2011年12月14日水曜日

APHEX TWIN 「Selected Ambient Works Volume II」


遂に出ましたAPHEX TWINことリチャード・デイヴィッド・ジェイムズによる世紀の奇盤、1994年作品の二枚組。通称「SAW2」(スプラッタ映画じゃないよ)

まずDisk-2のM-01以外、本来は曲名がない。後付けでタイトルが付けられたのだが、付いてどうなる音楽でもない。全くもって蛇足だ。
曲名がトラック時間という前回のグロコミ同様、彼らにとって言葉などどうでも良いと言わんばかりだ。こんなトコがまさしくニカ人種。

だが音世界は百八十度違う。

「76:14」もAPHEXの前作「SAW 85-92」も一般的な音楽の体を成していた。成していたからこそ誰もが賞賛し、時代を代表する名盤と評された。
だが本作の逸脱ぶりはどうよ、と。
時にもわーんと、時にぼそぼそと鳴るシンセ。ほぼノンビート、ほぼ単音で、メロディを欲しがらずに、陽炎の如く揺らぎ続ける。
その音色使いは冷ややかだったり、たまに優しかったり、不気味だったり、意外にも神々しかったりと落ち着きを見せない。聴き手がリラックスを求めて再生するアンビエント音楽だというのに、聴き進めていくうちに駆られるのは、不安感。
この要因を不穏な音色使いに向けるのは短絡だ。本質はもっと広い。

漠然と見知らぬ場所へと放り出される感覚、と語るべきか。

本作を聴きながらぼけーっとする貴方は今、独りでぽつーんと立っている。
どこで? 月の裏側かも知れない。赤茶けた大地が広がる荒野かも知れない。誰も見えないのに気配だけする薄暗い大部屋かも知れない。メインストリートなのに生命反応のしない石造りの街並みなのかも知れない。それどころか時空の狭間かも知れない。
その場所がどこか付き止める前に、貴方は別のどこかへ飛ばされる。トラック毎に。
聴く人によってその孤独な地は変わる。人のイマジネイションは無限だから。トラックに必要以上の情報が籠められていないから。創り手が、聴き手それぞれが抱く解釈の正否を定めていないから。

聴いて感じて安らぎを得るのもアンビエント。それがパブリックイメージ。
そこへ、聴いて感じて意識をどこかへもって行かれるのもアンビエント、だと提唱するリチャD。本作の真意など語ってくれなそうな人だが、そう勝手に解釈して聴けば本作の凄さが少なからず理解出来るはずだ。

Disk-1
M-01 (Cliffs)
M-02 (Radiator)
M-03 (Rhubarb)
M-04 (Hankie) (UK Only)
M-05 (Grass)
M-06 (Mold)
M-07 (Ropes)
M-08 (Circles)
M-09 (Weathered Stone)
M-10 (Tree)
M-11 (Domino)
M-12 (Steel Plate)
Disk-2
M-01 Blue Calx
M-02 (Parralell Strips)
M-03 (Shiny Metal Rods)
M-04 (Grey Stripe)
M-05 (Z Twig)
M-06 (Window Sill)
M-07 (Hexagon)
M-08 (Lichen)
M-09 (Spots)
M-10 (Tassels)
M-11 (White Blur 2)
M-12 (Match Sticks)

本作にDisk-1・M-04があるのはWarp盤、つまりUK盤のみ。
加えて三枚組LP(とカセット!)にはDisk-2・M-06とM-07の間に〝Stone In Focus〟なる10分越えのトラックが追加収録されている。


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