音世界はエレクトロニカと称しても憚らないはず。ただ、今まで当ブログで扱ってきたニカ連中とは、音楽性に微妙な隔たりがある。
どう聴いても、クラブでクラウドをノらせるコトを想定してトラックを組んでいない点である。テクノ派生の音楽としては異例の存在だ。
ビートはほぼなく、荘厳に用いる長音と、小気味良く奏でてトラックの進行役を司る短音のシンセ音二種を巧みに和え、そこへサンプリングやら音色チョップやらの装飾を徹底した計算づくではめ込んでいくメソッドから、ハコの熱気を感じない。
ループはあるが、反復の快楽よりも刷り込み目的の意図を強めに感じる。加えて、浮遊音を使おうがゆったりたゆたわせてくれず、ころころ曲を展開――いや、場面を転換させるやり口ではチルアウトも望めない。
この何ともストイックな面、さすがは実験音楽(エクスペリメンタル)上がりの人である。
となると聴き手を置いてけぼりにする難解さの際立った、いちげんさんお断りの高慢な作風かと問われれば然に非ず。
今回、上モノはどれも記譜の出来そうな有機的なパーツばかり。たまに覗かせる普遍的なメロディのクセから、クラシックの素養も感じさせる。メロディを立たせると、トラックが一気に親しみを帯びるので、この手の音楽には良い処方箋だ。
また音色使いも、地味に効いてくるモノから即効性のあるモノまで、流れに沿わせたり断ち切ったり渦巻かせたり芽吹かせたりと、脳内ロパーティン劇場を余すことなく自在に卓で視覚的に再現出来ている。
それでいて、意図したいやらしい破綻も未熟であるがゆえの崩壊もなく、曲/アルバム単位で安心して身を委ねるコトも出来る。
端的に言えば、キャッチーでもあり、歯応えもある。そこら辺の匙加減の絶妙さが、本作最大の長所かと思う。
難しく考えないで、美しくて心地良い音色が匠の技で織り込まれた作品、と思えばそんなに高いハードルでもないはず。
M-01 Boring Angel
M-02 Americans
M-03 He She
M-04 Inside World
M-05 Zebra
M-06 Along
M-07 Problem Areas
M-08 Cryo
M-09 Still Life
M-10 Chrome Country
M-11 Gone (Bonus Track For Japan)
日本盤のみボートラは、間曲に使えそうな一分程度の小曲。要らないと言えば要らないが、投げっ放し感漂うこのシュールな余韻、筆者個人的には嫌いじゃない。
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