2011年12月2日金曜日

JIM O'ROURKE 「Bad Timing」


シカゴの音響職人による、単独名義としては八作目のアルバム。1997年発表。
ただし多作家のため、何を以ってしてオリジナルアルバムか、という定義が曖昧ゆえにこの数の信憑性も疑わしい。
レーベルはDrag City。ほんのちょっと、あのジョン・マッケンタイアが絡んでいる。今となっては見られない組み合わせ。

筆者によるオルークのイメージは『神経質な音楽を創る人』なのだが、本作はそんな偏見を見事に打ち破ってくれる。
凄くメロディアスで心地良いのだ。
だが彼も然る者。安直にメロディを立てただけの聴き捨てポップ曲などらない。
在籍していたGASTR DEL SOLを思わせるフォークっぽいアコギの調べが、時にはカントリー風になったり、ピアノやオルガンやスティールギターを絡めたブルーズ風になったりと、何の予兆もない上に曲の流れを乱さず空気を換え、十分越えの長尺曲を顔を凪ぐそよ風のように乗り切ってしまうこの鮮やかな構成力。
この人にとってジャンルなど意味を成さないのだな、と悟らせてくれる。

その一方でM-03みたいなアコギの静かな爪弾きと愛らしい電子音の絡みは、反復音より齎される快楽の力を鼓膜に染み込ませるように教えてくれる。
しかもこのトラック、その後ろでいつの間にかひっそりスティールギターが鳴り出し、それに乗じて不穏な音色を奏でるヴァイオリンがだんだんと侵食を始め、完全に曲を支配したかに思えた刹那……ぷつっと途切れ、M-04に移行。
そのM-04はM-03の終いの流れを引き継ぎ、グリッチを孕む不穏な幕開け。それをすぱっと響き良く掻き鳴らされるアコギが払拭し、今度は唐突に嘘臭いくらい爽やかな管楽器隊とバッタモン臭いハワイアン風ギターが見送って幕を閉じるこのわざとらしい連動性。
ああ、この人はやっぱりこんな不安定な創り手だよな、と再確認させてくれる。

一聴、なにげない創りでも、油断出来ないのがシカゴの音響技師たち。気付けば桃源郷。気付かなくても十分ハッピー。
奥が深いわ。

M-01 There's Hell In Hello But More In Goodbye
M-02 94 The Long Way
M-03 Bad Timing
M-04 Happy Trails


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