
M-02 Henderson Swooping
M-03 Com Re-Touch / Pocket For Jack
M-04 Brigitte
M-05 Secret Slow Show
M-06 Dove In Flames
M-07 Russian Dust Hoarder (Bonus Track For Japan)


2012年4月16日月曜日

CLARK 「Iradelphic」


ミスター前言撤回、クリストファー・ステファン・クラークもとうとう六枚目。2012年作。いつも通り、Warp Records産。
追憶の心を掻き立てるこの妖しいジャケットは、ジュリアン・ハウスによるもの。PRIMAL SCREAMSTEREOLABBROADCASTのアートワークを一手に引き受けていることでつとに有名。Ghost Box Musicなるレーベルのオーナーでもある。

クラブ仕様・ドアッパー路線を引き継いではちゃめちゃ演っていた前作から華麗に掌返し。のっけのM-01からアコギの音色を分断して、多方向から重ねるメロウな音世界には『またやりやがったか!』と聴き手の眉間に皺を寄ること受けあい。
ただ本作は意外にも焦点が絞れている。
三枚目よりも大々的にアコギを始めとした生演奏を用いる一方、いつもより浮遊感を漂わせた上モノ使い。それらに通底するのはメランコリックでダウナーな音世界。元TRICKYの相方で今や客演の女王、マルティナ・トプリー・バード参加の意図さえ掴めそう。
ただ――

あえてココで割って入らせていただく。
そのマルティナ姐さん、M-05、M-06、M-10で例の厭世的な歌声を披露しているが、実はまともに歌詞を歌っているのはM-06のみ。後はワンフレーズをループしてCLARKの男声と重ね合わせたり(デュエットってもっと絡み合うモンじゃないの?)、装飾音としてのスキャットだったりと、すっかりトラックを構成するパーツと化している。
ただし、さすがは百選練磨の姐さん。決してトラックに埋もれず、負の存在感をひしひしと漂わせているのは貫禄か。

話を戻そう。
メロウで生々しくて浮遊感漂う――そう、Warpの先輩・BOARDS OF CANADAやその分家・CHRIST.っぽく響く部分がなきにしもあらず。
でも、CLARKらしさはちっとも失っていない。
分かりやすい部分なら、例えばM-03を聴いて欲しい。主音色は明らかにソレっぽいが、テクスチャーの組み方が全く異質だ。真ん中辺りでファズを噛ませたギターソロのような音色が耳を劈くが、コレなんかもうやんちゃなCLARKならではで、逆にBOCが避けている用い方ではないか。
とは言えBOCっぽいのは事実なので、気のせい! なんて無視は出来ない。この路線はまだ未消化なんだ、と思えばこの先明るい。さすが底を見せないCLARK! などと信者っぽい気持ち悪い思い込みに浸ることも出来る。

だから何に似てるアレにそっくりとかぐだぐだ言ってないで、作品が気持ち良いか面白くないかで判断しやがんなさいよ!

本作の典型であるメロウでダウナーなトラックが、何と自ら独りアカペラ合唱となり締めるM-07。ピアノの一本のみの儚い小曲M-08を挟んで、主音の鳴らし方はそのままに、音色を挿げ替えて並べた連作M-09からM-11に至る流れは圧巻の一言。
現時点で最高傑作――早くもそう言い切る声もちらほら。
『(ぼくが)音楽を作り続ける理由の1つに、最後に出したアルバムに自分が十分満足できなかったからというのがある』 (ライナーより抜粋)
だが本人、これだけのアルバムを創っておいて、まだまだ進化する気満々である。

M-01 Henderson Wrench
M-02 Com Touch
M-03 Tooth Moves
M-04 Skyward Bruise/Descent
M-05 Open
M-06 Secret
M-07 Ghosted
M-08 Black Stone
M-09 The Pining pt1
M-10 The Pining pt2
M-11 The Pining pt3
M-12 Broken Kite Footage

日本盤のみボートラ〝M-13 Lysergic Planes〟収録。
ただしこのボートラが曲者で、何とまあドローンアンビエント曲。せっかくBOCっぽい幽玄なアンビエントのM-12で良い余韻を残して鳴り納めたのに、要らんコトしよる。


2012年4月12日木曜日

BIBIO 「Fi」


無類の愛猫家らしいステファン・ウィルキンソン、記念すべき初アルバム。2005年作。
BOARDS OF CANADAのマーカス・イオンより推薦を受けた、米国のMush Recordsからのリリース。

Mush時代のBIBIOと言えば〝Lo-Fi〟な音世界。Lo-Fiと言ってもジャンルではなく、テレコで録ったようなロウな音像を指す。
そこへ爪弾くアコギの音色をフィーチャーして、聴き手から気付かれないようそっとベッドルームにて編集を施すのが、彼がMushレーベル所属の間、頑なに貫いたメソッド。
はっきり書いてしまうと、この頃の三枚に大して差異はない。ちゃんとした歌詞もある歌を被せるようになったのは三枚目「Vignetting the Compost」からだが、どれから手に取ろうが全く問題ない。後のWarp時代とは切り離して考える手もある。

問題は、彼が何でこの初期三作品で劣悪な音質のアルバムを切り続けたのか。

無論、わざとだ。懐古主義のロックバンドがよくやる『六チャンネルで録りました~』のようなビンテージ自慢と印象が被る。
だが筆者が思うに、本質はまるで異なっている。『音の温かみが~』云々は論外。
ヒントとして、ユニット名・BIBIOの意味するところは? 自ら、この時期の自分の作品(と彼が初めて飼った猫の名)に影響を与えたと語る番組は? 寡黙なBOARDS OF CANADAの中の人が、わざわざ名指しで彼の作品を激賞した訳は? 彼の手によるアートワークの写真がいつもピンボケし、色が褪せているのは?
キーワードは〝追憶〟――

より多くの音楽を吸収しようにも、先立つモノがない少年期――
ラジオの音楽番組を逐一チェックし、気に入った曲をカセットテープに録音。時間一杯まで録り溜めたそれを、ベッドルームで繰り返し聴くような。
レコード起こしから更にダビングを重ね、もこもこな音となったカセットテープを貴重なアルバム作品としてテープが伸びるほど愛聴するような。
音は悪いし、不便だし、情報も少ない。けど貴重な一曲の音源、一枚のアルバムに夢中になれた――そんな頃を想起させたくてこの方法論を徹底したのかなー、と。
そうじゃなくても、そう創り手の心情を勝手に推し量って聴くのも、聴き手の自由。
だから創り手にも自由に創らせてあげようぜー! ってね。

M-01 Cherry Blossom Road
M-02 Bewley In White
M-03 Puffer
M-04 Cluster At CWM Einion
M-05 London Planes
M-06 It Was Willow
M-07 I'm Rewinding It...
M-08 Looking Through The Facets Of A Plastic Jewel
M-09 Wet Flakey Bark
M-10 Bewley In Grey
M-11 Teleidophonic Torch
M-12 Puddled In The Morning
M-13 At The Chase
M-14 Cantaloup Carousel
M-15 Lakeside
M-16 Bewley In Red
M-17 Poplar Avenue


2012年3月10日土曜日

CHRIS CLARK 「Clarence Park」


現CLARKの記念すべき初アルバム。2001年作品。
本来はコレ、ミニアルバム扱いだったのに……いつの間にかフルアルバムに昇格しているのは、大人の事情なのか「いんだよ、細けぇ事は」なのか。

ランタイムは三十分少々と短め。一分台の間曲を随所に配置しているからか。
そんなコトよりもまあ、当時は言われまくりましたよ、例の〝Aphex Child〟と。
でもこうして後日、腰を落ち着けて聴いてみれば『そこまで似てるかァ?』と首を傾げたくなるのは、比較的フォロワーやらエピゴーネンやらに寛容なつもりの、筆者の印象
音色使いは確かにリチャDっぽい部分が強い。もうコレは影響土壌という名のDNAなのだから、デビュー盤で希釈出来るようなモノではな――
ああもう、そんなのどうでも良い! デビュー作で既にこの出来! という無限の可能性に焦点を当てて欲しいのさ! 似てる似てないとか抜きにしてさあ。
それに、後々引き継がれる彼ならではの特性も、この時点で萌芽を見せているし。

音色を崩壊寸前まで――いや、崩壊したらその地点で臨界点を定め直す、破天荒かつ過剰な音響工作は、まるで玩具を買い与えられた幼児の如き無邪気さよ。
この人は本当にトラックを組むのが好きなんだろうなあ。〝呼吸するかのようにトラックを創る〟リチャD擁するコーンウォール一派のような。
ああ、そうなるとやっぱり、どうしようもなく彼はWarpの申し子だなあ。〝Aphex Child〟に括られた点はそこにあるのかもなあ。

こんな彼の原点たる作品がようやく、約十年越しの想いが実り、日本盤化されましたよ。3rd「Body Riddle」期にWarp Records直営の通販・Warpmart限定で切られた音源+未発表曲追加の超お得仕様で!
『アルバムを出す時期が売り出し期』――つまりいつ大ブレイクしてもおかしくない完成度の作品を連発するCLARKなのに、六枚目期で思い出したようにリイシューとは些か遅くありませェん? と嫌味のひとつくらいBeatinkに言ってやりたい筆者はふと気付いた。
ああ、次がとうとう日本でのCLARKの売り出し期なんだそうなんだ。

彼はようやくのぼりはじめたばかりだからな、このはてしなく遠いテクノ坂をよ……。

Clarence Park
M-01 Pleen 1930's
M-02 Dogs
M-03 Proper Lo-Fi
M-04 Oaklands
M-05 Bricks
M-06 Emw
M-07 Laugh With Hills
M-08 Chase
M-09 Lord Of The Dance
M-10 Caveman Lament
M-11 Fossil Paste
M-12 Diesel Raven
M-13 Shrewland
M-14 Nostalgic Oblong
Throttle Clarence
M-15 Wicked Life
M-16 Lady Palindrome
M-17 Friday Bread
M-18 Proper Mid-Fi
M-19 Bob Dedication
M-20 820689
M-21 Alpha Dodgem Fortitude
M-22 Mother McKnight
Bonus Tracks
M-23 Guitar Solo
M-24 Racloir
M-25 Perfectly Welcome
M-26 Sabbath
M-27 Robinson Crusoe
M-28 Vac Vac Taurus


2012年1月24日火曜日

CLARK 「Totems Flare」


ミスター前言撤回にして、そろそろキングオブワープと呼ぶべきなクリストファー・ステファン・クラークもとうとう五枚目。2009年作。

元から次に何を演ってくるかさっぱり見当が付かない男、どうせ前作のアッパーフロアユース路線などかなぐり捨てやがるだろうと思っていた。
だが実際に聴いてみれば、何とも言い難い表情で頭上にクエスチョンマークをいくつも浮かべている筆者が居た。
意味分からない? いや、そういう訳じゃないんだけど……。CLARKっぽくない? いや、紛れもなくCLARKの音なんだけど……。
駄作? 全然!

電子音主体の構成で、相変わらず音色使いははちゃめちゃ。むしろ更に研ぎ澄まされている。曲によっては速いBPMでガンガン来るアッパーチューンもある。
ただし、前作で衝撃的導入となったシンプルな四つ打ちをばっさり排除。フロアで素直に踊らせてくれないビートに挿げ変わっている。
ああ、裏の裏は表か……。
一方の上モノだが、従来の〝CLARK節〟もありつつ、M-07に代表される二世代くらい前の使い古された音色をさり気なく織り込む手口も。だが、テクスチャはあくまで現代風だったりする荒業。最初期音源「Throttle Clarence」を髣髴とさせる。
かと思えばM-11で、ギターを爪弾くノンビートの素朴なトラックで締める。『何で今更生音っ!?』と意表を突かれて首を傾げていれば、日本のみのボートラで眉間にしわが寄る。
何と、二十分にも渡るドローンアンビエント。それ自体は今まで地味にちょこちょこ織り交ぜてきた手法だが、ボートラでこんな長々としたモノを持ってくる神経を疑う――と言うかコレのお陰で、ある意味日本盤はスペシャルな商品になった。ありがとう。

あー、もうメチャクチャ。やりたい放題。
いやいやコレ、過去の総決算じゃね? いわゆる一歩後退とか保守路線とかその類じゃね? と言われてもにわかに納得出来ない。なにせCLARKだから。
とは言え、生成した音を脳内で全て把握している彼のこと、聴き手のこんな反応も想定内なんだろうな。にやにやしやがって、くそっ。

M-01 Outside Plume
M-02 Growls Garden
M-03 Rainbow Voodoo
M-04 Look Into The Heart Now
M-05 Luxman Furs
M-06 Totem Crackerjack
M-07 Future Daniel
M-08 Primary Balloon Landing
M-09 Talis
M-10 Suns Of Temper
M-11 Absence
M-12 Steepgrass Five (Bonus Track For Japan)


2011年11月2日水曜日

BIBIO 「Ambivalence Avenue」


英国人、ステファン・ウィルキンソンによる、Warp Records移籍初のアルバム。2009年作品で、通算は四枚目にあたる。

宣材としてL.L.BeanAdult SwinToyotaなどが彼の音を使い、フライフィッシングに用いる毛針の種類を名に冠した通りのサウンド。
色を付けるとすればセピア色の音像に、山にも閑静な住宅街にも似合うアウトドア志向の生音系エレクトロニカ――とまで書けばもう、音が思い浮かびそうな。

とは言え、彼の影響土壌の一つであるBOARDS OF CANADAの弟の方、マーカス・イオンより紹介を受けたMush Records所属の頃から随分と様変わりした印象。
テレコで録ったような、もこもこした音像が幾分かはっきり、くっきりした。
電子音の含有率が増え、しかも効果的に扱えるようになった。
ボトムにブレイクビーツを敷くことで、音にダイナミズムが生まれた。
もちろんあのもこもこした音が、BIBIOならではの郷愁を誘う古臭さを強烈に演出していた点は否めない。ビートなんか要らない、あのサイケフォークみたいな音世界が良かったんだ! という意見もあるだろう。
フィールドレコーディングをサンプリングソースとして使っている点は以前と変わらないが、その素材の選び方がBOC風になったんじゃないか、とか。電子音の使い方に、仲の良いCLARKからの影響が見て取れる、とか。まだまだ難癖つぷつぷ。

でもあのまま同じ音を周りが強いていたら、あまりの窮屈さに音を上げていたのでは?
現に二枚目「Hand Cranked」(2006年作)と三枚目「Vignetting The Compost」(2009年作)にはそれほど差異はなかった。
三枚目と本作である四枚目との間隔がわずか四ヵ月半。(憶測だが、三枚目は身辺整理盤なんじゃなかろうか。内容は良かったので、あまり響きの悪い言葉を使いたくないのだが)
人脈が一所に収まりたがらないニカ人種ばかり。
しかも出来栄えは、新章突入を高らかに告げる充実の内容。
もう好きに演らせてあげようよー。

と、改変部分が非常に目立つので大改革したと思われがちだが、M-03、M-07、M-08、M-10には以前の感覚が色濃く残っている。
これらをあの〝まるでテレコ録音〟で再生すれば、とたんに元通り! 逆にシーンを代表する大手インディーズの力をひしひしと感じるはず。
その管理体制が嫌だって? 元々が「A.I.」以後のWarp勢に憧れて音楽を始めた人。コレは必然なのだよ。

(2011/5/20執筆文を大幅改筆)

M-01 Ambivalence Avenue
M-02 Jealous Of Roses
M-03 All The Flowers
M-04 Fire Ant
M-05 Haikuesque (When She Laughs)
M-06 Sugarette
M-07 Lovers' Carvings
M-08 Abrasion
M-09 S'Vive
M-10 The Palm Of Your Wave
M-11 Cry! Baby!
M-12 Dwrcan


2011年10月10日月曜日

CHRIS CLARK 「Empty The Bones Of You」


時系列があちたりこちたりして申し訳ない。2003年作の二枚目。
本作でこの名義はおしまい。以後、シンプルにファミリーネームのみとなる。

まだ二作目だし、以後は傑作揃いの人だし、どうせコレは〝覚醒以前の佳作〟止まりなんでしょうって?
ばか言っちゃいけない。ココからCLARK初めしても、彼に関する全ての音源を買い揃えたくなるような秀作だ。
ただし! 良く言われる、そこかしこから感じなくもないAPHEX TWIN的な空気はまあ……否定しない。だが、そこまで目くじら立ててAPHEXチャイルドAPHEXチャイルド騒ぐほど似ている訳ではない。
巧くさまざまなエッセンスを希釈・攪拌して『影響の一部です』とさらり言ってのけるスマートさが、このアルバムに漂っている。

今や100%新しい音楽など創造し得ない状況下で、コレが出来るか出来ないかで才能の嵩が大きく変わる、と断言して良い。
才能のない奴がシーンで確固たる地位を得るには、まずお手本をまるっと剽窃。後は上手いコト時流に乗った頃に『俺がオリジナルだ!』と喚けば良い。そのやり口が鮮やかならば、どちらの意味でも〝換骨奪胎〟出来る。
〝商売人〟の才能はありそうだね。

閑話休題。
本作は(インタヴューではいつもいい加減なコトばかりほざいているのに)生真面目に創り込まれた、オール打ち込みのエレクトロニカである。やんちゃな音色使いは、この時点でも飼い慣らされている状態。どうやら天性の音感が成せる業らしい。
また、二枚目ということもあって、演りたいコトをあれもこれも詰め込んだ印象もある。でも、雑多な雰囲気がまるでないのは彼の才能――ではなく、ニカ人種特有の一所に収まりたくない〝根なし草思考〟のお陰だろう。
〝何を演るか分からない奴〟と聴き手にレッテルを貼らせとけば、おおよその冒険は許される空気になる。それにどっかりと胡坐をかいて夕餉を所望してお替りまで頼めるのは、さまざまな音楽ジャンルを見渡してもニカクリエイターくらいなものだ。

もちろん布石があっての伏線だ。
本作は出来からして、CLARKの今後の視界を広げられた贅沢な布石である。

M-01 Indigo Optimus
M-02 Holiday As Brutality
M-03 Empty The Bones Of You
M-04 Early Moss
M-05 Tyre
M-06 Tycan
M-07 Wolf
M-08 Slow Spines
M-09 Umbilical Hut
M-10 Farewell Track
M-11 The Sun Too Slow
M-12 Gavel: (Obliterated)
M-13 Gob Coitus
M-14 Betty
M-15 Alaska (1998 Tiny Person) (Bonus Track For Japan)


2011年9月26日月曜日

CLARK 「Turning Dragon」


前回が〝CLARK、覚醒の巻〟なら、今回は〝CLARK、飛翔の巻〟。
2008年作四枚目。

CLARKのエレクトロニカ路線は「Body Riddle」で完成を見たと言って良い。
それを以後、ずーっと高純度で焼きなませばCLARKブランドは確立し、やがて数多のフォロワーを生むだろう。もちろん銀行の跡地を買い取り、装甲車を乗り回すことも出来るような多額の印税を得るだろう。
だが彼はその先人同様、型にはめられるつもりなど毛頭なかった。

演りたい音を演りたい時に創ってこそアーティスト。
誰のため? まずは自分のため。
聴き手に対して『気に入ってもらえたらいいな』程度。そんなの当たり前だろう?

本作はのっけから打ち込み全開。前作で取り入れた生音と打ち込みの融合などハナから無視! 徹頭徹尾、電子音のオンパレード。
しかも四つ打ち! BPM速め! フロアユース! クラブで踊れよおめーら!
CLARKのやんちゃな音色使いが攻撃的に研ぎ澄まされ、特に前半はドアッパー祭り。前作で惚れて付いて来たファンの度肝をまた抜いた。
掴みは上々。
ただし、それが上っ面だけのなんちゃってクラブ仕様なら『何だ、付け焼刃のイッチョカミ野郎じゃねえか』と白眼視され、一瞬でシーンから淘汰される。

だが、やはり凄いこの男。
クラブで踊るも良し、部屋でじっくり聴くも良し、といった緻密さを併せ持つ奥深い作品に仕上げてきやがったモンだから、各所から絶賛の嵐が巻き起こった。それこそ前作までの印象が消し飛ぶほどに。(筆者の中ではちっとも消し飛んでないぞ!)
しかも前作までの随所に見られた彼らしさを、本作でも〝CLARK節〟と呼ばせない程度に散りばめる余裕のある創りなのだから、この男の才は底が見えない。
とは言え、本作の前哨盤「Throttle Promoter」どころか、「Throttle Clarance」なる最初期音源で既にこのアッパークラブ路線は切ってきたカードだし、本人にとって何を今更驚くのやら……? って感じなんだろうけど。

本当にこの界隈は一所で落ち着きたがらない奴らばかり。
リチャは名義をとっかえひっかえし、ルークはあらゆるクラブ系レーベルに顔を突っ込み、トムは作風を変えるたびに言い訳を並べ(ああ、マイクってのも居たねえ……)、人々が植えつけてくる固定観念とやらからするりと身を交わし続けた。
『自分の作品に満足しきってしまうのは、いいことだとは思えないんだ。だって自分をプッシュすることを止めてしまうだろう? (ライナーより)
そう考えるとつくづく、CLARKは彼らのDNAを授かった〝WARPの申し子〟だなあと思う。

M-01 New Year Storm
M-02 Volcan Veins
M-03 Truncation Horn
M-04 For Wolves Crew
M-05 Violenl
M-06 Gaskarth / Cyrk Dedication
M-07 Ache Of The North
M-08 Mercy Sines
M-09 Hot May Slides
M-10 Beg
M-11 Penultimate Persian
M-12 Beige Afterthought (Bonus Track For Japan)
M-13 Pending Dusk Wrench (Bonus Track For Japan)

M-04では盟友・BIBIO〝I'm Rewinding It…〟からサンプリングを拝借している。あーもう、ほんとお前ら仲良いな!


2011年4月20日水曜日

CLARK 「Body Riddle」


2006年作品の三枚目。

一言で書けば『化けた』。
本作から名義を本名のCHRIS CLARKから、味もシャリシャリもないファミリーネームだけのCLARKに替えたのだが、そのCHRIS CLARK時代から才の片鱗を見せていたのだから『本格化した』の方が適切かも知れない。

2001年のデビュー当時から〝APHEXチャイルド〟なる枕詞が添えられてきた彼、完全にThis Is CLARK!! と言い切れるようになったのは、音世界をアッパーかつアグレッシヴにシフトさせた次作「Turning Dragon」から。WARPレーベルの主力アーティストとして君臨するようになったのもそれから。
本作もM-10のような、如何にもリチャDっぽいトラックが収められている時点で〝APHEXチャイルド〟などという忌まわしきレッテルを払拭出来ていない。

以上により、本作はCLARK過渡期にリリースされた佳作? いえいえとんでもない!
筆者は文句なく、このアルバムを傑作に推す。
なぜなら彼は何と、全盛期の本家に匹敵する高い質の楽曲をこのアルバムで叩き付け、我々リスナーの度肝を抜いたのだ。フォロワーはオリジネイターには敵わない、という定説に真っ向から対峙し、自らの実力で壁をぶち破ったのだ。
コレは凄いコトだと思う。並の創造者では出来ない荒業である。

音が不安定に揺らぎ、外し、重ねられるが、それはすべてCLARKの想定内。どう音を加工すれば聴き手の心を操れるか熟知しているかのようだ。何度聴いても悔しいかな、彼の術中にはめられてしまう。聴き流せなくなってしまう。音色の選択とその噛み合わせもばっちり。気持ち良く聴こえる音を、気持ち良い場所にくれる。
お陰で、捨て曲などナシ。一分弱の小曲も、インターリュードとしてだけではなく、一つの曲としてきちんと完結している。日本限定のボーナストラックであるM-12でさえ、寒風吹き荒ぶ中で立ち尽くしているかのような秀曲だ。
しかもこんなに質の高い楽曲を取り揃えているのに、及第点を堅持する優等生の臭いがちっともしないのも特筆すべき点だろう。エレクトロニカの基本線を踏まえてながらも、どこか微妙に外して構成する。音使いがやんちゃなのだ。

本当に隙のないアルバムを創った、隙のないアーティストである、このクリストファー・ステファン・クラークという男は。

M-01 Herr Bar
M-02 Frau Wav
M-03 Springtime Epigram
M-04 Herzog
M-05 Ted
M-06 Roulette Thrift Run
M-07 Vengeance Drools
M-08 Dew On The Mouth
M-09 Matthew Unburdened
M-10 Night Knuckles
M-11 The Autumnal Crush
M-12 Observe Harvest (Bonus Track For Japan)