自らの身体に漢字を刻む欧米人のような――いや、知る人ぞ知る、かのヘンテコサイバー忍者小説「Ninja Slayer」的と言うか――そんなセンスが存分にインナーで繰り広げられている、マルティナ姐さん渾身のソロ二作目。正式発売は2008年。
〝ツヤングリラ〟はツッコんでやるなよ。
多彩な客演履歴から引っ張って来た人材を用い、あえて何でもアリでとっ散らかした一枚目とは打って変わり、テーマ性すら感じるほど焦点の絞られた作品となっている。
そのテーマ性とは〝妖しいキャバレーの雰囲気漂う似非ラウンジ音楽〟。コレが姐さんのアンニュイで蠱惑的な歌唱と至高のマッチングを見せている。
そんな本作を仕掛けたる者どもは、たった三名。JAY-ZとTHE BEATLESを灰色に調合した異能の男:DANGER MOUSE、現RED HOT CHILLI PEPPERSのギターを務めるマルチプレイヤー:ジョシュ・クリングホッファー、と姐さん自身。
結果、危険鼠がアルバム全編を統括し、ほぼ同時期に彼がGNARLS BARKLEYの二枚目で起用した、器用なクリングホッファーを縦横無尽に働かせることで、一本筋の通った作風になった……どころか! 姐さんの順応力がオルターエゴを持って作中に染み渡っていく、驚くべき効果まで生んだ。
まるで何でも演れるからと叩き上げの俳優に主役を与えてみたところ、性格俳優にまで昇華してしまった! とでも例えるべきか。
これは変身願望のある元相方のTRICKYが演りたくても
表現は受け取り手の好み次第で、各々にさほど優劣はない! のだが、巧拙はあるのさ……などと如実に示されてしまった訳だ。
無論、相手を選ばぬ数多の客演で己を研削した姐さんの努力なくして本作は生まれなかった、のは確かだ、彼女のソロなのだから。
主役たる姐さんの歌声をオーヴァーダブでコーラスっぽく粘っこく絡める。その姐さんの声質に合わせて作中、あくまでしっとりウェットな方向性で、ラウンジ風ゆえにジャジーな触感も。打ち込み音は体裁を整える程度で。演奏は難しいコトをせずシンプルにする一方、あえて荒々しく仕立てて生っぽさを演出している。
その捨て曲、一切ナシ。安っぽいトラックへ、姐さんのスキャットを被せたスキット風のM-08ですら曲としても美味しい。
セクシーな衣装を身に纏い、ステージ上で誘うように唄う姐さんの美貌を眺めつつ、薄暗いホールにて行き交うウェイトレスのバニーちゃんのヒップを通りすがりざまに撫でてみる――そんな気分で聴いて欲しい。
M-01 Phoenix
M-02 Carnies
M-03 April Grove
M-04 Something To Say
M-05 Baby Blue
M-06 Shangri La
M-07 Snowman
M-08 Da Da Da Da
M-09 Valentine
M-10 Poison
M-11 Razor Tongue
M-12 Yesterday