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2014年4月14日月曜日

FREEFORM 「Outside In」


前作に引き続きSkamから、サイモン・パイクの七枚目。2005年作。
ジャケデザインはもちろん、Universal Everythingを主宰するデザイナーで実兄のマット

悪食に近い音色センスは相変わらず。
舌鳴らし(正式名称〝舌べらクリッカー音〟)や口笛。気が向いたら鳴る、大よそどうでも良いブリーピーな装飾音。アナログシンセから生成してるっぽい、星屑の如く散らばる背景音。鉄琴や、レーベルメイト・WEVIE STONDERのメンバーに弾かせたギター(M-01、05、10)などの生音。前作でも幅を利かせていた中近東風味――エトセトラ、エトセトラ。
あと稀に、おそらくパイク自身のぼそぼそっとした歌声(声ネタに近い)。
これらが手を変え品を変え、一切目的意識を持たず、やはり一癖ある微妙にダビーなベーシックトラックへと絡んでいく形で曲が構成され、アルバムが進んでいく。
しかも難解かと思いきや、主音に比較的平易な音を用いて取っ付きやすくしたり、わざとお茶目な装飾音を飛ばして聴き手をからかってみたりと、表現に於けるバランス感覚が絶妙なので面白可笑しく聴き通せるはず。

ただし、本作は前作に比べて幾分か地味な印象を受ける。
前作はある意味アッパーだった。躁状態でがんがん、執拗にへんてこな音色を盛って盛って盛り込みまくる。
だが本作は盛るには盛るのだが、加減を心得て? 内向的に? FREEFORMにあるまじき理路整然として? 各音色がテクスチャ化されているよう〝聴き〟受けられる。さしづめ、鬱状態だ。

結論として、音色センスに劇的な変化が感じられない分、本作と前作は対の関係にあると考えれば納得いくかと思われる。

なお、本作を以てこの名義はほぼ休業。本名名義で兄を音楽面でサポートしつつ、ちゃっかりWarp Recordsへと返り咲いていたりもする。
こっちの方が好き勝手に演れるんだぜ? サイモン。

M-01 Wild Stew
M-02 Taking Me Over
M-03 This Is Your Life
M-04 Follow Your Shadow
M-05 Don't Wait Up
M-06 Walk
M-07 Eating Weather
M-08 Carnival
M-09 Magic Tap
M-10 Puzzle
M-11 Everything Changes
M-12 Wonderplucks


2013年4月10日水曜日

TEAM DOYOBI 「Choose Your Own Adventure」


『あなたガ ススむ ぼうけんヲ えらンデくだサイ』
Skamのチップチューン系ニカデュオ、2004年作の二枚目。

RPGかSTGかAVGか。本作はメンバー曰く、仮想ゲーム音楽だそうな。なぬ、クッソ生意気にコンセプトアルバムかよ!
一応、物語設定みたいな文はあるのだが、別に読んでどうこうなる訳でもないので割愛。
確かにチップチューンは電子音楽界のローファイミュージック。PCM音源やらを用いていた、ファミコン期のレトロゲーと抜群の相性を見せる。
だが、アルとクリスの土曜日隊が、本当にコレがゲーム化されることを想定してトラックを組んだかどうかは別問題。

まあ確かに前半のトラックで、それっぽい雰囲気を醸し出してなくはない。
ただ、ゲーム音楽特有の、メロディ主導による突き抜けた分かりやすさがない。とっつきやすい音色を用いて、なおかつ崩す――その〝分かりやすさ〟を斜に構えて見下した、ポップと難解の狭間を綱渡りするいやらしい創りで物語は進行してゆく。
安くて可愛い音色がこれでもか! と詰め込まれ、巧みにテクスチャ化される一方、逆に音数を切り詰めて、違う情景を音で描いてみせたりもする小癪な創りだ。

こんな気が散るゲーム音楽は嫌だが、これはこれで楽しく戴ける。
問題はアルバム後半。

物語があっと驚くどんでん返しの展開で、アルバムが思わぬ曲調へと変化していく――ならば、筆者も本作を万人のリスナーに薦めよう。
だが、トラックを経るごとに親しみやすい音色が陰を潜め……ノイズやビープ音が幅を利かせ、どんどん物語ならぬ曲調が崩壊していく有様。
それを『話が佳境に迫りつつあるんだな』と解釈してもらえるだけ御の字。コレを文で語り継いでいくならば、鬱展開が相応しいでしょうよと。
M-07のひび割れた音色でのダークアンビエント曲が本作の転機。以降、耳障りな長音と敷き詰められたノイズと不吉な音色が耳を苛め、我々聴き手が困難な地に降り立ったことを悟らせてくれる。

以後、大げさなまでの勇壮さもなければ、熱くなれるカタルシスもない。M-10で大団円っぽい雰囲気に展開するものの、終いは結局あっちゃこっちゃに音色を放り散らかして閉じる、置いてけぼり状態。
え? コレでクリアなの? と、コントローラーを握る手が硬直。
果たしてこの文は本作を褒めているのだろうか? コレを読んで、凄え! 面白そう! なんて感じてもらえるのだろうか? シュールであほっぽいクソゲーみたいなノリではだめなのだろうか?
いやいや、むしろ本作は途中でバグってるのではなかろうか?
――そうも思えてくる、可愛いナリして一見殺しな怪作。

M-01 Chouax Bomber
M-02 Radial Fold
M-03 Choose Your Own Adventure
M-04 Radar Garden
M-05 Square It
M-06 Mod Truckin'
M-07 Soft Ocean Extract
M-08 Weaken Not, For You Are The Magma
M-09 Summit Melody
M-10 Naked To The Stars
M-11 Sky Legends Of The Worlds Pt. 2
M-12 The Era Of Hopeful Mutants (Extra Track For CD)



2012年12月26日水曜日

SHADOW HUNTAZ 「Valley Of The Shadow」


NONGENETIC、DREAM、BREAFFの米3MC'sと、蘭トラックメイカー:ファンケン兄弟=FUNCKARMAのはみだしヒップホップ野郎ども、2005年作二枚目。
今回も前作に引き続き、(音が)安い、(リリースが)遅い、(トラック構成が)巧い、の三拍子レーベル、マンチェスターのSkam Records

基本線は一緒。デジデジしいニカトラックにラップ。トラック構成上の新機軸はない。
ただし今回、ファンケン兄弟さんサイドが前作で手応えを得たのか、かなり図に乗っているのが分かる。
拍をずらしたり、変拍子は当たり前。とてもターンテーブリストがこすったとは思えないスクラッチが荒れ狂ったり、過度の声変格やチョップを加えていたり。前作以上に、これでもか! とMCさんサイドへケンカを売りまくる。
そこで違和感や疑問符や苦笑が浮かんでしまってはコラボですらない訳で、平然と乗りこなす胆力と実力が、この3MC'sには備わっている――のは前作で証明済み。むしろMC側から「もっと骨のあるトラック持って来いよ」と煽ってきた可能性すらある。
蜜月だなあ。

とは言いつつも、双方がはちゃめちゃ演り過ぎて、聴き手を置いてけぼりにするような創りでは断じてない。「ドープなトラックにイルなラップ」なる配球を明確にし、きちんと一球一球を投じている点も見逃せない。
幽玄で地味な背景トラックを奥に揺らがすことで、各音色の距離感を鮮明にし、トラックを整理整頓する。これで、一番の聴かせどころであるラップも引き立つ。
分かる奴には分かると無闇に難解にするのではなく、分かりたいと思える人を増やす工夫もクリエイターには必要なのではないか。

放りっぱなしでスカしているのはただの厨二病。少年の心を忘れないイカした大人に、このくらいの配慮は必須なのさ。

M-01 2020
M-02 Massive
M-03 Pevic
M-04 Do What I Want To
M-05 Radically Necessary
M-06 Solsa
M-07 Deander
M-08 Visions
M-09 Y.
M-10 Decisions
M-11 My Geez
M-12 Nattie
M-13 Rulez Of Engagement


2012年9月8日土曜日

LEGO FEET 「Ska001cd」


あの辛辣なる音楽賢者AUTECHREの変名と言うか、前名義と言うか……1991年発表、ロブ・ブラウン&ショーン・ブースによるキャリア初のフル音源が、2011年(末)に二十周年を記念して驚きのリイシュー。
無論、おマンチェの謎ニカレーベル・Skam Recordsより。タイトル通り、Skamにとっても記念すべき初リリース作品であった。

当時レコードで発売されたオリジナルの収録曲はM-01とM-02。それぞれA面とB面だった、という訳だ。M-03とM-04は当時の未発表音源とのこと。
それを踏まえれば、この四篇は長尺トラックに非ず、というコトが分かるはず。いちいちトラック分割もせず、そのままCD化しました、と言わんばかり怠惰さ
まあ元々が曲名とかアルバムタイトルとかどーでもいい、と考えているニカ気質剥き出しの彼ら。後日1997年、選り抜いてレーベルコンピ「Skampler」で蔵出しされた〝Leaves On The Line〟〝Keyop〟〝Northwest Water〟以外のトラックは、インターリュードを含めて名もなきトラック扱いなのも怠惰なのかいい加減なのか

そのアレさは内容にまで表れる。
ヒップホップの始祖鳥であるエレクトロちっくなのもあり。同じ枝葉のアシッドハウスちっくなのもあり。今で言うチップチューンな味わいもあり。
それらを一口で言えば「Skam特有の安っぽさがもう浮き彫りになっている」。
もう一言加えれば「雑多」。
更にもう一言加えれば「青い」。

初作品にありがちな「とりあえず俺たちのやりたいコトを、この皿に余さず叩き込んでやるぜっ!」と、拳を固めていきってみせたようなアルバム。
サンプラー扱いはこなれたもので、既に実力の片鱗は見せている。とは言えまだ発展途上なので、後に獲得する強烈な個性や不動の表現軸など望むべくもない。しかも時代性も相俟って、今となってはビミョーにダサい。
俗に「枕に顔を埋めて足をばたばたさせる」盤。

だが、それが良い。(ニコッ)

ほんのたまに、サンプラーを用いていた頃の初期AUTECHREっぽい音色使いが顔を覗かせ、にやりとさせられたり。
トラック群が比較的連動しているので、DJミックスのような味わいがあったり。
それよりも何よりも! レイヴ禁止法に敢然と立ち向かったり、現在の音楽性からでは窺い知れない「ヒップホップに多大な影響を受けた」という発言を裏付ける重要な資料に、本作が位置しているコトを忘れてはならない。
敬意と愛、だよなあ。

普段はシニカルでクールなAUTECHRE、熱き血潮を見せ付ける、若き頃の肖像。

M-01 Parts 1
M-02 Parts 2
M-03 Parts 3
M-04 Parts 4


2012年8月22日水曜日

MASSONIX 「Subtracks」


90年代アシッドハウスの立役者であるマンチェスターの808 STATE。その首魁、グレアム・マッセイのソロプロジェクトが、何とあのSkam Recordsから。2006年作。

ジャケをご覧の通り、テーマは〝深海〟。出ましたよ〝深海ニカ〟
いやいやいや、コレも〝深海〟と言うよりは……まだまだ〝海中〟程度。光の差し込まない暗闇で蠢く深海魚のような、グロくて得体の知れない音像を期待してはいけない。そもそもそんな現世とは没交渉な音楽を期待している者は居ない。
もちろん〝海中〟ならではの音処理は散りばめられているので、大陸棚の底を舐めて進行する遊覧潜水艦にでも乗ったような気分で聴いていただきたい。
その海中音像を具現化するために、モーグやらアープやらローランドやらカシオやらアカイやらコルグやらヤマハやら……それはもう、数多のシンセサイザーの機種を使い分けて上モノを生成する、このこだわりよう。
力、入ってます。

ただし引っ掛かる点がひとつ。
本作は1996年から2006年にかけてセレクションされた〝SubTrack〟である、とインナーに明記されているコト。真相は、マッセイがテープやDATやProtoolsに録り溜めた未発表の自作曲を、より抜いて再加工したモノがコレ、らしい。
確かに古臭い音色を使っている部分も多々見受けられる。それが如何にも808 STATEっぽかったりする。
そこを! 『時代遅れだ』などと論わずに、にやにやしつつも『相変わらずだなー』と楽しむ方が、本作に相対する健全な聴き方である! と、筆者は断言したい。
適度なダサさも一般的にはオワコンのアシッドらしいし、この808っぽさはむしろマッセイの個性であると。
無論、これが俺だ! と、片意地を張るばかりではない。M-09のような、ジャジーなトラックにアジアンテイストの上ネタをポリリズミックに重ねる匠の手並みは、マッセイが現代に生きるミュージシャンであることを如実に示している。

でも、まあ……Skamらしい作品かと言えばこのレーベルにしては音質が良好な点も鑑みて、首を傾げざるを得ないのだが、そもそもSkamはマンチェスターのレーベル。マッセイは地元の英雄になる。そんな点にも、にやにやさせられてしまうはず。

M-01 Port Silat (Off Port Silat)
M-02 Sargasso (Horse Latitudes, Giant Kelp)
M-03 Debussa (Undersea Danube)
M-04 Despina Farfisa (Continental Ridge)
M-05 Gold Coast (Pro Bumba Colony, Sea Caves)
M-06 Deep Saline Green (Light Conductor 45 Fathoms)
M-07 March Of The Triton Titans (Rubber, Canvas And Lead)
M-08 Forests Of Crespo (Kelp Forest Range)
M-09 Boonadawn (The Mackerel, The Sampan And The Marlin)
M-10 Diamond Dance (4ths, Heavy Water)
M-11 The Subatlantian (Black Smokers)
M-12 El Rey De Ray (Warm Gulf Water Rising)
M-13 Pulsars (Deep Ocean Basin To Jodrell Bank)


2012年2月12日日曜日

Mr. 76IX 「3 (Minority Of 1)」


P・ウッドなる人物による三枚目、2007年作品。

Skam Records産、というコトで相変わらずの匿名性。どうせ内容もチープなんだろ、と思われがちだが然にあらず。意外ときっちり創られた音世界を提供してくれる。
何でも、とある有名なアーティストの変名とかいう、ウ・ワ・サ。
その噂元の人物をぷんぷん臭わせるアシッド臭さやドリルンベースを披露してくれたと思えば、M-05からM-06の流れのようにどこぞの二人組が繰り出すバッキバキなテクスチャーのトラックもあったりと、音楽的焦点をぼかすのに余念がない。
『誰ぞの変名』という噂が立つのも、見知らぬ誰かが創ったにしてはあまりに緻密でこなれているからであろう。まあ、そういうコトにしておこう。
本人たちが明言していない以上、そこら辺を突付かないのが不文律。

ただ、成熟度や完成度は高くとも、大衆性――噂元の人物たちにあるような、突き抜けた分かりやすさ――に欠ける点は否定しない。あと、オリジナリティに欠けるという難癖も
かと言って際立って難解でもない。割とメロディの立ったトラックもあるので、始終首を横に傾げて聴くようなアルバムでもない。
もしかして一か八かどちらに振り切れれば、ほぼ同時期に出た某ユニットのようにその正体を騒がれたりしたかも知れない。

そろそろ音楽的方向性も落ち着く三枚目。レーベルが自己顕示欲の欠けらもないSkam。そつのない創り、と地味な要素てんこ盛りなので致し方ないのか、話題性皆無。
でも筆者はこのようなヌルさを適温だと思って浸かるタイプの聴き手である。ココとか、ソコとかアソコとかばっちこーい!
ゆえに、やはり正体を想像しつつにやにやして聴くのが本作の、一番美味しい召し上がり方なのやも知れない。噂元に憧れて音楽を始め、これまでこつこつと音源を積み重ねてきた単なるあんちゃんかも知れないのにねえ。

M-01 Spirit Of Man
M-02 Woden's Phallus
M-03 Time Cycle
M-04 The Archaic Revival
M-05 Paradigm Shift
M-06 Mindworm
M-07 H.A.A.R.P.
M-08 Shape Shifter
M-09 Sex Myself
M-10 Traits
M-11 Tesla AC/ID
M-12 9
M-13 Wordless Aeon
M-14 RV Human++
M-15 Battle Bots
M-16 Romanticism
M-17 Cartoon Dreamz
M-18 Games People Play


2011年11月22日火曜日

FREEFORM 「Human」


Warp Recordsでおなじみのデザイナー集団、The Desiners Republicに所属していたマット・パイクを兄に持つ、サイモン・パイクの六枚目。2002年作。
本作は言わずもがなのSkam Records産だが、自分の音源を出すためだけのプライヴェートレーベルも所有している。
その名も〝Freefarm〟……(脱力)。

はっきり言って訳の分からない、食えない人、というのが率直な感想。
ただし、実力は相当高い。
水滴の音や犬の鳴き声や口笛をサンプリングとして組み込んだり。毒々しくて可愛らしくて安っぽくて奇妙な音色を面白がって使ったり。東南アジア系の民族音楽ちっくな雰囲気を持つトラックを組む一方で、その民族楽器の音色を装飾音として、東南アジア色のないトラックに忍ばせたり。最強の音色である〝人の声〟をさまざまな部分で有効活用したり。M-14のように、こんな形でアルバムを締めくくったり。
こんな滅茶苦茶な要素を、平易な表現で平然と統合出来る時点で、それはもう。

どんな音色でも貪欲に取り込む姿勢はAMON TOBINを髣髴とさせるし、聴いてて楽しい気分にさせてくれる点はPLAIDを想起させるし、無頓着で飄々としたキャラはルーク・ヴァイバートと印象が重複する。
それなのに、これらアクの強い三者と似ても似つかぬ音楽性を持っているFREEFORMって何なの!? と、この先の文を放棄したくなっている筆者が居る。
それくらい掴めない人だ。もしかして超個性っ!?
でも自己顕示欲を全く感じないSkamレーベル。いつも通りひっそり売り出されてま。

理詰めではなく、己の感性に基づいてトラックを組み、好き勝手に音源を発表する。
――まるで自分のおもちゃ箱の中身を友人にお披露目しているかのような音楽を。
凄く羨ましい人だと思う。

M-01 Big Top
M-02 Crumble
M-03 Software Exaggeration
M-04 Human
M-05 Nylon
M-06 Stander
M-07 Mango
M-08 Rain
M-09 You Should Get Out More
M-10 Spoob
M-11 Ticataca
M-12 1 x Distant Babbling Brook
M-13 Rattle
M-14 Yum Yum


2011年11月6日日曜日

BOLA 「Kroungrine」


UKエレクトロニカシーンに君臨すれど統治せず。自由気ままなダレル・フィットン師匠の四枚目。2007年作品。

いつも通り、抜群のメロディセンスを盾にゆったりとしたビートを敷き、暗めの音像と緻密な装飾音で優しく聴き手を包み込むメソッドを堅持。
伝統を今に伝える、安心のBOLA印、老舗の味――
かと思いきや、本作ではようやく師匠、ちょっと動いた。

以前との差異が分かりやすい部分として、例えばM-02(やや奥まっているが、M-05などもそうかも)。前のめりのブレイクビーツに、アタックの強いスネアの音色の選択は今まで見なかった手法だ。中間部でアンビエント風味のキーボードとの噛み合わせは静と動を端的に表していると言える。
またM-04など、小気味の良いトラックに嘘臭いチャイニーズスキャット(!?)を絡ませるという摩訶不思議な創り。この曲は本作中で白眉の出来。
なお、一作目以来久々にアルバムの掉尾を飾る(「Shapes」は編集盤デスヨ)、10分越えの長尺トラックにもその微細な変化が。
今までは主音色を大事に大事に接ぎ、気が付いてみればCDが終わっていた。
だが本作は、継ぎ目を大事に大事に整え、気が付いてみれば主音が挿げ替わっていた。それどころか曲中で幾度か構成を変える、非常に凝った創りなのだ。

だけど大抵、それらに気付かぬままアルバムはしっとりと幕を閉じる。
本当にさり気ない。まるで遊び疲れていつの間にか寝てしまった子供にそっと毛布を掛けてやるお父さんのような創り手だ、フィットン師匠は。

多少マイナーチェンジを施したが、作品を聴けば分かる通り、まるで違和感ない。
彼は常に自分のトラックを客観的に捉え、バランスを崩すことなく無難に着地させることをよしとする人なので、安心して聴き手はそのたおやかな音世界に浸れる。
この安定感こそが師匠最大の武器なのだ――卓越したメロディ使い以上に。

M-01 Zoft Broiled Ed
M-02 Noop
M-03 Waknuts
M-04 Halyloola
M-05 Urenforpuren
M-06 Phulcra
M-07 Rainslaight
M-08 Diamortem


2011年10月28日金曜日

TEAM DOYOBI 「Push Chairs For Grown Ups」


クリス・グラッドウィンとアレックス・ピヴレットからなるデュオの、初音源となるミニアルバム。2000年、英国・マンチェスターの謎ニカレーベルSkamより。

ふざけた、とぼけた名前。その看板に偽りなく、チップチューンばりのしょぼい音色で繰り広げる安っぽいエレクトロニカ。
ほんっとSkam。頭のてっぺんから爪先までSkam。
筆者はこういう音を聴くと、外で子猫を見掛けた時のようなちょっとした癒しを感じる。
何と言うかそのう……か弱き音色がちんと座り、くりくりっとしたテクスチャーで筆者を見上げて「ナーオ♪」と鳴くような、ね。
かわええのう、かわええのう。
その割にはM-01のような、ひっそりと愛らしく鳴る上モノをレイプせん勢いで突き上げるキックが軸のトラックもあったり。暴力から静謐まで、ビートの音色見本市のようなM-06もそうだろうか。意外と振れ幅が大きい。

その統制を執っているのが、グラッドウィンとピヴレットの二人――よりも、低スペックで制約のある機材(と、安いニカを発掘させたら天下一品のSkam Records?)だろう。

低機能の機材は足枷と思っていないだろうか?
確かに表現の幅は狭いが、その狭い幅を駆使して創られた良質の音楽には「こんな安い機材で~」の枕詞が付いて激賞を受けやすいメリットがある。
しかもその狭さとやらは機材面だけで、テクノから(ドラクエのように)現代クラシック風楽曲まで創れる可能性まで秘めているのだ。
無論、使いこなせなければ駄機に堕し、センスがなければダサカッコ悪い音楽扱いを受けるのは言うまでもない。

しょぼ機材、しょぼ音楽は厳しくもあり、優しくもあり。
願わくば筆者は彼らに、このスペックで精一杯続けて欲しい。この安っぽさでこの音の質(“音質”ではない)を出せる連中が、筆者の低感度アンテナでは今のところ彼らしか見つかっていないから。
もちろん、音楽は自由である。しょぼい機材で頑張って創った初期音源が売れたので、調子に乗ってそれを全部友人に融通し、新たに機材を買い直したは良いが、どうしても初期の頃のような感じが出せずに迷走し続けている誰かさんのようになっても自己責任、っと。

M-01 Push Chairs For Grown Ups
M-02 Kitten Development
M-03 Stickleback
M-04 Airels Adventure In Easter Island
M-05 Two Of Everything
M-06 Birdstrike
M-07 A Song For ______________
M-08 Spider Monkey


2011年7月12日火曜日

V.A. 「Skam Cats」


諸君、猫は好きか?
筆者はまあまあ好きだ。街で見かけた時、「可愛いなあ」と目尻を下げて眺め、やがて撫でて愛でずにそっとその場を去るくらい好きだ。Yes Noraneco! No Touch!
だが、愛猫家はそんなモンでは済まない。
「にゃんこー、にゃんこかわいいよおうううう」と文字通り猫撫で声を出して、向こうの迷惑を顧みず抱きかかえ、もふもふの身体を触りまくるのだろう。

本コンピはそんな気持ち悪い輩が雁首を並べた、世紀の奇盤だ。2005年作。
もちろんこんな訳の分からない企画を立案するトコなど、Skam Recordsしかあり得ない。

タイトル通り、トータルコンセプトは“猫”。「みんなでNeconicaしようぜ!」と、Skamレーベルが一般募集したトラックの優秀作品がコレ、だそうな。約一名を除いて(後述)。
アプローチは様々。猫の鳴き声をサンプリングに取り込む者。その鳴き声のピッチを弄りまくって上モノとして生成する者。猫をモチーフにトラックを組むだけの者。果てには、自ら猫の鳴き声を真似る者まで居る。
ただ、ディスク二枚に渡って共通する空気が――

お前ら化け猫伝説でも信じているのかと。

本人たちは純粋な猫愛を表しているだけなのかも知れないが、レーベルカラーの安っぽい音に乗せて語られるその愛はどうも狂気を帯びているような気がしてならない。聴き進めていくうちにだんだんと不安に駆られてくるのだ。
だが、そこら辺をネタとして昇華出来る聴き手なら、このアルバムは趣き深いコンピであろう――念のためにSkamの発する独特な空気に慣れる必要はあるが。
とは言うものの、特別枠として既発曲で参加している本作中唯一の著名アーティストがMIRA CALIX(AUTECHREのショーン・ブースの妻)――よりによってあのニカ魔女かよ! なんて時点で、本作はエレクトロニカの旅を始めたばかりの冒険者にとって中ボス並みの難敵なのかも知れない。

だから今回の感想文は推薦ではなく、警告! に近いのかも知れない。
迷ったら、先に進むな、まずセーブ。(RPGの心得・其の三、くらい)

(……よし、コレだけハードルを上げれば、初見殺しにはならないだろう!)

Disk-1
M-01 Kattenkwaad - LIVING ORNAMENTS
M-02 Qat - OBSESSION 27
M-03 Fasterpussyfatcatpower - AMNESIE
M-04 Kephlar Mask (Frozen Plural) - CELAR CURVE
M-05 New Purrspective - GREENKINGDOM
M-06 Appelons Un Chat, Un Chat - [GUYOM]
M-07 Chevjya Niinron No Jyin Nevach -  ROLEX2$
M-08 Pudditat - MIRA CALIX
M-09 Inflatable Carpet - SCOSSA
M-10 The Greatest Movie Ever - Mr. MIPS
Disk-2
M-01 Help - RIVAS GONZALES
M-02 Cats N Oggs - E.STONJI
M-03 adyatone – Chatone -  LADYATONE
M-04 Gato Malo - RIVAS GONZALES
M-05 Regiment De Compte A Chat Chorale - [GUYOM]
M-06 Schroedingers Cat - AUTOMATOFONIC
M-07 Porno Mogs In Wood - ED MACFARLANE
M-08 Flickered Like Flame - RUSUDEN
M-09 Kitten Escapes The Laboratory - SPINKLE STEIN
M-10 Clearing - YARD
M-11 Cat Time - ASCALAPHE
M-12 Felonic (Catnip Bong Mix) - SCRUBBER FOX

ちなみに初回五百枚限定で、ケースが手作り毛皮ポーチに納められていたらしい。
てめえ! それ、もしや天然猫皮100%の代物じゃあるまいなっ!


2011年5月8日日曜日

BOLA 「Shapes CD」


SKAMレーベル――と言うよりも英国ニカシーンの重鎮による、BOLA名義作品。
発売は2006年だが、2000年に発表された限定EP+その時期に創られた未発表曲+レーベルコンピ「Skampler」収録曲によって構成された編集盤だ。

BOLAは聴き手を置いてけぼりにしない。
悪戯に曲を崩壊させてアーティスティックぶったり、投げているのか収まりが付けられないのか分からないが適当に曲を締めたりしない。
きちっと音楽が本来あるべき位置取りで、長い曲でも息切れせずに嫌味なく、すすーりとカーテンを下ろす。

BOLAはメロディを軽んじない。
曲の軸音がメロディアスな音色でなくとも、どこかで耳にしっくりとくる柔らかいメロディを裏に添えて引き立たせてくれる。その一方でメロディ主軸の曲は、もうそれはそれは儚くも美しい音を提供してくれる。
元々がR&Bバンドのキーボードプレイヤーだけあって、メロディの扱いなどお手の物だ。

BOLAは暗くない!
音色使いや曲調がひっそりしているために暗い印象を受けるが、聴き手に鬱を強いるような絶望感は皆無と言って良い。
暗闇には蝋燭の光が一番映えるのと同じで、ダークな雰囲気の中にはためくメロディが、優しく聴き手を包み込んでくれる。創り手の人柄が偲ばれる。

BOLAことダレル・フィットンはブレない。

ブレないゆえに作品毎に大きな変化はないが、安心して名前買いの出来る、品質保証書付きの優れたアーティストだ。
ゆえにフィットン先生がブレないうちは、常に秀作が提供されると断言して良い。
すなわち、ブレないゆえにどのアルバムから入っても良い。今回は「ただ単に手に入れやすい」という点で本作を選んだが、作品毎に作風をがらりと変えるAUTECHREとは真逆の意味で、BOLA作品それぞれの評価は聴き手によって異なるはず。

あ、AUTECHREは「技術の多くはBOLAに学んだ」のを公言している人たちだっけ。

M-01 Fonk (Flower) 
M-02 Pula Kappas (Square)
M-03 Ballast (Triangle)
M-04 Zephyr (Pentagon)
M-05 Clockjerk (Trapezoid)
M-06 Forcasa2.2 (Oval)
M-07 Serge2 (Octagon)
M-08 Cobalt (Scope)
M-09 Squib (Nuclear)


2011年5月6日金曜日

SHADOW HUNTAZ 「Corrupt Data」


ダサい。ユニット名がびっくりするほどダサい。
Skam RecordsにはTEAM DOYOBIやFREEFORMやWEVIE STONDERなど、名前なんてどうでもええわ! と言いたげな(そこが匿名性を重視するニカ人種らしい)ネーミングセンスを持つ奴らが所属しているので、彼らもその類いかと思った。
だが、どうも違う。スペルの崩し方からして、明らかにヒップホップの人種だ。Skamはニカレーベルだし、音響系っぽいトラックに乗ってラップを刻んでいると仮定して……もしかしてこのセンス、至って大真面目か?
せめて斜に構えた理由で付けた名前だと思い、チップチューン系のチープなトラックに、楽しそうなフロウを紡ぐお茶目さんだろうと踏んだ。

いやー、ジャケからして大真面目なんだから、コレであほ路線な訳ないでしょうが!

本作は真摯な姿勢でヒップホップに取り組むアメリカ出身の3MCが、オランダ出身の兄弟からなるFUNCKARMAと組んだユニットの初アルバムである。2004年作。
ややバウンシーにラップを乗せるBREAFFとDREAMとNON GENETIC(うわあ……ガチで厨二なんすね……)に、FUNCKARMAの二人は比較的ヒップホップ流儀に則ったトラックを提供しつつも、ところどころ挑戦的な態度を取る。
明らかにヒップホップ保守層からの爪弾き上等! と言わんばかりの、まんまニカ系トラックを渡して『コレでフロウ刻んでみせろ』と薄ら笑い。3MC'sも『面白え、やってやろうじゃねえか』と、嬉々として(ヒップホップ流儀としては)ド異端の変態トラックに乗る――
ココであぶなっかしくではなく、平然と乗りこなしてしまうところに、三人のスキルの高さとアメリカのヒップホップ層の厚さが見て取れる。
いやいや、リーダーのNON GENETICは日本のブレイクビーツ侍・RIOW ARAIとコラボ経験があるくらいの変態アングラヒップホップ野郎である。むしろ狙ってFUNCKARMAに近付いたのだろう。
そもそも『ヒップホップ流儀に則った』とは書いたが、あくまでトラックがブレイクビーツを基調にしているためにそう聴こえるだけ。ヘッドフォンでじっくり聴けば、拡散した音色の使い方やディレイを多用する音の崩し方など、徹頭徹尾ヒップホップフォーマットからずらして創られている。
しかも声や言葉を武器とするラッパーの上前を撥ねるような、声の加工を大胆に執り行っている。リミックス音源でもなく、アクセントを越えてこれほど弄りまくっているヒップホップアルバムはそうそうない。
なるほど、こりゃSkam産になるわ。

果たしてコレをヒップホップカルチャーどっぷりのB-BOYサンが聴くかどうかは別として、ニカ側の人が聴かないのは本当にもったいない。
双方、クラブミュージック上がり。ヒップホップから生まれたブレイクビーツをニカ側が導入した時点で、いづれこのような形で完成を見るのは確定事項と言うか――
そのくらいこのアルバムは凄い出来なんだが、如何せん自己顕示欲のないSkamレーベル。地味ーにひっそり売り出されてま。

M-01 Cdc
M-02 Figure Of Speech
M-03 Power Divine
M-04 American Dreams
M-05 Nite
M-06 Medic
M-07 Fukwit 2
M-08 Roar
M-09 Sick Of This Shit
M-10 Trenches
M-11 That Ain't Where It's @
M-12 Shout
M-13 Sown Terror