2012年10月26日金曜日

DJ DUCT 「Bindweed」


実は実兄と二人三脚! ワンターンテーブリスト(+サンプラー+フットペダル+エフェクター)によるオリジナル音源二枚目。2007年作品。
FORCE OF NATURE、NUJABES、RIOW ARAI、DEV LARGE、果てにはFAT JONなど、底知れない人脈を持つLibyus Musicより。

自己レーベルを立ち上げての初作品(2005年作)はジャジーなフレイバーと、DJ KRUSHからの強い影響を隠しきれない音の空間処理(と、和の風味)を有す、如何にもアブストラクトなブレイクビーツ作品だったが、本作はそこから一歩だけ離れた位置に立ってみせた。
端的に書くと、雰囲気はそのままに、よりヒップホップに近付いてみせた。
もちろん完全インストアルバムの一枚目とは打って変わり、四人のラッパーを起用したから、なんて安直な理由ではない。
要はM-02を始めとする、ファンキーかつアッパーなトラックを平然と切れるようになった。つまり、よりフロアを意識し始めたという訳だ。
また若干、音質もクリアになった。
以上のコトから総合すれば、いわゆる〝メジャー感が増した〟というべきか。

「当たり前になったなあ……」と嘆くよりも、「成長してるなあ」とにっこりする方が聴き手にとって健全なのは言うまでもない。
ただヒップホップ然とするだけでなく、M-07のようにスカだかロックだか絞れないトラックを曲者・FAT JONに与える堂々とした態度が取れるのも成長からくる自信の表れか。

何よりも、彼のセールスポイントはトラックの空気を読むのが抜群に巧いコト。
スキット代わりの短い曲にもしっかりと彩を持たせ、なおかつ全てのトラックをコンパクトにまとめる。しかも着地点をきちっと定め、投げ出さない。
この小気味良い聴き心地は、トラックを感性で繋いでフロアを上げるDJならでは。
それはまるで短編小説を読んでいるかのよう。

M-01 Bold Bluff
M-02 Knockdown
M-03 The Depth (feat. J-LIVE)
M-04 Snarl Beats
M-05 Gin
M-06 Verve
M-07 Secret Weapon (feat. FAT JON from FIVE DEEZ)
M-08 Gentle Insanity
M-09 Sing n Spin
M-10 Biscuit
M-11 Crazy Crawl
M-12 Bindweed
M-13 Zanzou (feat. INDEN from 土俵ORIGIN)
M-14 Sweetness
M-15 Waku-Up Call
M-16 Wind Runner (feat. R)
M-17 Starry Night
M-18 Distant Wave


2012年10月24日水曜日

ZACH HILL 「Face Tat」


サクラメントのクレイジービーター、ザック・ヒル(HELLA)のソロアルバム、単独名義では二枚目。2010年作品。
レーベルはHELLA共々厄介になっている、L.A.のSargent House

バンドが分身し、左右の耳孔内で一斉に鳴り始めるかのような音像がいきなり飛んで来て、聴き手は度肝を抜かれることだろう。
ただそれだけなら、単なるこけおどし。
だがそんな極端な音像に慣れてくると、両鼓膜を突き破り、脳髄を抉って来るような快感を与えてくれることだろう。
ただそれだけなら、単なる子供騙し。
一聴、ブロークン過ぎて滅茶苦茶なこのアルバム最大の特長とは、ザック・ヒルというアート志向の強いはっちゃけ野郎の脳内が、このアルバムから垣間見えるコト。
普通ならこの手の輩のかっ飛んだ思考など、凡人の我々には理解不能なのに。

フィルを挿みたがったり、裏を取りたがったりと、相変わらず落ち着きを見せないヒルの闊達なドラミングは母体のHELLA同様。
また大方の予想通り、遠慮なくたぷたぷと様々な鳴りの音色が注ぎ込まれるも、それほど聴き手の頭上にクエスチョンマークは浮かばない。むしろ理解しやすいと思う。
それは、エフェクターを通したヒル自身の親しみやすいヘタウマヴォーカルが、大半の曲で被さっているのもある。上モノを押し退けようとしてまで鳴らされる、ヒル自身の特徴的なビートもある。実にソロ作らしい。
それだけではなく上モノ自体がおしなべて、どこか飄々と愛らしくて、極端で、良い意味で作為的で、意外と爽快で、しかもここしかない絶妙な部分で鳴らされているとしたら?
また、なぜかこの界隈でよく顔を見せやがスコット・ヘレン参加のM-10では、ヒルなりのビートチョップが冴え渡ったり。続くM-11ではヒルなりの突貫ハードコアも披露したり。

でも、どこか歪んでいる。一定の法則性を持って。

アレとアレの紙一重なヒルが外部のインプットを元に脳内で組み上げ、耳や鼻にプラグを挿してそのファイルをアップロードしたようなアルバム。
ポップな創りだが、まるまるポップアルバムではない。ブレイクビーツを演ろうが、ハードコアを演ろうが、まるまる借りてきたような音は出さない。
つまり同じ景色を見るにしても、我々凡人と彼のような感性の優った出来人とでは映り方が明らかに異なっている、というコト。
それを踏まえれば、このはちゃめちゃさが理路整然として聴こえるはず。

M-01 Memo To The Man
M-02 The Primitives Talk
M-03 Ex-Ravers
M-04 The Sacto Smile
M-05 Green Bricks
M-06 House Of Hits
M-07 Jackers
M-08 Burner In The Video
M-09 Dizzy From The Twins
M-10 Gross Sales
M-11 Total Recall
M-12 Face Tat
M-13 Second Life

日本盤のみボートラ、M-14〝Fake ID〟収録。


2012年10月22日月曜日

THE SEA AND CAKE 「Oui」


なにげにシカゴ界隈の猛者が集まったスーパーグループ、2000年発表の五枚目。
ジャケ写は当バンドの看板、Vo&Gのサム・プレコップ自身が撮った。

鼻歌のような気持ち良い抜け方をする独特の歌唱法を持つプレコップからして、このバンドの音像は爽やかなイメージがある。
ただしM-01のような例のマッケンさん(当然、本作のスタジオワークも兼ねる)が先導する軽快なビートに柔らかく沿わせる上モノ、という曲調からしてそれっぽいのだが、本作は全体的にどちらかというとメロウでウェットだ。アルバムが後半に進むにつれそれが顕著となる。
だからといってキモであるプレコップの歌がミスマッチとなる訳などまるでなく、メロウでウェットならその分、彼の歌声も憂いを秘めて聴こえてくるのだから不思議だ。別段、唱法を替えた訳でもないのに。

やはり看板はそのくらい芯が太くないといかん。ふにゃふにゃな声質なのにね。
ただ、他が何の工夫もなくその看板の裏に隠れているようでは、誰もこのバンドを「実力者が集うスーパーバンド」などとは呼ばん。

中でもいぶし銀の活躍をしているのが、この中では些か経歴の地味なエリック・クラリッジ(B)。深みのある低音で常に存在感を露にしている。彼の芳醇なベースラインを耳で追っているだけでも琥珀色の蒸留酒が恋しくなるほど。
また見逃されがちだが、マッケンさん謹製の音響工作作品とあって、M-02のようにサビでアコギの旋律をループっぽく重ね、その一音符毎にスピーカーの左右に振り分けるなんて小癪なコトを平然と執り行っていたりする。
またM-04をはじめとする、管楽器の単体導入もさり気なくて好印象だ。

このように、1+1+1+1を10倍の800にするのが実力派集団の正しい形。
それが4にすらなってない連中も居るのは、一体全体どういうコトかね? 金かね? どいつらとは書かんが、猛省したまえ! 彼らを見習いたまえ!

M-01 Afternoon Speaker
M-02 All the Photos
M-03 You Beautiful Bastard
M-04 Colony Room
M-05 Leaf
M-06 Everyday
M-07 Two Dolphins
M-08 Midtown
M-09 Seemingly
M-10 I Missed the Glance
M-11 Props Of Upper Class (Bonus Track For Japan)
M-12 Pitch Direct (Bonus Track For Japan)


2012年10月12日金曜日

BIBIO 「Vignetting The Compost」


ステファン・ジェイムズ・ウィルキンソンによる三枚目はカリフォルニアのMush Recordsより。2009年作品。
なにげに彼の日本デビュー作になる。その配給は& Records

まずは彼にとっての2009年を、時系列に沿って追って行かねばなるまい。

二月、前作から三年ぶりに本作をリリース。
三月、Mushより六曲入り未発表ファイル音源「Ovals And Emeralds」リリース。
---------------------------------------アメリカとイギリスの壁-------------------------------------
六月、四枚目「Ambivalence Avenue」Warpデビュー。
(この間、二枚のシングル音源を挿む)
十一月、未発表+リミックスの編集盤「The Apple And The Tooth」をWarpでリリース。

何という登板過多であろうか。あかん、ビビ夫死んでまう!
いやいや、コレをそのまま時系列通りに進めたとは考えづらい。

何せMush時代とWarp時代のBIBIOは、作風に大きな進展がある。
サイケでロウな〝ぜんまい仕掛けのインストフォーク〟の前者と、それにブレイクビーツや自身の歌や電子音を効果的に絡めてメジャー感を出した後者――
コレをたった三ヶ月で劇的に移行させてしまえるなんてビビ夫、あんたほんと何て凄いアーティストなんざましょ! 神か悪魔か!
いやいや〝前作から三年もブランクを空けた〟ことから察するに、本作リリース時にはもうWarp期の音世界は彼の中で確立していたかも知れない。むしろ本作と「Ovals~」はこのブランク期に創られた敗戦処理未発表の蔵出し音源なのかも知れない。
あくまでコレは筆者の邪推だ。

では本作の内容。
にも書いたが、Mush期の彼の音世界はほぼ一貫している。二枚目で一曲だけ用いられた歌入りトラックが、M-01、02、05と三曲に増えた。もっと散りばめれば良いのに、前半に固めてあるのは何とも意味深長に感ずる。コレもあくまで筆者の邪推だ。
なお〝音世界が一貫している〟ということは、彼の類稀なる才能からして本作はBIBIO印の良品であることが保障されたようなものだ。契約履行ただの蔵出し音源とは言わせない!
だがその裏返しに、それが三枚目ともなると音世界が袋小路に陥りつつあることを暗に示唆している。

『何事にも挑戦するのが好き』と語るウィルキンソン。ならば、その変革期に遺したMush期総決算清算アルバムと本作は目する方が、より自然だ。
なお、こんな虫の良い邪推などない。

M-01 Flesh Rots, Pip Sown
M-02 Mr. & Mrs. Compost
M-03 Everglad Everglade
M-04 Dopplerton
M-05 Great Are The Piths
M-06 Odd Paws
M-07 Under The Pier
M-08 Weekend Wildfire
M-09 The Clothesline And The Silver Birch
M-10 Torn Under The Window Light
M-11 The Ephemeral Bluebell
M-12 Over The Far And Hills Away
M-13 Amongst The Bark And Fungus
M-14 Top Soil
M-15 Thatched
M-16 The Garden Shelter

日本盤はM-17にボートラ〝Chasing The Snowbird〟を収録。完全未発表曲の模様。


2012年10月4日木曜日

CHICAGO UNDERGROUND TRIO 「Slon」


シカゴのジャズ大将、コルネット吹きのロブ・マズレク率いる加減算ジャズプロジェクト、トリオ編成では三枚目。2004年作。
前作のややこしい編成から、今回は大将、テイラー(Ds)、クーパースミス(Double B)のトリオに戻る。しかもきっちり、三人で演奏を賄っている。
録音とミックス担当はバンディ・K・ブラウン。BASTROやらGASTR DEL SOLやらTORTOISEやらにも
在籍したことがある凄い人なのだが、現在フリー(苦笑)。

今回はTRIO版初のThrill Jockey Recordsリリースともあって、人力ジャズとエレクトロニクスの折衷作となっている。
M-01こそ如何にも大将っっ! なコルネットから始まるらしい曲だが、続くM-02、03と大将やクーパースミスが組んだいびつな打ち込みを軸に構成。M-02など、エレクトロニカさながらのビート音色に、大将の抑えたコルネットとクーパースミスのまろやかなベースが渋く絡む、耳を疑わんばかりの創りだ。
後はインプロありの、各音色を点で捉えてそこからまちまちの線を引くような音響曲(伝わらなければM-06を参照)ありので、雑多な印象を受けるかも知れない。

だがそれは、演っていることが三人編成のジャズなんだ、という基本線を忘れた認識なのではなかろうか。打ち込みに意識が向き過ぎなのではなかろうか。
現に本作の全体像は、三人の担当楽器を固定し、そこへ必要に応じて打ち込みを噛ませる、といったヴィジョンで徹底している。それだけM-02が、曲としては地味な部類なのにインパクトが絶大だったという結論に至る
そこら辺をいつものマッケンさんレコーディングなら、巧くキモを理解して打ち込みを溶け込ませる手法が取れたのかも知れない。ブラウンという腰の落ち着かない何でもありな嗜好の持ち主だからこそ、このような煩雑さが滲み出てしまったのやも知れない。
もちろん筆者は前者が正解で、後者を取った本作が失策だとは微塵にも思わない。
逆に、真っ当なジャズへぴりりとスパイスを効かせた作品、と評するべきなのでは。

最後となって恐縮だが、本作は9.11の犠牲者に捧げられている。
黙祷。

M-01 Protest
M-02 Slon
M-03 Zagreb
M-04 Sevens
M-05 Campbell Town
M-06 Kite
M-07 Palermo
M-08 Shoe Lace
M-09 Pear


2012年10月2日火曜日

DJ MIL'O 「Suntoucher」


キャリアは二十年近い、DJ MIL'Oことミロ・ジョンソン初のオリジナルフル音源は、日本のみ発売。2003年作。

何を隠そうこのDJ MIL'O、BJORKMADONNAなどとの共同作業で名高いネリー・フーパー、後にMASSIVE ATTACKを結成するダディー・Gと組んだUKクラブシーン伝説のユニット、THE WILD BUNCH創設メンバーである。
輝かしい他の二人(や、後に入って来たメンバー)の経歴に比べ、残念ながら彼は些か地味な立ち位置に居る。過去お世話になった日本のつてを使っての、この限定されたリリース形態など、如実にそれが表れている。

出来上がったこの作品も、やはり地味となる。

だがこの地味さがもう、堪らないのだ。
のっけのM-01から、リムショットで刻まれるビートと、ダビーに揺らぐ上モノ。湿り気を帯びて低くうねるベースライン。単品で響き渡る管楽器――
正に大人のブレイクビーツ。かつてのブリストルミュージックがココに。
以後、ダンサブルな、もしくはファンキーなビートになろうが、女性ヴォーカルが絡もうが、ジャジーにブレイクビーツをキメようが、景色はどうしようもなくブリストルの鉛色の空。
極渋。
無論、きちっと創ってあるからこその、素朴な味わい。

今となっては時代遅れの音かとは思うが、その程度で風化するモノではないと信じたい
「今のMASSIVEより、初期の方が旨味がある」とお考えの貴方への一枚。

M-01 Harlem Village Suite
M-02 Everyone (Has One Special Thing)
M-03 Afrique
M-04 Possessions (Vocal)
M-05 Cochise
M-06 Sounds Of The Ghetto
M-07 A special Day
M-08 Gyrating Savages
M-09 Concept vs Personality In Dub
M-10 Gutter
M-11 Possessions In Dub (No Regrets Mix)