2013年6月6日木曜日

FOUR TET 「Rounds」


FRIDGE主にギター担当、インド系英国人のキエラン・ヘブデンによるソロプロジェクト、2003年作の三枚目。

主にアンプラグド楽器をサンプラーに録り込んで音色として使い、ブレイクビーツや電子音へ平然と織り込む、〝フォークトロニカ〟なるニカ派生ジャンルの金字塔。
本作はそんな音世界の中、如何にもフリージャズっぽいビートパターンやポリリズミックなトラック、ピアノやアコギを用いて哀愁のフレーズを奏でるエモい曲調など、いろいろ趣向を凝らしている。
また、ボトムにブレイクビーツを敷いているせいか、非常に歯切れが良い。各音色をすっきり配置する、整理の行き届いたテクスチャのお陰もあるだろう。
その一方で、音色のチョップやディレイを多用する傾向もある。

適材適所か、絶妙なバランス感覚か。
だが彼の真骨頂はそこにあらず、セオリー無視の大胆な音使いにこそある。

例えば、M-02。実はTHE ENTOURAGE MUSIC & THEATER ENSEMBLEというスピリチュアル系フォーク舞踊ユニット(つまりヒッピー音楽)の〝Neptune Rising〟なる曲のカヴァーを自称しているのだが、よーく聴かないと元ネタが判別出来ないくらい溶解しているのは置いといて――
軽快なブレイクビーツに被さるバンジョーとベルの音。やがて前触れもなく、それをぶち壊す破音。まるでステレオが壊れたかのような音を幾度もぶち込んで、平気でトラックを構成させてしまうのだ。
そのやり口に狡さはない。聴き手が突然破音を浴びて『えっ、何なにっ? 何これっ!』とびっくりしている中、『別に何でもないけど』と平然と答えた彼の口元は笑んでいた――みたいな茶目っ気がそこにある。
ヘブデンは神経質に音を創り込む職人気質が多いこのエレクトロニカ界において、このような〝破調の美〟を大胆に作風へと溶け込ませた稀有なアーティストである。

――と、音色を多角的に使い倒したこの作品。〝FOUR TETの〟なんてレヴェルを遥かに凌駕し、2003年度どころか00年代を代表する域の傑作だ。
そんな本作発表十周年の2013年に、二枚組としてめでたくリイシュー。
残念ながら本編にリマスターなどは施されていないが、ボーナスディスクとして翌2004年にDomino Recordsサイト上とライヴ会場のみで発売されたコペンハーゲンでのライヴ音源が同封されている。音色チョップしまくりデス。
ニカ初心者の方、未聴の方、オリジナル盤を売って/(筆者のように円周傷を入れて)オシャカにしてしまった方、この機会にぜひ。

(2011/4/25執筆文を大幅改筆)

Disc-1
M-01 Hands
M-02 She Moves She
M-03 First Thing
M-04 My Angel Rocks Back & Forth
M-05 Spirit Fingers
M-06 Unspoken
M-07 Chia
M-08 As Serious As Your Life
M-09 And They All Look Broken Hearted
M-10 Slow Jam
Disc-2 「Live In Copenhagen 30th March 2004」
M-01 She Moves She
M-02 Everything Is Alright
M-03 Spirit Fingers
M-04 Glue Of The World
M-05 My Angel Rocks Back And Forth
M-06 As Serious As Your Life
M-07 Hands / No More Mosquitoes / Hilarious Movie Of The 90s




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