2014年4月14日月曜日

FREEFORM 「Outside In」


前作に引き続きSkamから、サイモン・パイクの七枚目。2005年作。
ジャケデザインはもちろん、Universal Everythingを主宰するデザイナーで実兄のマット

悪食に近い音色センスは相変わらず。
舌鳴らし(正式名称〝舌べらクリッカー音〟)や口笛。気が向いたら鳴る、大よそどうでも良いブリーピーな装飾音。アナログシンセから生成してるっぽい、星屑の如く散らばる背景音。鉄琴や、レーベルメイト・WEVIE STONDERのメンバーに弾かせたギター(M-01、05、10)などの生音。前作でも幅を利かせていた中近東風味――エトセトラ、エトセトラ。
あと稀に、おそらくパイク自身のぼそぼそっとした歌声(声ネタに近い)。
これらが手を変え品を変え、一切目的意識を持たず、やはり一癖ある微妙にダビーなベーシックトラックへと絡んでいく形で曲が構成され、アルバムが進んでいく。
しかも難解かと思いきや、主音に比較的平易な音を用いて取っ付きやすくしたり、わざとお茶目な装飾音を飛ばして聴き手をからかってみたりと、表現に於けるバランス感覚が絶妙なので面白可笑しく聴き通せるはず。

ただし、本作は前作に比べて幾分か地味な印象を受ける。
前作はある意味アッパーだった。躁状態でがんがん、執拗にへんてこな音色を盛って盛って盛り込みまくる。
だが本作は盛るには盛るのだが、加減を心得て? 内向的に? FREEFORMにあるまじき理路整然として? 各音色がテクスチャ化されているよう〝聴き〟受けられる。さしづめ、鬱状態だ。

結論として、音色センスに劇的な変化が感じられない分、本作と前作は対の関係にあると考えれば納得いくかと思われる。

なお、本作を以てこの名義はほぼ休業。本名名義で兄を音楽面でサポートしつつ、ちゃっかりWarp Recordsへと返り咲いていたりもする。
こっちの方が好き勝手に演れるんだぜ? サイモン。

M-01 Wild Stew
M-02 Taking Me Over
M-03 This Is Your Life
M-04 Follow Your Shadow
M-05 Don't Wait Up
M-06 Walk
M-07 Eating Weather
M-08 Carnival
M-09 Magic Tap
M-10 Puzzle
M-11 Everything Changes
M-12 Wonderplucks


2014年4月12日土曜日

GARAGE A TROIS 「Outre Mer」


ドラムのスタントン・ムーアのソロから端を発した、よくよく考えればスーパーバンドの二枚目。2005年作。

引き続き、例の似非モノラル録音。
左耳から固定で、チャーリー・ハンターが爪弾くギター。主に右耳から、鉄琴好きパーカッション叩きのマイク・ディロンと、場合によっては定位置の真ん中から割り入って来るスケリックのサックス。で、ド真ん中にはムーアのドラム……と、ベース音っ!?
メンバーは四名。ゲストはゼロ。だが、同時に鳴っている音は五つ。オーヴァーダブはあるが、サックスを被せたのみ。打ち込みはなし。
どォゆうコト!?
実はハンターのパートは〝八弦ギター〟。ギター五弦とベース三弦が同フレットにまとまった特注ギターを、フィンガーピッキングで同時に弾いてしまう謎テクジャズギタリストなのでした。(頭こんがらがらないのかしら)
念のために要らんコト書くと、ベースラインはそこまで複雑ではない。

音世界は予想通り、Pre-GARAGE A TROISに鉄琴かパーカッションが加わった感じ。ジャズのような、ファンクのような、ロックのような、インストのアレ。
ただ、バンドなので、あの時のようにムーアのドラムありきではない。彼もある程度抑えて、あの特徴的なバカテクビートを叩き出している。
一方、スケさんとディロンのコンビは相変わらずのアクの強さ。金管楽器は鳴れば一瞬で主役を取れる、その傲慢さを十二分に生かして幅を利かす。ディロンはディロンでお得意の二楽器を横に並べて併用し、副音の分際でぐいぐい迫る。たまにハンターの領域である左耳まで音が出張する。
で、ハンターはギターさえ鳴らせればご機嫌な、典型的バイプレイヤータイプの奏者なのだが(ソロプレイヤーに向かってなんてコトを言うのか)、思ったより自己アピールが出来ている。つまり曲を左右するくらい印象的なフレーズが弾けている。M-05のトロピカルな雰囲気は彼のギターがなければ出せなかったはず。スケさんがミュートしている時、主音は彼が担っていると言って良い(ディロン、お前じゃないからな!)。

以上が生々しく、輪郭のはっきりした、非常に良好な音像で鳴っているので、聴き心地はとても爽やか。彼らにとって定番かつ安定の音創りなれど、きっちり四者四様の音がせめぎ合うスリリングさも持ち合わせている。
そんな本作、同タイトルのフランス製未発表映画のサントラだそうな。

M-01 Outre Mer
M-02 Bear No Hair
M-03 The Machine
M-04 Etienne
M-05 Merpati
M-06 The Dream
M-07 Antoine
M-08 Circus
M-09 Needles
M-10 The Dwarf
M-11 Amanjiwo


2014年4月10日木曜日

RED SNAPPER 「Our Aim Is To Satisfy」


倫敦のアブストラクトスリーピース、2000年作の三枚目。

いつも通りと言えばいつも通り。
ドラムのリッチ・サイアーが、たまにターンテーブルで皿をピシュピシュこすっているが。ウッドベースのアリ・フレンドが、エレクトリックベースでスラップを披露しているが。ギターのデイヴ・エイヤーズのギターがあんま聴こえねーぞ、と思ったらキーボードの方に比重を置いてたりするが。ゲストの金管楽器がサックスではなくトロンボーンだったりするが。男声ゲストは前作同様MCデット(M-02、05、08)だが、女声はものすげー胸した二世シンガーのカリーム・ケンドラ(M-03、06)に替わったが。
あえて今までと目立って違う点を挙げるとするなら、より肉感的になった。ダンサブルになったやら。フロアユースになったやら。
それにより、吸い寄せられるようにマイナーチェンジをする個所も出て来る。

まずは高速ブレイクビーツ、人力ドラムンベースを止めてみた。だが元々はミッドテンポでのグルーヴ感が売りのバンドで、その手の曲はアルバムのアクセントに留めていたのだから、特にどうこう言われる筋合いがない。グルーヴ特化と考えよう。
次にシンガーやラッパーを〝音色〟と割り切るようになった。具体的に書けば、頭から尻尾まで意味のある歌詞を歌わせず、ワンフレーズを反復させたり切り張りしたりしている。サンプリング感を出してノリやすくした、と考えよう。
最後に今まで以上にデジデジしい部分も増えた。別に人力に固執している訳ではないので、その割合が若干減っても生っぽさを維持してさえいれば良い訳で。UKテクノ系最高峰のレーベルに所属しているのだから、この流れも致し方ないのかも知れない。

いろいろ差異を挙げてみたが、結論は冒頭の通り。そもそも音楽的土台が揺るぎないバンドなので、何を演っても許容範囲に収まる懐の深さがある。
またバンドとしての土台も、サイアーとフレンドの強力無比なリズムセクションが居れば問題など起こりようがない、安定感もある。
だから! エイヤーズ、頑張ろうよ……。もっと一枚目の時みたいに目立とうよ……。

M-01 Keeping Pigs Together
M-02 Some Kind Of Kink
M-03 Shellback
M-04 Don't Go Nowhere
M-05 The Rake
M-06 The Rough And The Quick
M-07 Bussing
M-08 I Stole Your Car
M-09 Alaska Street
M-10 Belladonna
M-11 They're Hanging Me Tonight


2014年4月8日火曜日

FOG 「Ditherer」


アンドリュー・ブロダー率いるバンドの2007年・四枚目は、Warp派生のLex Recordsより。

ジャケをご覧の通り、〝アメリカ〟はミシガン州ミネアポリスの〝ロックバンド〟だ。
――わざわざこう曰くありげに記したのも訳がある。
からっと明るくもなく、湿り気を帯びてはいるがエモくもない、時折ニューウェーヴっぽさを垣間見せる、この煮え切らない曲調からしてUK出身かと思っていた(稀にカントリー風のフレーズを織り交ぜるので、そこでアメちゃんっぽいな、と察することは出来る)なんて大よそどうでも良い。
問題はこのFOGなるユニット、元々はNinja Tuneでターンテーブルを軸に多彩な楽器を用いた生演奏とサンプリング素材を縒り合わせる〝バトルDJ系〟と言えなくもない、ブロダーのソロユニットだったはず。
今や二人のメンバーを加え、クラブよりもライヴハウスの方が似合う、立派なロックバンドとなりましたとさ。

どうしてこうなった。
いやいや、ユニット名を引き続いている以上、どっかのプロ野球チームの一部選手みたいに経験値をアルバム毎にリセットしなければ良い訳で。
そこら辺がきちっとDeN――いや、DNAとして残っている点に注目して欲しい。

例えばサンプリングやループを生演奏に絡ませる手法。生に拘る性病も恐れない輩でもない限り、みんなが演っている。〝曲にアクセントを付けよう〟やら、〝こうした方が感覚的にかっけーから〟やら。
だが彼らは、そんなロック畑では見られない音色使いを施す。
まずのっけ(M-01)からギターのフィードバックではなく、パルス音から鳴り始める。その後、メンバーでジャーン! と合わせるのに。
極め付けはM-06。一聴、ダルでメロウなフツーのロック曲。ただ、中盤で平然とグリッチっぽいノイズ音色を織り交ぜてくるのだ。しかもそれは右へ左へ散らばったり、音を変えて右から時間を掛けて左へとじわじわ移動したりする。
またM-09では、強い風でアンテナが軋んでいるような生々しい音をさり気なく挿んでいる。ムジーク・コンクレートという奴だ。
このように聴き手さえ気付けば上手く引っ掛かって楽しめる、地味で奇矯で不必要と言えば不必要な装飾音を遊び心で入れてくる余裕が、ロックバンドにはあまりない。せっかくだからと副音で機能させてしまいがちだ。
そこに音の快楽があるというのに。

クラブ系上がりのロックバンドが打ち込みの奥深さを教えてくれる、趣深いアルバム。
無論、ギターロックとしても高品質。切れ味鋭いカッティングからアコースティックな爪弾き、エフェクターで歪ませまくったへヴィリフまで、ロックの代名詞たる弦楽器の魅力がふんだんに詰まっている。
ただ、基本は生演奏なんだしさあ、どの曲で誰が何をプレイしているかくらいクレジットしてよ。頼むよ。ブロダーはマルチプレイヤーなんだから、残り二人のメンバーがお飾りに見えて不憫なんだよ。

M-01 We Will Have Vanished
M-02 Inflatable Ape
M-03 I Have Been Wronged
M-04 Hallelujah Daddy
M-05 What Gives?
M-06 You Did What You Thought
M-07 The Last I Knew Of You
M-08 Ditherer
M-09 Your Beef Is Mine
M-10 On The Gallows
M-11 What's Up Freaks?


2014年4月6日日曜日

DELL + FLUGEL 「Superstructure」


ドイツはフランクフルトのメガネ系DJ:ローマン・フリューゲル(ALTER EGO)が、同国・ダルムシュタット出身の鉄琴奏者:クリストファー・デルと組んだ2006年作。

ジャズ畑なデルが鉄琴と、たまにローズピアノ担当。クラブ系のフリューゲルがボトムや背景音、装飾音の打ち込み担当。それらにちょぼちょぼ、金管楽器系や弦楽器系の音がピンポイントで挿入される。ノークレジットなのでサンプリングかと思われる。
実はこの二人、ほぼ初対面だそうな。
そんな急造コンビから生まれし音は、エレクトロニクスを巧みに利用したジャズ。即興っぽい部分も多いことから、フリージャズの要素が強い。そのためか、ニカニカしさよりもダビーで音の隙間がある、アブストラクトっぽい音像だ。

音符を型にはめることで成り立っている打ち込み音楽が、音符を型にはめないよう善処するフリージャズと融合するなんて画期的じゃないですか!

とは言うものの、双方の音楽の構造上、妥協点が生じるのは致し方ない。制作の基本線はフリューゲルのトラックに、デルが鉄琴なりエレピなりを乗せる形を取っている。両者がリアルタイムで好き勝手に持てる音を鳴らせるのは、M-03のような小曲で限界だろう。
ゆえに、フリューゲルがデルに合わせたトラックを組んでやる必要が出て来る。即興性を高めるためには、気分良くデルに演奏させねばならないからだ。
ただしフリューゲルも然る者。M-02のような変則ブレイクビーツや、M-04のような三拍子や、M-05やM-07のような完全にクラブ仕様のキックが強い四つ打ち(しかもシンプルに四つ打たない)などをにやにやしながら差し出す挑戦的な態度が堪らない。そこで従順なベーシックトラックを渡しては、デルの作家性が失われてしまうからだ。
ならばと、ここでデルが対抗意識むき出しで叩き倒してしまっては、この共演が台なしになってしまう。まさしく、デルのソロに手を貸したフリューゲル、になってしまう。
そこら辺の立場をわきまえて、自我を制御するプレイはさすがジャズの人。時にはトラック構成上の一パーツに徹し、相手の音を立てることで、信頼関係を楽曲から醸し出すことに成功している。

フリューゲルの背景から想像するよりもデジデジしくなく、デルの出所を踏まえてみたよりも難解ではない。
それもこれも、飽きの来ないシンプルな音像のお蔭。いやいや、お互い敬意を持ち、思いやる、ミュージシャンシップの賜物。

M-01 Superstructure
M-02 Urban Practise
M-03 Miniaturisation
M-04 Wolkenbügel
M-05 4 Door Body Cell
M-06 Perspective, Moscow
M-07 Study For A Skyscraper
M-08 Habitation
M-09 Dirty Realism