ザック・ヒル(Ds)とスペンサー・セイム(G)によるカリフォルニアのイカレポンチ、2007年発表の大問題作。四枚目。
彼らと言えば〝東のLIGHTNING BOLT、西のHELLA〟と並び称されるハイパーマスロックデュオである。
それがヴォーカルとベースともう一人ギターを継ぎ足した五人編成となった時点で、『俺はデビュー当時から奴らを云々』抜かす1001的な輩が黙っていない、不穏な空気が漂う。
しかも出来上がった作品がTHE MARS VOLTAやSYSTEM OF A DOWNという、ツアー帯同の際に可愛がられた兄貴分から多大な影響を受けた作風になっていた。
お陰で〝聴きやすくなった〟そうな。
以上、本作を問題作たらしめている部分である。
で? 何が問題なの? レーベル、あのIpecacだよ? 変態音楽の酸いも甘いも知り尽くしたマイク・パットン将軍のレーベルだよ?
〝聴きやすくなった〟のは整合感が増したから。おそらくレーベルカラー。今までのラフでロウな〝投げっぱなしジャーマン〟ではなく、しゃきっと〝ジャーマンスープレックスホールド〟になった訳だ。よりマスロックらしく理路整然としている。
その点は好みの問題だし、賛否両論あって良い。ただ、はちゃめちゃ躁展開は今まで以上だし、キモであるヒルの自由闊達なドラミングとセイムの奔放なフレージングは健在とあれば、長所特化を好みがちな筆者はこちらを選ぶ、ってだけ。
つかさあ……空気が類似品っぽいから批判するのではなく、変わらない部分を見つけて満足しなさいよ。似てる似てないなんて一時の問題なのにさ。
で? えっと……デュオ編成崩した? ベース(兼キーボード)のカーソン・マクライター、終始ぶきぶき歪んだ印象的なフレーズ鳴らして頑張ってるじゃない。つか彼、本体二人の別プロジェクトの常連なんだけど。
表現の幅を広げるため、たかが人を増やしただけじゃない。他のメンバーにも言えるコトなんだけど、これだけ本作に貢献しているのに、サポート扱いは酷でしょ。
とまあ、筆者がこれだけ難癖に噛み付くのも、本作の出来栄えが好みだから。Ipecacらしい変態性と彼らの異常性が巧くマッチした快作だと思う。
悪かったら庇わないってば。アーティストは創った音で勝負すべきなんだから。
今後、何度でも書くよ。『素晴らしい音をくれる方々を、型にはめるのは良くない』。
M-01 World Series
M-02 Let Your Heavies Out
M-03 The Ungrateful Dead
M-04 Friends Don't Let Friends Win
M-05 The Things That People Do When They Think No Ones Looking
M-06 Hand That Rocks The Cradle
M-07 2012 And Countless
M-08 Anarchists Just Wanna Have Fun
M-09 Dull Fangs
M-10 Sound Track To Insecurity
M-11 There's No 666 In Outer Space
ジャケのデザインはヒルの手によるもの。
M-01、06、11で強烈なサックスを吹いているのはCRITTERS BUGGINのスケリック。人選がエグいんだか的を射てるんだか……。