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2015年8月22日土曜日

Mr.SCRUFF 「Friendly Bacteria」


今回も自作のお絵かきが可愛いぜ!
英国北西部・チェシャー州出身のアンディ・カーシー、久々の五枚目は2014年。
言うまでもなく例のトコから。

曲目をご覧の通り、歌モノの彩が強い。あと若干真面目。
メインシンガー扱いのデニス・ジョーンズも、ヴァネッサ・フリーマンも単独作を有す一廉のシンガーだし、ロバート・オーウェンズに至ってはヴォーカルとしても評価が高いが、ハウスDJとしての名の方が知れたクラブミュージック界の大家だ。
以上、カーシーの実力に即した良好なプロダクションで、本作も望めていることが改めて分かる。
さすがNinjaの屋台骨。

だが本作は七年前と比べて若干トラックをチープに仕立てている、意図的に。
というのも、最近のクラブ系の傾向は安っぽくてもシンプルに、より扇情的なトラックを標榜しているため。本職はDJ、と自負する彼も自ずとそちらへシフトする。
クラウドの反応がなによりの御馳走なDJが、流行りに敏感じゃなくてどうするのさ?
よってビートも四つ打ちっぽくシンプルに。打ち方が微妙にダブステップっぽかったり、さり気なくグライムっぽかったり。いや、TR-808っぽいベースラインでアシッドハウス臭さを出しているトラックまである。
つまりこれまで以上にノリが良くなった訳だ。

――と思いきや、終盤は激渋な流れで締めにかかる、ジャジーなフレイヴァーで。
M-11、12でレーベルメイトであるシネオケのバンマス:ウッドベース弾きのフィル・フランスを迎え、打ち込みのボトム対生音の上モノで芳醇なクラブ系ジャズサウンドを展開する。
M-12に至っては、フランス以外のゲストメンバーが非シネオケにも関わらず、それっぽい空気を漂わせてにやにやさせられる。フランスによるグリップの利いたウッドベースや、巧くトラックに食い込んでいるジョーンズのアコギも然ることながら、やはり単独作のあるマシュー・ハルサルのトランペットがトラックに、ひいてはアルバムに心地よい余韻を齎す、最後に相応しい好トラックだ。

蛇足ながら、カーシーは本作からこの可愛いイラストを止めたかったらしい。
思い留まらせたNinjaの社長、有能。

M-01 Stereo Breath feat. Denis Jones
M-02 Render Me feat. Denis Jones
M-03 Deliverance
M-04 Thought To The Meaning feat. Denis Jones
M-05 Friendly Bacteria
M-06 Come Find Me feat. Vanessa Freeman
M-07 Where Am I?
M-08 He Don't feat. Robert Owens
M-09 What
M-10 We Are Coming
M-11 Catch Sound feat. Denis Jones
M-12 Feel Free
M-13 Get Down (Bonus Track For Japan)

ボートラはノリノリのビートに恐らくフリーマンがノリノリの合いの手を入れる御機嫌なトラック。如何にもボートラっぽいけど、楽しいから筆者的に大アリ。


2014年5月22日木曜日

HOMELIFE 「Flying Wonders」


アシッドハウスの巨人:808 STATEグレアム・マッセイが名を連ねるアブストラクト系バンド、2002年作の三枚目。
Ninja Tuneと、過去二作を出していた自己レーベルMad Waltzの共同リリース。

どうやらこのバンドを仕切っているのはアンソニー・バーンサイドなる人で、マッセイは一参加メンバーに過ぎないようだ。(後にマッセイはココの参加メンバーを軒並み引っこ抜いて、TOOLSHEDを結成する)
さてその音世界はラウンジ風(当然ジャジー)な人力ブレイクビーツ。〝あぶすとらくと〟でタグを括ったが、特有の暗さはない。日光の射し込む室内音楽といった趣き。
また、アジアンテイストの強い曲調だが、それ系の楽器はシタールくらい。むしろコンガやボンゴやマリンバやティンバレスやウクレレのようなラテン系楽器を用いたトロピカル風味も能くする。もちろん曲によっては打ち込みも絡める。

要はラウンジミュージックを軸に、勝手気ままに創ってみました! という印象。無論、土台はしっかりしているので散漫さはかけらもない。完成度も非常に高い。
惜しむらくは、オトナでハイセンスな雰囲気漂う耳触りの良い音楽性のお蔭で、聴き込むには物足りなさが残る点か。
実は、鼓膜を弾く打ち込み臭いキックを含むエディット感満載なラウンジ曲のM-07や、続く間曲代わりのM-08では、ターンテーブルを用いた生音素材の打ち込みトラックなど、面白いコトもちょぼちょぼ演っていたりする。
なお、気に留められることはあまりない模様。

ただこのさらっとした楽曲群が必要最低限の自己主張しかしないせいで、アルバムリピート率は恐らく高くなるものと思われる。BGMにもってこい。
聴き疲れしないからこそ、聴きたくなる。〝オサレ〟も悪くないモンだぜ。

M-01 Flying Wonders
M-02 Buffalos
M-03 Try Again
M-04 Seedpod
M-05 Fairweather View
M-06 Steps-Tone
M-07 Fruit Machine
M-08 D.Ex. 1
M-09 Mai Beshe Peeinal Dosta
M-10 Too Fast
M-11 Wonderley


2013年6月14日金曜日

TWO FINGERS 「Two Fingers」


音色詰め込み魔:アモン・アドナイ・サントス・デ・アラウホ・トビン(本名)が、DOUBLECLICKことジョー・チャップマンと組んだヒップホップユニットの2009年初作品。
Ninja Tune傘下のヒップホップ特化レーベル:Big Dada Recordingsより。

ガーナ系UKラッパーのスウェイを軸に、フィラデルフィア出身でティンバランド人脈の女性ラッパー:ミズ・ジェイド、ジャマイカの女性ダンスホールレゲエシンガー:セシルを起用した歌モノならぬ声モノアルバム。トビン作品としては初の試み。
ただでさえ過剰でアクの強い作風のトビンが、チャップマンという相棒付きで、シンガーという看板を潰さず演れんのか? なんて危惧もあるが、そこら辺は彼もプロ。
ビートは古き良き純然たるブレイクビーツではなく、バウンシーに刻んでいく。ダブステップの彩も強い。また、トライバルな響きのある音色を多用したり、直近作よりの流れでムジークコンクレートっぽいジッポーライターを開ける音などもあり。
シンガーたちに目配せをしつつ、相棒と連携を取りつつ、いつも通りがんがんと印象深い音色を盛り込んでいくスタンスは不動。

その最たるトラックがM-05。
アタックの強い速めのバウンスビートへ、可笑しな声ネタやド派手なワンショットと、どいつもこいつもでしゃばりなパーツを巧みに配置し、そこへスウェイがノリノリで早口フロウを乗せ、パンチラインではケヴィン・タフィーなるシンガーを呼んでキャッチーなフレーズを被せる、エゴまみれの各音色が奇跡的な共存を果たした悶絶必至のキラーチューン。
俺は俺、お前はお前なんだから、俺に阿らずにお前のベストを尽くせ。俺がちゃんと生かしてやるから――なんて男気発言がトラックから聞こえてくるようだ。

その一方で、変態的なバウンスビートでヒップホップの縮図を塗り替えたティンバランド周りのミズ・ジェイドに、唯一の参加曲M-08がグライム色濃厚だったりするセシルと、起用法に確固たる意図が感じられるのも事実。
結局、トビンにとってシンガーなど音色の選択肢の一つに過ぎないのかも知れない。
音を突き詰めるとこうなる、正に修羅の道。

M-01 Straw Men (featuring SWAY)
M-02 What You Know (featuring SWAY)
M-03 Better Get That (featuring Ms.JADE)
M-04 Two Fingers (featuring SWAY)
M-05 That Girl (featuring SWAY)
M-06 Keman Rhythm
M-07 Jewels And Gems (featuring SWAY)
M-08 Bad Girl (featuring CE'CILE)
M-09 High Life (featuring SWAY)
M-10 Doing My Job (featuring Ms.JADE)
M-11 Not Perfect (featuring SWAY)
M-12 Moth Rhythm

本作のラップ抜きトラックに(一曲差し替えあり)、未収録のインストトラックを数曲詰め込んだ、その名もずばり「Instrumentals」もあり。逆に本編に参加したラッパーたちの大健闘ぶりが良く分かる代物。




2013年5月10日金曜日

RAINSTICK ORCHESTRA 「Floating Glass Key In The Sky」


本職がデザイナーの角田縛とSEの田中直通からなるデュオ、2004年作は何とあのNinja Tuneから。
当然、ジャケデザインは角田が手掛けている。

ビートの刻みはこまめだが、BPMは速くない。装飾音は多用するが、すっきり構成されているのでうるさく聴こえない。各音色配置がきちっと整頓されて把握しやすいが、ダブのような局所的な音色の偏愛はなく、全てほぼ等価で鳴らされている。
たまにジャジーだったり、Ninjaらしくブレイクビーツをボトムに這わせたり、まったり牧歌的だったりするが、基本的にはミニマル。また、似たような音色をトラック毎で使い回しているのが最大の特徴。
とまあ、音響へのこだわりよりも、自分たちが気持ち良い音を使ったトラックを組みたがっているのが良く分かる創り。そのため、割とメロディの立ったアルバムだ。

そこで『同じような音色を曲毎に使い回して単調にならないのか?』という疑問。
コレが意外とそうならない。
元々音色使いの志向が、奇を衒いたがる〝破調〟タイプではなく、アルバム全体の空気を乱さない〝調和〟タイプ。よって用いる音色自体が淡白となるので、脳裏にへばり付いて来るくどさがない。
あとはテクスチャの妙で聴きやすい環境を整え、巧く反復の魔力を用いて印象付け、各パーツを弄る匙加減を吟味してフックを与える――このような、地味ながらも小憎らしい工夫を施すだけで〝統一感〟の名の下に許容出来る雰囲気となる。
メンバー二人の背景も相俟って、アート臭くないのもその一端だと思う。

ただ、プリセット音色をそのまま用いたようなデフォルト臭は、商業作品として避けるべきではなかろうか。作品が途端に安っぽくなる。
そこで興醒めせず聴き通せるのも、本作の地味ーな旨味ゆえなのだな。

M-01 Trick
M-02 Waltz For A Little Bird
M-03 Kiteletu
M-04 Powderly
M-05 Overflow
M-06 Electric Counterpoint Fast
M-07 A Closed Circuit



2013年2月10日日曜日

THE CINEMATIC ORCHESTRA 「Ma Fleur」


J・スウィンスコー率いる仮想映画音楽ジャズ楽団、2007年作三枚目。

今回の〝スウィンスコー脳内劇場〟はパリを舞台に、『愛と喪失』をテーマに、ゆったり、しっとり、さめざめと進んでいく歌モノ路線だ。
そのゲストシンガーは、中性的な声色のカナダ人男性ソロシンガー:パトリック・ワトソン、〝ヴォイス・オブ・シネオケ〟のフォンテラ・バス婆様、当時LAMB活動休止中であったルイーズ・ローズ、の三名。
それぞれオープニング、クライマックス、エンドロールを担っている――と寂寥感に満ちたジャケットを眺め、もしくは目を閉じ、肩の力を抜いた状態で聴き手各々の脳内映写機を回しつつ感じ取って欲しい。

本作で筆者的に特筆すべき活躍をした三名を。
まずはフィル・フランス。シネオケ最初期から居るウッドベース弾きで、前作あたりから曲創りや制作に多大な貢献を齎し始めたスウィンスコーの片腕的存在である。さしづめ、スウィンスコーが指揮者だとすれば、フランスはオケマスか。
続いてM-02、03、09でコーラスを務めるジンバブエ系英国女性シンガーのエスカ・ムトゥンウェジ。〝Backing Vocals Arranged〟のクレジット通り、自らの感性に基づいて出すことを許されたそのストイックな声色は、参加曲に良きアクセントを与えていると思う。
最後に二児の母:ルイーズ・ローズ。LAMBでは肩肘を張らないと存在感が埋もれてしまうがゆえの気負いを歌声に感じたが、ソロ活動や数多の客演を経て力の抜きどころを知ったのか、非常にリラックスして一音色に徹している。その結論はやはり『色んな人に呼ばれるだけはあるシンガー』というコト。アルバムの締めに相応しい歌声だ。

シネオケ、三枚目にして円熟の味わい。是非、大人の女性に聴き浸っていただきたい。

M-01 To Build A Home (feat. Patrick Watson)
M-02 Familiar Ground (feat. Fontella Bass)
M-03 Child Song
M-04 Music Box (feat. Patrick Watson / Lou Rhodes)
M-05 Prelude
M-06 As The Stars Fall
M-07 Into You
M-08 Ma Fleur
M-09 Breathe (feat. Fontella Bass)
M-10 That Home (feat. Patrick Watson)
M-11 Time & Space (feat. Lou Rhodes)
M-12 Colours (Bonus Tracks For Japan)
M-13 Flowers (Bonus Tracks For Japan)

日本盤のみのボートラ二曲は、せっかく良い余韻で閉まるM-11を無視してまで続けるほどでもないような気がする上に、M-13の締め方ではあまりに唐突過ぎて彼らの特長であるストーリー性が損なわれてしまう気も。
ただ、彼ららしさのある曲なので、目くじらを立てるほどでもない気も。



2012年6月4日月曜日

Mr.SCRUFF 「Ninja Tuna」


え、鮪(Tuna)っ? 鯨かと思った……。
相変わらず自筆のヘタウマ絵が可愛い四枚目。2008年作。自らNinja Tune傘下で興したNinja Tunaより。

前作と何が変わったかは一聴瞭然。メジャー感が増した。
音色のちょっとした安っぽさも魅力だった彼が、しっかりとした音色で、きっちり創ってきた印象を受ける。
また、最近のNinjaの兆候である〝大々的に生音をサンプリングしてトラックを組む〟手法も、作品に更なるダイナミズムと生々しさを与えている。
良い環境にて制作することで、表現の選択肢が広まる。自ら『自分に厳しい』と語るアンディ・カーシーaka Mr.SCRUFF。その妥協を許さぬ姿勢は、このような制約を取り払った状態の方が上手く作用するようだ。
使いこなせなかったあいつとは大違いだね(ニッコリ。

基本はほのかにファニーなブレイクビーツ。それをM-02のようなジャズ色で彩るか、M-03のようにファンクを絡めてジャズファンクで行くか、M-05やM-07のようなブレイクビーツにエレクトロ色を噛ませてみるか、M-08のように四つ打ちエレクトロをぶちかますかはカーシーの匙加減次第。
驚いたのがM-06。UK客演番長・ROOTS MANUVA参加曲だが、まんまあのマルチラッパーが組みそうなトラック。向こうがどこまで口を出してきたかは分からないが、クレジットの〝Programming〟はカーシーのみ。彼の適応能力と言うか、スキルの高さを如実に表すトラックだと思う。

革新的な作品ではないが、臆せず自分の許す範囲で何歩も前進して見せた、手堅く高品質な出来。カーシーの人柄も偲ばれる。

M-01 Test The Sound
M-02 Music Takes Me Up
M-03 Donkey Ride
M-04 Hairy Bumpercress
M-05 Whiplash
M-06 Nice Up The Function
M-07 Bang The Floor
M-08 Get On Down
M-09 Hold On
M-10 Give Up To Get
M-11 Kalimba
M-12 This Way
M-13 Stockport Carnival


2012年4月10日火曜日

THE CINEMATIC ORCHESTRA 「Every Day」


J・スウィンスコー率いるジャズ楽団による、彼らの評価を決定付けた二枚目。2002年作。
レーベルはもちろんNinja Tune

前作のような起伏の激しさはなく、全般的にしっとりとした作品となっている。
映画で例えるなら、前作はサスペンス。本作は大人の恋愛映画。
音像は前作よりもループやブレイクビーツ感を生かし、クラブジャズ路線を幾許か強めている。(DJ FOODことパトリック・カーペンターの加入はおそらく関係なく)
ただ、しっとり一辺倒かと言えばそんなコトはなく、M-05のようなインプロっぽい各楽器の競い合う部分など、ぐっと来れる曲調もあり。

バランスが取れている上に、一聴ですっと心に入り込んでくるスマートな音世界だ。

それに加え、本作はシンガーとラッパーを招き入れて、更に口当たりが良くなった。
M-01とM-04では御年六十二歳(当時)、フォンテラ・バス婆様が堂々たる歌唱を披露。若い頃の初々しさから年輪を重ね、一皮も二皮も剥けた渋い声色に痺れる。もはや〝ヴォイス・オブ・シネオケ〟とお呼びすべき存在感だ(体型もね……)
一方、M-06ではUKヒップホップシーン屈指のラッパー・ROOTS MANUVAが参戦。何でも彼は、スウィンスコーが薦めたヒップホップっぽいトラックをスルーして、ライムが乗せづらそうなトラックを自ら選んだという。彼の真摯な音楽姿勢を示したエピソードである。

筆者が思うに、ケチの付けようがない完璧なアルバム。なのにいつもより気の利いた締め文が思い浮かばない。くやしい……! でも……感動しちゃう!

M-01 All That You Give
M-02 Burn Out
M-03 Flite
M-04 Evolution
M-05 Man With The Movie Camera
M-06 All Things To All Men
M-07 Everyday
M-08 Oregon (Bonus Track For Japan)
M-09 Semblance (Bonus Track For Japan)


2012年4月8日日曜日

ROOTS MANUVA 「Run Come Save Me」


ジャマイカ系英国人ラッパー、2001年作二枚目。
Ninja Tune――というよりも、正確にはその傘下のヒップホップ特化レーベル・Big Dada Recordings所属。

この人も客演が多い。
だが他流試合で名を高めていった客演女王・マルティナ姐さんとは逆に、レーベルメイトやヒップホップコミュニティ内など、俗に言う〝マイメン〟繋がりを重視している。
そんな保守的なところが如何にもヒップホップの人なのだが、あながちガチガチ保守派でもない。どちらかと言えば革新派に近い(もちろん保守派が劣り、革新派が優れていると語るつもりは毛頭ない)。

そんな彼の積極果敢な活動姿勢を物語るエピソードは次回に譲るとして、作品からでもその匂いを十分に感じ取れる。
まずはこれでもか! と言わんばかりにぶんぶんベースがうなりまくる。両親がジャマイカンで、MAD PROFESSORやLEE PERRYをヒーローと崇める彼のこと、レゲエ/ダブの影響を色濃くトラックに反映させるのは当然の帰結。もちろんフロウもラスタ風。しかも翌年、本作のダブ盤までリリースする傾倒具合。(何でもリリックの書き方もかなり特殊らしいのだが、筆者はそれほどヒップホップに詳しくないのでお茶を濁しておく)
かと言ってヒップホップを疎かにしている訳ではない。RAKIMに強く影響を受けたことを公言し、ヒップホップフォーマットをきちんと踏まえている。根無し草では決してない。
そんなヒップホップとレゲエの良いトコ取りを目指す彼のトラックは、ほぼ自作(前作など丸ごと自作!)。ラッパーが自作トラックに拘るのも珍しいが、デビュー前にスタジオエンジニアとして働いていた経歴を持つ彼にとって、至極当たり前の考えと言える。

要は象徴的なパンチラインを持ち、スキルも高く、トラックを自分で組めて、仲間を大切にする社交的な彼は、ヒップホップ界のチートキャラなのだ。

ダビーな抜けの良い音像は、如何にもUKブレイクビーツシーンの賜物。もちろんそのシーンもヒップホップカルチャーから派生しているのだから、異端ではない。むしろ王道――UKヒップホップ界のど真ん中を貫いている。
そんな本作では機材も良いモノが使えているようで、すこぶるメジャー感が漂っている。本領発揮、才能開花! と宣言しても語弊がないはずだ。

そんなコトよりもっ! このあほPV見てみんなで笑おうぜ!

M-01 No Strings...
M-02 Bashment Boogie
M-03 Witness (1 Hope)
M-04 Join The Dots
M-05 Black Box Interlude
M-06 Ital Visions
M-07 Kicking The Cack
M-08 Dub Styles
M-09 Trim Body
M-10 Artical
M-11 Hol' It Up
M-12 Stone The Crows
M-13 Sinny Sin Sins
M-14 Evil Rabbit
M-15 Swords In The Dirt
M-16 Highest Grade
M-17 Dreamy Days
M-18 Son Of The Soil (Bonus Track For Japan)


2012年3月16日金曜日

BONOBO 「Days To Come」


Ninja Tuneの番人、サイモン・グリーンによる2006年作の三枚目。

スモーキーなブレイクビーツから、ジャズオリエンテッドな方向性へ――Ninjaも時と共にそのカラーを変えてシーンに君臨し続けている。
別にお互い争っている訳ではないが、保守派中堅どころの彼もようやく三枚目で作風を軌道修正してきた。言い方は悪いが、革新派Ninja路線に迎合する形で。
具体的に言えば、以前からジャズ色はあったものの、当時Ninja主力のシネオケばりに前面へ押し出すようになった。M-08などその最たるトラックだろう。既にイントロのM-01から、短いながらもその彩を予告している親切設計。
ほら、何せ〝Ninjaの番人〟なのだから。主の変革に付き従うのは是当然。それよりも、何の違和感もなく進化を遂げているこのさり気なさ。
そうなれば自ずと生音の含有度も以前より増す。その大半はグリーン自身が弾いている。

あらあら、古き良きNinjaテイストを守る彼にしてはなかなか冒険したこと。いやいや、この程度の変化はまだまだ序の口。
コレより分かりやすく、しかも大胆な新機軸カードをグリーンが切ってきた点を書かねば、このかんそうぶんの意味がなくなる。

ずばり、いづれもDisk-1のM-02、M-03、M-06、M-10でインド生まれの女性シンガー・BAJKAが、M-09ではレーベルメイトである〝英国のジャック・ジョンソン〟FINKがゲストヴォーカルとして迎えられた――コレに尽きる。
今まで声をサンプルソースに使ったコトはあるが、歌モノは初の試み。
無論、全てにおいてそつのないグリーンが的確に〝歌声〟という最強の音色をトラックに当てはめているのは言わずもがな。むしろ今後、凛としたしなやかさが持ち味のBAJKAを加えて、BONOBOは巷でよくある男女デュオ編成になるべきさ! と進言したいくらい良き彩を曲に齎している。FINKは独りでアコギ抱えて頑張んな!

全体的に一皮向けた印象。このまま、スモーキーかつジャジーな〝Ninjaの中のNinja〟なアーティストに成長して欲しい。

Disk-1
M-01 Intro
M-02 Days To Come
M-03 Between The Lines
M-04 The Fever
M-05 Ketto
M-06 Nightlite
M-07 Transmission94 (Parts 1&2)
M-08 On Your Marks
M-09 If You Stayed Over
M-10 Walk In The Sky
M-11 Recurring
Disk-2
M-01 Days To Come (Inst.)
M-02 Between The Lines (Inst.)
M-03 Nightlite (Demo Ver.)
M-04 If You Stayed Over (Inst.)
M-05 If You Stayed Over (Reprise)
M-06 Walk In The Sky (Inst.)
M-07 Hatoa

最後にDisk-2だが、Disk-1中の歌モノトラックのカラオケみたいなモンで特筆すべき点はない。強いて挙げれば、誰が歌っているか分からないが(もしかしてグリーン本人?)、M-03でBAJKAとは異なるアプローチの歌メロを執っている部分くらい。
とは言え、歌抜きでもさほど空白部分を感じさせないトラックを組める彼の実力を、このおまけで再認識出来るのでは。


2012年2月6日月曜日

HINT 「Portacabin Fever」


英国はサセックス出身のブレイクビーツのび太くん、ジョナサン・ジェイムズによる2003年発表の初アルバム。
レーベルはブリストルのHombre Recordingsと、大手インディーズNinja Tuneの連名。本作がHomble最後のアルバムリリースとあって、いろいろ事情があった模様。
それについて邪推から紐解かれる結論を述べさせていただけば、「本作での音楽的発言権はNinjaが上」ということ。それはもう、圧倒的なくらいに。

本作はそのくらいNinja Tuneのカラーが強い。
当ブログで頻繁に紹介されるNinjaのイメージは〝ジャジーなブレイクビーツレーベル〟かも知れない。だが本来は、まったりと地味に進行するトリップホップ(嘲笑)がレーベル黎明期の屋台骨を支えていたことを忘れてはならない。
その代表格であるBONOBOと交流のある彼。ならば音世界は決まったようなものかも知れない、幸か不幸か。

ただ、同じ音世界だからと一緒くたにするのは良くない。何せ創っている者が違うのだから、HINTなりの特色も淡く出る。
まず、本作でジェイムズは自らギターとベースとキーボードを弾いており、生音混合のインストブレイクビーツ作品であること。
叙情的なメロディを立て、分かりやすく丁寧にトラックを紡いでいること。
各トラック自体にそれほど統一した音楽的主張はないものの、静かに調べられたピアノにKID KOALAばりの温いスクラッチが絡むM-03から、イントロからシネオケを彷彿させどきりとするM-06を経て、数多くの生音色の上モノを破綻も嫌味もなくさらりと織り込むアルバムの総決算的M-11まで、借り物では終わらない感性の持ち主だと分かる優良トラックが粒揃いなこと。
まだビートパターンにやや未熟さを残しているが、まだ初作品だ。個性だって続けていけば後から付いてくる。キラーチューンはこの音楽性でさほど必要ない。

温かい目で見守ろう。
こののび太は出来るのび太だ。やれるのび太なんだぞ、ジョナサン!

M-01 Actory
M-02 The Look Up
M-03 Words To That Effect
M-04 Why The Top Ten Sucks In 2002
M-05 You Little Trooper
M-06 Re:percussions
M-07 Quite Spectacular
M-08 Plucker
M-09 Shout Of The Blue
M-10 Count Your Blessings
M-11 Air To The Sky


2012年1月12日木曜日

SKALPEL 「Skalpel」


ポーランドはヴロツワフ出身のDJデュオがNinjaに殴り込み!
2004年デビュー作。

端的に音世界を書くと、Ninja Tuneお得意のジャズ+ブレイクビーツ。
ジャズをソースに、ブレイクビーツへ更に何を持ち込むか――その選択肢と匙加減を最重要課題として、当時のNinja連中は扱っていたように思える。
そこで彼らの場合、そろそろカビの生えそうな60年代ジャズを、盤面の埃を払って差し出してきた。この方法論はシネオケCLIFFORD GILBERTOあたりが演ってきた選択肢と被るのだが、ボトムラインはもちろん、上モノ使いのセンスが何となく違う。個人差だけではない、本質的な何か――

コレがポーリッシュ・ジャズなのかと! 弱った、初めて聞いたよマジで……。

何の気なしに耳にすれば、普通の古臭いジャズのように聴こえる。針飛びのグリッチがそれを助長させる。
だがやはり、どうしようもなく二十一世紀の音だ。レトロちっくな音世界を乱さない程度にクリアな音質。生演奏を巧く模したループ感。ここぞとばかりに効果的なサンプリングの挿入――特に女性スキャット(のサンプリング)をフィーチャーして組まれたM-02はキラートラックとしてアルバム中、燦然と輝いている。(ギターのカッティングがこれまた可愛いんだよなあ)
こう言った〝古くて新しい〟感覚こそ音楽界ではなくてはならないモノで、巧く使い回せば永遠の時を刻むことが出来る。
音楽技法も、我々の刻む時も。

『古き良き音楽を聴けば済むじゃない』と仰る方も居やがるかも知れないが、それでは音楽は前に進まない。
過去の遺産を踏まえて、現代に翻案する――実に素晴らしい。そこにお国の伝統を今に伝えたいという意思があるのなら、実に美しい。
それで置いて行かれた奴らは知らん。過去に生きる選択肢だってある。

M-01 High
M-02 Not Too Bad
M-03 1958
M-04 Together
M-05 So Far
M-06 Break In
M-07 Quiz
M-08 Asphodel
M-09 Theme From Behind The Curtain
M-10 Sculpture

日本盤も出ているが、ボートラとか特典とかないのでお好みに合わせて。


2011年10月30日日曜日

AMON TOBIN 「Isam」


我が道を行くニンジャの番長、六作目。2011年作品。
本作はジャケットのような、昆虫・動物の死骸や植物を用いて創る新進気鋭のコラージュアーティスト、テッサ・ファーマーとのコラボレーション作品である。
輸入盤はファーマーの作品をフィーチャーした、四十ページのブックレット付き豪華仕様が同時発売されている。
CDが売れなくなった今、複合アートとして付加価値を与えるのは良い傾向だと思う。

前作「Foley Room」の軸である(付属のDVDにその録音模様を収録までした)フィールドレコーディングの音色をサンプリングソースとして噛ませるムジーク・コンクレートの手法は既に、前々作でも行われていたらしい。(間抜けな筆者は気付かなかったが)
まずは一枚、触りだけ試してから次、大々的に演る。こうして同じ主題のアルバムを連続して創らず、軸を挿げ替え挿げ替え新風を吹き込んでいくのがトビン流。
となるとムジーク・コンクレートの章は前作で一段落ついたコトになる。

さて、本作は……ダブステップときた!

確かに切り張り音楽であるムジーク・コンクレートと、がったがたでぶつ切りの音像が魅力のダブステップの邂逅は理に適っている。
でもコレ、前作までずーーっとボトムに敷いていたブレイクビーツをすっぱり捨て去ってまでNinja Tuneで演るほどの音なの?
いえいえ何を隠そう、彼はドラムンベースが流行りだした頃、真っ先に飛びついた類のミーハーな世相に敏感なアーティストでもある。
ただ彼は稀代の音キチ様。まんま二番煎じのへちょい音を創る訳がない。

相変わらず音色の数が半端ではない。
“ダブ”ステップと呼ぶからには、音色の出し入れから起こる幽玄で抜けの良い音像になるのだが、そんなコトなどトビンの知ったこっちゃない。
フィールドレコーディングで得た音色(M-04で凄く分かりやすく使われている)や、女性シンガーのや、シンセと卓で加工した音色をがんがん注ぎ込みまくる。
聴き手の脳みそを圧縮せんばかりの音圧を誇るM-03のようなトラックがある一方、ひっそりと波形を感覚で落としていくようなM-11もあったりと、音の振り幅は過去最凶。

既存のジャンルを踏襲しているようで、結局はオレ流を貫いているところが彼らしい。
その潔さに男惚れするも良し。秘めたる部分を濡らすも良し。
ただし、近作だからとこの作品からAMONヴァージンを切るのは止めた方が良い。
やはり彼はNinja Tuneの重鎮。ブレイクビーツを主とした粒揃いの過去作品に触れてからの方が、本作をしっくりと聴けると思う。

そのくらい異色作であり、なにげに問題作でもある。

M-01 Journeyman
M-02 Piece Of Paper
M-03 Goto 10
M-04 Surge
M-05 Lost & Found
M-06 Wooden Toy
M-07 Mass & Spring
M-08 Calculate
M-09 Kitty Cat
M-10 Bedtime Stories
M-11 Night Swim
M-12 Dropped From The Sky
M-13 Morning Ms Candis (Bonus Track)


2011年10月26日水曜日

THE CINEMATIC ORCHESTRA 「Man With A Movie Camera」


J・スウィンスコーが統括するクラブ系ジャズ楽団の、二枚目三枚目の間にリリースした、ライヴ盤のようなサントラのような作品。2003年発表。
いきなり曖昧な説明で申し訳ないが、もう少し字数を割いて書くとこんな作品。

題して『ロシアのサイレント映画を元に生演奏してもらい、それをそっくり録音して音源化しちゃおう』企画!

ライヴ盤のようで歓声はないし、ブックレットには『ロンドンのスタジオで二日間掛けて録られた』と記載されている。要はスタジオライヴ盤、という訳。
スタジオとは言えライヴ盤。生演奏のダイナミズムはスピーカーからびんびんに伝わって来る。M-08の、中間部でドラムのルーク・フランシスと、DJ FOODの名でお馴染みのパトリック・カーペンターがせめぎ合うところなど最たる部分。
正直、3rdアルバムと名乗らせちゃえよ! と思ったくらい。

ただ、本作のように明確なコンセプトを元にアルバムを編むのではなく、一曲一曲にバンドのコンセプトを籠めてアルバムを編むのが、彼ら――いや、スウィンスコーにとってのオリジナルアルバムのあり方なのかなあ、と考えてみたり。
オリジナルならきちんと卓で創り込むだろうし。
あえてどの曲かは書かないが、生演奏ならではの(ほんの些細な)ミスも修正されずに残してあるのだから、そこら辺の生々しさを楽しむ聴き方も出来るし。
逆に、音質も(上記のようなコトを書きつつ)演奏も安定しているので、スタジオアルバムとして聴くことも出来るし。

〝企画モノ〟扱いが残念なくらいムードのある逸品。
やっぱり軸になるコンセプトがきちっと絞られた作品は強いね。

M-01 The Projectionist
M-02 Melody
M-03 Dawn
M-04 The Awakening of A Woman (Burnout)
M-05 Reel Life (Evolution II)
M-06 Postlude
M-07 Evolution (Versao Portuense)
M-08 Man With The Movie Camera
M-09 Voyage
M-10 Odessa
M-11 Theme De Yoyo
M-12 The Magician
M-13 Theme Reprise
M-14 Yoyo Waltz
M-15 Drunken Tune
M-16 The Animated Tripod
M-17 All Things

M-11(M-12、M-13)はART ENSEMBLE OF CHICAGOのカヴァー。原曲よりも都会的なアレンジが楽しめる。
それよりも、この原曲を収録したアルバム自体がフランス映画の劇伴音楽だったり、原曲のシンガー(当カヴァーはインスト)が若き頃のフォンテラ・バス婆様(声、若っけえ!)だったりと、いろいろにやにやさせてくれる仕掛けが施してある点に注目。


2011年10月16日日曜日

WAGON CHRIST 「Sorry I Make You Lush」


ルーク・ヴァイバートは食えない男だ。

本作はWarpからのリリースではない。友人であるリチャのRephlexでも、マイクのPlanet Muでもない。COLDCUTが所有するUKブレイクビーツ総本山、Ninja Tuneである。(本人にとっていい迷惑だろうが)〝コーンウォール一派と呼ばれ、アシッドサウンドを得意とする者にも関わらず、だ。
(両者とも多角化されつつあるが)片やエレクトロニカ、片やブレイクビーツを主とする英国クラブ系インディーズ二巨頭でアルバムをリリース出来る者など、この男(広義で括れば、あとDJ FOOD)くらいなモンだろう。
それが彼の評価でもあり、才能でもあると思う。

あえて断言させていただくが、彼は二十年近いキャリアの中で〝傑作〟に値する金字塔的作品を創ったことがない。(異論は認める)
その代わり、質は常にきっちり高い。失望させない手堅さがある。
どんなレーベルで出そうと、どんなクラブ系の音楽性にチャレンジしようと、どんな人と競演しようと、誰のリミックスを手掛けようと、己の色を出し切りつつ容易に軟着陸させる技巧を持つ。
だから嗜好が合えば、安心して作品に手を伸ばしても大丈夫。
芸術家と言うよりも職人に近い人だ。

でもその割には掴みどころがない。にこにこ微笑んでいるようで、心の中では何を考えているか分からないタイプの人だ。

本作はWAGON CHRIST名義の五枚目。2004年作品。
ところどころお得意のアシッド色を溶かしてはいるが、Ninjaという軒下に住まわせてもらっている以上、ややスモーキー仕立てなブレイクビーツが主である。
そんな中で、今ではほぼ絶滅した90年代後半のクラブ系ムーブメント〝ビッグビート〟っぽい曲調もあったりと、いつの間にかゾンビのように蘇るアシッドハウス好きのルークらしい時代遅れなダサカッコ良さに、にやりとする部分も。

でも、前はもっともわーっとした音像だったような気がするなあ。ちょうどTHE CHEMICAL BROTHERSTHE PRODIGYやらが猛威を振るってた頃の作品で特に。
……あ、もしやルーク、なにげにこの名義も自分の好きなアシッド色に塗り替えようとしてるとか? ほんとに食えない奴だなあ。

M-01 Saddic Gladdic
M-02 I'm Singing
M-03 The Funnies
M-04 Shadows
M-05 Quadra Y Discos
M-06 UBFormby
M-07 Sci Fi Staircase
M-08 Sorry I Make You Lush
M-09 Kwikwidetrax
M-10 Nighty Night
M-11 Deux Ans De Maia (Bonus Track For Japan)
M-12 Loose Loggins (Bonus Track For Japan)


2011年7月30日土曜日

THE HERBALISER 「Take London」


ヒップホップと言えばアメリカ。NYCNYCNYCNYC!! あとウェッサイ、ダーティサウス! みーんなUS産しか称えない。
「影響を受けたのはUKシーン」なんて発言、日本のBボーイとやらの口から聞いたことがない。みーんな右倣えで本場サイコー!
こーんなイルな(苦笑)クルーが居るのにねえ。あんさんら、ほんとに本気でブレイクビーツに魂捧げてるん?

ジェイク・ウェリーとオリー・ティーバのトラックメイカータッグによるUKヒップホップの粋、2005年発表の五作目。
当時はNinja Tuneのエースだった。

常に矜持を正すジョンブルらしく、トラック構成は落ち着いた雰囲気のジャズ風味が基本線。Ninjaの申し子ポジションを堅持している。
だが本作では最後の祭り! とばかりにドファンキーなナンバーをアルバム前半でぶち上げ、筆者の度肝を抜いた。もちろん新機軸。
準メンバーの女性ラッパー、ジーン・グレー(What? What?)による切れ味鋭いフロウに、低音高音のホーンセクションが幅を利かすM-02。ダルなギターのカッティングとヴィブラフォンとフルートでいつも通りのM-03から一転、ギャング映画で使われそうなニヒルかつダイナミックなトラックに男と女の乱交マイクリレーがヤバいM-04。とどめが反則とも言うべき、焦らしまくり揚げまくりのドファンキーナンバーM-05。
おいこいつら、ライヴでは大所帯のバンド編成なんだろ? こんなの生で見せられたら理性ぶっ飛ばされんの必至でしょ! と言わんばかりのアッパーぶり。

昇天。

でもココがピークで以降は出し殻? いえいえ、いつも通りのHERBALISER流・大人のブレイクビーツを醸し出してくれています。そこら辺はウェリーとティーバの得手。しっかり創り込まれてますとも。
この界隈の人々としては長丁場の八分越えトラックであるM-12を、破綻させずにきちっと構成出来る手腕で、彼らの実力を計っていただきたい。
確実さにイッパツを兼ね揃えたこいつらに敵はナシ!

でも本作を以って長年連れ添ったNinjaから離れ、ミックスCDシリーズ“DJ Kicks”でお馴染みのStudio !K7に移籍してしまうのだ。
Ninjaのレーベルカラーずっぱまりだったのに離れるのは寂しいけど、どちらにせよ名門レーベル。全く問題……ないよねっ?

M-01 Take London
M-02 Nah' Mean, Nah'm Sayin'
M-03 Song For Mary
M-04 Generals
M-05 Gadget Funk
M-06 Failure's No Option
M-07 Lord Lord
M-08 The Man Who Knows
M-09 Kittyknapper
M-10. Geddim
M-11 Close Your Eyes
M-12 Sonofanuthamutha
M-13 Twice Around
M-14 I Know A Bloke
M-15 8 Men Strong
M-16 Serge


2011年6月20日月曜日

THE CINEMATIC ORCHESTRA 「Motion」


ジェイソン・スウィンスコー率いる、英国発・仮想映画音楽ジャズ楽団のデビュー作。1999年にNinja Tuneレーベルより発表された。
彼らの存在で以後、Ninjaは更にジャズへと傾倒していったような気がする。JAGA JAZZISTとかLOKAとか。

さてバンド名通り、彼らの創造の源は映画である。60年代の、映像がモノクロからカラーに切り替わりそうな時期が一番フィットする音を出している。
だからこそジャズ。バンドサウンドでジャズ。しっとりとジャズ。
だが、彼らが単なる回顧主義ではないのは、バンマスのスウィンスコーが楽器を演奏しない、コンポーザー兼プログラマーという立場にある点――つまりピアノ、サックス、トランペット、ベース、ドラム、以上五名のプレイヤーが出した音をDJ視点で編集する、新しい形のジャズを標榜しているからだ。
とは言え、ジャジーな生演奏のボトムにブレイクビーツを敷き、サンプリングをがんがん噛み噛みさせる、Ninja Tuneの僚友たちのような“クラブとジャズの融合”などハナから眼中になかったようだ。

スウィンスコーは当時の映画音楽家が現代の音楽テクノロジーで編集録音したらどうなるか? を自ら実践しているに過ぎない。
だからジャズ。真っ当にジャズ。レコ屋のJazz棚に収めて欲しいくらいジャズ。

映画音楽を創るのを念頭に入れているため、音の録り方が立体的かつ映像的だ。
ヘッドフォンをして胡坐をかき、目を瞑って脳内スクリーンに思い思いの映像を映しながら聴いてみて欲しい。
M-04からM-05に至る流れは本作のクライマックスだ。そこからM-06で締めて、M-07はスタッフロール、と考えるも良し。
夜の室内BGMとして掛けてもハマるだろうが、多分M-05でビビる。

M-01 Durian
M-02 Ode To The Big Sea
M-03 Night Of The Iguana
M-04 Channel 1 Suite
M-05 Bluebirds
M-06 And Relax
M-07 Diabolus
M-08 Goatee Pt.1 [Bonus Track For Japan]
M-09 Channel 1 Suite (Live At The Barbican) [Bonus Track For Japan]

上記のM-08、M-09は2010年の再発盤で差し替え収録されたボートラ。
1999年の日本オリジナルリリース盤は“Channel 1 Suite (HEFNER Mix)”と“Ode To The Big Sea (FOUR TET Mix)”であった。


2011年6月8日水曜日

Mr.SCRUFF 「Trouser Jazz」


英国人、アンディ・カーシーによる2002年作、三枚目。自筆の可愛いゆるキャラが、画面をのろのろうろうろするステキPVでちょいとおなじみ。
言うまでもなくNinja Tuneレーベル所属。

さて音盤の内容なのだが、ジャケを見ての通り。
ファニーかつチープな音色使いで、ややアッパー目に進行するジャズファンク風味のブレイクビーツ。
その基本線は堅持しつつも、時にはシリアスな音に取り組んだりするのだが、その曲名がM-08のようにあほっぽかったりするので、照れ屋サンなんだなーと苦笑い。
……うーん、制作者の意図が明確なので、すっごく紹介しやすいぞ!

早くも総括すれば、本作はNinjaらしい手堅い創りのアルバムだ。
聴いていて驚きはない。戦慄も走らない。本作は00年代を代表する名盤だ、とも言わない。佳作評価が妥当だと思う。
だがクラブ系音楽はそれでいいと思っている。
踊りたい人々をいちいち戦慄させてどうするのさ。フロアに心地良い空間を与えて楽しんで貰えればいい訳だし。
そこら辺の空気作りと、凡百の存在に埋もれないよう作家性を嫌味にならない程度に出す微妙なせめぎ合いで、彼らは常に神経を尖らせて音を創っている。

「細部には細心の注意を払うし、そのための努力も惜しまない。リスクを背負いたくないなんて苛々する。僕はとても自分に厳しいんだ」 Mr.SCRUFF

ゆるキャラが幸せそうに踊っているのはカモフラージュだ。
となるとカーシーさんは照れ屋サンなんだなあ、と改めて思う。

M-01 Here We Go
M-02 Sweetsmoke
M-03 Beyond
M-04 Shrimp
M-05 Come Alive
M-06 Shelf Wobbler
M-07 Giffin
M-08 Valley Of The Sausages
M-09 Champion Nibble
M-10 Come On Grandad
M-11 Vibrate
M-12 Ug
M-13 Ahoy There!


2011年5月26日木曜日

AMON TOBIN 「Out From Out Where」


ブラジル生まれのイギリス育ち、Ninja Tuneの番長、AMON TOBINによる2002年作品。本名名義では四枚目だが、変名を加えると五枚目のオリジナルアルバム。

この人はおかしい。
毎回毎回、楽曲を偏執狂の如く“創り”込む。だが、音自体はそれほど“作り”込まない。
矛盾してそうな発言なので分かりやすく書くと、各音のパーツを籠もらせたり、ぶつ切ったり、刻んだり、すり減らしたり、引きずったりしない。それらをスピーカーのどこから出るか配置決めする程度で、全くと言っていいほど加工しないのだ。
それで、とにかく音を重ねる、重ねる、重ねる……。一曲につき六音以上は優に使う。
音数が多いため、わざわざ加工して使わなくとも聴き手の耳に変化を与えられるのだ。加工するタイプのアーティストは自ずと音数を切り詰めた、シンプルなトラックを標榜するタイプだ。
どっちが一曲における生産性が高いか、すぐに分かる。

それでもトビンは音を盛り込みまくる。本当におかしい。

AMON TOBIN名義の二枚目まではジャジーで時折、彼のルーツであるブラジリアンビートを咬ませたドラムンベース的な音作りをしていた。言ってみれば非常にNinja Tuneらしい作風だ。
そこで三枚目「Supermodified」では方向性をじわりと変えた。本作の雛形となるサイバーブレイクビーツ路線に。
そうと決まれば早速、トビンはBPMを落としてドラムンベース色を減らしてみせた。
そうなるとAMON TOBINの色って何だ? と聴き手に取られても仕方ない。
だが彼も然る者。四作目に当たる本作で違和感なくサイバーブレイクビーツ路線が開花するよう、三枚目まではジャジーな色を濃い目に残していたのだ。で、本作ではジャズ色を薄め、サイバー色を前面に押し出す、と。
見事な軸のすり替えである。この用意周到さ、そうとしか思えない。
そもそもUKブレイクビーツ界において、ここまで音数を使うアーティストも珍しいので、その時点でほぼAMON TOBINの独自性なのだが。

トビンのサイバー路線は本作で決定付いた。だがやはり彼は然る者。以降、再び路線を変更する。
案の定、挿げ変えたサイバー色を弱め、新機軸に移る布石を打つ。
やはりこの人はおかしい。只者ではないという意味でおかしい。

M-01 Back From Space
M-02 Verbal
M-03 Chronic Tronic
M-04 Searchers
M-05 Hey Blondie
M-06 Rosies
M-07 Cosmo Retro Intro Outro
M-08 Triple Science
M-09 El Wraith
M-10 Proper Hoodidge
M-11 Mighty Micro People


2011年5月18日水曜日

BONOBO 「Dial ‘M’ For Monkey」


英国人、サイモン・グリーンによる2003年作、二枚目。
タイトルの元ネタがヒッチコックのコレなのは言うまでもない。

最近はNinja Tuneも多様化を図っているものの、彼やFUNKI PORCINIやMR.SCRUFFあたりがNinjaを象徴したアーティストと言っても過言ではない。
スモーキーでウェットでちょっぴりジャジーなインストブレイクビーツ。
ことBONOBOに関しては、この微妙な枠線を決して踏み外さず、音像通りのもわっとした活動を重ねている。
『継続は力なり』という言葉が似合うアーティストは、何もロック畑だけではない。

えっと、それって……作品毎に差異がない、って意味じゃね?
いやいや、『同じようなコトを演ってる』のと『同じようなコトを演らされている』のでは大違い。そもそも、後者にアーティストとしての資質があるのか疑問視してしまうが……。
口の悪い人が『前作と瓜二つ』などと揶揄するが、それは『質が維持出来ている』という意味として捉えておこう。筆者はむしろ、音色使いがやや幅広くなったこっちの方が好きだ。
『同じようなコトを演ってる』人々に成長がないなんて、そんな理屈はない!

さて、あまりに『Ninjaな音世界』なのでこれ以上書くコトはないのだが、最後にひとくさり。
彼の音源デビューは何と、かのCLARK全く一緒
それから十年余――片やスモーキーなブレイクビーツを堅持し、片やアルバム毎にテクノ界を所狭しとうろつき回る――この両極端な成長振りが、非常に面白い。

M-01 Noctuary
M-02 Flutter
M-03 D Song
M-04 Change Down
M-05 Wayward Bob
M-06 Pick Up
M-07 Something for Wendy
M-08 Nothing Owed
M-09 Light Pattern


2011年5月12日木曜日

CLIFFORD GILBERTO 「I Was Young And I Needed The Money!」


1998年作。
正確には〝THE CLIFFORD GIRBERTO RHYTHM COMBINATION〟がソロユニット名。

のっけから身も蓋もないことを書いてしまえば、SQUAREPUSHERのフォロワー。
自らベースを弾き、ジャジーなトラックに高速ブレイクビーツを噛ませるといった方法論は、タッチの差で1996年、トムの野郎が先に確立させている。
ただ、個人的にクリフォード(本名:フローリアン・シュミット)の方が楽曲の出来の平均値も、焦点の絞り方も、大衆性も(要らぬお世話だが人間性も)上のように思える。
トムは考え方が〝固定観念を持たれたくない〟ニカ人格そのままで、あれこれ迷走しては作品を乱発し、その気ムラっぷりを露わにしてきた。作品の統合性は本人のキャラが担っているのではないかと思えるほど、いろんな意味で散漫なクリエイターである。
果たしてクリフォードが音楽クリエイターとして本腰を入れていたら、どんな活動経歴を辿っていたのだろうか。

非常に残念なことに、彼の作品はこれ一枚きりである。
行き詰ったのか、飄々とした発言から察するに元からそれほど音楽活動に関心がない無頓着な気質なのかは分からない。
ただ、これほどの作品を、ガールフレンドの強い勧めで『試しに』Ninja Tuneレーベルへとデモを送ったものの、色よい返事は『まるで期待していなかった』人間が創ってしまうのだから、憎らしいやら羨ましいやら凄いやら。

セピア色に褪せたジャズを下敷きに、スウィングもフリーもフュージョンも何でもござれの、良い意味でイッチョカミな作風が最大の特徴。
ビートは軽快かつ抜けの良い音像で、時には渋く、時には荒っぽく構成する。本人は『ガバ・ジャズとでも呼んでくれ』と発言しているが、素直にコーンウォール一派が得意としていたドラムンベースの変種・ドリルンベースの枠に押し込め――てしまえば楽なのだが、ジャジーな空気が立っているため、あまりエレクトロニカの匂いがしない。
そこが同じクラブカルチャーの住人でも、テクノ系とブレイクビーツ系――WarpとNinjaの違いなのかも知れない。

最後に、ジルベルト――いやシュミット氏は現在、ロンドンでマルチメディア系統のデザイナーをしているそうだ。
音楽戻って来てよ。

M-01 Restless
M-02 Deliver The Weird
M-03 I Wish I Was A Motown Star
M-04 Ms. Looney's Last Embrace
M-05 A Different Forres
M-06 Soulbath
M-07 Kuia World
M-08 Skippy's First Samba Lesson
M-09 Earth Vs Me
M-10 Gaint Jumps
M-11 Concrete Cats
M-12 Brasilia Freestyle
M-13 I Was Young And I Needed The Money!
M-14 Ridiculo

日本盤は先行EP「Deliver The Weird!」より:
M-15 Old Dog New Tricks Pt2
M-16 Do It Now Worry About Later
M-17 Mad Filla
:を追加収録。
洩れた残り「Deliver~」収録2曲はランタイムの都合上オミット。