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2015年8月24日月曜日

LILACS & CHAMPAGNE 「Danish & Blue」


GRAILSの中心人物:エミール・エイモスとアレックス・ホールによるブレイクビーツユニット、2013年作の二枚目。
レーベルはダニエル・ロパーティン軒を借りる、ブルックリンのMexican Summer

彼らは特異な立ち位置に居る。
まず二人の本体:GRAILSは70年代サイケを今の世に翻案し、映像的に仕立て上げる音世界を標榜していること。
なのに打ち込み音楽とな!
ロック系とクラブ系を融合させた作品は数あれど、ロック側が求めているモノは常にクラブ側の先進性(ちなみにクラブ系がロックに求めるモノは、ほぼ衝動性)。レイドバックした作風で打ち込みを求めるケースは稀。
字面だけなら悪食に等しい音楽性である。

だがこのユニットはコロンブスの卵と言って良い。
キモは底に敷いたブレイクビーツという手法が、ボトムの溶解化進む現代のクラブミュージックシーンに於いて旧世代の方法論になりつつある点。
ビートは定番:Akaiのサンプラー(エイモスがMPC2500、ホールがMPC1000)とターンテーブルを使用し、BPM100前後でまったりかつシンプルに。言うまでもなく、彼らは本体でも存分に打ち込み機器を扱っているので手慣れたものだ。
一方の上モノは、ギターやシンセを有機的に用い、妖しくもたゆたう流れで。モーグやメロトロンのようなプログレ/サイケでは常套句な古臭い音色も平然と持ち込む。
そこへ、男声のポエトリーディングというかモノローグというか(架空)シーンの抜粋が作中のそこかしこで挿まれる、と。
これらを十一篇に分けてアルバム一枚で表現した、フィルムノワールな創りだ。無論、踊るには適さず、チルアウトとして用いるが最適。
結果、思ったよりアクもそつもなく、かつ合理的な出来となっている。
クラブカルチャーも歴史を持つようになった今、このような方法論の連中が続々と増えてくるのではなかろうか。

あざといまでの過去への憧憬を軸に、二つの異なるジャンルを繋ぎ合わせた、用の美を象徴するかのような作品。
二人の広い視野が成せる業。

M-01 Metaphysical Transitions
M-02 Sour/Sweet
M-03 Le Grand
M-04 Better Beware
M-05 Alone Again And...
M-06 Police Story
M-07 Hamburgers & Tangerines
M-08 Honest Man
M-09 Refractory Period
M-10 Danish & Blue
M-11 Metaphysical Transitions II


2015年7月18日土曜日

GRAILS 「Burning Off Impurities」


オレゴン州はポートランドのマルチプレイヤー四人衆、2007年作の三枚目。
ブルックリンの美味しいトコ取りレーベル、Temporary Residence Limitedより。

ドラム、ベース、ギター(エレ、アコ)、キーボード(ピアノ、オルガン)の基本楽器を軸に、ハーピシコード、メロディカ、ローズ、バンジョー、ペダルスティール、ウード(中東のリュートみたいなの)と、さまざまな楽器を曲によって使い分けるインスト音楽なのは今まで通り。ハーモニカ、金管楽器類、ヴァイオリンのゲストも迎えている。
だが、2004年発表の二作目まで養っていたNeurot Recordingsには悪いが、彼らはこの作品で本格化した。スタジオセッション盤、スプリット盤、単独EP、編集盤――と、三年もの間にじっくりマテリアルを積み重ねることで音楽性を熟成させた印象を受ける。
当ブログで何かと名前の挙がる優良インディーズのNeurotをクサすつもりは毛頭ないが、在籍時はTORTOISE影響下にあるポストロック有望株でしかなかった。
いやもう本当に、劇的に化けた。

その熟成に至るキーワードは二つ。ダイナミズムとトライバル風味だ。

まずはゆっくりと助走代わりに反復し、機を見計らって一気に駆け昇り、後は鬼気迫るテンションで乗り切ってしまう、振り幅の大きい構成力を会得したこと。
ザック・ライルズとリーダーのアレックス・ジョン・ホールの主にギター二人が絶妙なユニゾンぶりで主音の弦楽器を掻き鳴らしまくり、主にベースのウィリアム・スレーターが負けじとぶりぶりうねりまくり、もう片方のリーダーである主にドラムのエミール・エイモスが皮をびんびんに張った太鼓をばっこんばっこん叩きまくる。
それで聴き手のアドレナリンがぐんぐん上がる。件のテンションを高めてくる曲と、比較的穏やかな曲をほぼ交互に配すやり口もそれを助長してくれる。
また、本作から中近東の音階をさり気なく用い、民俗音楽っぽい雰囲気を醸し出してきた。それによりエイモスのドラムも、よりパーカッシヴなプレイにシフトしている。

つまり野性味が増した、と。
音世界をより激しい方向性にシフトして一皮剥けた、実は珍しいタイプのバンド。

M-01 Soft Temple
M-02 More Extinction
M-03 Silk Rd
M-04 Drawn Curtains
M-05 Outer Banks
M-06 Dead Vine Blues
M-07 Origin-ing
M-08 Burning Off Impurities

実は日本盤も出ている。


2015年5月4日月曜日

GRAILS 「Black Tar Prophecies Vol's 4,5&6」


アレックス・ジョン・ホール(本作は主にシンセ)と、かのカリフォルニアのスピリチュアルデュオ・OMの二代目ドラマー:エミール・エイモス(主にドラム)が二人で統べる、オレゴン州はポートランド出身の四人組インストバンド、2013年発表の編集盤。
レーベルは、美味しい音を目ざとく掻い摘むインディーの配給王:Temporary Residence Limited、レペゼンブルックリン。

編集盤なのでまずは資料的なことから。
タイトル通り、本作は「Black Tar Prophecies」シリーズを総浚いしたモノ。なお「1,2&3」は2006年にImportant Recordsより発表されている。
曲の内訳だが、件のImportantからのシリーズ4弾目で単独EP(2010年作)がM-01、02、05、08、09。Kemado Recordsからの5弾目でフィンランドのPHARAOH OVERLORDとのスプリットLP(2012年作)がM-04、06、07、11。6弾目に当たる残りのM-03、10、12は未発表曲だ。

のっけからもわ~っと煙が立ち込めるダビーなイントロ。何だか妖/怪しさ満点。
曲調をざっくり説明すると、70年代の空気漂うサイケデリックな音世界。ただし、サイケだからと安易にフィードバックギターへ逃げず、古めかしい音色を有機的なフレーズで多彩な切り口からあちらこちらで鳴らすことにより、独特のレトロでトリッピーな空気感を醸し出す、一筋縄ではいかない創りだ。それはホールとエイモスがプロデューサーとミキサーを兼ね、双方の担当楽器にサンプラーを記す点にも表れている。
――と書くと本作はせせこましくて作り物臭いのだろうな、と思われるかも知れないが、それは断じて否。
音色の多さで聴き手がうるさく感じないよう、バンドなのだからそこに器楽的なアンサンブルが感じられるよう、数々の生音から精製した副音をダブの要領で頻繁に抜き差しし、かつ生々しい音質でテクスチャすることにより、その難事を巧く解決している。もわ~っとしたダビーな空間処理によるフィルターの魔法がそれを可能としたのは今更論を俟たない。

ただ彼らの持ち味の一つである、じわじわとテンションを高め、大団円までトランスする曲単位でのドラマチックさが減退しているような気がしなくもない。
そこはほら、アルバムの方向性よ。アルバム一枚を通して音だけで映画のような情景を描き出す――前作で演ってる、その流れ。
比較的短めの曲を並べてゆったりと満ち引きを繰り返す中、あまりに切ないピアノのフレーズを柱に、アコギやエレギやハープシコードやメロトロンやフルートやハミングを上記の手法で継ぎ足し、空間を把握して折り重ね、聴き手の涙腺を崩壊させる、たった三分弱のM-09で本作は最大のクライマックスを迎える。
ほら、貴方の脳内で、愛し合う男と女の望まれぬ別離シーンに被さる、幸せだった頃のモノローグが走馬灯のように――
……あれ? 本作って編集盤じゃなかった?
いや、むしろこうして既出の音源のプレイ順番をバラしても、一枚のアルバムというドラマが再構築出来てしまう点が、バンドの強固なコンセプトの裏返しと言えまいか。

まずはコレ。彼らの音の深淵が十二分に垣間見られる一枚の重厚な物語。

M-01 I Want A New Drug
M-02 Self-Hypnosis
M-03 Invitation To Ruin
M-04 Wake Up Drill II
M-05 Up All Night
M-06 Pale Purple Blues
M-07 Chariots
M-08 New Drug II
M-09 A Mansion Has Many Rooms
M-10 Corridors Of Power III
M-11 Ice Station Zebra
M-12 Penalty Box


2012年12月24日月曜日

OM 「Advaitic Songs」


ベースとドラムのソリッドでハイブリッドなデュオ、2012年の五枚目。
レーベルは前作に引き続き、シカゴの大手インディー・Drag City

音をありのままに録ることしか興味のないスティーヴ・アルビニに仕切らせず、あくまで三名の共同録音者の一人に留める。代わりに前作では共同録音者の一人という立場だった、31 KNOTSでドラムを叩いている兼業エンジニア:ジェイ・ペリッチが束ねる。
それが功を奏したのか、プレイヤー二人のヴィジョンが完全に固まったのか。
お陰で本作、最小表現の袋小路に陥った三枚目、それを打破すべく暗中模索を始めた四枚目、と悩んで学んだ彼らがようやく開眼した。

基本線はベースとドラムを軸に、穏やかさと相反するひりひりとした触感が共存する〝聴く涅槃〟。ベースを兼任するアル・シスネロスのヴォーカルは歌唱よりも詠唱に近い。
前作はその方向性により、タンブーラ(インドの弦楽器)と中近東音階をただ用いてエスニック風味を出しただけだったが、本作はそこへバリバリの西洋楽器・ヴァイオリンやチェロを厚く絡ませ、見事に同化させることに成功した。
まるで違和感なく中東と西洋が血肉と化しているのだから、これこそ正しくハイブリッド。

賞賛すべき点はそれだけではない。録音状態も素晴らしい。
伝わりやすく表すならば、四枚目より叩いているエミール・エイモスのドラム。独特のビート感を持つ彼のプレイが立体的に聴こえる。各シンバルの位置が明確に聴き分けられ、しかもタムが左右に移る様まで把握出来る。
この生々しさと空間処理、前二枚をアルビニに投げた委ねた効果やも知れない。

ここまで来るともはやハードコアですらない。M-02で久々にベースを歪ませても、その音が欲しかっただけにしか聴こえなくなっている。あくまで題材でしかない宗教臭さもそれほど気にならないはずだ。
限定されたイメージの中で、熟成された音世界が無限の可能性を示してくれる傑作。

M-01 Addis
M-02 State Of Non-Return
M-03 Gethsemane
M-04 Sinai
M-05 Haqq Al-Yaqin



2011年5月24日火曜日

OM 「God Is Good」


ギターレススラッジコアデュオの四枚目。2009年作。

SLEEPで共に伝説をおっ立てたアル・シスネロス(b/vo)とクリス・ハキアス(ds)が袂を別ち、新ドラムにエミール・エイモスが迎えられた。
暗黒音楽専門大手インディーズ・Southern Lord Recordsから離れ、本作からシカゴのポストロック系大手・Drag Cityに移籍した。
頑なにベースとドラムのみという最小表現を貫いていた彼らが、本作でフルートやタンブーラを導入した。
ベースに掛けていたディストーションが弱まった。

でも録音技師は前作「Pilgrimage」同様、スティーヴ・アルビニ。
明らかにアルビニの下、本作で新展開に移行しようとする強固な意思が見て取れる。

前作まではハードコア上がりという矜持があったのかも知れない。だからベースはブリブリうねっていたし、淡々とした曲調からふとテンションを高めてくる展開もあった。
今回はそれらを放棄し、淡々とした曲調のまま、さまざまな角度から曲の彩を変える音楽的深化を図ったのだろう。
それだとたった二人では足りない、賄えないと悟った。だが――
や、これ以上は筆者の妄想になるので省く。

これだけの複線と理由立てがあるのに、まだへヴィさに固執させるのは酷だ。
明らかにジャンル分けやレッテルが創造の足枷になっている。
とは言え、プロデューサーと呼ばれることを極度に嫌い、音をありのままに録るコトだけに固執するアルビニ的放任主義が彼らに合っているとは思えない。
逆にプロデュースという名の下、がんがん指示を与えるのは、更に彼らへ音楽的制約を加えているようで忍びない。

OMは思春期の少年少女のように気難しいバンドだ。
筆者はそんな彼らが紡いだ本作を「音楽的に芳醇になったねっ。先が楽しみだー」と温かい目で褒めようと思う。
そうすればきっとハードコアの、更に狭きスラッジコアなどという枠で語る必要のない、甘辛い陶酔音楽を創ってくれるはずだ、いずれ。

あ、そうだ。せっかくDrag Cityに移籍したんだから、アルビニじゃなくてジム・オルークに任せてみたらどうだろう?
筆者がアルビニの投げっぱなしジャーマンが好きではないだけなんだけどね。

M-01 Thebes
M-02 Meditation Is The Practice Of Death
M-03 Cremation Chat I
M-04 Cremation Chat II