2012年12月30日日曜日

BIBIO 「The Apple And The Tooth」


ステファン・ウィルキンソン、2009年リリースラッシュの掉尾を飾る編集盤。
アートワークは彼自身によるもの。

M-01から04までは未発表曲――いや、新曲。このクォリティをアウトテイクにするなんてバチが当たる! くらいイカした四曲。
曲調の路線は当然、「Ambivalence Avenue」と同系統。生音とブレイクビーツの素朴な絡み。ただしM-04はかなりデジデジしい加工が施されており、以降の作風の方向性を示唆している――なんて後出しの深読みも可能。
筆者としてはM-03の、ひたすら安定しない拍を挟むワイヤーブラシが気になって仕方がない。

M-05からはリミックス。CLARKが原曲をほぼ無視して「Totems Flare」路線の落ち着きないキックでかっ飛ばし、前述のデジデジしい締め方を巧く引き継ぐ幕開け。自身のラップ風声ネタまで挿入しているくらいだから、大・大・大好きなビビ夫たんのため、彼なりに相当気合入っていると思われる。おおきもいきもい。
とは言え、こんなはちゃめちゃリミックスを渡す鉄面皮はコイツだけ。後はきちっと原曲の良さを自分なりに翻案する空気を読んだ仕様。人選は地味だが、後にNinja Tuneで花開く紆余曲折の男・ESKMOなど、今後のニカシーンを担う面子を揃えたと思う。
中でも個人的に注目したいのがM-09、フィンランド出身のクウッカ兄弟。「Ambivalence~」でも一・二を争う叙情的なトラックを、自身らの弾く楽器と絡めて感傷的に仕上げる長所特化の好リミックス。
それに負けじとウィルキンソン自身のM-12も、寂寥感溢るる弾き語り風の原曲よりも音色を増やして更に目頭を熱くさせるメロメロ改変。
コレでアルバムを締めるのはずるい!

この通り、企画盤だからと侮れない一枚。「Ambivalence~」だけしか聴いていないのならコレも是非。
リミックス盤って良いよね。視野が広がる気がするよ。

M-01 The Apple And The Tooth
M-02 Rotten Rudd
M-03 Bones & Skulls
M-04 Steal The Lamp
M-05 S'vive (Clark Remix)
M-06 Sugarette (Wax Stag Remix)
M-07 Dwrcan (Eskmo Remix)
M-08 Lovers' Carvings (Letherette Remix)
M-09 Haikuesque (The Gentleman Losers' Whispers In...mix)
M-10 All The Flowers (Lone Remix)
M-11 Fire Ant (Keaver & Brause Remix)
M-12 Palm Of Your Wave (Bibio Remix)


2012年12月28日金曜日

SIGUR ROS 「Agaetis Byrjun」


アイスランドの至宝、1999年作の二枚目。

この四人組の一般的な印象は『看板ヴォーカリスト:ヨンシーのファルセットヴォイスと静謐かつ幽玄な音像』かと思われる。確かに間違ってはいない。
ただ、それだけではない。良い意味でもあまりよろしくない意味でも。

はっきり言ってこのシンガー、この時点では下手だと思う。
とりあえずM-04で馬脚を露しているので、まずは聴いてみて欲しい。アシッド入りのサッカリンでドンギマったかのようなずるずる甘々で蕩け切った情けない歌声は、サビに近付けば更に失笑を誘うだらしなさ。その他の曲でもちょくちょく、地声の歌唱部分で怪しさ/妖しさを振り撒いている。
だが、それがいい。(ニヤッ
このへろへろ具合がバンドの裏の一面であるダルな部分とマッチして、良い湯加減となるのだ。M-05でドラムがハシるへなちょこぶりすら許せる。

要は当時のこのバンド、ヘタウマが魅力だったのだ! なんておそらく暴言扱いかと。

ならばどう言い換えて有耶無耶にするか。
これはもう、類稀なるセンスの高さを絶賛すべきだ。
ギターを弓で弾いて背景に絡まる長音を生み出したかと思えば、MOGWAIばりの白い轟音を撒き散らしたり。時折ジャズっぽいフレーズワークを織り込んだり。ストリングス起用はもちろん、ハーモニカのような意外な楽器や、さもありなんのフルートを使ってみたり。泣いたり拗ねたり甘えたり、下手なりに曲毎で歌い方を変えてみたり。グリッチを気にせず織り込むばかりか、マイクを叩いて出たような音で拍を取ってみせたり。
驚くほど手管が多彩過ぎて書き切れない。

まだまだ未熟ながらも、前述の〝一般的印象〟とは違う面が随所に転がってて楽しい。聴けば聴くほど味が出る、奥深い一枚。

M-01 Intro
M-02 Svefn-G-Englar
M-03 Staralfur
M-04 Flugufrelsarinn
M-05 Ny Batteri
M-06 Hjartao Hamast (Bamm Bamm Bamm)
M-07 Viorar Vel Til Loftarasa
M-08 Olsen Olsen
M-09 Agaetis Byrjun
M-10 Avalon


2012年12月26日水曜日

SHADOW HUNTAZ 「Valley Of The Shadow」


NONGENETIC、DREAM、BREAFFの米3MC'sと、蘭トラックメイカー:ファンケン兄弟=FUNCKARMAのはみだしヒップホップ野郎ども、2005年作二枚目。
今回も前作に引き続き、(音が)安い、(リリースが)遅い、(トラック構成が)巧い、の三拍子レーベル、マンチェスターのSkam Records

基本線は一緒。デジデジしいニカトラックにラップ。トラック構成上の新機軸はない。
ただし今回、ファンケン兄弟さんサイドが前作で手応えを得たのか、かなり図に乗っているのが分かる。
拍をずらしたり、変拍子は当たり前。とてもターンテーブリストがこすったとは思えないスクラッチが荒れ狂ったり、過度の声変格やチョップを加えていたり。前作以上に、これでもか! とMCさんサイドへケンカを売りまくる。
そこで違和感や疑問符や苦笑が浮かんでしまってはコラボですらない訳で、平然と乗りこなす胆力と実力が、この3MC'sには備わっている――のは前作で証明済み。むしろMC側から「もっと骨のあるトラック持って来いよ」と煽ってきた可能性すらある。
蜜月だなあ。

とは言いつつも、双方がはちゃめちゃ演り過ぎて、聴き手を置いてけぼりにするような創りでは断じてない。「ドープなトラックにイルなラップ」なる配球を明確にし、きちんと一球一球を投じている点も見逃せない。
幽玄で地味な背景トラックを奥に揺らがすことで、各音色の距離感を鮮明にし、トラックを整理整頓する。これで、一番の聴かせどころであるラップも引き立つ。
分かる奴には分かると無闇に難解にするのではなく、分かりたいと思える人を増やす工夫もクリエイターには必要なのではないか。

放りっぱなしでスカしているのはただの厨二病。少年の心を忘れないイカした大人に、このくらいの配慮は必須なのさ。

M-01 2020
M-02 Massive
M-03 Pevic
M-04 Do What I Want To
M-05 Radically Necessary
M-06 Solsa
M-07 Deander
M-08 Visions
M-09 Y.
M-10 Decisions
M-11 My Geez
M-12 Nattie
M-13 Rulez Of Engagement


2012年12月24日月曜日

OM 「Advaitic Songs」


ベースとドラムのソリッドでハイブリッドなデュオ、2012年の五枚目。
レーベルは前作に引き続き、シカゴの大手インディー・Drag City

音をありのままに録ることしか興味のないスティーヴ・アルビニに仕切らせず、あくまで三名の共同録音者の一人に留める。代わりに前作では共同録音者の一人という立場だった、31 KNOTSでドラムを叩いている兼業エンジニア:ジェイ・ペリッチが束ねる。
それが功を奏したのか、プレイヤー二人のヴィジョンが完全に固まったのか。
お陰で本作、最小表現の袋小路に陥った三枚目、それを打破すべく暗中模索を始めた四枚目、と悩んで学んだ彼らがようやく開眼した。

基本線はベースとドラムを軸に、穏やかさと相反するひりひりとした触感が共存する〝聴く涅槃〟。ベースを兼任するアル・シスネロスのヴォーカルは歌唱よりも詠唱に近い。
前作はその方向性により、タンブーラ(インドの弦楽器)と中近東音階をただ用いてエスニック風味を出しただけだったが、本作はそこへバリバリの西洋楽器・ヴァイオリンやチェロを厚く絡ませ、見事に同化させることに成功した。
まるで違和感なく中東と西洋が血肉と化しているのだから、これこそ正しくハイブリッド。

賞賛すべき点はそれだけではない。録音状態も素晴らしい。
伝わりやすく表すならば、四枚目より叩いているエミール・エイモスのドラム。独特のビート感を持つ彼のプレイが立体的に聴こえる。各シンバルの位置が明確に聴き分けられ、しかもタムが左右に移る様まで把握出来る。
この生々しさと空間処理、前二枚をアルビニに投げた委ねた効果やも知れない。

ここまで来るともはやハードコアですらない。M-02で久々にベースを歪ませても、その音が欲しかっただけにしか聴こえなくなっている。あくまで題材でしかない宗教臭さもそれほど気にならないはずだ。
限定されたイメージの中で、熟成された音世界が無限の可能性を示してくれる傑作。

M-01 Addis
M-02 State Of Non-Return
M-03 Gethsemane
M-04 Sinai
M-05 Haqq Al-Yaqin



2012年12月16日日曜日

LFO 「Sheath」


もはや某妖しいババァの片腕と化しているマーク・ベルのメイン活動はこっちですよ!
2003年作、三枚目。相方:ジェズ・ヴァーレイと袂を別ち、ソロプロジェクトになってからは初。(アルバム単位のリリースがある他ソロ名義としては、よりクラブ志向のSPEED JACKがある)
つか、さーんーまーいーめ! 1988年活動開始なのに、たった! 

このユニットのもはや代名詞と化しているブリープテクノ。〝Bleep=ブザー音〟というコトで、無機的な音色を何の衒いもなく織り交ぜるものぐさな潔いジャンルの総称だが、本作もきっちりその路線を堅持している、と早くも断言しよう。
ただ、M-02、04、08(と、ボートラM-13)のような、今までにないほど尖がり猛ったトラックがあるのも見逃せない。更に付け加えるならば、テクスチャも現代的な工夫が成されている上、素直にビートを四つ打たず、常にひとひねりが加えられている。
無論、デビュー作から即、結果が伴った彼(ら)が同じようなコトをしたいだけなら、作品を頻発してとっとと散っているだろうし。こうして初アルバムまで三年→五年後→七年後と緩やか過ぎる活動を続けている以上、進化はもはや責務。
とは言え丸ごとアップデートしていたら、ヴァーレイ不在でLFOの金看板を背負う必要性がない訳で。そこかしこに微笑ましささえ覚える、今となってはちょっぴりダサっちい音色使いが残されており、そこに老舗の味わいを堪能出来るはず。
また、無機的な音色だけでなく、有機的に聴こえる柔らかいトーンの音色を無機的に用いて自らの土俵に立たせるやり口もならでは。
個人的にはM-11の、優しい音色使いで嫌味のないたおやかな締め方が堪らなく好きだ。(もちろん、M-12を経て13で騒がしく終える日本盤の流れだって悪くない)

時流に踊らされず、巧くそれを取り入れつつも自我は保つ。ベルはそこら辺の匙加減を熟知した、クレヴァーな創り手だと思う。
だからさあ……ねえ、ベルさん? コレから早、十年経とうとしているけど……その後のアータはどのような聴かせ方でLFOの看板を守ってくれるのさー? (チラッチラッ

M-01 Blown
M-02 Mum-Man
M-03 Mokeyllps
M-04 Snop
M-05 Moistly
M-06 Unafraid To Ligner
M-07 Sleepy Chicken
M-08 Freak
M-09 Mummy, I've Had An Accident...
M-10 Nevertheless
M-11 Premacy
M-12 Millionaire Dogs (Bonus Track For Japan)
M-13 Butterslut (Bonus Track For Japan)


2012年12月14日金曜日

MOLOKO 「Things To Make And Do」


トリップホップ(嘲笑)隆盛期に現れた、シェフィールド発・男性トラックメイカー:マーク・ブライドンと女性シンガー:ロイシン・マーフィーのデュオ、三枚目の2000年作品。
ユニット名は映画「時計じかけのオレンジ」で、主人公率いる悪童どもが愛飲していたドラッグ入りの牛乳から。

ありがちな編成や、フォロワー扱いを受けがちなデビュー時期など、何かと色眼鏡で見られがちな彼らだが、実はガチの個性派。
そもそも音世界がトリップホップですらない。その筋特有の陰鬱さなどなく(さりとて、からっからに明るくもないのが如何にも英国)、むしろポップな創りなのだから。
トラックは奇妙なベースラインと人を食ったような上モノ使いを得意とするが、奥でさり気なく鳴っている装飾音のはっとさせられる用い方は出色。加えて、ファンキーなブレイクビーツからジャングル風味、BPMを上げたドラムンベースに加え、四つ打ちも能くする守備範囲の広さまである。
そこへ、おませな幼女に小悪魔少女、更には小粋な淑女まで多彩な声色をあくまで安っぽく使い分けられる歌が乗る。

要は食えない奴らだ。型にはめない方が面白そうな連中だ。

それなのにクラブでヘヴィロテされたからと、原曲が前作からの、外部の人間が手掛けたハウスリミックスをわざわざオリジナルアルバムである本作の本編・M-18に引っ張って来る時点でもう、どうかと。
せっかく、ブラックミュージック色の強い一枚目や、当時の流行に合わせてジャングル/ドラムンベースを大々的に導入した前作を踏まえてきっちり発展させる、総決算的構成で勝負を賭けてきたのにも関わらずだ。
それがメジャー(Chrysalis傘下のEcho Label)の厳しさ、したたかさだ、と言われればそれまでなのだが。

器用なんだから便利に使うのではなく、好きに演らせて欲しかったなあ。
本作はそう言い切りたいくらい、可愛らしくてへんちくりんでカッコ良いクラブミュージックが詰まっている。まだまだ古さを感じさせないはずだよ!

M-01 Radio Moscow
M-02 Pure Pleasure Seeker
M-03 Absent Minded Friends
M-04 Indigo
M-05 Being Is Bewildering
M-06 Remain The Same
M-07 A Drop In The Ocean
M-08 Dumb Inc
M-09 The Time Is Now
M-10 Mother
M-11 It's Your Problem
M-12 It's Nothing
M-13 Bingo Massacre
M-14 Somebody Somewhere
M-15 Just You And Me Dancing
M-16 If You Have A Cross To Bear You May As Well Use
M-17 Keep Stepping
M-18 Sing It Back (Boris Musical Mix)


2012年12月6日木曜日

BILL DIXON with EXPLODING STAR ORCHESTRA 「Bill Dixon With Exploding Star Orchestra」


毎度お馴染みジャズ大将:ロブ・マズレクが統べるフリージャズ楽団と、60年代〝ジャズの十月革命〟を主催したフリージャズ発展の功労者:ビル・ディクソン、奇跡の邂逅。
Thrill Jockey産、2008年作。
今回、マッケンさん(録音と木琴)は不在。よって録音はSOMAではなく、スティーヴ・アルビニ所有のElectrical Audioで行われた。(当然、アルビニは本作に関与していない。意外とマッチしそうなんだけど)

大将が敬愛するディクソンを招いたことで、本作は彼の彩が強くなった。それはもう、一曲まるまる統括をお願いし、それをM-01、03と二分割して大将自身が仕切るトラック:M-02へ挟み込むくらいの熱い暑いリスペクトぶり。
よって焦点を絞り、ディクソンのトランペットと大将のコルネットが共闘する場面を際立たせた創りとなっている――前作は総勢十四名のプレイヤー各自が弾けられるよう、見せ場を均等に与えられていたのが。
まあそれは致し方ない。
かと言って主賓がでしゃばって他楽団員を奴隷化する、幼稚な創りな訳でもない。総員各自、奥に引っ込まずに脇から盛り立てる、美しい接待ぶり。
それに応えてM-02など、ディクソン翁(当時八十二歳)が渾身のブロウをかましており『おいジジイ、大丈夫か!? 』と手の汗握る熱量も有している。この楽団ならではの、全プレイヤーが秩序を持って一斉に音を激発(Exploding)させるパートも然り。

それにしても、偶発要素の高いフリージャズでよくもまあこれだけ大人数の、しかも個性の際立ったプレイヤーを統括出来るもんだ、と感心させられる。
だからこそ卓加工の匙加減が決め手――
と思いきや! 本作、オーヴァーダブなしの一発録りだそうな。すげえ! (ますますアルビニに録らせて欲しかった!)

M-01 Entrances / One
M-02 Constellations For Innerlight Projections (For Bill Dixon)
M-03 Entrances / Two


2012年11月30日金曜日

NADJA 「Dagdrom」


「Autopergamene」以来、二年ぶりの公式アルバム。2012年作。
Broken Spine Productionsは、エイダン・ベイカーとリア・バッカレフのNADJA夫妻が現在の居住地であるベルリンにて立ち上げた自己レーベル。おしなべて、ベイカーのソロや別プロジェクトを発表する場のようだ。

本作は本人たち曰く「新章」らしい。
ただ音像ががらりと変わったか、と問われれば「特に」と筆者は淡白に返すことだろう。
シューゲイザーとスラッジの中間、曇天泥濘路線。近作の傾向からして全編、声という音色としての歌の導入。各曲の長さはムダに引き伸ばさずとも、10分前後を使い切る。
いつも通りの安定感。(発言は常に変革志向強いニュアンスなのにねえ)

ならばどうして「新章」と謳ったか。偏に人力のドラマー参加に負う部分が大きい。

90年代前半のオルタナティヴロック潮流以前から存在感を見せつけるも、世紀末直前で事切れた(が、ついこの間再結成しやがった)伝説のイカレバンド・JESUS LIZARDのほぼオリジナルドラマー、マック・マクニーリーがその人。
普段の打ち込みビートではなく、生ドラムを導入した作品は他バンドとの競演作以外にも初めてではない。2008年の「Desire In Uneasiness」がそれ。ドラマーは、ベイカーの別プロジェクトでも叩いているジェイコブ・シーセン(Jacob Thiesen)。
その際のビートは何だか打ち込みっぽいと言うか、ベイカーに打ち込みビート使用のデモを聴かされ「この通りに叩いてくれ」との要望に応えただけのような物足らなさだったが、今回は違う。
マクニーリーによる、ドラムセットを叩き壊さんばかりのパワフルさと、人力ならではな六十四分休符程度のスネアのずれ――ベイカー本人が〝オーガニック〟と自負するくらいの生々しさを持って、破壊的かつ創造的なNADJAサウンドの野太いボトムを底上げしている。(このタイム感が気持ち良いから、あまり「モタってる」とか言ってくれるなよな。ほんとにモタってるトコもあるけど)

無機から有機へ。おや? なるほど、新章。確かに変革。

M-01 One Sense Alone
M-02 Falling Out Of Your Head
M-03 Dagdrom
M-04 Space Time & Absence

恒例、Daymare Recordingsからの日本盤は、おまけディスク付きの二枚組仕様――だが、コレが問題。
元々はAIDAN BAKER名義の2012年作「The Spectrum Of Distraction」購入特典のDL配信音源「Spectrum Sessions」からマクニーリーが叩いているトラックを選り抜いて、ベイカー自身が再編集したモノ。
本名名義はヘヴィディストーション控えめでジャズの空気が強い作風なのに、何で一緒くたにしてしまうかねえ。


2012年11月24日土曜日

JAMIE LIDELL 「Muddlin Gear」


悲しいかな、これ以後と比べると些か地味な扱いのジェイミー兄貴ソロデビュー盤は2000年作品。本名、ジェイミー・アレクサンダー・リダーデイルって言うんだね!
Warpと、スクプなトムくん排出輩出したことで知られるSpymaniaの連名リリース。

いや、本作が地味なのも致し方ない。
はっきり申し上げて、二枚目以降の音を期待して、もしくは初作品だからまず、とお手に取られるのなら、筆者は顎をしゃくりつつ、『1stだけは、やめておけよ』と提言させていただく。
コイツは洒落にならない。この前後でブイブイ言わせていた、クリスチャン・ヴォーゲルとのユニット・SUPER_COLLIDERの方がよっぽどキャッチーだ。
大げさに書くと、当ブログ紹介で扱ったアルバム中、一・二を争うほどの難物かも。

まず、あまりに音像がブロークン過ぎる。
ぶつ切り気味の各種音色はメロディ度外視でひたすら拡散され、聴き手の脳内攪拌を常に狙っている。PVにもなったM-09がAVのパケ写詐欺的に浮いているのだから、相当。
ビートは意図的にふらつかせる。それどころかまともに拍を刻んでいないトラックもある。アルバム後半に至ってはドローンアンビエントまで溶解している。
現在の彼の代名詞、暑苦しいくらいソウルフルな歌声はこのエグい音像の犠牲者と化し、注目されづらくなっている。それどころかアルバムの半数以上はインストで、せっかくのストロングポイントをかなぐり捨てる暴挙に。

もしかして駄作? いや、怪作。当ブログは筆者が面白くないと感じた音源は扱いませぬゆえ。

このかっ飛ばした音像に慣れてくると、痛快! とまでは言わないが、どこから、どんな音が、どのように鳴って来るか予想出来ない、シュールな気持ち良さに駆られる。
また、リアルタイムで自らの声をサンプリングし、重ねる、彼お得意のライヴパフォーマンスを卓で再現したかのようなトラックもあり。むしろコレ、ダブステップの先取りじゃないのか? と思わせるトラックもあり。なぜか、Spymania繋がりでスクプなトムくんを髣髴とさせる音世界のトラックもあり。
それよりも何よりも、M-12が終わって数分のトラックギャップ後、素敵な独りアカペラで締めるやり口が気に入った。あくまでおまけっぽくすることで、あまりにえげつない本編との対比を鮮明にさせる解釈も出来るし、後にコレが以後の路線の複線なんだろうなと邪推することも出来る。

聴き所はいくらでもあるけど、それが即評価に繋がる訳ではない。この地味さは、暗黙の了解が働いているのかも知れない。
物事には順序ってモノがある。

M-01 The Entroscooper
M-02 Said Dram Scam
M-03 (Untitled)
M-04 Ill Shambata
M-05 La Scappin Rood
M-06 In Inphidelik
M-07 Silent Why
M-08 Da Doo Doo
M-09 Daddy's Car
M-10 Oo..o
M-11 The Cop It Suite
M-12 Droon_99
M-13 Daddy No Lie


2012年11月22日木曜日

FILA BRAZILLIA 「The Life And Times Of Phoebus Brumal」


2004年六月発表の九作目。当然、自家醸造

ちょっぴりダサめの音色使いで繰り広げられる、ジャズファンク風味ブレイクビーツ。相変わらずの構成かと思いきや、前半でおおっ!? と目を見開かす。
M-05まで軽快なアッパー路線。それを曲間なしでぽんぽん切って行くので非常に小気味が良い。しかもM-03から04に跨って歌うPapa Vなるシンガーの揚げっぷりも巧みで、ついつい乗せられてしまう。
掴みはばっちり。
その後はいつもの路線。ここら辺は安定株の彼ららしく、手堅くカッコ良くて如何にもFILAちっくなトラックが脈々と連なっている。
かと思えばたまにクラブ栄えするノリの良いチューンを忍ばせて飽きさせない。

以前までは明るくなりきれない作風のFILAだったが、さりとて暗くもないんだぜ! とお澄まし顔でトラックを呈してくれるようになったのは大きい。
元からあえて捻らない、シンプルなビートを標榜していたユニット。このような路線に行き着くのは当然。それでもアメちゃんのような、あほあほパーティ狂路線まではっちゃけないところはやはり、英国人としての矜持であろう。
その一方で後半、M-13では本格的ジャズっぽさ剥き出しのトランペットとFILAサウンドの融合を試みたり。M-14ではアメちゃんラッパーのジンジー・ブラウン(ジャズサックス奏者、マリオン・ブラウンの息子らしい)を迎えての、締めに相応しいウェットなヒップホップ風トラックに挑戦したり。「まだまだ伸び代あるよ」と攻めの姿勢を崩さない。

それなのに次、同年九月の記念すべき十枚目が、結果的に最後のオリジナルリリースとなってしまった。
つくづく惜しい。もったいない。

M-01 Platinum Spider
M-02 Underpuppy
M-03 Bullshit
M-04 Existentialist Singalong
M-05 Blowhole
M-06 Thatched Neon
M-07 You Won't Let Me Rock
M-08 Boulangerie Digitale
M-09 Boca Raton
M-10 Bantamweight Werewolf
M-11 Madame Le Fevre
M-12 Romantic Adventure
M-13 Uberboff
M-14 In The Kingdom Of Sound


2012年11月20日火曜日

BETH GIBBONS & RUSTIN MAN 「Out Of Season」


ご存知、PORTISHEADのシンガーと、元TALK TALKのポール・ウェブによるプロジェクトはポーティス絶賛休業中の2002年作。ぶっちゃけ、ベスねーさんのリハビリ盤。

ポーティスとは違い、ボトムにブレイクビーツは敷かれていない。アコギやピアノなど、アンプラグ楽器を基調とした素朴かつウェットな創り。
その一方で、M-02やM-04のようにオーケストラをフィーチャーした曲もあるし、ゲストも総じて多い。ポーティス仲間のアトリーと常連サポメンら、ウェブの元同僚などが堅実に脇を固める中で――

やっぱり主役はベスねーさん!

ねーさんの歌唱は二枚目ほどではないが、意外と表情豊か。寂しげだったり、やさぐれていたり、妖しかったり、甘かったり、優しかったり。リラックスした空気が全体を支配しているので目立たないが、やはりねーさんは良いシンガーだな、と再認識出来る。
ただし、たまに音程がふらつくので抜群に巧いシンガーでもないのは確か。でもこの素朴な音像から、生々しさをより演出してくれる。ずるいっ。
まさか、あまり認めたくないのだが……常に張り詰めた空気を強いられるポーティスより、ねーさんはこういう肩肘を張らない方が実力を発揮するのでは。

いやいや、ポーティスあってのねーさん。でなければ今でも場末のライヴパブでM-07のようにアコギの弾き語りをしているだけだったかも知れない。
完璧主義のバーロウが求めるハードルは常に高過ぎるけど、ねーさんもあんまり根詰めずに……ねっ? 今後とも頑張って欲しい。それで、たまに息抜きとしてこんな作品をそっとドロップして欲しい。

M-01 Mysteries
M-02 Tom The Model
M-03 Show
M-04 Romance
M-05 Sand River
M-06 Spider Monkey
M-07 Resolve
M-08 Drake
M-09 Funny Time Of Year
M-10 Rustin Man


2012年11月16日金曜日

TRANS AM 「Futureworld」


あほやで!
たまに牙を剥くメリーランドの張り子狼、1999年作の四枚目はやはりThrill Jockey産。

まあ、へなちょこと熱血の狭間と言うか……いつも通りの分裂症路線。真顔で脱力系のジョークをのたまい、汗だくでも飄々と。
具体的に書けば、如何にも彼ららしい人力テクノのM-07もあれば、M-04のようなごりごりハードロッキンな曲も。M-06の何もかもが胡散臭いエレクトロモンド風も、M-09のような人力ミニマル路線もあり。締めのM-10ではじわじわと盛り上げていく、ダイナミックかつドラマチックな創りも。
そんな中、M-02、03、05、07で本作から正式にヴォーカルも披露。ただしヴォコーダーを噛ませているのはシャイと言うか、KRAFTWERKの遺伝子と言うか……。しかもM-02ではヴォコーダー越しのシャウトなる、世にも珍しい試みが。

さすが曲者、一筋縄ではいかぬわ。
ただ、生真面目に音楽に接するタイプの方とは、この音は相性が悪いかと思われる。何せ音楽性の焦点など、まるで定める気がないのだから。
そこを「みんなを戸惑わせるような言動(音楽性)は慎みなさい!」と口やかましく説教するよりも、「おまえ、あほやなー」と弄ってやった方が楽しい、と筆者は言いたい。
奇を衒い過ぎるくらい衒ってはいるが、音の解釈は至ってストレートなのは事実。ベタですらある人懐っこいフレーズを恥ずかしげもなく用いる、正に裏の裏を突いた音楽性が彼らのキモであり、聴いていて微笑ましくもなる要因なのだから。

さて、〝キモ〟ということは是、音世界の統一感を意味し、それは彼らならではの特色ということになるまいか?
ほらもう! こーゆう奴らなんだ、と許容してあげようよ。
いじいじ重箱の隅を突付くより、豪快にもう一重おかわりしようじゃないのさ。

M-01 1999
M-02 Television Eyes
M-03 Futureworld
M-04 City In Flames
M-05 Am Rhein
M-06 Cocaine Computer
M-07 Runners Standing Still
M-08 Futureworld II
M-09 Positron
M-10 Sad And Young

日本盤は:
M-11 Alec Empire Is A Nazi/Hippie
M-12 Am Rhein (Party Mix)
M-13 Woffen Shenter
M-14 Thriddle Giggit Dream
M-15 Ardorth Marketplace
:と、五曲もボートラがあるお得仕様――も、現在廃盤。しかも翌年発表の編集盤に収められたM-11と12以外はココでしか聴けない。
ただし、M-11のしょうもない曲タイトルを含め、どれも真顔でおちゃらけるジョーク曲の彩が強い。つまり、別にあってもなくても良い。


2012年11月6日火曜日

KHANATE 「Clean Hands Go Foul」


いきなり絞首刑囚(絞首刑+死刑囚)の断末魔。自らのパートを〝Vokill〟と定めていたアラン・ドゥービン(元O.L.D.)によって。十三階段を登る過程をすっ飛ばす唐突さで。
それに負けず劣らず極悪な、あと三種の音。
負の意味で印象的な〝音色〟を、リフという名の単位に縛られることなく捻り出そうと躍起になっているステファン・オマリー(SUNN O)))など)のギター。
生命反応のあるブースト装置として、フレーズを作為的に揺らがせながら淡々とド低音を持続させるジェイムズ・プロトキン(元O.L.D.ほか。マスタリング技師としても著名)のベース。
地味にビートを堅持することに飽き、持ち前のパワーヒッティングで第四の音色としての存在感を誇示するティム・ワイスキーダ(元BLIND IDIOT GOD)のドラム。
この超個性な四色が、閉塞的かつ退廃的な空間から絞り出す暗黒音楽――という作風は前々作で既に確立済み。
本作では更に溶解が進み、ワイスキーダの拍を度外視した鳴り方重視の打楽器志向も相俟って、よりパワーアンビエントな作風となった。オマリーがメインプロジェクトとして動かしている、SUNN O)))の音像に近付いたとも言えるかも知れない。
その雰囲気に合わせてドゥービンの呪詛も、廃屋という閉塞空間に残存する地縛霊の如き幽玄さが浮き彫りとなった。実はこのバンドのリーダーである、プロトキンによる録音加工の賜物と言えるかも知れない。

コレらから導き出される本作の音世界は、憎悪の塊のようなインパクトを誇った彼らとは思えないほど地味で、しかもじわじわ蝕んでくるモノだった。

その象徴たるトラックは、32分52秒にも渡るM-04に。
ほぼ無音――いや、無調。
確かに微かに鳴っている。音符にならない音が、右から左へ。
そっと持続音を継ぎ足し続けるベース。弦を指の腹で撫でるように鳴らすギターを、プラグをガリったノイズと共に。リムショットですらない撥をリムに転がす音から、シンバルやタムを気付かれないよう挿むドラム。吐息の延長で出す、声にならない音のヴォーカル。
それらがだんだんと、暗がりのあちこちからじーっと聴き手を見つめ続け、存在を露わにしていく様はもう、何とも言えない気分にさせられる。電気を消した室内にてヘッドフォン着用で聴きたくないくらい。

そんな2008年発表の本作の原型は、2005年に録られていた。三枚目と同時期らしい。
その翌年、自然消滅に近い解散宣言。
後、2008年。プロトキンが遺されたマテリアルを拾い上げ、ドゥービンの声を追録し、前作同様Hydrahead Recordsよりリリース。その活動にけじめを付けた訳だ。
That's All Folks!

M-01 Wings From Spine
M-02 In That Corner
M-03 Clean My Heart
M-04 Every God Damn Thing


2012年10月26日金曜日

DJ DUCT 「Bindweed」


実は実兄と二人三脚! ワンターンテーブリスト(+サンプラー+フットペダル+エフェクター)によるオリジナル音源二枚目。2007年作品。
FORCE OF NATURE、NUJABES、RIOW ARAI、DEV LARGE、果てにはFAT JONなど、底知れない人脈を持つLibyus Musicより。

自己レーベルを立ち上げての初作品(2005年作)はジャジーなフレイバーと、DJ KRUSHからの強い影響を隠しきれない音の空間処理(と、和の風味)を有す、如何にもアブストラクトなブレイクビーツ作品だったが、本作はそこから一歩だけ離れた位置に立ってみせた。
端的に書くと、雰囲気はそのままに、よりヒップホップに近付いてみせた。
もちろん完全インストアルバムの一枚目とは打って変わり、四人のラッパーを起用したから、なんて安直な理由ではない。
要はM-02を始めとする、ファンキーかつアッパーなトラックを平然と切れるようになった。つまり、よりフロアを意識し始めたという訳だ。
また若干、音質もクリアになった。
以上のコトから総合すれば、いわゆる〝メジャー感が増した〟というべきか。

「当たり前になったなあ……」と嘆くよりも、「成長してるなあ」とにっこりする方が聴き手にとって健全なのは言うまでもない。
ただヒップホップ然とするだけでなく、M-07のようにスカだかロックだか絞れないトラックを曲者・FAT JONに与える堂々とした態度が取れるのも成長からくる自信の表れか。

何よりも、彼のセールスポイントはトラックの空気を読むのが抜群に巧いコト。
スキット代わりの短い曲にもしっかりと彩を持たせ、なおかつ全てのトラックをコンパクトにまとめる。しかも着地点をきちっと定め、投げ出さない。
この小気味良い聴き心地は、トラックを感性で繋いでフロアを上げるDJならでは。
それはまるで短編小説を読んでいるかのよう。

M-01 Bold Bluff
M-02 Knockdown
M-03 The Depth (feat. J-LIVE)
M-04 Snarl Beats
M-05 Gin
M-06 Verve
M-07 Secret Weapon (feat. FAT JON from FIVE DEEZ)
M-08 Gentle Insanity
M-09 Sing n Spin
M-10 Biscuit
M-11 Crazy Crawl
M-12 Bindweed
M-13 Zanzou (feat. INDEN from 土俵ORIGIN)
M-14 Sweetness
M-15 Waku-Up Call
M-16 Wind Runner (feat. R)
M-17 Starry Night
M-18 Distant Wave


2012年10月24日水曜日

ZACH HILL 「Face Tat」


サクラメントのクレイジービーター、ザック・ヒル(HELLA)のソロアルバム、単独名義では二枚目。2010年作品。
レーベルはHELLA共々厄介になっている、L.A.のSargent House

バンドが分身し、左右の耳孔内で一斉に鳴り始めるかのような音像がいきなり飛んで来て、聴き手は度肝を抜かれることだろう。
ただそれだけなら、単なるこけおどし。
だがそんな極端な音像に慣れてくると、両鼓膜を突き破り、脳髄を抉って来るような快感を与えてくれることだろう。
ただそれだけなら、単なる子供騙し。
一聴、ブロークン過ぎて滅茶苦茶なこのアルバム最大の特長とは、ザック・ヒルというアート志向の強いはっちゃけ野郎の脳内が、このアルバムから垣間見えるコト。
普通ならこの手の輩のかっ飛んだ思考など、凡人の我々には理解不能なのに。

フィルを挿みたがったり、裏を取りたがったりと、相変わらず落ち着きを見せないヒルの闊達なドラミングは母体のHELLA同様。
また大方の予想通り、遠慮なくたぷたぷと様々な鳴りの音色が注ぎ込まれるも、それほど聴き手の頭上にクエスチョンマークは浮かばない。むしろ理解しやすいと思う。
それは、エフェクターを通したヒル自身の親しみやすいヘタウマヴォーカルが、大半の曲で被さっているのもある。上モノを押し退けようとしてまで鳴らされる、ヒル自身の特徴的なビートもある。実にソロ作らしい。
それだけではなく上モノ自体がおしなべて、どこか飄々と愛らしくて、極端で、良い意味で作為的で、意外と爽快で、しかもここしかない絶妙な部分で鳴らされているとしたら?
また、なぜかこの界隈でよく顔を見せやがスコット・ヘレン参加のM-10では、ヒルなりのビートチョップが冴え渡ったり。続くM-11ではヒルなりの突貫ハードコアも披露したり。

でも、どこか歪んでいる。一定の法則性を持って。

アレとアレの紙一重なヒルが外部のインプットを元に脳内で組み上げ、耳や鼻にプラグを挿してそのファイルをアップロードしたようなアルバム。
ポップな創りだが、まるまるポップアルバムではない。ブレイクビーツを演ろうが、ハードコアを演ろうが、まるまる借りてきたような音は出さない。
つまり同じ景色を見るにしても、我々凡人と彼のような感性の優った出来人とでは映り方が明らかに異なっている、というコト。
それを踏まえれば、このはちゃめちゃさが理路整然として聴こえるはず。

M-01 Memo To The Man
M-02 The Primitives Talk
M-03 Ex-Ravers
M-04 The Sacto Smile
M-05 Green Bricks
M-06 House Of Hits
M-07 Jackers
M-08 Burner In The Video
M-09 Dizzy From The Twins
M-10 Gross Sales
M-11 Total Recall
M-12 Face Tat
M-13 Second Life

日本盤のみボートラ、M-14〝Fake ID〟収録。


2012年10月22日月曜日

THE SEA AND CAKE 「Oui」


なにげにシカゴ界隈の猛者が集まったスーパーグループ、2000年発表の五枚目。
ジャケ写は当バンドの看板、Vo&Gのサム・プレコップ自身が撮った。

鼻歌のような気持ち良い抜け方をする独特の歌唱法を持つプレコップからして、このバンドの音像は爽やかなイメージがある。
ただしM-01のような例のマッケンさん(当然、本作のスタジオワークも兼ねる)が先導する軽快なビートに柔らかく沿わせる上モノ、という曲調からしてそれっぽいのだが、本作は全体的にどちらかというとメロウでウェットだ。アルバムが後半に進むにつれそれが顕著となる。
だからといってキモであるプレコップの歌がミスマッチとなる訳などまるでなく、メロウでウェットならその分、彼の歌声も憂いを秘めて聴こえてくるのだから不思議だ。別段、唱法を替えた訳でもないのに。

やはり看板はそのくらい芯が太くないといかん。ふにゃふにゃな声質なのにね。
ただ、他が何の工夫もなくその看板の裏に隠れているようでは、誰もこのバンドを「実力者が集うスーパーバンド」などとは呼ばん。

中でもいぶし銀の活躍をしているのが、この中では些か経歴の地味なエリック・クラリッジ(B)。深みのある低音で常に存在感を露にしている。彼の芳醇なベースラインを耳で追っているだけでも琥珀色の蒸留酒が恋しくなるほど。
また見逃されがちだが、マッケンさん謹製の音響工作作品とあって、M-02のようにサビでアコギの旋律をループっぽく重ね、その一音符毎にスピーカーの左右に振り分けるなんて小癪なコトを平然と執り行っていたりする。
またM-04をはじめとする、管楽器の単体導入もさり気なくて好印象だ。

このように、1+1+1+1を10倍の800にするのが実力派集団の正しい形。
それが4にすらなってない連中も居るのは、一体全体どういうコトかね? 金かね? どいつらとは書かんが、猛省したまえ! 彼らを見習いたまえ!

M-01 Afternoon Speaker
M-02 All the Photos
M-03 You Beautiful Bastard
M-04 Colony Room
M-05 Leaf
M-06 Everyday
M-07 Two Dolphins
M-08 Midtown
M-09 Seemingly
M-10 I Missed the Glance
M-11 Props Of Upper Class (Bonus Track For Japan)
M-12 Pitch Direct (Bonus Track For Japan)


2012年10月12日金曜日

BIBIO 「Vignetting The Compost」


ステファン・ジェイムズ・ウィルキンソンによる三枚目はカリフォルニアのMush Recordsより。2009年作品。
なにげに彼の日本デビュー作になる。その配給は& Records

まずは彼にとっての2009年を、時系列に沿って追って行かねばなるまい。

二月、前作から三年ぶりに本作をリリース。
三月、Mushより六曲入り未発表ファイル音源「Ovals And Emeralds」リリース。
---------------------------------------アメリカとイギリスの壁-------------------------------------
六月、四枚目「Ambivalence Avenue」Warpデビュー。
(この間、二枚のシングル音源を挿む)
十一月、未発表+リミックスの編集盤「The Apple And The Tooth」をWarpでリリース。

何という登板過多であろうか。あかん、ビビ夫死んでまう!
いやいや、コレをそのまま時系列通りに進めたとは考えづらい。

何せMush時代とWarp時代のBIBIOは、作風に大きな進展がある。
サイケでロウな〝ぜんまい仕掛けのインストフォーク〟の前者と、それにブレイクビーツや自身の歌や電子音を効果的に絡めてメジャー感を出した後者――
コレをたった三ヶ月で劇的に移行させてしまえるなんてビビ夫、あんたほんと何て凄いアーティストなんざましょ! 神か悪魔か!
いやいや〝前作から三年もブランクを空けた〟ことから察するに、本作リリース時にはもうWarp期の音世界は彼の中で確立していたかも知れない。むしろ本作と「Ovals~」はこのブランク期に創られた敗戦処理未発表の蔵出し音源なのかも知れない。
あくまでコレは筆者の邪推だ。

では本作の内容。
にも書いたが、Mush期の彼の音世界はほぼ一貫している。二枚目で一曲だけ用いられた歌入りトラックが、M-01、02、05と三曲に増えた。もっと散りばめれば良いのに、前半に固めてあるのは何とも意味深長に感ずる。コレもあくまで筆者の邪推だ。
なお〝音世界が一貫している〟ということは、彼の類稀なる才能からして本作はBIBIO印の良品であることが保障されたようなものだ。契約履行ただの蔵出し音源とは言わせない!
だがその裏返しに、それが三枚目ともなると音世界が袋小路に陥りつつあることを暗に示唆している。

『何事にも挑戦するのが好き』と語るウィルキンソン。ならば、その変革期に遺したMush期総決算清算アルバムと本作は目する方が、より自然だ。
なお、こんな虫の良い邪推などない。

M-01 Flesh Rots, Pip Sown
M-02 Mr. & Mrs. Compost
M-03 Everglad Everglade
M-04 Dopplerton
M-05 Great Are The Piths
M-06 Odd Paws
M-07 Under The Pier
M-08 Weekend Wildfire
M-09 The Clothesline And The Silver Birch
M-10 Torn Under The Window Light
M-11 The Ephemeral Bluebell
M-12 Over The Far And Hills Away
M-13 Amongst The Bark And Fungus
M-14 Top Soil
M-15 Thatched
M-16 The Garden Shelter

日本盤はM-17にボートラ〝Chasing The Snowbird〟を収録。完全未発表曲の模様。


2012年10月4日木曜日

CHICAGO UNDERGROUND TRIO 「Slon」


シカゴのジャズ大将、コルネット吹きのロブ・マズレク率いる加減算ジャズプロジェクト、トリオ編成では三枚目。2004年作。
前作のややこしい編成から、今回は大将、テイラー(Ds)、クーパースミス(Double B)のトリオに戻る。しかもきっちり、三人で演奏を賄っている。
録音とミックス担当はバンディ・K・ブラウン。BASTROやらGASTR DEL SOLやらTORTOISEやらにも
在籍したことがある凄い人なのだが、現在フリー(苦笑)。

今回はTRIO版初のThrill Jockey Recordsリリースともあって、人力ジャズとエレクトロニクスの折衷作となっている。
M-01こそ如何にも大将っっ! なコルネットから始まるらしい曲だが、続くM-02、03と大将やクーパースミスが組んだいびつな打ち込みを軸に構成。M-02など、エレクトロニカさながらのビート音色に、大将の抑えたコルネットとクーパースミスのまろやかなベースが渋く絡む、耳を疑わんばかりの創りだ。
後はインプロありの、各音色を点で捉えてそこからまちまちの線を引くような音響曲(伝わらなければM-06を参照)ありので、雑多な印象を受けるかも知れない。

だがそれは、演っていることが三人編成のジャズなんだ、という基本線を忘れた認識なのではなかろうか。打ち込みに意識が向き過ぎなのではなかろうか。
現に本作の全体像は、三人の担当楽器を固定し、そこへ必要に応じて打ち込みを噛ませる、といったヴィジョンで徹底している。それだけM-02が、曲としては地味な部類なのにインパクトが絶大だったという結論に至る
そこら辺をいつものマッケンさんレコーディングなら、巧くキモを理解して打ち込みを溶け込ませる手法が取れたのかも知れない。ブラウンという腰の落ち着かない何でもありな嗜好の持ち主だからこそ、このような煩雑さが滲み出てしまったのやも知れない。
もちろん筆者は前者が正解で、後者を取った本作が失策だとは微塵にも思わない。
逆に、真っ当なジャズへぴりりとスパイスを効かせた作品、と評するべきなのでは。

最後となって恐縮だが、本作は9.11の犠牲者に捧げられている。
黙祷。

M-01 Protest
M-02 Slon
M-03 Zagreb
M-04 Sevens
M-05 Campbell Town
M-06 Kite
M-07 Palermo
M-08 Shoe Lace
M-09 Pear


2012年10月2日火曜日

DJ MIL'O 「Suntoucher」


キャリアは二十年近い、DJ MIL'Oことミロ・ジョンソン初のオリジナルフル音源は、日本のみ発売。2003年作。

何を隠そうこのDJ MIL'O、BJORKMADONNAなどとの共同作業で名高いネリー・フーパー、後にMASSIVE ATTACKを結成するダディー・Gと組んだUKクラブシーン伝説のユニット、THE WILD BUNCH創設メンバーである。
輝かしい他の二人(や、後に入って来たメンバー)の経歴に比べ、残念ながら彼は些か地味な立ち位置に居る。過去お世話になった日本のつてを使っての、この限定されたリリース形態など、如実にそれが表れている。

出来上がったこの作品も、やはり地味となる。

だがこの地味さがもう、堪らないのだ。
のっけのM-01から、リムショットで刻まれるビートと、ダビーに揺らぐ上モノ。湿り気を帯びて低くうねるベースライン。単品で響き渡る管楽器――
正に大人のブレイクビーツ。かつてのブリストルミュージックがココに。
以後、ダンサブルな、もしくはファンキーなビートになろうが、女性ヴォーカルが絡もうが、ジャジーにブレイクビーツをキメようが、景色はどうしようもなくブリストルの鉛色の空。
極渋。
無論、きちっと創ってあるからこその、素朴な味わい。

今となっては時代遅れの音かとは思うが、その程度で風化するモノではないと信じたい
「今のMASSIVEより、初期の方が旨味がある」とお考えの貴方への一枚。

M-01 Harlem Village Suite
M-02 Everyone (Has One Special Thing)
M-03 Afrique
M-04 Possessions (Vocal)
M-05 Cochise
M-06 Sounds Of The Ghetto
M-07 A special Day
M-08 Gyrating Savages
M-09 Concept vs Personality In Dub
M-10 Gutter
M-11 Possessions In Dub (No Regrets Mix)


2012年9月30日日曜日

FOUR TET 「Pink」


〝音色の魔術師〟キエラン・ヘブデンによるソロユニットの編集盤。2012年九月発表。たった八曲だが、ちゃんとランタイムは60分あるのでご安心を。

まず資料的な詳細。
ヘブデン自身設立のText Recordsで切られた12inchヴァイナル音源などを集めた一枚。欧州では.flacや.mp3形式で発表されたが、CD化は今のところ日本盤のみ。
内訳は、2011年三月にDAPHNIとのスプリット盤からM-08を皮切りに、同年九月のM-01と06、翌2012年五月のM-03と04、六月のM-05。残りM-02と07は後、十月発売。
その内、M-01と06はミックスCDの定番「Fabliclive」(2011年)でも披露されている。

気になる音世界は、「Ringer EP」から「There Is Love~」のシンプルビートに味わいのある上モノ路線。独特で抜群の音色センスは健在で、親指ピアノ(カリンバ)やへんてこな声ネタを、違和感なくトラックへ溶け込ませている。
作中に通低する、なにげない古臭さやダサっちさも味!
ただしその古臭さ、ダサさに直結する音色使いのセンスがブリープテクノからIDM(Intelligent Dance Musicの略)期のWarp連中をちらほら想起させる点は、苦笑すべきか眉根を寄せるべきか。関係ないけど、M-08などFILA BRAZILLIAかと思った。

でもさすがはヘブデン先生、スカなど掴ませない充実のラインナップ。
四つ打ち主導のアルバムながら、クラブで流すにはやや地味。でもその分、聴き込んで旨味がジューシーなのは、気持ち良い音色を無理せず編み込むテクスチャーの妙か。そうなると、本作は「There Is Love~」の後へ来るに相応しいアルバムとなる。
さて今後、コレが総決算で次から新機軸を打ち出していくのか。単なる通過点で、この路線を更に深化させていくのか、非常に気になるところ。

M-01 Locked
M-02 Lion
M-03 Jupiters
M-04 Ocoras
M-05 128 Harps
M-06 Pyramid
M-07 Peace For Earth
M-08 Pinnacles


2012年9月28日金曜日

ELECTRIC WIZARD 「Come My Fanatics....」


出ました大英帝国大麻導師! イングランド南部・ドーセット出身の(当時)三人組スラッジコアバンド、1996年作の二枚目。
リーダーのジャス・オーボーン(Gt.Vo)に、後に袂を別つBaとDs、というシンプル編成。
なお、CRIPPLED BLACK PHOENIXのジャスティン・グリーヴス(Ds)が加入し、さっさと脱退するのは本作の次の次のそのまた次(2004年)のアルバム。

当アルバムは〝世界一重いアルバム〟と評されて久しい。
極度のダウンチューニングからひたすらリフを引きずり、聴き手の心に負の感情を刻印するそのサウンドは、ヘヴィ音楽に耐性のない方は避けて通った方が幸せかと思われる。
ただ、このバンドの本質がヘヴィさだけではないとしたらどうする?
むしろ筆者は、レーベルオーナーがあきれてしまうほどマリファナ好きの快楽主義者が目指す至高のトリップミュージック=サイケバンドだと思うのだが。

曲が概ね長いとか、オーボーンがファズを使いたがるとか、その彼の歌唱が如何にもなヘタウマ的だらしなさとか、スピリチュアルでスペイシーなインスト・M-04が明らかにソレモンの曲だとか、定型的なサイケ色は枝葉でしかない。
本作は2006年再発時にリマスターを施しているのだが、その改変ぶりがあまりにも露骨にトバし目的なのだ。
M-05を聴いて欲しい。
この筋特有のもこもこした音像の中、オーボーンとベーシストの超ド級重低音リフと、ドラムのモタってるんだか踏み止まってるんだか分からないべしゃっとしたビートへ、水泡が弾けるような電子ループを噛ませたこの曲。旧盤ではほぼ埋もれてしまっているのだが、リマスター盤ではそのループの音量が作為的に大きくなっている。それはもう、バンドの演奏を妨げん勢いで。
――明らかにこの音を耳で追え、と言わんばかりに。
結果、ずるずる反復演奏とのマッチアップで、聴き手の視点がどんどん定まらなくなってくる。こそばい鼓膜が、次第に快楽(けらく)へと蝕まれていくはずだ。

音による圧殺を目的としがちなこの界隈では思ったより居ない、音による快楽を推進するバンドとしてあえて、当ブログでミスマッチな彼らを扱った訳だ。

最後にもう一度。「ヘヴィ耐性のない方は興味本位で触れるべからず」
ただ、耐性というのはあくまで己が勝手に定めた感度の限界値であって、本来身体がどこまで耐え得るか、本人さえも知る由がないのかもよ。へへへへ……。

M-01 Return Trip
M-02 Wizard In Black
M-03 Doom Mantia
M-04 Ivixor B / Phase Inducer
M-05 Son Of Nothing
M-06 Solarian 13
M-07 Demon Lung (Bonus Track)
M-08 Return To The Son Of Nothing (Bonus Track)


2012年9月26日水曜日

PIVOT 「O Soundtrack My Heart」


オーストラリアはシドニー出身、リチャードとローレンスのパイク兄弟に加え、同国パース出身のデイヴ・ミラーからなる技巧派トリオの二枚目。2008年作。
Warp Recordsは彼らと十六枚ものアルバム契約を交わしている。すげー。

音世界はローレンスの方が叩き出す輪郭のはっきりした強烈なビートへ、キーボード、ギター、ベース、パーカッションなどの演奏と、主にミラーが生成する打ち込みやグリッチを和えるポストロック。
ただし、まだ二枚目ともあって借り物っぽい雰囲気もなきにしもあらず。
具体的に挙げれば、M-05の反復ギターワークはBATTLESを思わせるし、M-08ではもろにTORTOISEっぽさのあるフレーズが顔を覗かせている。
まあそんな部分は単なる難癖であって、時間が解決してくれるモノだというコトは当ブログでさんざん語ってきた訳で、これ以上論うつもりはない

なら将来性は買うが、まだ未完の大器なのか? と問われれば、まだまだ伸び代が見える上にセンスがずば抜けている! と筆者は答える。
何よりも音色の使い方が出色。
どれもこれも耳を惹く気持ち良さ。ちょっとダサかったり荒かったりしても、それが美味くスパイスとなるくらいに。
しかも、こじんまりと収まらない。弾ける時はM-03やM-10のように音割れも辞さず、がつんとかます。閉める/締めるべき時はM-11のようにそっとカーテンを下ろす。
この振り幅の大きさが、本作をドラマチックに感じさせる要因か。

そんな気持ち良い音を知り尽くしているかのような小癪な用い方をする本作のプロデューサーは、メンバーのリチャードの方。地元シドニーのスタジオ二ヶ所で録ったようだ。
ではこの気持ち良い音どもを巧く編んでテクスチャー化したのは――つまり本作のミキサーは、やはり〝マッケンさん〟ことジョン・マッケンタイア。もちろん作業は例のトコ
正になるようにしてなった編成。

M-01 October
M-02 In The Blood
M-03 O Soundtrack My Heart
M-04 Fool In Rain
M-05 Sing, You Sinners
M-06 Sweet Memory
M-07 Love Like I
M-08 Didn't I Furious
M-09 Epsilon
M-10 Nothing Hurts Machine
M-11 My Heart Like Marching Band
M-12 Epsilon Beta (Bonus Track For Japan)
M-13 Blood Red Rise Dawn  (Bonus Track For Japan)


2012年9月24日月曜日

TO ROCOCO ROT 「Speculation」


ドイツのベルリン出身、ロナルドとロベルトのリポック兄弟とシュテファン・シュナイダーからなるミニマルユニット、単独名義としては六枚目。2010年作。
お気付きの通り、ユニット名は回文。

生音の質感をきちっと残しつつ、卓加工で折り目正しく表現するのが彼ら式ミニマル術。それを「同じコトを一生掘り下げても飽きない連中」なドイツ人が演ったとなると……嗚呼、反復魔境音楽・クラウトロックのにほひが……!
でも! それほど難解ではなかったりする。むしろ上っ面のみを攫えば案外平易なテクスチャをしているモンですって。
気を衒わず、すっとんすっとんとシンプルなビート。信号機のように規則的な鳴りでトラックを案内するベースライン。シンセやオルガンやピアノやギターなどを音色として加工し、使い目を絞り、絶妙な配置で刷り込んでくる上モノ――
シンプルだからこそ頭の中をからっぽにして、ほけーっと聴いていられる音楽廃人製造音楽

ただし今回! 上記のような音世界から更にワンステップ。

シュナイダーが鳴らすベースのフレーズがやけに立っている。さしづめ、人ごみから紅白ストライプのメガネ野郎を探すくらい。
「いつもより僅かに」とか、「聴き続ければいつの間にやら」などという意味ではない。着目点がある、というコトが重要。コレに釣られて聴けば、より頭を使わず音のありのままを肌で感じやすくなる寸法だ。
ほら、もうコレ、聴き手の判断力を奪う魔の音楽でしょうよ!
あな恐ろしや。

これぞ音楽魔境、クラウトロック末裔の呪術よ。
ちなみに本作はあのFAUSTのメンバー、ハンス・ヨアキム・イルムラーが所有するFaust Studiosで録音され、M-11ではイルムラーがオルガンでゲスト参加している。
なるほど。

M-01 Away
M-02 Seele
M-03 Horses
M-04 Forwardness
M-05 No Way To Prepare
M-06 Working Against Time
M-07 Place It
M-08 Ship
M-09 Bells
M-10 Fridays


2012年9月22日土曜日

CLARK 「Fantasm Planes」


本チャンのアルバムと同年の2012年、たった五ヶ月のスパンで切られたミニアルバム。
ミニアルバムゆえに、ランタイムが日本盤のみのボートラを含めても20分弱しかないのであしからず。もともと大曲志向のない人なのに、「短い」とか文句言われてもねー。
ジャケは引き続きジュリアン・ハウス。

まずは小気味の良いフルートの音色から始まる、新曲のM-01がエグい。
上モノは前作通りの妖しさなのだが、ビートがそれ以上。
拍を三で打ったり、四でブレイクビーツを刻んでみたり。普通に四でキックを打ったかと思えば、するりと三に移行させたり。上モノの音色の組み合わせの変化に応じてその彩を巧みに〝破綻もなく破綻させていく〟躁鬱症仕立て。
M-02は前作冒頭のアコギの調べと、マルティナ・トプリー・バードの声を流用したトラック。コレもビート感覚がイカレてる。まるでけんけんぱをしているような……。
そのマルティナ姐さんの歌声をフィーチャーした、前作〝Secret〟の再構築曲M-05では、姐さんの歌声のピッチを下げ、低く、より妖しく生成する一方、安定しないビートと薄ら怖い音色使いでえげつないトラックに変貌している。

ココらで聴き手はそろそろ気付くはず。
前作唯一の難癖である〝BOARDS OF CANADA風味〟がもはや、ない。
前作、モロにBOC色が出てしまったアンビエントトラックでも、M-04に至っては不穏な音色を淡く、幾重にも重ね塗りして、CLARK色とまではいかないが全く出所が判明出来ない代物に仕上げてしまっている。
M-06も(ボートラのM-07も)アンビエントなのだが、こればかりはどうしようもないBOCテイストに、ちょっと一捻りを加えて着地点を異にしている。
特に、今回も日本盤ではアンビエントを連ねる、尻すぼみになりかねん暴挙をまたしでかしているが、「ローズマリーの赤ちゃん」を思わせる、無邪気なまでの強烈な妖しさから余韻は最悪。嫌な中毒性を抱かせて締める。

フルアルバムの後にリリースして内容を補完する音源は数あれど、ココまで力を入れて手を加えたケースもそうそうあるまい。
ぜひぜひ「Iradelphic」とセットに。単体では意味を成さないとは言わないが、どうせ次では全く違うアプローチを取りやがるはずだし、両方聴き込んでこそのモノだと思う。

M-01 Fantasm Planes
M-02 Henderson Swooping
M-03 Com Re-Touch / Pocket For Jack
M-04 Brigitte
M-05 Secret Slow Show
M-06 Dove In Flames
M-07 Russian Dust Hoarder (Bonus Track For Japan)


2012年9月18日火曜日

RIOW ARAI 「Number Nine」


タイトル通り、九作目。2009年作品。

思えばココまでよく洗練されたなあ、というのが第一印象。
構成はいつものアタックの強いボトムにワンショットの上モノメイン。ところどころビットレートの低い音色を用いているが、ただ単にその音が欲しいだけで、低スペックに喘ぎながら創っている節もない。ココら辺のぶれなさは流石だ。
ただ、以前よりも音を左右にパンしまくるような卓加工頻度が減った。初期、「訳が分からない」と揶揄された特有のブロークン過ぎるビートがややマイルドになった。

それらよりも、メロディの使い方がいつの間にか、平然と、達者になったのが大きい。

Jazzirafiなるエレガントな歌唱の女性シンガーを起用したM-05と、そのほぼ対になるM-10などその最たる例。上モノループのまばゆさに加え、それとビートの間に潜り込ませたさり気なく甘いベースラインなど、無骨なトラックを好んで組んでいた頃とは聴き違えんばかりだ。
恒例のメロディアストラックで締めるM-11も、お約束に堕せず、違和感も抱かせない。
その一方で、卓でDJバトルをするかのようなM-04など以前の彼らしいトラックなのだが、これが何と九分越えの長尺曲! となると話が違ってくる。しかも、それを頭か終いの背景色を揺らがせて時間稼ぎするようなせこい真似などせず、いつでも締められる雰囲気を醸し出しておいて、真っ向からぐいぐい乗り切ってしまうのだから恐れ入る。
また、ケーハクなフロウが持ち味(!?)のラッパー、ノーキャンドゥー参加のM-03とM-08にも、こちらから迎え撃てるほどの余裕を感じる。

要は音に自信に満ち溢れている。

一枚一枚、音源を出すことでデータを蓄積し、次へ次へと反映させてきた、超が付くほどの堅実派である彼も、そろそろメインストリームに殴り込みをかける時期なのかなあ、自覚し始めたのかなあ、なんて思ったりもした。
だがそれが良いのかどうかも分からない。このままデータを取り続けて向かう先に何があるのかも分からない。
サイコロを振れば振るほど、出目が均一化されていくような状況なのかなあ、なんて偉そうなコトを考えてみたりもした。

M-01 Intro.
M-02 Status
M-03 Meet Me In Ebisu (featuring Nocando)
M-04 World Wide Wave
M-05 Electricity (featuring Jazziraffi)
M-06 Sweet Tweet
M-07 Funkenstein
M-08 Open Eyed Dreams (featuring Nocando)
M-09 Social Pressure
M-10 Remember Me (featuring Jazziraffi)
M-11 Moonlight